幼馴染を愛した結果   作:鹿島修一

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感想、誤字などありがとうございます。
こんな私の書きたいだけの自己満を読んでくれてありがとう。

尚、割とご都合で出来ているので本当に勘弁してください。

主人公は一切戦わないです。

改めて見直してこいつは駄目だと思った、書き直します。


第3話

目が覚めた。

 

それと同時に腹部に激しい痛みで意識が飛びそうになるがそこに傷跡は存在しなかった。

 

ただ痛むだけの腹に手を当てながら起き上がって近くにある携帯の画面を映し出す。

 

「ああ、やっぱりか」

 

携帯には俺が覚えている日から一年の時が経っている。

この結果も知っていたし、万が一目が覚めなかったならそれはそれで俺には何の苦痛も無いからきっと何も気付かなかったんだろう。

 

何時の間にか一年が経っていた。

そんな異常事態を知っている自分は冷静だけど他の人はどうなるんだろうか。

 

「お、お父さんっ!」

「母さんっ!」

 

現に今も下の方からは一年がとか話しが飛び交っている。

目が覚めたら一年経っていましたなんて本当ならあり得ない事だ、果たしてこれからどうなるんだろうか。

それに、立花とも会いたいし。

 

着信履歴の無くなっている携帯の画面を消して、もう一度布団に潜り込む。

 

どうせ今日は学校も無くなるだろう、後は政府からの嘘の発表を待つだけ。それで世界が静かになるかは知らないけど、変な事にはならないだろうさ。

 

 

 

目が覚めてから一ヶ月が経った。

 

その短時間で世界は前と変わらない姿へと戻った。

慌ただしかったのは最初だけで、彗星からガスなんて明らかに無理な話しが筋を通って癒着し原因を知った人々は今も変わらない生活を送っている。

学校も大して変わりはしない、通う人達の年齢が一年ズレただけであり問題と呼べる様な物は何もなくなった。

 

それでもずっと胸にある俺の罪悪感だけは消えて無くならないし、日を追うごとに肥大していくだけだ。

 

 

世界は救われた?

たった一人の少女に全てを背負わせておいて何を言っているのか。

ならそれを知っていて何もせずに送り出した俺は最低の悪魔だろう。

腹を刺す痛みも消えてはくれず、その痛みだけがあの空白の一年が真実だと訴えてきている。

 

果たしてこの腹を刺す痛みは魔術による呪いなのか、それとも自分がそう思っている幻痛なのか。

 

 

今日も自分は変わらない生を送る。

胸の奥に蓋をして、表情を作りながら。

 

さあ出掛けよう、今日も彼奴のいない学校へ。

 

ドアに手を伸ばした時、独りでにドアノブは回った。

 

家には俺以外誰もいない、自分を訪ねてくる奴なんてこんな朝には居ないはずだしドアノブに手を出すのもしない。

 

ならこれは、誰だ?

 

 

「久し振り、綾人」

 

見慣れた橙色の髪、見知った制服に身を包んだ女の子。

 

「立花・・・」

 

それに知識にある幸薄そうな白い髪で片目が隠れた女の子。

 

戻ってきていた思い人を認識した瞬間に胸を刺す痛みが増えていき、顔が苦痛に歪む。

 

「綾人・・・?」

 

じわじわと侵してくる様な痛みに冷や汗が頬を伝っていく、なにも考えられなくなっていた。

 

「どう、してだ・・・?」

 

何で今更腹に差し込まれた剣の幻を見る、それはもう終わった筈なのに。

 

だが幻だとは到底思えない痛みに意識が侵され、俺の意識は黒く染まった。

 

「綾人っ!?」

 

最後に聞いた名前を呼ぶ声に手を伸ばした様な気がする。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

目が覚めたのは知らないけど知っている監獄の中だった。

 

なんで自分が此処にいるのかは分からないが不思議と相応しい場所に送られたと自責の溜息が溢れる。

 

「案内人が俺で悪いな」

 

話し掛けられた方を向けば牢屋の隅に座り込む男性がいた。

痩せている男性で何のオーラも無いただの一般人。

 

「不思議そうな顔だな。まあそれもそうだろうな、俺だってこんな状態ならそんな顔をするさ」

 

俺はいまどんな顔をしているんだ。

 

「酷い面構えをしているもんだよ。俺だってもう少しマシな顔が出来るぜ?」

「そもそもお前は誰だよ」

「俺か、俺はお前の魂にくっ付いてる寄生虫みたいなもんだよ。昔から俺の残滓を感じてたろ」

 

ならこいつが前世かも知れない奴か。

昔からいらない知識ばかりを俺に渡してくる奴。

 

顔も髪型も不思議と俺と似た様な奴だが、目の前の奴はかなり痩せてる。

それのせいで面影があっても同一だとはとても思えない。

 

「そうか。なら俺が此処にいる理由は?」

「お前があの時腹に刺した剣には呪いがあった。勿論意図した呪いだった、時間が来ればお前が此処に来るという呪い。俺の役割はお前を案内する事」

 

成る程、都合よく剣なんか落ちている筈もない。

あの状況では俺か立花の何方かがやるしか無かった、ならやるのは勿論俺だ。

なんだ、せめてもの意趣返しなのだろうか。

俺に苦しんで死ねと、そう言っている訳か。

 

だがまあ、罰は罰。

 

「ならとっとと案内しろよ」

「そうかい。お前がそうなら俺は構わん。付いて来い」

 

カキン、鉄格子が開いて歩く男の後ろを無言で付いていく。

どっちにしろ何と言おうがこうするしか行き先が無いならどうしようも無いが、俺にサーヴァントなんて倒せる筈が無いだろうな。

 

「それと、此処では精神が死なない限り死ぬ事は無い」

「ーーーはぁ?」

 

それはどう言う意味だと聞こうとした所で男が立ち止まり扉を開ける。

 

「こう言う意味だ」

 

無理矢理扉の奥に押し込まれ、男が扉を閉める。

 

 

「ーーーーあっ?」

 

同時に腹を刺す痛みが蘇る、いや、実際に腹に剣を捻じ込まれていた。

 

「羨ましい羨ましい、何もしないで寝てるだけだった貴方が羨ましい。妬ましい、私に任せただけの人達が全員妬ましい。ああ、死んで、妬ましいから死ね、死ね死ね死ねーーーー」

 

ああ、そうだな。

 

お前に殺されるならそれもーーー良くないだろうが。

 

お前にだけは殺されてやらない。

こいつの手だけは血で汚させたらいけないだろう、大丈夫、痛みだけだ。精神が死なない限り死ぬ事はないって言ってたよな。

信じるぞ、ーー。

 

 

「ーーーあっ」

 

何度目の目覚めだろうか。

既に2桁を超える回数は目を覚ましては意識が無くなるを繰り返している。

当の原因は今では無言で必死になって俺の腹に剣を差し入れを繰り返している。

 

もう痛いなんて思わなくなってきている身体に溜息が溢れる。

痛いと思わなくてはいけないのに思えないとはポンコツな身体になった。

 

それに何も出来やしない。目の前のこいつが本物では無くても、偽物だとしてもその言葉が偽りだとは到底思えないのだから。

 

妬ましいだろうよ、お前に任せて何も出来やしなかった人達が。寝ているだけの俺達と、命を賭けて歩き続けたお前にはそうする権利がある。

 

誰もお前を英雄だとか心の強いなんて思った事は無い。

普通の女の子だ。何かを背負える程に強くは無くて、痛いのが怖くて、戦う事も出来やしない普通の子供だ。

 

そんなお前と俺は何も変わりはしないんだよな。

 

なら、なんで知っている俺じゃなくてお前に全部任せてしまったんだろう。

死ぬのが怖いから?そんなの立花も同じだろう。

戦う事が出来ないから?それも同じだ。

 

なら、なんで俺は立花に任せてしまったんだろう。

それが俺の一番最初の罪だろう。

 

なんの忠告も無しに行かせてしまったのが俺の罪ならば、清算はどうすれば良いのだろうか?

 

 

 

『お前はもう、とっくの昔にぶっ壊れてんだ』

 

 

その声は、扉を閉めた筈の前世かも知れない奴の声だった。

だけどその言葉はストンと胸に落ちて来た。

 

『色の無い世界を見た時点でお前は手遅れだった』

 

何もかもがつまらない色の無い鈍色の世界。

それにほんの少し色が付いて、生きていると実感が待てる様になった。

 

だけど本当は変わらない。

少しだけ人間らしくなっただけで、今も何度も死んでを繰り返しても正常を装っていられるのが証。

今も俺は生と死の狭間で揺られているだけの人間の様な何かだ。

 

『お前は普通じゃない。英雄でも無ければ化け物でも無い、人間の枠に収まった人間。狂人でも無ければ常人でも無い。壊れた人間』

 

だからまだ動けるし考えられる。

俺とは違って彼奴は人間だから。

 

カランと剣が落ちて馬乗りになっていた身体が崩れて床に落ちた。

息はしているし呼吸も早い程度、疲れて眠っただけ。

 

その様子に特に何も考える事が出来ずにゆらりと立ち上がる。とパシャリと赤い液体が地面を跳ねる。

どれ程の時間も追加される血液で乾く事の無かった赤が部屋の床一面を彩っている。

 

もうその光景に驚きすらも無かった。

 

「ああ、本当に壊れっちまった」

 

人間が壊れたらこうなるんだろうか。

痛みを感じないのは人間なんだろうか?

 

「次は、どうするんだ」

『進め、それしか無いんだよ俺には』

 

そうか、そう呟くのがやっとで次の扉に歩きだす。

 

どうやら休みは無いらしい、ああ、休む必要も無かったな。

俺の精神が死ぬまでは動けるんだったか。でも、壊れた精神が死ぬってのはあるんだろうか?

 

 

 

次の部屋にも彼奴が、その次も彼奴が。

 

性格を変えて、俺の罪の意識を写しただけの偽物の彼奴が常に俺を待ち受けている。

 

それに無抵抗な俺はただ時が流れるのを何も考える事も無く見送った。

言葉も何も出せないし考える事も出来ない、いつしかもう一人の自分とも呼べる様な奴の声すらも聞こえなくなっていた。

 

 

次は何だったかな。

また彼奴に殺されるんだろうか。

 

そんな事を考えて部屋に入る。

 

 

「人間に、戻りたい・・・」

 

その声で、心が軋んだ。

 

「違う、俺は、俺は普通のーーー」

 

動揺が広がっていき、言葉がつっかえる。

 

「綾人は壊れてたんだね」

 

「やめ、やめろ。やめろ・・・」

 

彼奴の声で、彼奴の顔で、そんな事を言うな。

 

「本当の綾人は何処にいるの?」

 

本当の俺?

本当も何も、お前と会った頃には俺だった。

 

「その時から壊れてたんだね」

「・・・あっ」

「ずっと、隠してたんだ」

 

知られた、知られてしまった。

壊れている事を、世界に色が無かった事を、お前に、お前に知られてしまった。

 

やめろ、そんな目で俺を見るなよ。

煌めく人々を見た、立ち上がり続けた人達を見て来たそんなお前が。

俺をそんな眼差しで見つめるな。

 

失望した目で俺を、見ないでくれ。

 

 

「綾人がそんな人だって、思わなかった」

 

「あっ、あはは、はははははは・・・」

 

否定をするな、俺が思う誰よりも人間なお前が否定してしまえば。

 

「普通の人じゃないんだね」

 

俺は本当に壊れてしまう、から。

 

 

 

膝から崩れ落ちた気がする。

頭がボーッとする、何も考えられない。

 

ただ怖かった、自分で認めるのは良いけど。

他人に、お前にそう言われてしまうと俺は本当に壊れてしまうから。

 

罅だらけで縫い合わせていた土台が儚くも虚しく崩れ去っていく。

 

 

ーーーもう、立ち上がれそうにない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれで良かったんだよな」

「ああ、一度崩れて貰わないと修復出来ないからね。私に焼却は出来ても、復元は面倒だよ」

 

「彼には人間になって貰わないとね。人間の可能性を見た、最初に彼の事を他の人間と変わらぬクズと言ったが私の目は節穴だったらしい」

 

「・・・あんたにメリットは無いぞ」

 

「これは意趣返しだよ。私達の研鑽を終わらせた藤丸立花の一番大切な者を、誰でも無い私が救う。世界を救った藤丸立花に出来ない事を代わりに私がやる。なに、ちょっとした復讐だ。それに、頼みたい事も出来てしまってねーーーー」

 

 

 

 

 


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