ソードアート・オンライン~スコープの先にある未来へ~ 作:人民の敵
side レイ
ユウキと言う少女とパーティーを組んでから1時間、レイは巨大浮遊城《アインクラッド》の一番下の層である第1層西部に広がるフィールドに立っていた。
「はぁ…!」
その声に横を見やると、ユウキが片手直剣突撃技《レイジスパイク》で敵モンスターを粉砕したところだった。モンスターは、ガラスを割ったような音と共に微細なポリゴンとなり―――そして爆散した。ユウキは「やれやれ」という風に武器を左右に振った後、俺のほうに向かって来た。
俺は舌を巻くしか無かった。たった十分の間に初期の剣技(ソードスキル)を完璧に習得し、その後20匹以上の敵モンスターを狩るなど、とても初心者とは思えない適応力だった。もしや?と思い、ベータ―テスト参加者・通称ベーターテスターなのかとさっき尋ねてみると、ユウキは首を振った。ベーターテスターであったレイ自身でもテスト時にはここまで早く
「そろそろ、街に戻る?」
ユウキにそう言われ、ハッと気づいた。そういえば、俺もユウキもまだ初期装備のままだった。
「そうだな」
といって俺は剣を鞘に収め、ユウキと共に第1層主街区《はじまりの街》に向かった。
side???
「兄さん、どこだ…?」
その少年もアインクラッド第1層にいた。少年は兄と待ち合わせをしていた。しかし、
少年が待ち合わせ場所に行くと、兄の姿はなかった。
「なんでだよ…兄さん」
少年の兄はこれまで一度たりとも約束や時間を破ったことがなかった。それだけに、少年はショックだった。しかし、悲しんではいられない。少年は兄を探すべく、駆け出した。
sideレイ
「…レイ!」
何者かに名前を呼ばれ、俺は声の方向に振り返った。
「あぁ、キリトか」
キリトと呼ばれた黒髪の少年は俺の後ろにいるユウキの姿を見ると、訝しむように尋ねてきた。
「そちらの女の子はお前の連れ?」
俺の代わりにユウキが答えた。
「ボクの名前はユウキ。今レイとパーティーを組んでいるんだ」
「と、いうわけだ。ところで、キリトの後ろにいるあなたは?」
「ああ、こいつはクライン。さっき剣のことを教えてくれって頼まれたからパーティーを組んでいる」
「クラインだ、よろしくな!」
その後、4人でモンスター狩りをしていたが、クラインがログアウトするというので、3人はそれを見送ることにした。
「今日はありがとな!また今度」
そういってクラインがウィンドウを開き、ロクアウトするのを俺達は笑顔で見送る、はずだった。
ついでに言えば、俺達、そしてSAO全プレイヤーにとって、《ソードアート・オンライン》がただの楽しいゲームだったのは、この瞬間までだった。
「ありゃ?ログアウトボタンがねえぞ?」
その頓狂な声に、俺達3人はそれぞれやっていた事をストップしクラインに歩み寄った。
「ほんとか?」
キリトがそうクラインに尋ねた。
「マジでだって。探してみろって」
クラインにそう言われ、俺達3人はウィンドウを開きログアウトをするためのボタン、《ログアウトボタン》を探した。
5分後……
「ない…」
その俺の呟きは他の2人の言葉を代弁していたようで、2人は俺が視線を向けると、無言で頷いた。な?といいたげなクラインの顔になぜかイラッとなりながら、俺は口を開いた。
「…どういうことだ?ベータ版から仕様が変わったのか…?」
「いや、ログインした時に確認したが、その時にはベータ版と同じ位置にあった。しかもウィンドウをくまなく見てみたが、それらしきボタンは一切無かった。つまりこれは…」
「システムのバグ、もしくは運営側の意図的な消去ってことか…」
俺はキリトの言葉をそう引き取った。
「ああ、でも後者はまず考えられない…はず」
「確かにな。とすると前者しか可能性は無いはずだ。でも、ログアウト不能はかなり大きな、というか致命的なバグだ。そんなバグがサービス開始初日に都合良く起こるなんてこと基本的にはあり得ない。たった一つの場合を除いて…」
「その場合って…」
ユウキは何か気づいたらしく声が少し暗くなっていた。あくまでも俺の感覚では、だが。
「さっきも言った運営側が意図的に消去した場合だ。この場合、考えられる可能性はいくつかある。まず1つ目、運営側からユーザーにどうしても告げないといけないことがあって、ユーザーが離脱しないように一時的に消去した。2つ目、これは意図的か微妙だけどスタッフが間違えて消してしまった。この2つの場合、少し時間が掛かってもすぐにログアウトできるから安心しても大丈夫だと思う。問題は最後の3つ目、運営側は意図的にこのボタンを消去し、また復旧させる気も無い。つまり運営側が俺達を電子的にこの《ソードアート・オンライン》に監禁した、という可能性。この場合、俺達は何もできない。なぜなら《ソードアート・オンライン》から現実世界に戻る方法はただ一つ、ログアウトボタンを押すことだからだ。だからもしこのパターンだった場合、俺達は外部からの救助を待つしかない」
「そんな…」
ユウキが信じられない、とでも言いたげに首を振った。
「確かに、最後の場合だという可能性はどんなに多く見積もってもコンマ1パーセントもないだろうな。でも…もしその1万枚に1枚しかないジョーカーをもし俺達ユーザーが引いてしまったら…」
「打つ手はないってことか…」
キリトの早い理解に心から感心しながら、俺は疑問を口にした。
「しかし、もし最後の場合だったとしても、運営側がそんなことをする動機が分からない」
という俺の声を聞きつけたかのごときタイミングで、リンゴーン、リンゴーンと言う大音量のサウンドが鳴り響き、直後に俺を含む4人の体を、鮮やかな青色の光が包み込んだ。
「えっ……」
「んな…っ」
「何だ!?」
「……」
上からユウキ、クライン、キリト、そして俺の言葉である。
俺はちらりとキリトの顔を見やる。キリトは俺の考えていることを理解したらしく、小さく頷いた。
この現象自体は、ベータテストの時に何度か経験した。場所移動用アイテムによる離れた場所への瞬間移動《
と考える内に光は次第に細かくなり、風景は元に戻った。いや、視界が戻った、と言うべきか。もうそこは夕暮れの草原は存在せず、瀟洒な中世風の街並みが広がっていた。
「ここは、《はじまりの街》?」
と俺は呟きながら周りを見回すと、色とりどりの装備に身を包んだ数千…いや1万人近いプレイヤーがひしめき合っていた。この分では今SAOにログインしている全プレイヤーがここに集められたのだろう。
プレイヤーの様々な声に街が包まれる中で、
「ようこそ私の世界へ、私の名前は茅場晶彦、この世界をコントロールできる唯一の人間だ。プレイヤー諸君は、すでにログアウトボタンが消滅していることに気づいているだろう。しかし心配はいらない。これは《ソードアート・オンライン》本来の仕様である」
「何だと…」
その俺の声にならない声を意に介さぬように、茅場は続けた。
「諸君は今後、この城……つまり《アインクラッド》の頂を極めるまで、ゲームからログアウトすることはできない。また、外部からのナーヴギアの破壊・解除、そしてこの世界でHP(ヒットポイント)が消滅した時…」
「―ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる。その点を留意した上でゲーム攻略に励んで欲しい。最後に、私からのささやかなプレゼントだ。確認してくれ給え」
そうしてストレージに新たに追加されただろうアイテムを俺は確認した。アイテム名は《手鏡》。俺はそのアイテムをオブジェクト化し、恐る恐る覗込んだ。
しかし、何も起こらない。隣のユウキを見ても、首を傾げている。
―と直後。
突如、全プレイヤーが光に包まれた。俺とユウキを除く全員が。
何が起こったのか分からない俺とユウキは、周りを見回し、そして愕然とした。
「なんだ、あの人達?」
そこには、さっきまでのファンタジーめいた美男美女の群れではなく、現実世界でゲー
ムショウに来た男女に鎧を着せたらこうなるだろうという集団がそこにはいた。驚いたことに男女比も変化していた。
俺とユウキが呆然としていると、2人のプレイヤーが俺達に駆け寄った。
「レイ!ユウキ!」
俺はよく目を凝らすが、見覚えがない。服装を見た時、ようやく思い出した。
「お前は……キリトか!?」
「ああ、そうだ……っていうかなんでレイとユウキは姿が変わってないんだ?」
「俺はアバターを現実そのまんまにしているからだけど……ユウキも?」
「うん。ボクもだよ」
と答える俺とユウキにキリトと、多分クラインであろう野武士然としたプレイヤーは首
を振っていた。
「じゃあレイとユウキは現実でもそんな整った姿してんのか…」
「その話は置いといて、どういうことだこれは?」
「見たまんまさ。アバターが現実のそれになったってことだ。だから男女比も変わっている」
そのキリトの言葉で俺は大体状況を理解したが、まだ分からない部分があった。
「なんでわざわざアバターを……?」
と、その声を聞きつけたかのように、茅場が再び話し始めた。
「私はこのオプションでこの《ソードアート・オンライン》が諸君のもう1つの現実であることを示した。では、これで《ソードアート・オンライン》正式サービスのチュートリアルを終了する。…プレイヤー諸君のー健闘を祈る」
そういった後、茅場、いや赤ローブは空に消えた。
俺は、ただ立ち尽くすしかなかった。
第2話、どうだったでしょうか?レイ君の勘がめちゃくちゃ鋭かったですね。実はラスボス……?そんな訳ないですよw。これからはレイとユウキのペア行動を書いていこうと思います。最終的には成就させようかな……?。とそんな話は置いといて、途中の???、勘のいい人は気づいたでしょうか?彼は後々出そうと思います。では、また次話でお会いしましょう!