騎士王転生 え、違うの?   作:プロトセイバー

7 / 8
嫌な予感がする

 魔術競技祭。それは、このアルザーノ帝国魔術学院における一大イベントである。学年別に年三回に分けて開催され、各クラスが競技に参加する生徒を選出し、学院生同士が魔術の技を競い合う。公の場での魔術の使用が禁止されている帝国では、魔術の競い合いが認められる競技祭観戦は人気のある娯楽となっており、魔術の腕を披露するために参加したがる生徒も多い。

 また、この競技祭は女王陛下が見に来るため、自身の力量に自信があるもの達がこぞって参加する。更に、優勝したクラスの魔術講師には報奨金が、生徒達は名誉が得られるためどのクラスも勝ちに来る。

 そして、勝つためにどのクラスも成績上位者を使いまわす。当然のことだ。成績が悪いものを参加させるくらいなら、多少消耗するとはいえ成績上位者を使いまわした方が勝率が高い。もちろん、そうとは限らないし昔は生徒全員で参加したりしていたらしいのだが、今では成績上位者の使いまわしがこの学院での常識であり恒例の事となっている。

 つまり――フィーベルやティンジェルが皆で頑張ろうと言っても受け入れられない、というわけだ。

 

「ねぇ、皆。せっかくグレン先生が今回の競技祭は「お前達の好きにしろ」って言ってくれたんだし、思い切って皆で頑張ってみない? ほら、去年、競技祭に参加できなかった人には絶好の機会だよ?」

 

 ティンジェルがそう言っても誰も反応しない。それはそうだ。負けるのを分かっていて、わざわざ恥をさらそうなどという変わった人間はそうそういない。そして、その気遣いが成績上位者達に気まずい雰囲気を作り、結果的に誰も返事をしない現状が出来上がっていた。俺は去年同様にサボるつもりだが。

 

「……無駄だよ、二人とも」

 

 眼鏡をクイッとしながら立ち上がったのは、俺の中ではツンデレやら苦労人というイメージが強いギイブルだ。実際には、俺→フィーベル→ギイブルとクラス三位の成績優秀者であるが。

 

「皆、気後れしてるんだよ。そりゃそうさ。他のクラスは例年通り、クラスの成績上位人が出場してくるに決まってるんだ。最初から負けると分かっている戦いは誰だってしたくない……そうだろ?」

 

「……でも、せっかくの機会なんだし」

 

 反論しようとするフィーベルを無視して、ギイブルが続ける。

 

「おまけに今回、僕達二年次生の魔術競技祭には、あの女王陛下が賓客として御尊来になるんだ。皆、陛下の前で無様をさらしたくないのさ。……それに、このクラスの最優秀者が出場しようとしていないせいで余計に皆手を上げづらくなっている」

 

「おい、それはおかしいだろ。人のせいにするのはよくない。人の目を気にして手をあげることすらできない方が悪い。文句があるなら、俺みたいに堂々としてから言ってくれ」

 

 俺は誰が見ていようが、態度を改めるつもりはない。そもそも、あの競技祭は言うなれば前世の体育祭だ。前世で似たようなものを体験している身としては、退屈で仕方がない。それに、ティンジェルから嫌な予感がするのが気がかりだ。俺の直感が言っているのだから間違いない。

 そんな事情があり、俺は今回の競技祭に参加するつもりはない……のだが。

 

「貴方は堂々とし過ぎよ! 普段サボっている分、こういう場で成果を示すべきよッ!」

 

 フィーベルがそう簡単に折れるとは思わない。確かに、俺は普段サボっている。テストで全てが帳消しになるとは思っていない。誰も言ってこないから気にしなかっただけだ。だが、こう言われると反論できない。

 が、しかし今回に限ってはそれでは困る。成績上位者は使いまわされる為、参加してしまうと時間が取れなくなる。どうにかしなければ……。

 

「あー、えっとだなぁ……」

 

 うまい言い訳が思いつかず、頭をひねっていた時、扉が突如開け放たれた。

 

「話は聞いたッ! ここは俺に任せろ、このグレン=レーダス大先生様になッ!」

 

 バサリとコートが翻る。無意味に。

 

「……ややこしいのが来た」

 

 フィーベルが頭を抱えたくなる気持ちも分かる。正直、俺もそれには同意する。グレン先生のあの目。絶対にロクでもないことを考えている。若干やつれているのを見る限り、金欠なのだろう。

 グレン先生、金欠、魔術競技祭。これらから導き出される答えは――報奨金。

 

「喧嘩はやめるんだ、お前達。争うは何も生まない……何よりも――俺達は、優勝という一つの目標を目指して共に戦う仲間じゃないか」

 

 ……予想的中。どう考えても報奨金狙いだ。流石ロクでなし、やることが違う。……俺も同類か。

 

「ったく何やってんだ、やる気あんのか? 他のクラスの連中はとっくに種目を決めて、来週の競技祭に向けて特訓してんだぞ? やれやれ、意識の差が知れるぜ」

 

 他のクラスの様子を見ていたのか。まさか、金のためとはいえそこまで本気とは思わなかった。見直し――。

 

「やる気なかったのは先生でしょ!?」

 

 フィーベルが突っ込んだ。もはや定番の光景ではあるが、今のグレン先生のセリフになにかおかしなところでもあったのだろうか。

 

「大体、先生ったら先日、私が競技祭について聞いた時、「お前らの好きにしろ」って言ってたじゃないですか! なんで今頃になってそんなこと言うんですか!?」

 

「……え?」

 

 おい、なんだその何のことだと言わんばかりの反応は。もしかして、フィーベルの話を流してそれを忘れてたとか……?

 

「……俺、そんなこと言ったっけ? いや、マジで覚えがないんですけど」

 

「あぁ……やっぱり面倒臭がって、人の話、全っ然、聞いてなかったんですね……」

 

 前言撤回。やはりグレン先生はロクでなしだった。そうだよな、人間ってそんなに簡単に変わらないよな……。

 

「まぁ、んなことはどうでもいいとして、だ。お前らに任せて決まらない以上、この俺が超カリスマ魔術講師的英断力を駆使し、お前らが出場する種目を決めてやる。言っておくが、遊びはナシだ。全力で勝ちに行くぞ」

 

 妙にやる気になってるってことは、それだけ生活が厳しいってことだよなぁ……。ギャンブルで磨ったか?

 

「おい、白猫。競技種目のリストをよこせ。ルミア、悪いが今から俺が言う名前と競技名を順に黒板へ書いていってくれ」

 

「人を猫扱いするなって言ってるのに……もう!」

 

「はい、わかりました、先生」

 

 フィーベルは文句を言いながら、ティンジェルは文句の一つも言わずにグレン先生の言う通りにしている。なんだかんだいってあの三人って仲が良いんだよな。特に、ティンジェルなんてグレン先生の忠犬みたいだ。

 

「……よし、大体わかった」

 

 資料を見ながら悩んでいたグレン先生が顔を上げる。

 

「心して聞けよ、お前ら。まず一番配点が高い『決闘戦』――これは白猫、ギイブル、そしてアーサー、お前ら三人がでろ。えーと、次――」

 

 次々と競技に出場する者を決めていくグレン先生。だが、クラスの生徒達は首を傾げるばかりだ。それもそのはず。グレン先生は誰も使いまわしていない。つまり、クラスの全員がなにかしらの競技に出場することになる。

 

「――で、最後、『変身』はリンに頼むか。よし、これで出場枠が全部埋まったな」

 

 グレン先生が本気で勝ちに行くなら、俺とフィーベルを使いまわすと思っていたのだが、一体どうしたのだろう。あの真剣な顔でふざけているとは思えない。なら、本当にこれが最善だと思っているのか、それとも使いまわしが出来ることを知らないのか。なんにせよ好都合ではある。

 

「何か質問は?」

 

 その言葉に、どうして自分が選ばれたのか分からない生徒が次々と手を上げる。そして、グレン先生は律儀にもそれに答えていく。なにが得意なのか、なにが出来るのか、それを一人一人答えていく。それは、生徒達のことをよく見ていないと分からないことだ。

 

「……やっぱ、ロクでなしに見えるだけでロクでなしとは程遠い人だよなぁ。――先生、俺の場合は?」

 

「あ? そりゃ、お前、最優なんだから当たり前だろ」

 

 その通りです。知ってた。聞いてみたかっただけだ。

 

「――さて、他に質問は?」

 

 これは決まり、だな。これで俺が使いまわされることは無くなった。嫌な予感はするが、時間が取れるならある程度は対処可能だ。使いまわされることを回避した以上、俺が起きている意味もない……。

 

「寝るか」

 

 あとはいつも通り、眠って時間が過ぎるのを待つとしよう。

 

 

 

 

 

 あの後、ひと悶着あったようだが結果的に編成は変わらなかった。皆が出られると知って、他のクラスから冷たい視線を向けられながらも、クラスの連中は少しでもいい結果を出そうとして、グレン先生のアドバイスを受け猛特訓した。

 他のクラスと練習場所の取り合いになったり、クラスの勝ち負けにグレン先生の給料がかけられることになったり、色々あったが皆がそれぞれ魔術競技祭に向けての準備を進めてきた。俺はもちろん寝ていたが。

 

 そして、現在は魔術競技祭の真っただ中――。

 

『ゴォオオオル――ッ!? なんとぉおおお!? 「飛行競争」は二組が三位! あの二組が三位だぁ――ッ! 誰が、誰がこの結果を予想したァアアア――ッ!?』

 

 まさかの快進撃を見せていた。当初、クラスの全員を参加させることになった二組の負けを誰もが予想した。それがどうしたことか。他の成績優秀者達が出場する中で、三位。

 

『トップ争いの一角だった四組が最後の最後で抜かれる、大どんでん返し――ッ!」

 

 案外勝てるかもしれないな、今回の競技祭。複数の競技に参加する者は、余力を残しておかなければ次の競技で負けてしまう。故に、本気を出すことが出来ない。一方、二組は誰一人として重複していない。それはつまり、全力を出し切ることが出来るということだ。勝てないことはないだろう。

 そして、最後の競技。魔法での模擬戦だが相手は多少なりとも消耗しており、こちらは万全の状態だ。その上、参加するのは学年でもトップクラスのフィーベル、ギイブル、そしてついでに俺だ。

 

 本当に勝てるかもしれない。――俺の直感の事を除けば、だが。前世では無縁だった中々楽しい行事だ。大事にならなければいいんだが……いつもと直感の感覚が違うんだよなぁ……。

 

 

 

 




原作からあまり変わっていないような……。
主人公目立たせるの難しい。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。