ソードアート・オンライン~スコープの先にある未来へ~   作:人民の敵

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更新遅れてすみません…


《第14話》クリスマスイベント

2023年12月16日AM2:00第46層高速効率狩場 通称《アリ谷》

sideキリト

 闇に光るソードスキル《ヴォ―パルストライク》が、大型の昆虫モンスター3体の体力をゼロにした。

 

 片手直剣スキルの熟練度を950まで上げると出現するこのスキルは、両手剣並の威力と刀身の2倍ものリーチを持つ非常に使い勝手が良い技だ。ただし、攻撃後のスキが大きいので、対人戦で乱発するとすぐにパターンが読まれるのが難点だが。

 

 俺は右上のタイマーを確認すると、目の前にいる昆虫モンスター2体を蹴散らすと、転がるように洞窟を出た。

 

「はぁ、はぁ…」

 

 外に出てから喘ぐように息をする。この世界(SAO)では呼吸は必要ないが、時折こんなように呼吸困難(に似た何か)に陥る時がある。

 

「ふぅ…」

 

 どうにか呼吸を落ち着けた俺の前に、黄色いレモンジュースに似た回復用のハイ・ポーションが投げられる。

 

「飲んどけ。どうせ、今日も単騎(ソロ)で1時間ぶっ通しでここに籠ってたんだろ?」

 

 俺が目を後ろに向けると、そこには全身をエメラルドグリーンで統一し、背中に狙撃銃(スナイパーライフル)を差した少年が立っていた。

 

「すまないな、レイ」

 

 レイは呆れたような笑みを浮かべた。

 

「キリト、お前今日通算でここに何時間いるんだ?」

 

「ええと…6時間だ」

 

 俺が言うと、レイは首を振った。

 

「無茶しすぎだ。お前、レベルどれ位になったんだ?」

 

「今日上がって69だ」

 

「マジか、いつの間にか俺より3つも上かよ。…ゲーム攻略の為ではない、そうだろ?」

 

 俺は驚きの目でレイを見た。

 

「何で分かったんだ」

 

「簡単な話だ。いくらお前1人が強くなっても攻略ペースは変わらない。そのことをお前は百も承知しているハズだ。なら無茶なレベル上げは何か別の目的がある。それだけだ」

 

「そうか…ていうかユウキ達は今日どうしたんだ?」

 

 俺は搾り出すように訊いた。

 

「ああ、あいつらは今日はホームにいる。何せ新築だからな。色々と内装付け加えたりしてるんだろうな」

 

「へぇ…」

 

 レイのギルド《レインボー・スピリッツ》はつい先日ギルドの本部を第24層から最前線の第49層《ミュージェン》に移した。外見は赤紫色の外壁をした洋館で、内装にも凝っていてちょっとした観光スポット的な存在感を醸し出していた。一般のプレイヤーからはギルドの名前になぞらえて《虹紫館(こうしかん)》などと羨望の意を込めて呼ばれている。

 

「で、じゃあなんでお前だけがここに来たんだ?」

 

「もう俺には分かってる。お前のその無茶なレベリングの目的がな」

 

「!!!」

 

 俺は今度こそ度肝を抜かれる気分だった。俺は目の前にいるレイの大人びた表情を見ながら絶句した。

 

「な、なんでだ…」

 

「俺は()()()の関係者だ。お前の気持ちはよく分かる。……《月夜の黒猫団》のことだろ」

 

「知ってるのか、()()()()()()のことを」

 

「ああ、そりゃそうだ。何しろ夢のようなアイテムだからな。《蘇生アイテム》…お前が執着するのも分かる。だが、そんなアイテムが報酬のクエがソロで攻略できると思うか?」

 

 俺は黙り込んだ。確かにそうだ。しかし、このアイテムを手に入れなければ俺の精神は忽ち崩壊してしまうだろう。

 

「でも…俺はアレを手に入れないといけないんだ!!」

 

 俺が叫ぶように言うと、レイは微笑みを返した。

 

「そうか…それなら俺は止めない。でも、覚えとけよ。アイテムを狙ってるのはお前だけではないということをな」

 

 と言ってレイが去った後、俺は再び狩場に舞い戻った。

 

 

2023年12月16日AM3:00第49層《ミュージェン》郊外 《虹紫館》

side レイ

 

 俺は赤紫色の洋館を見上げた。新《レインボー・スピリッツ》ギルド本部、通称《虹紫館》。つい1週間前に新築したため、今でも来客が絶えない。その証拠に、来客がある事を示す赤い旗が昇っている。

 

「…ただいま」

 

 ドアを開け、俺が中に入ると、スメラギがいた。

 

「レイ、今客が来ている。お前と会いたいそうだ」

 

「誰だ?」

 

「《風林火山》のリーダーだと名乗っていた。今来客室に待たせてる。早く行った方がいい」

 

 俺は合点した。最近攻略組に入った《アイツ》が率いるギルドの名前が《風林火山》だということは聞いている。

 

「分かった。あと、他の奴らはどうしたんだ?」

 

「ユウキ以外は全員寝た。ユウキは自分の部屋でお前を待っている」

 

 俺はスメラギに礼を言ってから階段を上り、ユウキの部屋に向かう。

 

「ユウキ、俺だ」

 

 ノックしながら俺がそういうと、鍵が解錠される音がした。ドアが開き、中からユウキが顔を出す。

 

「おかえり、レイ。どうだった?」

 

「あぁ。まあ予想通りだった」

 

 俺がそう答えると、ユウキは軽く首を振った。

 

「やっぱり。キリト、大丈夫かなぁ」

 

「まあ、あいつをこんな所で死なす訳にはいかないからな。今からクラインと話すから、そこであいつを止める方法も多分見つかるだろ」

 

「だといいけどね。じゃ、行こうか」

 

 俺とユウキは階段を下り、1階の奥にある来客室に向かう。今度はノックなしでドアを開ける。

 

「すまないな、クライン。遅れた」

 

 俺がそう言うと、趣味の悪いバンダナをしたカタナ使い、ギルド《風林火山》リーダーのクラインはこちらを振り向いた。

 

「別にいいってもんよ。それよりレイよ。どうやったらこんな洋館買えんのか教えろよ」

 

「断る。それより、キリトの様子を探ってきたが、当たりだ。あいつはクリスマスのフラグボスを狙っている。…ソロでな」

 

 俺がそう言うと、クラインの顔が一気に険しくなる。

 

「やっぱりか…。んで、どうするつもりなんだ」

 

「ああ……提案がある」

 

「何だ?」

 

「《レインボー・スピリッツ(俺達)》と《風林火山》でフラグボスの合同攻略隊を作って、あいつを止める。どうだ?どうせクラインも欲しいんだろ?蘇生アイテムが」

 

 俺がそう言うと、今まで黙っていたユウキが口を開いた。

 

「えっとさ…確かキリトが蘇生アイテムを狙っているのはボクとレイが助けられなかったあのギルドの中の誰かを蘇らせるためだったよね?なら、ボク達が邪魔すべきじゃないと思うんだけど」

 

「確かにそうだ。でも…もし俺達が止めなかったせいであいつが死んだら文字通りの無駄死にになる。俺達は過去の死者を蘇らせるんじゃなくて今いる生者を守るために戦っているんだ」

 

 俺がそう諭すように言うと、ユウキは黙り込んだ。

 

「んじゃあオリゃあ帰るわ」

 

「ああ、すまなかったな。こんな夜遅くに呼び出したりして」

 

 クラインが帰った後、ユウキは俺を見据え言った。

 

「レイ、本心はどっちなの?」

 

「は?なんのだ?」

 

 俺は質問の意味を測り兼ねて首を傾げた。

 

「ホントはキリトを止めたくないんじゃないの?」

 

「…参ったな、ユウキはなんでもお見通しってわけか。…ああ、俺はホントはあいつの気持ちが痛いほど分かるし出来れば止めたくはない。でも、今ここであいつを死なせるわけにはいかないってのもホントだ。要はそれを天秤に掛けて重かったのがあいつの命ってわけだ」

 

 俺がそう言うとユウキはかすかに笑った。

 

「そうだろうなって思っていたよ。だってレイは優しいもん」

 

 ユウキがそうはにかんで言うのを聞き、俺も少し笑うことが出来た。

 

「そうか?普通だと思うけどな。…ていうかもう2時か。早く寝ないときついな…」

 

「確かにね。じゃ、部屋に戻ろっか」

 

「ああ」

 

 俺達2人はそれぞれの部屋に戻った。1週間後のことを思いながら…




 今回は前置きだけです。
 次回はクリスマスイヴ当日を書こうと思います。次回もお楽しみに!!

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