騎士王転生 え、違うの? 作:プロトセイバー
悲報、ダメ講師覚醒。
今まで、散々ロクでなしを貫いてきたグレン先生。なぜか、今朝フィーベルに頭を下げてからまともな授業を始めた。
いや、フィーベルに頭を下げたのは素直に尊敬しよう。俺なら真似できない。だとして、授業をするのは我慢ならない。俺にとって快適な自習がなくなるのは許せない。正直言って、グレン先生の授業は親から教えてもらったことが多々存在する。
「と、いうわけでグレン先生。寝てもいいですか?」
「あぁ、構わん構わん。既に知ってること習っても退屈だろ?」
言ってみたらあっさり許可を貰えた。流石グレン先生。よく同類のことを分かっていらっしゃる。一生ついていきます。
と、こんな感じで俺が寝ている間教室は満席。今では立ち見の生徒がいるほどだ。みんな、前までグレン先生に冷たい目を向けてたくせに、酷い掌返しだ。お前もだろって? それはそれ、これはこれだ。
あ、そういえば今度の休日は学校あるんだった。ヒューイなんとか先生が居なくなって出来なかった分の補習だったか。。面倒だし、サボろうかなぁ。なんか、未だにクラスの連中がよそよそしいし。そんなにやらかしたかな? あぁ、気まずいことこの上ない。誰か助けて。
件の日、結局寝坊した。いや、夜中まで『
とかなんとか、急いで出発の準備を整えながら考えていると、何だか嫌な予感が。そう、直感である。なぜかこの体は幾つかセイバーのスキルを持っているようで、水面を走れたり馬に上手く乗れたり直感が働いたり、便利である。宝具? 対魔力? 何それ美味しいの? マジで俺を転生させた奴は何がしたいんだか。
ここでなにが起こったのか、と推察しても意味がないので学院に向かうことに。学院に向おうとして直感が働いた以上、行けば巻き込まれるのは確実だが逃げるのは性に合わない。というか、何者かに身に付けさせられたといっても過言ではないこの力を有効活用しないと、何だかしてやられたみたいで腹立つ。八割がた自分の勘違いだろって? ハハッ、ボクナンノコトカワカンナーイ。
念のために、周囲を警戒しながら早足に学院への道を駆ける。家から学院までは割と近いので、割とすぐに着くのだが、その中間地点。丁度その辺りに人払いの結界が張られていた。大胆だな。こんなところで結界張ってたらすぐバレるだろうに。準備が出来るまでの時間稼ぎか、それとも相当腕に自信があるのか。
これはいよいよ学院でなにかあったらしい。それも、誰かしらの意図的に引き起こされたなにかだ。だが、そもそもどうやって忍び込んだのか、と思わなくもないが恐らくスパイでもいたのだろう。つい最近、都合よく失踪した人間がいたばかりだしな。あの人なら、時間をかければ結界の掌握、改ざん程度は出来るだろう。
そこまで考えたところで一度立ち止まって辺りを見渡すと、前方建物の影から俺の進行を遮るように出てくる男の姿が。まぁ、結界張ってるんだからそりゃいるよな。
「悪いが、ここから先は通行止めだ。今帰るならば見逃そう」
「ハッ。何言ってんだか。見逃すとか言って、俺は反対だったんだよアピール? ……そこどけよ。用事がある」
というか、絶対見逃す気ないだろ。殺気を隠せ、殺気を。絶対背中から殺るだろ、こいつ。
「そうか。残念だ。ならば、死んでもらおう」
そういって掌をこちらに向ける男。ま、普通に考えて一人で待ち構えているということは、それなりに強い奴ということ。が、所詮それだけ。何の魔術を発動させる気なのかは知らないが、その前に気絶させる。
「《紅蓮の――」
「《光よ》」
相手がもったいぶってる間に、一節詠唱で素早く【フラッシュ・ライト】を唱える。
「クッ!?」
たまらず目を覆った相手の後ろに縮地で回り込み、首に手刀を落とせば、ハイおしまい。
「ガッ――」
おっと、若干外されたか。反射神経はなかなか、だな。取り合えず、もう一度手刀を振り下ろして今度こそ完全に気絶させる。
「目が見えない状態で、高速移動する相手に若干反応するとかかなりの手練れだな。これは本当にまずいかもしれない」
ただ、残念なことに俺のスペックは化け物だからな。一般的に見て手練れ程度に避けられるようなやわな攻撃はしない。手加減をし過ぎることはあるが。
そもそも、あの場で一言で発動できない魔術を使おうとした時点で、相手が近接戦闘をしてくることを予想していなかったんだろう。学生だから、と甘く見られた可能性もあるが。
「取り合えず、縛ってそこら辺にほっとくか。そのうち誰かが気づくだろう」
懐を漁りあるものを抜き取ってから、拘束魔術をかけてそこらへんに縛って放り投げておく。ついでに人払いの結界を解除しておく。
「さぁて、急がないとな」
目指すは、アルザーノ帝国魔術学院。
あの後、特に障害もなく無事に正門までたどり着いたのだが、そこには既に手遅れになった警備員が倒れていた。
「【ライトニング・ピアス】かな。急所に一発。やっぱり手練れか。で、結界も改ざんされてるし。なるほど、だからあれを持ってたのか」
さっき倒した魔術師から奪い、学院に入るために使ったものを思い出しながら、現状の不味さに思わず舌打ちした。もしかしたら、生徒も何人か犠牲になってるかもしれない。
「敵は学院の結界を掌握。入ることも出ることも出来ない。となると、出入り口は転送法陣のみ。だが、ここまで用意周到なら敵がそれを確保しているはずだ。それはいい。だが、目的はなんだ」
学院の崩壊? いや、なら適当に爆破させればいいだけだ。まだ残っているということは、そういうことじゃないのだろう。帝国への宣戦布告? 地味すぎる。これもなし。学院の地下迷宮? あれが攻略できないことくらいは知っているだろう。違うはずだ。
最悪を考えろ。今学院にいるのは俺のクラスの奴らだけだ。それらを踏まえて考えると、一番大事なのはなんだ。命だ。施設は直せる。だが、命となるとそうはいかない。
「まさか、生徒を狙って? だが、それになんの意味がある。……いや、重要なのはそこじゃない。仮に生徒を狙ったのだとしたら、殺人ではなく誘拐だ。殺すだけなら街でこっそりやればいいからな。脱出方法は……わざわざ足が付かないように学院を選んだのであれば、転送法陣でどこかに飛んで、その後爆破すれば追跡はできない。結界を改ざんできるのなら、転送法陣の改ざんくらい容易いだろうしな」
思った以上に厄介だ。誰が狙いなのかも分からない。たが、取り合えず転送法陣を抑えたほうがいいのは確かだ。もっとも、人質を取られてしまっていればどうしようもないが。だからと言って、じっとしているわけにもいかない。
「善は急げ、というしな。先に出口を制圧……」
その時、学院の一角が閃光とともに吹き飛んだ。
「あそこで戦闘が起きてる。で、あの規模だと軍用は確実だろう。生徒に軍用魔術は教えられない。つまり、グレン先生がいるな。さて、グレン先生は残念ながらそこまで強くなかったはずだ。なら――」
援護に向かうしかないだろう。どのみち、情報は必要になる。
「入り口からじゃ間に合わない。折角壁が吹き飛んだんだ。そこから行くか」
警備員を脇に横たわらせ、俺は駆けだした。
警備員さんは都合上、お亡くなりになりました。申し訳ありません。