ソードアート・オンライン~スコープの先にある未来へ~ 作:人民の敵
第56層 聖竜連合(Divine Dragons Alliance略称DDA)ギルド本部前
俺達は、ヒーフクリフとの会合の後、聖竜連合のギルド本部が有る層までやってきていた。
「ねぇ、レイ、キリト。 シュミットさんが狩りに行っていたらどうするの?」
「居なければ、また出直す。 だがシュミットは本部から出ていないはずだ。 シュミットは《指輪売却反対派》の一人だっただろ。 つまりだ。 ヨルコの話を信じるなら、今のシュミットは殺されたカインズと同じ立場にいるということさ。 自分が危険な状況なのに、わざわざ圏外に出て行くことはしないだろな」
「確かに。 そうだね」
「それに、俺は一度、シュミットに会っているんだ。 確か、第50層で一人で買い物をしていた時だ。 その時に第57層で起きた圏内PK騒ぎの事を聞かれたよ。 証拠品の槍もその時盗まれたな…。 もしかしたら、グリムロックが作った武器は圏内で人を殺害できる代物だと思ったから誰にも触らせないように盗んだのかもな」
そんなことがあったのかよ。トラブル体質だなこいつホントに。
俺達はこの後、シュミットとコンタクトを取ることに成功した。
彼は、ギルド《黄金林檎》の指輪事件の事を話すと、過剰反応を見せた。
そしてヨルコに会いたいと言ったので、俺達はシュミットと一緒にヨルコさんが居る第57層「マーテン」の宿屋に足を運んだ。
第57層「マーテン」
俺達は、ヨルコの借りている宿屋に集まっていた。
久しぶりに対面したからなのか、二人とも無言のまま、時間が過ぎていく。
先に言葉を発したのは、ヨルコだった。
「……久しぶり、シュミット」
「……ああ。 もう二度と会わないだろうと思っていたけどな」
やはり、部屋の中の空気が重いな。
「……カインズが圏内で殺害されたのは、本当なのか……?」
「ええ……本当のことよ……」
やはり、ヨルコ本人の口から事実確認がしたかったのか…。
だが、この言葉を聞いてシュミットは自身が座っていた椅子が倒れる程勢いよく立ち上がった。
そして叫ぶように言葉を発した。
「……冗談じゃない!! なんで、カインズが殺されるんだ!? もしかして殺した犯人は、グリムロックなのか? 殺害に使われていた武器はグリムロックが作成した物…。 グリムロックは、指輪売却反対派、全員殺そうとしているんじゃないのか…!? じゃあ、オレやお前もターゲットにされているのか…!?」
「まだ、グリムロックさんがカインズを殺したと決まっていないわ。 彼に槍を作ってもらった他のメンバーかもしれないし、もしかしたら…黄金林檎のリーダー、グリセルダさんの復讐かもね……」
ヨルコはゆっくり立ち上がり一歩右に動いた。
「私、ゆうべ、寝ないで考えた。 結局のところ、グリセルダさんを殺したのは、ギルドメンバーの誰かであると同時に、メンバー全員でもあるのよ。 あの指輪がドロップした時、投票なんかしないでグリセルダさんに、任せればよかったんだわ!!」
シュミットは体を小刻みに震わせている。
だが、ヨルコは話を続ける。
「ただ一人、グリムロックさんだけは、グリセルダさんに任せると言っていた。 だからグリムロックさんには、私欲を捨てられなかった私たち全員に復讐して、グリセルダさんの敵を討つ権利があるんだわ…」
この言葉によって部屋の中は沈黙に包まれた。
この中でシュミットが言葉を発した。
「……なんで今更…半年も経ってから、何を今更……お前はそれでいいのかよ!? こんな、わけも解らない方法で殺されていいのか!?」
ヨルコが、何かを言おうとした、瞬間。
ヨルコの細い体が大きく揺れた。
彼女の背中に小さな黒い棒のようなものが突き出している。あれは、投げ短剣スローイングダガーの柄だ。
そして、彼女はそのまま窓の外に。
「まずい!!」
「だめ!!」
俺とユウキは手を伸ばしヨルコの体を引き戻そうとする。だが、彼女の指を掠かすっただけでヨルコは、音もなく窓の外に投げ出されてしまった。
あれは、誰だ…?!
窓の外に誰か居るぞ。 そいつはフーデットローブに包まれ、顔が見えなかった。
「ユウキ、後は頼む。 俺はローブを着ている奴を追う!!」
「キリト!! 無茶だよ!!」
「援護する!行け、キリト!」
俺は窓から狙撃銃を構え、スコープでローブに照準を合わせる。
「チャンスは一回か……」
俺は引き金に手を掛ける。
パン!!
ローブが持つ転移結晶を狙って狙撃したが、奴は弾丸が転移結晶にヒットして炸裂する前に転移し、弾丸は空を切った。
「ちっ」
俺は静かに呟いた。
「逃がしたか………」
俺はキリトが宿に帰る途中、ヨルコさんを殺害したダガーを拾い上げ、俺はダガーを見て呟いた。
「ダガーを投擲するだけでHPを全損させることが可能なのか……?」
キリトが帰って来てから取りあえず二人でユウキにこっぴどく怒られた。
「「すいません」」
2人で謝った。
「それで、ローブを着た人が誰なのか分かった?」
「テレポートで逃げられた。 顔も声も男か女かも判らなかった」
そこで気付いた。なんでシュミットの奴、体を丸めて怯えているんだ?
「あ、あれは……。 グリセルダが着ていたローブだ……。 オレたちに復讐に来たんだ。あれはリーダーの幽霊だ」
俺は部屋の隅から立ち上がり、手に握っていた。ダガーをシュミットの足元に放り投げた。
だが、シュミットは弾かれたように上体を仰のけ反ぞらせた。
「そのダガーは実在するオブジェクトだよ。 SAOのサーバーに書き込まれた。 プログラムコードだ。 信じられなきゃ、それを持っていって、好きなだけ調べるといい」
「い、いらない!! 槍も返す!!」
「じゃあ、この槍とダガーは俺達が預かるな」
「ああ、お前たちにやる!!」
じゃあ、遠慮なく。俺はアイテムメニューを開き、槍とダガーをストレージに収納した。
「ねぇ、レイ。 じゃあ、この事件にはシステム的なトリックがあるということ?」
「……攻略組プレイヤーとして情けないが、オレはしばらくフィールドに出る気になれない。 ボス攻略パーティーは、オレ抜きで編成してくれ。それと……」
ギルド聖竜連合盾隊リーダー職を務めるランス使いは呟いた。
「……これからオレをDDA本部まで送ってくれ」と
俺達は彼を無事に第56層の聖竜連合本部まで送り届けることができた。
俺達の調査はまだ続くのであった。
次回はあの3人です!!