幼馴染を愛した結果   作:鹿島修一

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第2話

私には幼馴染と言える人がいる。

 

名前は望月 綾人。

私が本当に小さい頃に出会った男の子だ。

 

最初の出会いは衝撃的過ぎて一生忘れる事は出来ないと思う。

だって私が自己紹介するなり突然頭を抑えて蹲って暫くしたら気絶するんだもん。当時の私はポケーッとしながら不思議そうにそれを眺めていただけで、母さんにそれを言ったらもう大騒ぎになった。

 

家に救急車が来たのはその一回だけだ。

 

 

綾人が退院すると、私と彼はいつの間にか仲良くなってた。理由なんて小さ過ぎて分からないけど、多分一番身近にいたのが綾人だったからだ。

 

それからはまあ、迷惑かけたね。

 

小さな頃は本当にポケーッとしてたから何度か車に跳ねられかけていたりもする、その度綾人が顔色変えて助けてくれたんだった。

思えば昔の私は少しだけ楽観的過ぎたなと思うよ。

 

ああ、そうだった。

 

綾人は昔から何かと難しい事を言っていた。

 

なんだっけか。

 

「物事には大抵理由があるんだよ。例えば今やってるドラマだけど視聴率を稼ぐ為に流行りの俳優を起用している、あと実際こんな事はやらないからな」

「そうなの?」

「当たり前だ。こんな事してどうするよ、時間の無駄だね。それに部署の問題もある、専門家の仕事を奪ってどうするんだよ。大人しく専門家に任せとけばまだ時間がかからない」

 

兎に角昔から凄く捻くれているからドラマなんかもつまんなそうに見てたし、何処かその視線は子供とは大分違っていた。今に思えばそれは達観し過ぎている様な気さえもする。

 

でも綾人が楽しそうにする事がある。

 

人と話す事が綾人は好きに見えた。

 

何かと笑顔で答えるし、何かを問われればそれは親身になって教えてくれる。

昔から人と接するのが大好きだったのかも知れない、それに面倒見も良いんだよね。

 

私は勉強を教えて貰っていたけど、分からない所は何度だって教えてくれた。

話す度に分かりやすく話す事を心掛けていたのも知っている。

話が複雑だと言えば、本人は頑張って噛み砕いて説明してくれるけどそれでも言葉が難しい。

人の為に真剣になれる憧れの人だった。

 

自分の事で手一杯な私と比べて何時も余裕があって、喜んで人に教えているんだもん。

 

彼は昔から誰かの背中を押しているし、私も彼に何度も背中を押して貰った。

踏ん切りが付かない時も、失敗しても良いからやってみろと言う。

分からない時も、分からない所を具体的にするから解いてみろと言う。

 

本当に人に親身になれる人なんだって私は彼の事を自慢できた。

 

私が、カルデアに行こうと思ってた時もそうだった。

 

私でも何かの役に立てると思うと嬉しくて、でもやっぱり悩んでいる時の事だ。

 

最後の一歩が踏み出せなくて話しを聞いて貰っていた。

 

弱い所を見せたくなくて、行くと言ってしまったのは正直悪かったと思う。

でも彼はやはりそんな私の背中を押してくれる。

 

お前が決めたなら、何も言わないって。

本当は私の事を心配してくれているのに、決めたのがお前なら俺は黙って背中を押してやるって。

 

本当は止めて欲しかったのかも知れない。

彼に止められたなら私は行くのを辞めていたと思うから。

 

結局、私は彼に頼ってしまったんだと思う。

最後の最後まで、彼に背中を押して欲しかったのかも知れない。

 

でも、今はそんな彼がいない。

 

急に人理焼却とか言われて、世界を救えって言われたって私はどうすれば良いのか分からない。

こんな時、彼ならなんて言うんだろうか。

 

俺が行く?

はは、彼はそんな事を言わないだろう。

 

そんなカッコいい事は、もしかしたら言うかも知れないね。

でも彼はきっと、迷ってる私の背中を押してくれる。何時も言ってる様に教師らしく支えてくれるかも知れない。

 

 

そんな人と寄り添ってる彼に憧れたんだから、私も頑張ろう。

彼の様に、誰かの背中を押してあげよう。

 

「頑張ろう。マシュとなら出来るよ」

「はい、先輩!マシュ・キリエライト、突撃します!」

 

ああ、でも。

こんな時だからかな、彼の事が分かってしまう。

 

あの夕暮れの教室で泣いてたのも、時々泣きそうだったのも。

きっと誰も彼を支えてあげれなかったからかな。

彼も悩んだんだろう、最後に私を見送った時に泣きそうだったのもそうなんだろう。

 

余りにも頼られてしまうから泣き言が言えなくて、カッコよくしていたくて、弱味を見せたくないからなんだろう。

 

だって私は今、不安に押しつぶされて今にも泣きそうなんだから。

 

でも泣かない。人が見てる、不安を煽るな、大丈夫だと言うんだ。

 

 

ねえ、こんな時だからこそ私は君に背中を押して欲しかったよ。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

此処は何処だろう。

 

俺は確かレフと直接話して、結局何も変わらないクズと呼ばれたんだっけ。

その後は結局人理焼却に巻き込まれたんだろう。

 

あれ、なら今考えている俺はなんなんだ?

 

「ーーーはは、〇〇よ!オレたちの勝ちだ!」

 

 

ーーーああ、成る程。

何処にいるかは分かったけど、なんで俺は此処に居るんだろうか。

 

それとも此処に導かれたのは俺に罪があるからなのか。

ああ、怠惰とは正に俺の事だろうよ。だが怠惰の役者は既に退場した後の様だが。

 

 

「・・・再開を望むか、アヴェンジャーたるこのオレに。はは、ハハハハハハハハ!ならオレはこういうしかあるまいな!ーーーー待て、しかして希望せよ!」

 

だが、どうやら立花も無事に帰れそうだ。

そうか、もう此処まで旅路は進んでいたのか。

 

そう、ぼやけていた視界が鮮明になってくると同時に彼は振り向いて。驚いた顔をして消えていった。

 

「ーーーーどうして」

 

立花の声が聞こえたが、本当にどうしてだろうな。

俺なんかこの場には相応しくもなんとも無いただの人間なんだけどな。

 

だけどまあ、何時もらしくしよう。

 

「よお、珍しい所で会うもんだな。何日ぶりだ、悪いが何時から寝てんのかなんて分からないから分からんけどな。お前からしたら何ヶ月の間違いか?」

「いや、そうだけど。ーーーそうじゃなくて、綾人だよね?」

「なんだ頭でも打ち付けたか。俺の顔も忘れたのなら悲しい物だな、一体どれだけお前に勉強を教えたと思っているんーーーーー」

 

言葉が止まる。

だって、俺の胸の中には立花がいるんだから。

何時からそんなに大胆になったのか、茶化している訳ではなくてだな。

 

俺もどうすれば良いか分からないんだよ。

 

 

「ーーヒッグ、グズッ。・・・あいたかった」

 

それはか弱くて女の子らしい本音なんだろう。

それはそうか、寂しかったのかと知らないし何より怖いだろうな。

レフの野郎と会った時なんて俺は泣いてたからなぁ。

 

「辛かったろう、今は泣いとけ。胸くらい貸してやる」

「ーーーう、ん」

 

それから、立花はどれだけ泣いたんだろうか。

泣き止んだ時には俺の服はグシャグシャになっていた。

 

「綾人は、どうして此処にいるの?」

「それはな、俺が最後の試練だからかな」

「ーーーーえっ?」

 

まあ、俺にも分からないんだけどね。

だから適当にでっち上げるのさ。立花の心を折るために。

 

「嫌だよ!私は綾人を、こ、ころ…」

「そうじゃないさ。お前は俺を否定すれば良い。俺が偽物だと叫べば良いのさ」

「できない・・・」

「歩みを止めて良いのか。人理焼却を止めないと皆んな死んじまうんだぞ?」

「なんで知ってるの?」

 

それはね

 

「偽物だからさ。〇〇のやってる事は知ってる。サーヴァントやカルデアの事もな」

 

嘘です。

本当は大分前から全部知っている。

ただ、何故かこうしないといけない気がするんだよ。

 

立花に本物の俺を偽物だと言わせたいのだろうか、一体どんな精神攻撃なんだろうかそれは?

 

「でも・・・」

「まあ、どっちでも良いさ。なあ立花」

 

黙ったまま。なら何時も通りに背中を押せば良い、選択肢を選ばせてやれば良いさ。

 

「歩みを止めても良いんだぞ?」

「なんでっ?」

「少しだけ考えてみろよ。一般人に世界を救うってのが無理な話だ。辛いだろ、泣いてたろ。なら辞めてしまえよ、誰も無理強いなんかしないから辞めっちまえ」

「どうして・・・」

「本当は誰もお前に期待なんかしてないんだよ。それでも頼れるのがお前しかいないからーーー」

「どうしてそんな事言うの!」

 

あーあ、また泣かせてしまった。

しかと今回は俺に原因がある訳だ。好きとか思っておいてこの仕打ちか、あんまりな事をするもんだな魔術王もさ。

 

「偽物だから心を折ろうとしてんだよ。そんくらい分かれよ。折れちまえば後は楽だぞ、何も考えない、感じない虚無が待ってる。だからーーー」

 

スパァンーーー。

 

強制的に黙らされた。

意外だ手は上げないとばかり思っていたが意外と成長しているもんだ。

 

「嘘つき。本物の癖に偽物のフリなんかして、私には分かるよ。だって何時もそうやって私に選択肢をくれた、迷ってる時は選ばせてくれた!綾人が、本当は私の事を思ってるのも分かってるよ。だからそんな事いわないでよ!」

「ーーーそうか、分かってんのか。ならお前の先生としてだ、今までの事を言ってみろよ。今しか言えないだろ、全部言ってスッキリしたなら。・・・また歩けるか?」

「・・・うん。頑張ってみる」

 

 

「本当は綾人に止めて欲しかったよ」

「俺も止めたかった」

 

今まで胸の内にしまい込んでいた事を。

 

「マシュに守って貰ってるけど、本当は怖くて堪らないの」

「誰だってそうなる」

 

本当の事を。

 

「戦うのが怖いよ」

「お前は優しいからな」

 

吐き出していく。

 

「なんで私だったの?」

「本当にな、俺だったら良かったのに」

 

俺なら最初から諦めていたけど。

 

「家に帰りたい、お母さん達に会いたいよぉ」

「俺も、本当は立花に任せるのは嫌だよ」

 

何も出来ない自分だけど。

 

「また、綾人と一緒にいたい」

「そうだな。あの時が一番平和だったな」

 

 

話しを聞いても何も上手くは返せない。

それでも聞かないといけない。立花の辛さをせめて分かっていていたいから。

 

 

「なあーーー」

「なに?」

 

 

「もうお前も目覚める時間だ。少しは楽になったか?」

「うん。もう少し頑張る」

 

なら本当に良かった。

でももしかしたら最後かも知れないし、一応言っておくか。

 

「でもどうやって目覚めれば良いのか分からないよ?」

「俺がいなくなれば良い」

 

丁度、やれと言わんばかりに剣も転がってるしな。

 

「現実でお前に言いたいから、ちゃんと目覚めさせてくれよ王子様」

 

「俺、お前の事を愛してるぜっ!」

 

 

その言葉と同時に剣で自分の腹を貫く。

 

「綾人っ!!」

「大丈夫。見た目だけだから」

「そ、そうなの?」

 

ごめん、嘘。

凄く痛い、今にも泣きそう。まるで熱を持った物が腹に捻じ込まれた様な感覚だ。

まあでも、これくらい耐えないといけないよなぁ。立花の為だし。

 

「本当に最後だ。歩みを止めたいなら止めても良いんだぞ、お前が決めた事なら俺はそれで良い。これは俺の本心だから・・・」

 

 

「ーーーありがとう」

 

こんな俺でも少しは役に立てたならそいつは良かった。

 

あー、本当にイッテェ。

 

そうして意識は消えていった。

 

 

 


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