これが僕の英雄譚   作:猫と果実

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皆様お久しぶりです!!
投稿離れてしまってすみません……
実はオリジナルでまた書いていてそっちにかかりきりになってしまって……
でも『これが僕の英雄譚』書き続けますので
何卒宜しくお願いいたします。



怪物祭4 

怖い 恐怖で体がすくむ

明白な実力差、漂う濃厚な死の気配。

逃げたい、逃げたい、逃げ出したい。

でも僕には守るべき人がいる。

もう二度と失わないたくない大切な家族がいる。

だから行くんだ僕、心を奮わせろ、死の覚悟を持て、そし闘え。

守り抜く、そして生きて二人で帰るんだ!!!!

「おぉぉぉぉぉ!!!!!」

覚悟を決め地面を蹴り出す、レッドバックの懐に一気に詰め寄る。

「ゴァ!?」

先程まで逃げ惑っていた相手が突貫してきたことと、ステイタス更新によりスピードが上がっていた事もあり

レッドバックの懐に入る。

心身共に成長したベルの初手。

ナイフをレッドバックの魔石の部分を狙い一突き。

「ふっ!!!」

ベルの急激な成長、覚悟を決めたで先程のベルでは想像出来ない動きを見せる。

レッドバックの最大の隙をついた、読み間違える初手を狙った一撃。

「グガァァァ!!!」

咄嗟に懐に入り込むベルを潰そうと両手で挟み込もうとするレッドバック。

「いっけぇぇぇぇぇ!!!」

臆せずスピードを緩めず突っ込んだベルは紙一重で掻い潜る。

闘志をまとった兎の牙が獲物に届く。

「グガァァァ!???!!?」

ベル渾身の一撃はレッドバックの胸に突き刺さる。

護身用のナイフでは肉をたちきれないと踏んで

一点集中の突きで勝負し、功を奏した。

傷口から溢れ出す血飛沫。

苦しみに叫び雄叫び。

しかし勝負はつかなかった。

「ゴァォォォォァォォ!!!」

豪腕と呼ぶに等しい腕を振り回し、ベルを遠ざける。

「くそっ!?」

レッドバックはナイフが刺さる瞬間に少しだけ後ろに下がった、恐らく本能的に死を感じたのだろう。

そのせいで魔石までナイフは届かず倒しきれなかった。

ベルはナイフを手放す訳にはいかず、ナイフを引き抜き退避。

レッドバックの胸の中心には突き傷が見える。

(くそっ……後少しで倒せたのに)

怒りでそこらかしこに拳を振るうレッドバック。

後一歩の所で倒せなかったベルは体勢を立て直し、ヘスティアの事を最優先に切り替える。

(このままだと神様も被害を受けちゃう)

ベルは誘導するようにレッドバックの視野に入り

ヘスティアのいる位置から離れるように動く。

「こっちだ!!!!!」

「ガァァァァーー!!」

 

 

 

「ベル君………」

ヘスティアは子の死闘に何も出来ないこと。

守られ足を引っ張っていること。

大切な家族が死ぬかもしれない現状。

どうしていいか分からなくなっていた。

(ベル君は確実に強くなってる……)

ヘスティアから見てもベルの動きが変わったことに気づける程成長したことはわかる。

ステイタスの内容は深くは見られなかったが以前のベルとは比べ物にならないステイタスだったのは確か。

(でも……決定打がない、ヘスティアナイフさえあれば……)

ぎりっと歯を食いしばる。

もしかしたら初手にヘスティアナイフを使っていたら終わっていたかもしれない。

ベル君の渾身の一撃をダメにしたのは自分だとそんな考えが浮かんでくる。

「くっ!!」

「べ、ベル君!!」

豪腕による攻撃を避けていく。

でもギリギリだ、避けれるようになってるがギリギリなのに変わりない。

(ボクは信じるしかないのか……ベル君頼むから勝ってくれ)

 

「おぉぉぉ!!」

避けられる、ほんとギリギリだけど避けられる!

「ふっ!」

「グガァァ!!」

単調な攻撃だから避けきれる、ならカウンターを狙う!!

ベルが避けに避けレッドバックは苛立ちを隠せない。

自分より弱い相手に翻弄される事に怒りを覚える。

「グガァァァ!!!!!」

両拳を振るうが当たらない、当たりそうで当たらない。

ベルは拳をバックステップで避け、先程と同様に懐に入る様に突っ込んでくる。

レッドバックは腹が立った、同じ手が通じると思われたと思い激昂する。

「ゴァォォォォァォォ!!!」

ベルを待たずレッドバックも突っ込む。

そしてベルに向かい豪腕を振るう。

しかし感触はなく、その変わりに左脚に痛みがはしる。

「グガァ!?」

脚を見るとナイフによる傷が入っている。

そして傷つけた相手は後ろで武器を構えて再度突っ込んでくる。

「まだだ!!!」

ベルは拳が当たる寸での所で足下へスライディングをしてすれ違い様に攻撃し、追撃の形を作り背中に一刺し。

「ギィギャァァ!??」

痛みにより悲痛をあげるレッドバック。

スピードを生かした攻撃で反撃するベル。

再度距離を取り、次の攻撃に備える。

「はぁはぁ……」

(この調子で行けば……倒す前に騒ぎに気付いて救援が来るかもしれない)

ヘスティアがいる物陰を見て思考する。

(まずは神様を……)

意識をヘスティアに向けた一瞬レッドバックの叫び声が止む。

「…えっ?」

大人しくなったレッドバックは四つん這いになるベルを見据える。

「なっ!?」

その瞬間の凄まじい殺気が周り一体を包む。

思わず気圧されそうになり腰が折れそうになる。

空気が変わるのがわかる、以前『ウォーシャドウ』が現れた時の様に頭の中で警音が鳴る、そして脳裏に浮かぶ死。

「……」

レッドバックは静かにベルを睨みつける。

「うっ…」

硬直して動けなくなるベル。

(体が動かない…)

不意に背筋が凍る、そして気付いたら横に身を投げ出していた、その瞬間轟音が響く。

ベル自身、何故咄嗟に回避行動を取ったかはわからなかった

「……」

呼吸も忘れ、自身がいた場所を見る。

そこは地面がえぐれ、その先の建物には風穴が空いていた。

「ベ、ベル君!?」

ベルはヘスティア呼び掛けで我に返る。

(体が動いてくれなかったら死んでいた)

全身に嫌な汗が吹き出る。

レッドバックの攻撃と分かっていても、認識が追い付かない

今までとは違い、明確に殺しに来てる

そう冷静さを欠いた攻撃ではなく、ベルを葬るだけ意識した攻撃。

「神様急いで逃げて!!!」

ベルは気付いたら叫んでいた。

「何を言っているんだベル君!?」

「このままでは二人とも死んでしまいます!!」

ヘスティアの言葉を遮る様

「で、でもベル君!」

「今は僕だけを狙っています!今なら神様だけでも逃げられます!!」

レッドバックが空けた風穴を見据えナイフを構える。

「そんなこと出来る訳ないじゃないか!?

家族を見捨てて生きるなら、ボクも死んだ方がマシだ!!」

瓦礫の奥から殺気が飛んでくる。

「僕はもう二度と家族を失いたくないんだ!!!」

「ベル君っ……」

「逃げて!!!!」

次の瞬間ベルに狙いを定めた拳がベルに迫る。

ベル同様に先程は比べ物にならないスピードでベルに詰め寄る。

そしてベルのいた場所に拳の雨が降る。

爆音とともに砂煙が舞い、周りが見えなくなる。

「ベル君!!??」

「うぉぉぉぉぉ!!!」

砂煙の中から聞こえる

どうしようもない状況、打開出来るすべがない。

非力なボクには何も……

「いやある」

ヘスティアは目に光を宿らせる。

「例えボクが居たくなったとしてもベル君は強くなる

英雄になるベル君をここで終わらせるもんか」

ヘスティアは我が子のために覚悟を決めた。

神の力(アルカナム)を……」

禁忌(タブー)を犯す者は下界を去る、そして二度と下界に踏み入れてはならないと。

それは神々が決めた取り決め、その制約を覆すことは出来ない。

ヘスティアは一瞬脳裏に浮かんだルールを考えた。

自分の未来より子供(ベル)の未来を選んだ。

その選択は恐らく誰も死する事のない結末を描くはず…

(ヘスティア)が願うなどおかしな話と世間は笑うかもしれない

しかしその結末は一瞬で変わる。

「かみさま!!!にげっっっ」

そうヘスティアは一瞬だけ考えた、しかし一瞬だ。

その秒に満たない思考が愛しの子を死の淵に追いやるのだ。

「えっ……」

均衡を保てたのは奇跡だった、今までが奇跡の連続だった。

だからこそ終わりは前触れもなく訪れる。

「ガッ……」

ベルは砂煙が晴れると同時に物凄い勢いで壁に衝突した。

「ベル…君?」

「……」

ベルは壊れた人形の様に地面に倒れこんだ。

「ベル君!!!!」

ヘスティアはレッドバックの事も忘れベルの元に向かう。

「しっかりするんだベル君!!死なないでおくれよベル君!!!」

涙を流しながら息絶えそうな我が子を抱きかかえる。

「嫌だ!!ボクを置いていかないでくれベル君!!」

ピクリと指が動く、ヘスティアの声に反応した。

「っ!!良かった……」

まだ生きているしかし安堵してのも束の間、怪物(レッドバック)は生存する(ベル)を許さない。

「……」

レッドバックは見下ろす様に二人を見つめ、拳を振りかぶる。

「くっ」

ヘスティアはベルを守る様に覆い被さり言葉を紡ぐ。

「こんな出来損ないの神でごめんねベル君……愛しているよ」

 

 

痛い 怖い 逃げたい 

もう限界だ 体は動かない 死を待つだけ

決められた運命に逆らえない

『ほんとにそうなのかベルよ?』

暗い暗い世界に光が見える

『理不尽な運命とやらに屈服するようなやつなのか?』

その光は僕に問いかける。

『英雄と云う存在はそんな程度の者なのか?』

言葉が優しい光となって入ってくる。

『ベルが目指していた英雄は、こんな所で諦めたりせんじゃろ?』

懐かしくそして温かい。

『守りたい家族ができたんじゃろ?』

あぁそうだ 僕には守りたい人がいる

『ほれ呼んでおるぞ』

べ……ル……君

聞こえる家族の泣き声が、呼んでいる僕を。

『女を守るのは男の浪漫だ』

その光は楽しそうに告げた。

『行ってこい』

晴れていく暗闇の中最後に光は僕に云う。

『ーーーーー』

 

 

運命は一瞬で変わる、そう一瞬だ。

ケラウノス(轟け)

呟きと共に轟音が鳴り響く

「きゃ!?」

死を覚悟していたヘスティアは思わず悲鳴をあげる。

つむった目を開くと目の前にいたベルがおらず周り確認しようと顔を上げる。

しかし目に映ったのは死に追い詰める怪物ではなく

「ベ…ル…ぐん」

目の前に立つ淡く蒼く輝きを放つ愛する人だった。

「神様は僕が守ります」

自分に言いつける様に呟く彼は光を放っていた。

「ベル君…それは…」

ヘスティアはベルに手を伸ばすと突如手に痛みがはしる。

「いたっ……ってこれは雷!?」

ベルは全身が淡く蒼くなり、髪の毛は少し逆立っている。

そしてバチバチと音を立て、敵を見据えてる。

「行くぞ」

雷兎は爆音と共にレッドバックに突貫する。

 

 

レッドバックは訳がわからなくなっていた。

気づいたら飛ばされ壁にぶつかり、先程いた場所を見ると死に損ないであった敵がいた。

死に損ないには変わりはない筈、しかしその目は死んでいない。

レッドバックは思わず恐怖した。

突貫してくる獰猛な兎に。

 

 

「うぁぁああああ!!!!!」

雷兎は雷をまとった牙(ナイフ)を突きかざす。

「ガァァァァァァァ!!!!」

負けじと拳振るう怪物

しかし怪物は気づいてしまった、訪れる死を。

そして突き刺さる牙、レッドバックの記憶はここで途切れた。

 

レッドバックは魔石を破壊され灰と化す。

ベル君は残心のまま動かない。

「神様は…ぼくが…」

そしてバタリと倒れた。

「ベル君!!!!!!」




そろそろ怪物祭フィナーレかな??


ではまた次回お会いしましょう。

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