ソードアート・オンライン~スコープの先にある未来へ~ 作:人民の敵
さて、やっと20話に達しました!!ここまで心が折れずにやってこられたのはひとえに読んでくださる皆さまのおかげです。本当にありがとうございます!!
では、記念すべき第20話、お楽しみください!!
2024年4月23日PM5:00第50層主街区《アルゲート》
sideレイ
俺達は第50層主街区のアルゲート市に来ていた。俺やユウキもここをホームを置いてはいるが、この辺りで活動する時の拠点程度で、殆どは1個下の49層の《虹紫館》で寝泊まりはしているのでこの層にはあまり来ない。前に来たのがこの層に拠点を置く中規模レッドギルドの討伐作戦を指揮した時なので、約2週間前になる。
「おいキリト……この道で合ってんのか…?」
俺は裏路地を歩きながら前を歩くキリトに言う。
「ああ、嫌と言うほど通っているから大丈夫だ」
「ホントかよ…」
俺は不安に駆られながら路地を歩く。
「見っけ」
キリトが言う。俺も目を凝らすと、目的の店が見えて来た。俺はカーブして曲がり、そこに立つ人物に声を掛ける。
「お久しぶりです。エギルさん」
店の主、エギルはこちらを振り向いた。
「いらっしゃい、レイ」
「うっーす。来たぞ」
キリトが言うとエギルは少し顔をしかめると言った。
「客じゃない奴に《いらっしゃいませ》は言わん」
「何で俺とレイで扱いが違うんだよ」
キリトは憮然としたように言う。
「礼儀正しくしないからだよ」
俺が言うとキリトは「この二重人格者め…」などと呟いてたが、俺はそれを無視してエギルに向き直ると言った。
「突然すいません。実は協力してもらいたい事があって……」
俺とキリトは事の詳細をかいつまんで話した。
「圏内でHPがゼロになった、だとぉ!?デュエルじゃないのか?」
エギルは俺達の話を聞くや否や素っ頓狂な声を上げた。
「いや、誰もウィナー表示を視認していないんです。デュエルなら……どこかに表示されるはずだと思うんです」
「それに、直前まで女性プレイヤーと一緒にいたらしいから睡眠PKの線はないしな」
キリトの言う事は的を射ている。俺はストレージから
「ほぼ唯一の手掛かりがこれなんです」
俺はエギルにショートスピアを手渡す。エギルはそれを受け取ると鑑定スキルを発動した。こいつがプレイヤーメイドなら手掛かりになる。
「PCメイドだ。作成したプレイヤーの銘は……グリムロック、綴りは《Grimlock》か。聞いたことはねえな。少なくとも一線級の刀匠ではなさそうだ」
「そうですか……」
俺は言った。一線級の刀匠でないなら探すのはかなりハードルが上がるが、本人が死亡していない限り探すのは理論的には可能だ。
「武器の固有名はなんですか?」
「《
「罪の…荊……」
俺はエギルから武器を返され、手に取ると呟いた。プレイヤーメイドの武器の固有名は
ランダムに決定されるが、俺はそこにシステムの悪意が感じ取れる気がした。
第57層主街区《マーテン》
「さーて、この先どうしますか」
俺は宿屋に戻ると、キリトに言った。
「取りあえずグリムロックっていう刀匠を探すのが先決だな」
「ああ、んじゃ、軍のテリトリーに足を踏み込んでいくわけか」
俺は言った。《SAO》の中では、全プレイヤーの生死・死亡日時・死亡原因の三つが記されている《生命の碑》というオブジェクトは《アインクラッド解放軍》の根拠地、つまり第1層主街区《始まりの街》の中の《黒鉄宮》に設置している。軍の一大根拠地なだけあって配備されている部隊の総数は凄まじいもので、アインクラッドの首都たる《始まりの街》を守備するべく軍の中核部隊を含めた約1500名の兵士が街を巡回している。
「ていうかユウキ達は大丈夫かよ」
キリトは言った。確かに、あの2人の実力は疑うべくは無いが、2人とも対多数戦の経験がない。万が一解放軍の部隊と《圏内戦闘》が起きればちょっとまずい事になりかねない。
「確かに……最近では軍の徴税部隊や治安部隊が夜間巡回を強化しているし、ちょっと心配だな」
「ていうか行くにしても武装はどうする?あまりあからさまに装備するのもどうかと思うんだが」
「背中に吊るさなければ問題ないだろ。俺は
俺が言うとキリトは苦笑した。
「それでも結構警戒してるじゃねえか。俺は……まあ《エリュシデータ》だけ背中に吊るしておくよ」
「そうか…」
俺は小さく言った。キリトの
「んじゃ、行くか」
俺とキリトは今度は第1層に向かうべく外へ出た。
第1層《始まりの街》
「……まさかこうなるとは、ねえ」
俺は短機関銃を構えながら呟いた。隣ではキリトがエリュシデータを抜いている。俺達の目の前には軍の制服に身を包んだプレイヤーがざっと2ダースほど武器を構えて立っている。
「ちっ…よりにもよって退路がない状況でかよ」
俺は軍のプレイヤーに向け言った。
「そこを通せ。俺達は要件があってここに来ているんだ」
「貴様らは攻略組のプレイヤーだな。治安維持第4法第13条により一定以上のレベルの解放軍メンバーではないプレイヤーは治安維持の観点上この街への立ち入りは禁止している」
俺は眉を顰めるしかなかった。マジでこいつらどっかの人民解放軍の真似しているとしか思えないんだが。
「最後通告だ。そこを通せ」
俺が言うと、軍のプレイヤーのリーダー格と思われるプレイヤーが手を振った。途端、他の軍メンバーが武器を握りなおす。
「交渉決裂か、仕方ない」
俺は短く言うと、銃を手に軍の部隊に突っ込んだ。引き金を軽く絞り、まずは軽装のプレイヤーの一団に集中砲火を加える。キリトは俺とは逆方向に突っ込み、ソードスキルを発動し、軍プレイヤーを蹴散らす。
「2ダースもいると排除にも一苦労だな…」
俺はクリス・ヴェクターUSの銃弾をダブル・タップで相手に撃ち込みながら呟いた。仕方ない、あまり使いたくはなかったがアレを使うか。
「キリト!目ぇ閉じろ!!」
俺は腰のピンを抜くと、そこにあった楕円球状の物体を軍の集団に投げつける。直後――
バン!!!!
閃光や爆音と共に炸裂し、そこにいたプレイヤー達を容易く吹き飛ばした。
手榴弾、現実でも地雷に次いで《悪魔の兵器》と呼ばれる投擲兵器だ。威力こそ低いものの、音と閃光で相手の感覚器官に大ダメージを与える武器だ。
「さて、行くか」
俺は魂が抜けたようになって倒れている軍プレイヤーを見回し言った。
「これ、音で大挙してやってくるパターンだろ……」
「ああ、だから早く行くぞ」
俺とキリトは街中を駆け、黒鉄宮に辿り着いた。さっと《生命の碑》に駆け寄り、《Grimlock》の文字を探した。
「……あった」
キリトが碑の一部分に指を差しながら呟いた。俺はそこを凝視する。
「…生きてるな」
俺はそうキリトの言葉を引き取った。
「んじゃ、さっさと撤収するか」
俺とキリトは来た道を逆行して転移門に向かおうとした、のだが。
「案の定かよ」
転移門に向かおうとした俺達を待っていたのは、中隊クラスの軍部隊だった。俺とキリトは彼らに走り寄り――
「おいレイ、どうすんだよ」
キリトが走りながら俺に言う。後ろからは軍の部隊が猛烈な勢いで追ってくる。
「57層に逃げ込むに決まってるだろ。次の次の路地を左に曲がって転移脱出するぞ」
そして裏路地に逃げ込むと、同時に唱えた。
「「転移、マーテン」」
俺達2人は青いポリゴンの欠片となり、1層から消えた。
次は番外編第2弾です。お楽しみに!!