騎士王転生 え、違うの?   作:プロトセイバー

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お気に入り数が2000を超えました。ありがとうございます!
高評価と低評価がかなり分かれているのに、どうしてここまで伸びたんでしょうか。
ともあれ、出来る限り頑張らせていただきます。



俺は俺の味方です

 一触即発。グレン達と対峙する敵が、背後に浮かぶ五本の剣と共に襲い掛かろうとしたその瞬間。空気を切り裂くような鋭い音と共に、なにかが建物に空いた穴から敵へと突っ込み轟音を上げた。

 凄まじい勢いで来たそれによって巻き起こされた土埃。一体なにが、とグレン達土埃を注視していると、金属音が三回。そして、唐突に土埃を吹き飛ばしながらなにかが吹き飛んできた。

 

「――うおッ!?」

 

「きゃッ――」

 

 反射的に隣にいたシスティーナの頭を押して頭を下げたグレンの頭上を飛んでいくなにか。一直線に吹っ飛んでいくそれは、壁に亀裂を入れながら半ばめり込む形でようやく停止した。

 

「な、なんだ……?」

 

 グレンが唖然としながらも振り返ってみれば、そこにいたのは血反吐を吐きながら倒れている敵の姿だった。先程まで、確かにグレン達の脅威として存在した敵だったのだ。それを確認したグレンは即座に土埃に向き直り臨戦態勢を取った。

 その敵は決して弱くはなかった。むしろ、十分強者と呼ばれてしかるべき実力を持っていた。つまり、あの土埃の中にいる存在はそれを歯牙にもかけず一蹴した存在であるということだ。思わず顔が引き攣るグレン。

 

「先生? 一体どうし――」

 

「下がってろ、白猫。こいつはかなりヤバイ」

 

 どう考えても相手は次元が違う。敵である可能性もあるが、グレンは敵を倒したのだから味方であってくれ、と祈らずにはいられなかった。

 思わず拳を握る手に力が入る中、土埃が風に運ばれよく見えるようになったそこに立っていたのは、アルザーノ帝国魔術学院の制服を着た男。

 

「お前ッ、アーサーか!?」

 

「……え?」

 

 グレンはその人物を知っていた。皆がグレンに失望していく中で、唯一態度が全く変わらなかった問題児だからだ。授業中は常に爆睡。そのくせテストは全て満点。それはグレンが真面目に授業を始めてからも変わらず。何度か話したことがあるグレンの印象では、やる気のない天才という認識だったその人物は――。

 

「あれ? グレン先生はともかくフィーベル? なんでこんなところに」

 

 アーサー=ペンドラゴン。学内で最優のロクでなしと名高い問題児だ。ホッと息を吐きながら警戒を解くグレン達に向って歩き始めたアーサーは、グレンが連れている人物を見て首を傾げた。

 

「貴方こそなんでここにいるのよッ!?」

 

 おまけ扱いされたシスティーナは思わず立ち上がって叫んだ。

 

「いやな予感がしたから、家からすっ飛んできた」

 

 それに対し、まるで散歩しにきたとでもいうかの様に軽い口調で話すアーサーに、グレンは先程までの戦闘を思い出し深いため息を吐いた。あぁ、文字通りすっ飛んできたのか……と。

 

「ん……? なんでため息吐いてるんですか?」

 

「さっき、俺は固有魔術を使ってた。名前は【愚者の世界】。簡単にいえば、俺を中心として一定範囲内の魔術起動を封殺できる魔術だ」

 

 グレンが投げやり気味に言えば、アーサーはしまったと言わんばかりに頭をかいた。つまり、アーサーは身体強化系の魔術以外を一切使わずにあの速度で移動していたのだ。さらに言えば、武器をなにも持っていないことから、敵の背後に浮かんでいた剣を全て素手で叩き割ったことになる。綺麗に割られた剣が落ちているのがその証拠だ。

 

「あー……一応言っておきますけど、人間ですからね?」

 

「別にそういうことが言いたいわけじゃねーんだ。ただ、知り合いを思い出してな……」

 

 グレンのかつての同僚に、アーサーと同じく【フィジカル・ブースト】によって強化された純粋な身体能力で戦う者がいた。グレンの【愚者の世界】はほとんど意味をなさず、近接戦闘の実力もグレンの上をいく同僚を思い出し、思わず遠い目をするグレン。

 

「……取り合えず、情報交換しません?」

 

 そういわれ、グレンはハッと我に返るのだった。

 

 

 

 

 

 

「アーサーからの情報とセリカに確認したことで確信が持てた。敵は転送法陣を使って脱出する気だ。だから、ルミアをさらった目的がなんであれ、転送塔に向かおうと思う。いくらか辻褄が合わないことがあるが、俺達がこうしていても何も解決しないのも事実だ」

 

 それに賛成とばかりに頷くアーサーとシスティーナ。

 

「じゃあ早くいきましょう。……ここからだと学院の上をすっ飛んで行った方が速そうですね」

 

 言うが早いかアーサーはグレンとシスティーナの腕をガシッと掴んだ。その言葉と行動でこれから起こることを悟ったグレンとシスティーナの顔が、見る見るうちに蒼白へと変化する。

 

「舌を噛まないように気を付けてくださいね」

 

 何でもないことの様に言っているアーサーにとっては、立体機動も普通に歩くことも大差ないのだが、それは彼が逸般人であるからだ。普通の人間は、そもそもそんなことは出来ないし、普通に恐怖を感じる。

 

「お、オイッ! ちょ、待ッ――」

 

「わ、私は歩いて行くから――」

 

 二人の抗議を無視し、アーサーは跳躍する。

 

「ふ、ふっざけんなッぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「キャアァァァァ!!」

 

 愉快な悲鳴を奏でながら、一人の逸般人と二人の人間は学院の上を吹っ飛んでいく。文字通りに。

 

 

 

 

 

 

「ゼェ……ゼェ……。もう、お前に移動は任せないからな……」

 

「まだ落ちる感覚が残ってるみたい……」

 

 グレンとシスティーナは先程までの恐怖を思い出して文句を垂れる。そう、あれはまるで人間ジェットコースターだ。世間一般では、あんなことが出来る者を人間とは言わない。

 

「ま、早く着いたんだし良いじゃないですか。にしても、数が多いな。よくそろえたもんだ」

 

 そいってアーサーが視線を向けた先には、大量のゴーレムが転送塔への道を塞いでいた。かなり強固に作られているようで、一体一体壊していてはいつまでかかるか分からない。

 

「グレン先生。ここは俺が引き受けます」

 

 グレンは何かを言おうとして、先程までの非常識の数々を思い出して止めた。言っても止まらないし、止めなくても全く問題ないと考えたのだ。

 

「……分かった、ここは任せる。白猫は……」

 

 システィーナは顔を悔し気に歪ませた。

 

「私もここに残ります。私なんかが行っても、グレン先生の足手まといになりますから」

 

 グレンは一つ頷いてから拳を突き出した。

 

「アーサーがいる以上大丈夫だとは思うが、無茶はするなよ?」

 

 アーサーも軽くそれに応じる。

 

「先生こそ」

 

 システィーナも小さく拳を突き出す。

 

「先生もお気をつけて」

 

 三人で拳をぶつけ合う。この場にアーサーが居なければ、実に感動的な場面だっただろう。しかし、残念なことにアーサーはここにいるし、あの程度のゴーレムに苦戦するアーサーではない。

 

「援護任せた――ッ!」

 

 そう言い残して飛び出したグレン。その歩みはまっすぐ塔の入口へ。ゴーレムの存在を一切気にしていない。そんなグレンに、隙ありとばかりに殺到するゴーレム。だが、援護を任されたアーサーがそれを見逃すはずがない。次の瞬間何の前触れもなく、逆再生の様に吹っ飛んで行くゴーレム達。アーサーが全て蹴飛ばしたのだ。

 そのまるで見えない神速で動き回るアーサーに、グレンは乾いた笑みをこぼしながらも、塔の入口まで一直線に作られた道を駆け抜け塔へと侵入を果たした。

 ゴーレムがグレンに近寄れないように援護したアーサーはそれを見届けた後、塔の入口の前に立ち塞がった。

 

「さぁ、木偶の坊ども。よくも俺の日常を壊そうとしてくれたな? ――八つ当たりくらいさせろ」

 

 背筋が凍るような笑みを浮かべたアーサーは、足に力を込め一拍後、弾丸の如く飛び出した。その衝撃で発生した衝撃波でゴーレムを蹴散らしながら、楽し気に暴れまわるアーサー。ゴーレム達を、手刀で砕き、蹴り飛ばし、踏みつぶす。

 それを離れたところから見ていたシスティーナは、もはや援護どころではなかった。一体何度常識を砕かれればいいのか。あれは、断じて魔術師の戦い方ではない。人間の戦い方かどうかすら怪しいものだ。四方八方から殺到するゴーレムを意に介さず、ちぎっては投げちぎっては投げ。大昔の魔王ならあんなことが出来たのかしら、と乾いた笑い声を上げるシスティーナなのであった。

 

 

 

 

 

 

 あのアルザーノ帝国魔術学院を占拠した魔術師達が引き起こした事件は、無事グレン先生によって解決された。あの後、上手くティンジェルを救い出せたらしく、先生を伴って礼を言いに来た。その後、なぜか彼女の正体を告げられたり、国の上層部から口止めされ、と色々あった。

 ティンジェルが元王女だったのには驚いたが、それ以上に俺のことがグレン先生とフィーベルの中で最重要機密になったことの方が驚きだ。まぁ、俺のことを無暗に話さないというのは大いに同意することろではあるが。そもそも目立ちたくないし、俺みたいな化け物を量産されても困る。出来ないとは思うが。

 そして、ついでにとグレン先生は俺を呼び出した。なんで俺だけ、と思っていたのだがその部屋に入って思わず納得した。学院長、申し訳なさそうにしているグレン先生、そして――。

 

「来たな。私は――」

 

「必要ないですよ。セリカ=アルフォネア教授。……なるほど、内容は俺が敵なのか味方なのかの確認ってところですか?」

 

 第七階梯であり、大陸屈指の魔術師セリカ=アルフォネア。

 グレン先生がアルフォネア教授まで連れてきて俺にすることと言えば、そのくらいしか思いつかない。……いや、敵と見なされているのであれば拘束、または排除ということもありえるか。あぁ、それに……いやいや、事が起こる前から後ろ向きに考えるのは俺の悪い癖だな。きっと、大丈夫だ。モルモットにされるなんてことは無いはずだ。

 

「その通りだ。グレンが受け持つ生徒の中に敵がいるとは思いたくないが、グレンから聞いた話だととてもただの生徒には思えなくてな。念のための確認だ」

 

 なるほど。確かに、あれほどの動きが出来る俺はさぞかし異常に見えるだろう。愛弟子の付近に敵となる人物がいるかもしれないと分かれば、アルフォネア教授も確かめずにはいられなかったというわけか。

 

「そういうことならハッキリと明言しておきましょう。俺は俺の味方です」

 

「ほう? どういうことだ?」

 

「俺は今の生活が気に入っています。当たり前のように学校に行き、フィーベルに文句をつけられながら適当にサボって家に帰る。そういう普通の生活をグレン先生が脅かさない限り、俺はグレン先生に味方しますよ」

 

 俺は正義の味方じゃない。知らないところで知らない人間が死んでも正直あまり悲しくなったりはしない。前世でもニュースで誰々が亡くなりました、と言われても残念に思うくらいだった。赤の他人に危険が迫っていても、それをどうにかしようとは思わない。それと同じだ。

 だが、流石にクラスメイトが死んだとあれば少しは悲しむだろう。それに、人間の交友関係というのは案外脆いものだ。誰か一人が欠けるだけで崩れることもある。それは、俺にとって望ましくないことだ。

 

「……なるほど。自分に関係ある者は守るし、それに手を出すなら敵である、と。――そういうことなら大丈夫だな。わざわざ呼び出してすまなかった。もう帰っても大丈夫だぞ」

 

 最初の真剣な顔はどこへ行ったのか。満足そうな顔で頷くアルフォネア教授。

 

「……では、失礼しました」

 

 ……正直死ぬほど焦った。アルフォネア教授に敵認定されなくて良かったぁ。あの人には戦って勝てる確信が持てないし、あの人と争うことになったら帝国を出ないといけないところだった。思ったことをそのまま答えてしまったが、見逃されて本当に良かった。

 

 今回は軽い気持ちで首を突っ込んだけど、次からは姿でも隠そうかなぁ……。毎回誰かから疑われるのはたまったものじゃない。プロトセイバーが身に着けてたフード付きの服とか良さげだよなぁ……。

 なんにせよ俺の平和な日常を守れてよかった。これで明日からもロクでなしが出来る。うん、想定外のことは幾つか起きたが概ね満足できる結果だったな。

 さぁ、帰ったら働いた分も眠るぞ!

 

 

 




書いてみたのが気に入らなかったので、何度か書き直しをしていたら遅くなりました。すいません。
 五回目の書き直しでようやく妥協できるものがかけました。五回書き直してこの程度かよ、と思うかもしれませんが初心者が書いているということで、多めに見てくだされば幸いです。

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