騎士王転生 え、違うの?   作:プロトセイバー

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昼ご飯食いそびれた……

 魔術競技祭の午前の部が終わり、午後の部が始まるまでの小休憩。クラスメイト達が昼食を食べているところから少し離れたところにアーサーはいた。

 

「見事に浮いたな、俺。……仕方がない、どこかに食べに行くか」

 

 弁当は持ってきていない。クラスメイト達がなんとも言えない表情でアーサーを見ていたので、外で食べるつもりでいたのだ。やらかした日から約一か月、未だにクラスメイトから距離を置かれている現状に、流石のアーサーも危機感を抱いていた。

 

(このままだと、俺は友達ゼロで学院生活を終えることになりかねないぞ。なんとかして距離を埋めたいところだが、前世で友達がほとんどいなかった俺に解決策を考えられるとは思えない。……友達ゼロの引きこもりコミュ障……流石に笑えない)

 

 クラスメイトが談笑する様を眺めてしばらくの間考えていたアーサーだが、良い解決策は見つからなかった。まぁ、なるようになるさ、と現実逃避をしてようやく昼食を取る店を探しに行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 店を探し始めてから十分ほど経過した。最初は近くにある有名な店にでも行こうと思っていたのだが、クラスメイトを何人か目撃してしまい、アーサーは仕方なく目立たない店を探していた。

 あまり人気のない道を選び、奥へ奥へと進む。右へ左へ、と進み続けるアーサーは更に五分ほど歩いて、違和感に気が付いた。

 

「人が少なすぎる」

 

 足を止め、辺りを見回し違和感に気が付いた。明らかに人が少なすぎる。いくら人が少ない道を意図的に選んでいるとはいえ、気配すら感じないというのは不自然だ。

 

「人払いの結界……誘導されたか」

 

 周囲に注意を向けてみれば、人払いの結界が張ってあることに気が付く。そして、現在地は魔術競技祭会場からかなり離れた場所。人が少ない道を通っていたつもりだが、それも敵が通行人を誘導した結果だったのだろうとぼんやりと考える。一般人相手であれば、暗示やら今の様に人払いの結界を張る、などいくらでも取れる手段はあるわけだ。ただ、それなりに面倒ではあるが。

 

「んで、メンドクサイことしてまで俺を誘導したってことは、目を付けられたってことか……」

 

 人気のないところにおびき寄せられたということは、接触する必要があったということ。だが、少なくともアーサーに心当たりは――。

 

「天の知恵研究会……」

 

 以前、学院襲撃をやらかした奴らが所属する組織の名前だ。帝国建国から裏で暗躍を続けている、未だに全容が分かっていない超巨大な外道魔術師の秘密結社。なぜ、大陸でも屈指の軍事力を誇るこの国が未だに全容すら掴めていないのか、気になることはあるが理由はともかくその組織はかなりの力を持っている。

 前回はルミア=ティンジェルを攫うために学院を占拠した。それはアーサーやグレンが敵魔術師を捕縛することで防いだが、捕縛した者達から有力な情報は得られなかった。奴らは下っ端だったのだ。あれだけの手練れをそろえておきながら、情報を何も与えられていない下っ端であった。どうやって組織に忠誠を誓わせているのか、まったくもって分からない。

 

 前回はルミア=ティンジェルを攫おうとして失敗した。そして、最近ルミアから嫌な予感がしていたアーサー。ということは、恐らくこの誘導もルミアに対し再び行動を起こそうとする前準備。前回、誰かが監視あるいは観察していたのであれば、アーサーが最重要危険人物であることは分かっているはず。だからアーサーを引き離し、足止めをする。

 

「成程、そう考えれば納得できる……のか?」

 

「ふふ。頭の回転がお速いようで」

 

 アーサーの独り言に応えるように、辺りに声が響いた。音の発信源を探ろうとしても、魔術で反響させているらしく、どこから声がするのかが分からない。ため息をついたアーサーは、視界に入り次第斬り捨てようと警戒を強めた。

 

「しかし、残念ながら目的は足止めではありません」

 

「……」

 

 依然として発信源が分からない声が先程の続きを語りだす。姿が見えない以上、どうしょうもなくまた勝手に目的を喋ってくれるならば都合がいいと、アーサーは黙って聞くことにした。

 

「我々の目的は貴方です。アーサー=ペンドラゴン様」

 

 アーサーは口を開かない。

 

「あの異常な身体能力。剣術。そして、以前確認された巨大な光の斬撃。実に興味深いです」

 

 以前というのはアーサーがなんちゃってエクスカリバーを両親に披露したときのことだろう。つまり、あのときの視線は天の知恵研究会のものであり、間接的にではあるがアーサーが引きこもる原因の一つが天の知恵研究会であるということだ。アーサーから殺気が放たれる。完全に八つ当たりではあるが、アーサーはイライラしながら続きを促した。

 

「それで?」

 

「こちら側に来ませんか? 貴方様ほどのお方であればそれなりの待遇が――」

 

「断る」

 

 即答。一瞬の逡巡もなく明確な拒絶の意思を示した。アーサーからすれば、天の知恵研究会とは自身の平和な日常を乱し、更に先程発覚したことであるが引きこもりの原因の一つである。天の知恵研究会がルミア=ティンジェルを狙う限り、アーサーの日常は乱され続ける。故に、アーサーと天の知恵研究会は完全に敵である。

 さらに言えば、アーサーは怠惰であっても外道ではない。迷子を見つければ、手を引いてあげようかなと思う程度の一般的な正義感を持ち合わせている。あちらに付く意味もなければ理由もない。

 

(待て、こいつ今俺が目的って言ったな? じゃあ、ティンジェルから嫌な予感がしたのは何だったんだ? それに、俺には帝国からの監視があったはずなんだが……)

 

 システィーナとグレンはアーサーのことを口外してはいないが、言わなければ分からないというものではない。事件の事をよく調べればわかることだ。事実、帝国は既にアーサーのことに気が付いており、その上で泳がせている。

 アーサーの力は極めて脅威であり、下手に手を出せば帝国が甚大な被害を被る。事件の解決に尽力した結果、セリカ=アルフォネアの大丈夫だという証言。また、セリカ本人が勝てるかどうかわからない、というほどの実力。これらを考慮して、現在は関係を悪化させない程度の遠距離からの監視に落ち着いている。

 そして、監視員にはいざ何かあっても対処できるであろうエリートが付いている。彼らはアーサーを監視しているのだから、こうして敵と接触などということがあれば飛んでくるはずなのだが、それがこない。

 

(どうやって監視の眼を外した? いや、目を逸らさせたのか……)

 

「ふふふ……。元王女様には目くらましになっていただきました」

 

 そんなアーサーの考えを見透かすように笑う声。前回はルミアを狙った事件だった。今回はそれを利用した。ルミアの殺害も目的の一つであるが、本命はアーサーとの接触。ルミアを狙った事件を起こし、それに注意をひきつけておいて、本命をおびき出す。

 

(そこまでして、俺に一体どんなようがあるんだ? どうも殺すとかそういう感じではなさそうだし……)

 

「それではそろそろ退散させていただきます」

 

「は? お、おい、ちょまっ――」

 

 アーサーが本命であると言ったにもかかわらず、何もせずサッと消えた声。あまりにあっさりといなくなった事実に呆然と立ち尽くすアーサー。ご丁寧に人払いの結界も解除されている。

 

「何がしたかったんだよ……」

 

 まさか、さっきの勧誘が本題だったのかと考えて首を振る。そんなくだらない事ではないだろうと思いながら。先程の声が勧誘の時だけやたら真剣だったりしたが、気のせいったら気のせいなのだ。外道の秘密結社が自分ごときに必死になるはずがない、そうであってくれ。遠い目で現実逃避をしていたアーサーは、ふと街が騒がしいことに気が付いた。

 

「くそっ、元王女様はまだ見つからないのか!」

 

「あの魔術講師の腕ではそれほど遠くには行けないはずだ! 探せッ!」

 

 何やら物騒なことを言いながら街を駆けまわる王室親衛隊らしき者達。殺気だっているうえに妙に焦っている。

 

「……ティンジェルは目くらましじゃなかったのか?」

 

 王室親衛隊とは文字通り王族、女王陛下を守る部隊だ。それがルミアを血眼になって探しているということは、女王陛下の身の安全にルミアが関わっているということだ。目くらましと言いながら、帝国のトップの身の安全を脅かす盛大な事件が起きている。

 

「やっぱ、俺が本命って嘘だろ……」

 

 自身の平穏が次々と脅かされ、ついでに昼食を食いそびれたことに気が付いたアーサーは、それはもう大きなため息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 




Qこの敵誰? 
A適当に考えました。今後登場することは無いでしょう。

Qなんで真剣に勧誘してきたの? 
Aアーサーは得体の知れない強い奴。人間性だけでも確認しておきたかった。

次回からまた原作とほぼ同じになりそう……。

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