騎士王転生 え、違うの? 作:プロトセイバー
「なぁ、ギイブル。どう思うよ、これ」
「なぜ僕に聞く。最悪に決まっているだろう。まさか、君に匹敵するロクでなしが存在するとは」
「だよな、俺も驚いた。授業が楽でいいね」
「はぁ……」
俺の隣で、ため息を吐くこの少年。名をギイブルという。フルネームは忘れた。興味ないし。
俺達が何について話し合っていたのか、それはこの授業そのもの及びそれを受け持つ講師だ。前任のヒューイなんとか先生がいなくなり、代わりの非常勤講師が来ることになったのだが、これがもうヒドイ。
いやね、ロクでなしである俺が人のことを言うのはどうかと思うが、それを加味してもヒドイと言わざるを得ない。
授業は全て自習。そして、講師本人は爆睡している。最初に、一度だけ授業をしたことがあったのだが、あまりに適当で思わず笑ってしまうほどだ。それ以来、一度も授業をする様子もなし。
講師泣かせと言われるフィーベルの抗議をものともせず、俺メンドクサイデスという態度を一切崩さない。まさに、ロクでなしである。
今日も、いつもと同じく自習を宣言して顔を突っ伏しているグレン先生。お? またフィーベルと口論を始めた。もはや名物だな。いいぞ、やれー。……冗談だ。
「貴方っていう人は――ッ!」
あれ、何か不穏な空気がするな。一体何が…….
「なぁ、ギイブル。俺には、フィーベルが講師に決闘を申し込んだように見えるんだが」
「君は一体何を見ていたんだ? 見ればわかるだろう」
「その通りだな。だが、幻覚だという可能性もあるだろう?」
「はぁ……」
何だか、最近ギイブルが疲れているように見えるな。前は、真面目君というかがり勉というか、そんな感じだったのに今では立派な苦労人だ。一体何があったというのだッ!?
それはさておき、ダメ講師グレン先生に手袋を投げつけ決闘を申し込んだフィーベル。いつもなら諦めて終わりなのに、今日は気合入ってるな。そして、あろうことかグレン先生はそれを受諾してしまった。魔術師同士の決闘であるため、勝った方は何でも要求出来たはずなのだが、二人とも要求がショボイ。
フィーベルは真面目に授業をすることを、グレン先生は俺に説教するなと、それぞれが要求した。うん、どうしてそうなった。まるで子供の喧嘩だ。
「面白くなってきたじゃないか」
期待してるところ悪いんだがな、ギイブル。きっとロクな結果にはならんぞ、これ。グレン先生は、恐らく魔術がそれほど得意じゃないだろう。結構鍛えられているのを見る限り、近接戦闘で戦うタイプの人だ。それも、拳で戦う、な。
ま、本領を発揮できない状態でどこまでやれるか、見ものではあるな。
結果から言おう。グレン先生は大敗した。まさかの一節詠唱すら出来ない、第三階梯クラスの魔術師だったらしい。きっと、才能ないから近接戦闘で頑張ったんだな。
で、だ。負けたグレン先生はフィーベルの要求を飲まなければならないのだが、あろうことかグレン先生はそれをとんでもない理由で突っぱねた。曰く、だって、俺、魔術師じゃねーし、とのことである。いや、もうね、ここまでくると尊敬する。俺ならメンタルが耐えられないな。
そして、そのまま逃亡。次の日現れたときには、いつも通りの自習が始まった。やがて、クラスの誰もグレン先生に文句を言わないし、話しかけることもなくなった。それぞれが自由に自習し、勝手にやるようになった。元々真面目君ばっかりが集まっている学院だ。何もしないで遊んでいる奴など、俺くらいなものだ。それに対してグレン先生も何も言わないのも、それに拍車をかけていた。いつしか、それが暗黙の了解にすらなっていた。
今日もいつものように授業が始まった。俺も、今日も今日とて眠りにつく。だって、やることないし暇だから。自習? 寝ることが自習だから問題ない。そう、睡眠学習ってやつだ。意味は違うが、文字だけみるとそれっぽく見えるから不思議。
ところが、魔術がどうだのと言い合いが聞こえてきて目が覚めてしまった。一体誰と誰が言い争ってるんだ、まったく。
「ふざけないでッ!」
フィーベルの叫び声が聞こえる。何か、タイミング的にヤバイ感じ?
「ほら、見ろ。今も昔も魔術と人殺しは切っても切れない腐れ縁だ。なぜかって? ほかでもない魔術が人を殺すことで進化・発展してきたロクでもない技術だからだ!」
グレン先生が悪役みたいな顔で何か言ってるんだが、一体何があったし。基本流して終わりのグレン先生がここまで言うとか、ホントに何があった。
「まったく俺はお前らの気が知れねーよ。こんな人殺し以外、なんの役にも立たん術をせこせこ勉強するなんてな。こんな下らん事に人生費やすなら他にもっとマシな――」
ぱぁんと、乾いた音が響いた。
「いっ……てめっ!?」
「違う……もの……魔術は……そんなんじゃ……ない……もの……」
グレン先生の顔を平手打ちしたかと思えば、泣きながら何かを言い捨てて教室を飛び出したフィーベル。え? 俺に何回も突っかかってきて、その度に論破しても諦めないあのフィーベルが泣いただとッ!? マジで、一体何をしたんだグレン先生。まさか、地雷を踏んだのか? 魔術大好きっ子の地雷を踏んだのか?
グレン先生も流石に気まずかったのか、頭をガリガリとかきながら授業を自習にして出て行った。
って、ちょっとまてよ、ここで出て行くの? この空気どうすんの? え? これ帰りたくても帰れなくね?
「……ねぇ、アーサー君はどう思う?」
どうして俺に聞くんですかね、ティンジェルさん。俺は全く関係ないだろう。ほんとにやめてくれ。寝てたんですが。会話は若干聞いていたとはいえ、寝てたんですがそれは。まさか俺が寝てたことに気が付いてない? いや、だとしても何故俺を指名した。友達が心配なのはわかるが、何故俺なんだ。
とはいえ、既にクラスの注目を集めてしまっているし、普段の悪名というか最優という称号が足を引っ張ることになった。……何も言わないわけにはいかないだろう。で、どう思うってのはさっきの口論についてかね。
「何で俺に聞いたのかが謎だが……まぁ、正直アホらしい」
「……え?」
「だって、そうだろ? どっちも自分の視点から見た、魔術の価値ってものを押し付けてるだけだ。どっちが正しいとかの前に、どちらとも相手の視点に立とうとしていない。逆に聞くぞ、お前はどう思った?」
グレン先生の最後のセリフとフィーベルの捨て台詞から察するに、彼等は魔術がどういうものかという議論をしていたんだろう。で、前提としてグレン先生は魔術を嫌っていてフィーベルは魔術が大好きだ、と。
つまり、グレン先生があんなに食って掛かっていたのは地雷を踏まれたからで、フィーベルが泣いていたのも地雷を踏まれたからだ、と。……どうしてそうなった。どっちにしろ、それは自分の意見であって相手に押し付けるもんじゃないだろうに。子供がやったやってないって言い合うのと似てるな。自分が正しいと思っていることを相手にも強要するあれだ。俺がやってないって言ったんだから、やってないんだッ!
「私は、魔術は人殺しの技術じゃないと思ってるけど……でも、魔術で死んじゃった人もいるんだよね……?」
「当たり前だ、そういうものだからな。つまり、そういう視点の違いなんだよ。どこに立って見るか、それによって変わってくる。例えば、グレン先生。あの雰囲気からして、魔術が嫌いなんだろう。一方で、フィーベル。あいつにとって魔術は大事な物なんだろう。だから、魔術を嫌ったり貶めたりする輩を嫌う。どっちにしろ、相手のことなんか何も考えていないただのバカだ」
「それは……そうかもしれないけど。でも、そんな言い方って……」
「じゃあ、魔術で親を殺された人間に魔術は偉大で崇高だと、ご丁寧に語ってる輩はバカじゃないのか? 相手からしたらふざけるなって話だ。なんで親を殺した原因を自慢されなきゃならないんだ」
それは、日本人に原爆を自慢するようなものだ。地震で被害にあった人に、地震って凄いだろうと語ることと同じだ。ふざけんなよこいつってなるのが普通だろう。
「……」
「問題は視点や、相手の気持ちになれているかどうかだ。あの二人はそれが出来てなかった。だからアホらしい。押し付けられる方の身にもなってみろってんだ」
あくまで俺の意見だがな、と言い捨てて教室を後にする。だって、気まずいし。俺のせいで余計に気まずくなった。あんなどんよりした空気の中にいたら息が詰まる。
はぁ、やらかした。なんか勢いで言ってしまったが、よく考えたら俺の立場危うくなってね? お前はどっちの味方だ、とか言われたらおしまいだな。別に俺はグレン先生もフィーベルも嫌いなわけじゃない。あの二人もカッとなっていっただけで、明日になれば冷静になっているだろう。ただ、俺は押し付けられるのが嫌いだから、そういうのはよくないよって言おうとしたんだ。それが、途中から愚痴に変わってただけなんだ。俺は悪くないッ!
とはいえ、どう考えても言葉足らずだったよなぁ……。嫌な奴とか思われてそうだなぁ……。目立ちたくないのに悪い意味で目立っちまった……。
……明日からサボろうかなぁ。
正直、これ必要だったのかとか、会話の内容ズレてね? とか思うかもしれませんが見逃してくださいお願いします。