世界状況は『魔剣物語AM』時点をお借りしております。諸々の矛盾に関しましては剪定事象ということでよろしくお願いいたします。
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ふう、と息を吐く。執務机に座る女性の目の前には書類が山のように積んであった。
眼鏡を取り、目頭を少し押さえた後、立ち上がって伸びを一つ。
窓の外を眺める。日が傾きかけた城下町は、心地の良い騒がしさに満ちあふれていた。
治安も良く、多数の宗教と種族を抱え込むこの国の、普段の光景である。
この草原の国、ティルナ・ノグを、彼女は愛していた。
満足げに見ながら煙管を取り出したところで、慌ただしいノックと共に部下が入ってくる。
「宰相閣下、追加の書類です!」
「……おう、そっちの台に置いといてくれ。机の上のそっちの認可分は各部署に」
「了解しましたー!」
どさどさ、と重ねられた書類を見てため息をつく。部下は決済済みの書類を手に帰って行った。
宰相と呼ばれた女性は、煙管を諦めて席に戻った。獣の形――狸のものである耳と尻尾が揺れる。
「やれやれ、終わらんなあ」
苦笑地味に呟くと、宰相のサインが必要とされる書類にさらさらと自身の名前を書いた。
二ッ岩マミゾウ。それが彼女の名であった。
サインが必要なものを終え、また一つ伸びをする。今度は押印の必要な書類が順番を待っていた。
もちろん忙しいのは彼女だけではない。先ほどの部下のように、誰も彼もが忙しい。それがこの国の現状であった。
サーバルが居ればな、と思う。この国最高の戦士でありながら、なかなかの政治家なのだった。
それでも、贅沢は言っていられない。この国は邪龍と戦わねばならないからだ。
彼女が先頭に立たねば始まらない。軍事力の低いこの国は、少数精鋭で持っている。卓越した武力と統率力を持つ彼女が率いるのは当然のことと言えた。
と、なれば、残った者達の仕事は決まってくる。銃後を如何に動かしていくかだ。
その結果がこの書類の山である。いや、この国の政治機関は有能だ。有能であるからこそサーバルも駆け回ることが出来る。
一時的に混乱――邪龍に対しての対応で派閥ができたものの、それも今は落ち着いている。
故にここにある書類のほとんどが認可印を求めるものなのだ。大抵の面倒は此処に来るまでに片づいているが、単純作業ほど辛いものはない。
「……やるか」
とはいえやらねば終わらない。諦めて仕事を進めることにした。
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やってもやっても終わらない書類に飽き始めたので、どうでもいいことを考え始める。
いや、どうでもよくないのだが、未だに禁域への攻略の糸口が見つからぬ以上考えてもどうしようもないことだ。
戦後のことだった。どこまでの国が生き残れるか。偶々見ていた書類が難民関連のものであったのも思考に結び付いた。
七星国家は少なくとも生き延びねばならないが、それ以外は。戦後の難民はどれほどになるだろう。
今であっても難民が多いのだ。国や街から焼け出された者、滅ぼされたところから逃げてきた者。
意外な――あるいは意外でもないことに、イーストエデンからの難民もいる。
酔いからさめてしまい、だが他国に逃げようにも一度逃げたからと悩む者。
そうした者を、この国は受け入れる。多くの思想、民族、宗教を内包するこの国は、そうした者を拒まない。
むしろ安全にこの国まで来れるよう、マミゾウの私兵を使っている。これはサーバルも了承済みだった。というよりも、非公式にはサーバル配下と言っていい。
一応マミゾウ名義にしているのは、何事かあったときに自分に責任を押しつけられるからだった。宰相の勝手働きというわけだ。サーバルにもこれは飲み込ませている。
随分と重荷を背負わせてしまっていると思う。出来れば、戦後はもう少し負担を軽くしたいものだった。
新しく彼女の友になった少女もいる。少なくとも、彼女達が戦後に明るいものをみれるように。そうしていくのが自分達大人の役割だろう。
そこで問題となるのがサーバルの立場だ。サーバルは間違いなく英雄とされるだろう。国家元首として最前線に立つ唯一の者として。
だが彼女に全てを負わせることになってはいけない。そうしないために後方組織をしっかりと構築していこうとしているのだ。育成も随時行っている。だから重要なのは――。
「マミゾウさん、報告です」
「おうおう、ありがとう」
つらつらと考えを回しているところに、ノックの音がして件の少女がやってきた。彼女のトレードマークである帽子を外してちょこんとお辞儀をして入ってくる。
気分が変わるのは有り難い。まだ判を押していない書類を脇によけて、少女――かばんの報告を聞くことにした。
「市街地の城壁強化じゃな。どんな具合じゃ」
「今のところ順調です。他国から提供を受けた技術も組み込んでます」
地図を示しながらはきはきと説明する彼女の言葉に頷きながら、マミゾウは何かを言いたげであることに気がついた。
「……何か提案があるようじゃな?」
「はい。これなんですけど……」
新たに出した書類は、今回の工事についてのもの。公共工事として行っている城壁工事の効率化と、さらなる人員を募ることによる、難民への仕事の提供。
とにかく邪龍の侵攻は止まらないから、仕事は早く人手は多くする方がいい。そのためには現場監督官を多めに配置する必要もある。
先に述べたように、難民の受け入れが大きい
衣食住が与えられればひとまず安定はする。明日が見えることは大きい。その先が分からなくても、能動的な「生きている」という実感はいつでも必要なものだ。
ほうほう、と頷いて、マミゾウは認可印を気軽に押した。かばんの方が目を丸くする。
「あの、いいんですか?」
「いいともいいとも。ここで書類仕事しておると現場が見えにくい。現場で改良出来そうならその場で変えてくれ」
「もう少し精査が必要かと思っていましたけど」
「大丈夫じゃよ。儂から見ても今の状況には適しておるからな。現場との細かな擦り合わせは作業しながら行ってくれ」
マミゾウは書類に重石をした後、窓を開けて午後の心地よい風を部屋の中に取り込んだ。
一緒に、遠いざわめきが聞き取りやすい音として入ってくる。
「より良くする、ということに良い悪いはないさ。失敗したら? 物事に失敗は付きものじゃ。なに、世界が滅びそうなこのときに、致命的でない多少の失敗は気にせんよ」
「……その、ボクがやっていってもいいですか」
「勿論じゃ。サーバルも喜ぶ。問題があれば責任は儂が取るしな」
「そ、そこまでは」
「いいや、お主にやってくれと命令したのは儂じゃ。故に責任は儂にある。だから好きにやってくれ……ああ、何かあったらフォローはするから連絡は早めにな?」
人手や資材が急に足りない、などということも普通に起こりうる。その差配をするのもマミゾウの役目であった。
宰相などと言われているが、要するにとても態の良い雑用だった。その立場で良いと告げている。
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
「おうおう」
彼女が提示する数字を見ながら手を動かしていく。あちこちの部署に持っていけば人員と資材が確保できる書類だった。
この有能さ、本来ならば自分の後釜として育てようかと思った時もある。だが、それはいけないのではないかと今では思っていた。
彼女の視界は広い。戦争の後はもっと多くのものを見聞きし、そして時には人を導くのだろう。今でさえ、スポンジのようにあらゆることを吸収していく。
それは、戦後という先の見えない道を照らす灯火なのかもしれないと思ったのだ。自分の座っているような椅子は彼女には狭く小さすぎるのではないか。
そんなことを言うとサーバルは怒るだろうか。
いや、決して彼女は怒るまい。むしろ喜ぶだろう。
彼女の親友が先を照らすものであることを。その見聞きするものを共に知りたいと思うだろう。
ならば、今からとその先に必要なものは何か。経験と後はコネクションだ。その辺りは顔合わせやら何やらを通して覚えさせ繋いでいくしかない。
時間だけは才能でもどうしようもない。サーバル付きの政務官になったから他国の重鎮と会う機会は増える。だからそこをサポートしていくのが自分の役目だと見越していた。
「当面必要なのはこれで良いな?」
「はい」
話がまとまって、蓋利して一息ついたときだった。ピィ、と鳥の鳴く声が入ってきた。
可愛らしい声だが、猛禽類の一種の声であった。この草原の国では珍しくない種のものだ。
窓枠に乗ったその鳥の足に連絡用の輪が付けられていた。マミゾウはかばんに一言断ってその輪を外し、中の文に目を通す。
「おお」
「どうしました?」
「いや、サーバルが一度帰ってくるようじゃ」
マミゾウは傍にいる少女を喜ばせるためにそう告げた。
同時に、今帰ってくると言うことは例の儀式かな、と目を細める。ヒオクリの儀式は定期的に行っているものだ。
とすれば、どこかに応援も頼まねば。その書状もしたためておこう。
「サーバルちゃんが!?」
「うん、今回は特にけが人もおらんようじゃな。そうだ、ちょっと一つ頼まれてくれんか」
「はい?」
サーバルが帰ってくることに喜色を示した少女に、マミゾウは一つ二つ言付けた。
言付けを聞いた少女は、満面の笑みで元気良く、はい、と答えると、部屋の外に駆け出していった。
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少女が立ち去った後、マミゾウは天井を見上げ、よいぞ、と声をかけた。
天板が外れて、彼女の使う密偵の一人が降りてきた。さっとマミゾウに紐で括られた紙の束を渡す。
「うん」
頷いて、いくつかの指令の書かれた紙を手渡す。密偵は同じように姿を消した。
マミゾウが使う密偵は多い。あちこちに出て情報を集めさせている。
もっともこんなことは他の国もやっていることだから別に何とも思わない。
必要であれば他国とも密偵同士で(むろん素性は明かさずだが)情報をやりとりしていることさえある。
邪龍情報はどこにあっても問題がない。大魔王になると情報の重要さはさらに上がる。
手にした紙を紐解きながら、マミゾウはその内容に目を通した。
イーストエデンでの新たな邪龍の報告はだいたい固まってきた。これは一度まとめ直す必要がある。
キングソード周りもまた大変なようだ。新しい戦力の追加もあったようだが、詳しくは続報ということになった。
次は国でなく個人、ダビデ王だった。なんだかんだと縁があるので援助もしている。それはそれとしてギムレーには連絡するが。
ニライカナイは変わらずのようだった。大英雄の奮戦が見て取れる。
ギムレーは、邪龍周りの事件と大魔王の撃退。どちらも引き続き注視すべきものだった。
そして次の報告を目にして――
「……何じゃこれ」
邪龍の動向を調査していた者からの、謎の着ぐるみの情報だった。正直意味が分からない。どうやら紅玉と赤薔薇が関っているらしい。ますます意味が分からない。
まあおそらく何か突拍子もない何かを言い出して赤薔薇が付き合ったのだろう。気にすることはないと部下には告げておく。
そうだ、昔から何かと紅玉は赤薔薇を気にかけていたし、意外に赤薔薇も変なところに付き合いがいい。
ずっと昔から知っているわけではないが、なに、ここ数百年程度は知っている。
何せ、ここの数百年を彼女も生きてきているのだから。
懐かしい記憶を思い出しながら、マミゾウは開けたままの窓から身を乗り出して煙管を吹かしはじめた。
書類は残っているが、この一服くらいは許されるだろう。
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獣人のプロトタイプ。それがマミゾウの正体であった。
只人から作り出されたのではない。元々はハーフエルフだった。
理由など簡単なことだった。人間を素材にするより心理的な抵抗も身分に関しての面倒なこともなかったからだ。二代目魔王の影響は今なお濃い。
とはいえ、それでも今に至るまで死なずにいられるのは、試験段階で何かエラーが発生したからなのではないか、と推論を立てられていた。
もっともこの仮説が立ったのも暫く後、赤薔薇と誼を得てからだ。
戦闘能力が目立たなかったことから廃棄にされ、他の失敗作たる死体に紛れて逃走し、その存在が明らかになるまでの間に補足――いや捕獲されたのだった。
最初は、魔王が作り出したものと思われた。魔人の例があったからもっともなことだった。
だがそれが逆――対魔王兵器と知れてからは対応に苦慮していたようだった。魔王が作ったものなら話は早かった。だが逆ともなれば――。
当然研究への反感もあったが、獣人の性能が明らかになるとそれを利用すべきと言う論も大きくなった。
獣人を人と見なさない風潮が蔓延した。迫害も強かった。戦力にならない者は容赦なく切り捨てられた。
転機は、魔王の討伐と新たな魔王の出現のときにやってきた。
新たな魔王――かつて魔王討伐の重要な一員だった彼は、自らが魔王になったときに宣言したのだ。
『「人類」よ、かかってこい』
そしてその切っ先は獣人に向けられた。つまりは、獣人を人と認めたのだった。
人類もまた、それを受け入れざるを得なかった。獣人の研究は批判を浴びていたからだった。
当初こそマミゾウのような取るに足らない者を使っていたが、徐々に暴走を始めていた。
罪人から孤児、罪のない人々、より良い素材を求め続けた研究の政治的な失敗は、どこぞの国の高官筋の子供を使ったことだった。
内情が明らかになったことで研究への反発は頂点に達した。当然だ、自分が研究材料にされるかもしれないという恐怖は大きかった。
研究自体は頓挫した――はずである。人間を変質させる、あるいは作り出すという技術がどこかに流出していないという確信はなかった。
少なくとも、獣人が人為的に作られたのはそこまでであった。今なお少数民族とは言え獣人がそれなりにいるのは、獣人の子は獣人が生まれることがわかったからだった。ハーフもいる。
混乱はありつつも、魔王との戦争が再び始まった。どのような状況があろうと戦わねばならないときはある。
魔剣に飲まれ徐々に狂していく魔王と、自分達の恩人であるべき彼と、獣人達は死力を尽くして戦うことになった。
紆余曲折を経て、魔王は斃れ、魔剣はまた何処かに消えた。いつのときもそうだったが、残されたのは戦後処理の混乱だった。
その際、獣人達は自分達の場所を求めた。人々は爪牙のある身を恐れる。そして、一時期とはいえ兵器として運用しようとしていた
また、獣人達の身分証明という意味でも、『国家』という枠が後ろ盾になる必要があった。
それがこの国の成り立ちであった。場所は、かつて自分達を『人類』と認定した魔王がいた国の跡地になった。
仲間達と随分と駆け回った日々を覚えている。赤薔薇とも渡り合う羽目になったこともある。正直生きた心地はなかった。当時は自分もまだ小娘だったから。
それでも、多くの努力と地道な活動によって、草原の国、ティルナ・ノグは成立した。
当初こそ獣人の国という形であったが、誰でも受け入れる多民族国家になるまで時間はかからなかった。
迫害された者、家族を亡くした者、宗教上の理由で国を出ざるを得なかった者――。
原則的な掟こそあれど、あれこれに寛容な楽園の基礎はそうして出来上がった。
マミゾウはその歩みをずっと眺めていた。知り合いも友人も、仕事上の付き合いも、まあ親友と称して良い繋がりも、長い生の中で多くを得ることになった。
つまりは、顔が広いのも部下を多く抱えているのも、そのときの経験があり、そして長く生きてきたからに過ぎない。
自分があちこちに斥候を放っているのはもう周知の事実だ。誰も知らないであろうネットワークも幾つもある。
イーストエデンにさえいる。別に潜入させたわけではない。ずっと前から住んでいた者がいるのだ。そこからの情報も入ってくる。出入りの商人は、ティルナ・ノグからも勿論いる。
それらからの情報をまとめ上げ、精査し、それを元にまた行動を起こす。そうして、ずっとこの国の陰にいた。
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その仕事は、先代の時も変わらなかった。それなりに長く生きた獣人だった。
十一代目魔王との戦いの後、十二代目に紅玉が成ったことで自身の役目は終わったと判断した男。
先代魔王との戦いで傷を負ったことと、魔剣破壊の計画を聞いたのも加わって、この国を文治に移行しようと考えた。
故に跡継ぎに選んだのがサーバルだった。サーバルの高い政治能力とその気性が、これからの時代に必要だと判断したのだ。
マミゾウはそれを相談されたとき、諸手を挙げて賛成した。
そもそも楽隠居を決め込むつもりだった。魔剣が折れると聞いたし後進達は十分育ったし、何より寿命がそろそろだろうと思っていた。
素体が素体とは言え、そろそろガタが来てもおかしくない。
それでも暫くは混乱が続くだろうから、自分の持つネットワークは当分そのままにして、それもあちこちに引き継がせるなり何なりしていくつもりだった。そうして自分もまた歴史の影に消えていくつもりだった。
つもりだったのだ。魔剣破壊の儀式が失敗するまでは。
すでに引き継いでいたサーバルはその才能を遺憾なく発揮した。他国に対し攻め込まないという意思表示として削っていた国軍を素早く組織し直した。
先頭に自分が立つことを決めた彼女は、文官についても戦時体制に移行させた。如何に民を守るかということに腐心しなければならなかった。
そしてそのサーバルからの要請で、マミゾウはこの国の宰相という雑用係として復帰した。これ以上はやらんぞとは言っている。もし途中で寿命が尽きたとき、混乱をできる限り起こさないためだ。
無論、自分が倒れたときの仕事の継承手順や情報の共有ルートはすでに作ってある。
それでも十二分に忙しいとはどういうことか。この国ですらそうなのだ、他の国も目の回るような忙しさだろう。
「…………さて、サーバルが帰ってくるまでに、身体を開けられるようにしておくかのう」
マミゾウは振り切るように呟いた。情報をまとめ、サーバルに伝えられるように精査せねばならなかった。
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翌日、何とか書類をまとめ終わった彼女の耳に聞き慣れた声が入ってきた。
「ただいま!」
「おう、おかえり」
前線から戻ってきて、また明日にも前線に出ねばならないような身。
それでも彼女はその闊達さを失うことがなかった。
「主立ったあれこれはかばんから聞いておるかな?」
「うん、出迎えに来てくれたから、そのときのお話ついでに!」
「うんうん、それは良かった」
彼女の語る言葉に、マミゾウは頷いてみせた。サーバルのような立場だと、中々対等な友人というのは難しいものだった。かばんの存在はそれだけで有り難い。
幾分か話を聞いた後、こちらに入ってきている情報と書簡の内容をサーバルに説明していく。食糧の支援や資源の調整、軍備関係などの、細々としたものながら重要な部分だ。
「紅玉からあれこれの連絡が来ておる。技術開発周りの話もあるから後で目を通しておくれ」
「うん! 技術関係だとうちが供出してもらってばかりで申し訳ないけど……」
「それはそれ、適材適所という奴じゃな。とりあえずは返信の草案も作っておる」
「目を通しておくよ。ごめんね、いつも全部任せちゃって」
サーバルが申し訳なさそうに告げる。彼女が戦場で駆ける分、後方の組織には負荷がかかるからだ。
だがマミゾウは何を今更というように応える。
「それこそ適材適所と言うものじゃよ。儂は前線には出れないからな」
「でも、いいの、『親分』?」
「……懐かしい呼び方じゃな。いつも言うっとるじゃろう。構わんよ」
マミゾウは軽く笑った。どこか遠い笑いでもあった。生き残った獣人達に慕われ、そう呼ばれた日々。
今でも長老達の中にはそう呼ぶ者もいるが、もうほとんどが歴史上の者になったしまった。
最後は誰だったか。ああ、先代のこの国の長だったか。
幾らかの手勢と共に神殿に最初に挑み、そしてその情報だけを遺して逝ってしまった。
今は不可侵領域となった森の神殿。いつかは挑まねばならないとしても――今はまだ。
そしてサーバルの言葉もわかっている。マミゾウにあれこれを押しつけているのを――本人の意志に関わらずそうさせているのを気にしているのだ。
優しい娘だと思う。だからこそ、だからこそ自分はここにいるのだが、それは口に出さない。
「……ああ、例の火送りじゃが、そちらはギムレーに応援を頼む書簡を作っておるから確認と判を頼むな」
「ありがとー! 後で一緒に私の確認する書類も見ておくね!」
「いつものように儂らは事務作業じゃが、十分気を付けてな。かばんを始め、初めての者達もおるし」
「うん!」
不自然な話題の転換に、サーバルは乗った。実務としてその辺りは大事なのもある。
初めての者は出来るだけ参加をさせ、そして何か起こったときのために後方は待機しておく。
わかりきったことの確認は、話題を流すのには十分だった。
そのまま、状況に関しての幾つかの確認をする。足りない物資や人員の補充、まだ未熟な者達の育成について。
順調といえば順調だが、かといって楽観視が出来る世情ではない。速成ができるとは限らないのも難しい話だが。
「こればかりは時間がいるねえ」
「そうじゃなあ。どうしてもな。育成も組織運営も、一人ではどうしようもない」
「うん! それはみんなを頼りにしているよ!」
「ああ、存分に頼っておくれ」
マミゾウは目を細めた。サーバルに頼ってもらえるということが、何よりも士気が上がることだからだ。
この会話を伝えておこう、と思いながら、時間を確認して尋ねる。
「ところでサーバル、他のところには顔を出したかの?」
「まだだよー。さっき帰ってきたばかりだから」
「じゃあ、みなといっぺんに顔を合わせる良い機会があるぞい」
マミゾウはにやりと笑った。サーバルは目をぱちぱちさせる。マミゾウが何か冗談混じりのことを言うとわかったからだが、内容が予測できていない。
「大食堂で飯が用意されてる。お前さんの好物も山ほど作ってもらっとるよ」
「!」
サーバルの表情が輝いた。うんうん、と何度か頷いて、花の咲くような笑みを浮かべる。
「じゃあ、みんなに『ただいま』と、みんなで『いただきます』を言わなきゃね!」
「ああ、行っておいで」
片付けたら儂もいくよ、と伝えて、マミゾウはサーバルを見送った。
開けていた窓を閉める。日が落ちようとしているのを見て、わずかに目を細めた。
これからどうなるか。情勢は激しく動いている。
それでもやることは決まっている。できる限りサーバル達を補佐していくこと。その果てに身が潰えたとしても。
まあできればサーバル達の子か孫の顔くらいは見たいが、などと冗談じみたことを思い、彼女もまたサーバルの後を追っていく。
なお、このヒオクリの儀式の後、彼女の仕事はさらに多忙を極めることになるのだが、無論このときは予想もしていなかった。
生涯で最も忙しい時期になった、とぼやくことになる晩年までには、まだ少しの時間を必要としている。
<ダイスの結果など>
【1d10:2】:凡人
武勇:【1D100:10】
魔力:【1D100:71】
統率:【1D100:98】
政治:【1D100:100】
財力:【1D100:53】
天運:【1D100:42】
勿論上記の話は剪定事象です。
草原の国の文官がもっといてもいい、というかサーバルちゃんだけだとかなり無理があるよな、と思って振ったら素ですごい数字が出ました。
ので、そういうことの出来そうな獣人キャラでマミゾウさんを使いました。どこかで被ってましたらすみません。
あれこれお借りしてますが、サーバルちゃんが文字読めたり火送りにマミゾウさん出てなかったりしてるのでやはり剪定事象ですすみません。
でもサーバルちゃんとかばんちゃんの荷が少しでも軽くなってほしいなあと思ってます。