騎士王転生 え、違うの?   作:プロトセイバー

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強くなり過ぎた

 恐らく、人生最大の恥といっても過言ではないだろう赤ちゃんプレイを乗り越え三歳となった頃、俺はようやく計画を実行に移した。

 そう、強くなろうと決めた通りに修行を開始したのだ。とはいうものの、何をすれば強くなるかなど、平和な日本に住んでいた俺が知るわけもなく、取り合えず以前決めた通りに素振りをすることにした。

 

 家から出て、さぁ修行開始だ、と意気込んだはいいものの、重要なことを思い出した。俺は三歳だ。そして、いくら中世ヨーロッパのような時代といえど、三歳が剣など持てるはずも持たせてもらえるはずもなく、いきなり常識に躓くこととなった。

 どれだけ頭を悩ませても解決策など出るはずもなく、仕方がないので木の棒で代用することにした。木の棒で剣術修行とはなんとも地味な……。

 文句を垂れてところで、何がどう変わるわけでもなく、グチグチ言いながらも木の棒を振ることに。といっても、やることは簡単だ。軽く構えてそれっぽく振るだけだ。というか、剣術をかじったこともない俺が振り方など知るわけもなく、そうするしかなかったのだが。

 

 振る、振る。ただひたすらに振り回す。正直、自分でやっていて空しくなってきたが、めげないぞ。だって、諦めたら人生終了の可能性があるからな。結局、その日は飯を食べることも忘れて素振りをし続けた。当然、帰ってから親に怒られた。

 

 それから一週間は、ただひたすらに木の棒を振り続けた。最初は全くといっていいほど成果が表れなかったが、四、五日もたつと、振り方がだいぶ様になってきた。流石、騎士王スペック。たった数日で成長するとは、これを数年続けたらどうなるのやら。

 一か月後には、棒を振れば空を切る音が聞こえるようになった。そう、ヒュンッヒュンッ、ってやつだ。なかなか気持ちがいい。あれ? 何だか楽しくなってきた。

 

 一年後、木の棒を石に振り下ろしてみたら真っ二つに出来た。驚きすぎて顎が外れそうになった。いや、出来ないと思ってやってみたら出来てしまった。ホントにこの体のスペックが可笑しい。四歳児が、木の棒で石を真っ二つとかどんなファンタジーだよ。あぁ、そもそもこの世界がファンタジーの塊である可能性もありましたね。

 

 更に一年後、五歳の誕生日である。そしたら、なぜか親から魔術を教えてもらえることに。当然、飛び跳ねて喜んだ。当たり前だろ? 魔術だぞ、魔術。魔法じゃないけど、魔術だぞ。これで、剣からビームに一歩近づいた。

 更に一年後、親から教えてもらった身体強化魔術を使って素振りをしていたら鉄が切れた。もちろん、木の棒でだ。身体強化魔術、フィジカル・ブーストだったかな? これパないわ。いや、ホント。身体能力が見てわかるくらいには上昇してびっくりした。立体起動をやってみたら出来てしまって、楽しくなってからは魔術を併用して、立体機動をしながら剣を振ることにした。超楽しい。

 因みに、本当は魔術を軽々と教えるのはまずいらしく、見つからないようにしてくれと念を押された。オーケー、理解した。つまり、見えない速度で飛び回ればよしということだな。

 

 更に一年後、七歳の誕生日の日にとうとう愛用していた木の棒が折れてしまった。というか、よくここまで持ったな。あれか? カリバーン的な感じか? いやいや、そんなバカな。ともかく、得物が無くなってしまったことに変わりはない。仕方がないので、プレゼントに剣をねだったら買ってもらえた。何も欲しがらない俺にプレゼントを贈れるのが嬉しかったらしい。家の親が親バカであることが判明した。

 

 更に一年後、八歳になった日の夜。どれだけ剣がうまくとも、移動に時間がかかっては本末転倒であることに思い至った。移動手段、子供がそんなものを確保できるはずもなく、仕方がないので足での移動方法を習得することに。確か、アニメでは瞬歩やら縮地やらと言われる歩法があったはずだ。アニメの話ではあるが、騎士王スペックなら何とかなる。

 

 そんなバカなことを考えた日から二年がたった頃、俺は重要なことを思い出した。最近、俺は強くなるのが楽しくなってきて、つい最初の目的を忘れていた。そう、ブリテン崩壊を防ぐというあれだ。だが、ここで夢に花の魔術師が出てきていないことに気が付いた。あ、と思ったものの、ここまで鍛えたのだからと最後の希望を地図に託した。

 

 結論、ブリテンなどなかった。というか、そもそも地球ではなかった件について。確かに、魔術を使うのに魔術回路など必要なかったことを思い出した。この時点で気づくべきだったのだが、既に遅い。もう既に強くなり過ぎたようなきがするのだ。

 ついでに言えば、英語だと思っていたものは実際には別物だったと今気が付いた。

 何といっても、この世界の魔術ってレベルが低い。

 つい興が乗って、固有魔術として『約束された勝利の剣(エクス・カリバー)』を開発してしまったが、そんなレベルの魔術は見たことがないと親から言われた。つまり、たまに親が見せてくれるちょこっと電撃を放つ魔術(ライトニング・ピアス)や、ちょこっと熱風を出す魔術(ブレイズ・バースト)が普通であるということだ。この二年間で、瞬歩をマスターし、手刀でウーツ剛と呼ばれる鋼のような金属すら割れるようになった俺は、どう考えてもオーバースペックだ。

 

 絶望した。だって、どう考えても俺化け物じゃん。型月世界なら、素手で鋼を割っても納得できる。だが、この世界の人間は現代日本よりも少しスペックが高い程度なのだ。比較してみれば一目瞭然。もはや逸般人である。泣いた。ついでに引きこもった。流石に、これ以上鍛える気にはならなかった。生き残るために強くなったのに、強くなりすぎるとはどういうことか。なんで俺はここが型月世界だと思い込んでいたんだろう。あれか? 俺を転生させた奴の思惑か何かか? 明らかに思い込みが激しすぎる気がするが……。

 

 今更気が付いた。そうだ、そうだよ。そもそも、なんで転生したかに疑問すら持っていなかったことがそもそも問題だろ。俺の頭がポンコツなのか、それともなにかに弄られたのか。弄られたのであれば、出来ればそのなにかを見つけ出し、文句を言ってやりたいところだが、これまで干渉してきていないとなると、今後も干渉してこない可能性がある。向こうの方が有利な立場にある以上、自分から来てもらわないと見つけることすらできない。……仕方ない、諦めるか。そもそも、何か言ったら消されそうな気がする。……よし、なにかなんていなかった。そうしよう。

 

 ところで、だ。自分が騎士王ではないことに確信が持てた。剣からビームは出せるようになった。そう、もうやることがないのである。親から化け物呼ばわりされなかったのは不幸中の幸いだ。家にまで居づらくなったら行く当てがないところだった。

 ひとまず、強くなり過ぎたことに関しては置いておこう。問題はやることがないのである。中世ヨーロッパのような時代であるから、ゲームなんて当然ない。本だって、紙が貴重そうだからそう出回ってなさそうだし、魔術はもうかなり使えるようになった。修行はもうする気も起きない。

 

 それに【約束された勝利の剣(エクス・カリバー)】を親に披露してみてから、変な魔術師達が付近を徘徊するようになってきて落ち着かない。かなり派手なビームを空にぶっ放したから、もしかしてバレたのかと思って家に逃げた。だって、こっち見てる人いた。幸い、鍛えることはやめたからそこまで弊害は出ていない。しかし、このまま外を出歩くとバレそうで心配だ。……あれ? 家から出れなくないか? ……明日からどうしようかなぁ。

 

 五年後、俺は立派なロクでなしになっていました。仕方ないじゃん。バレないように引きこもりしてたらハマったんだから。俺は悪くない。強いて言えば、外を徘徊してた魔術師達が悪い。

 俺は悪くないんだ!!

 




まぁ、そりゃあ自分が化け物だって知ったら落ち込みますよね。

勘違いや思い込みって怖い。

追記:勘違いが無理やりすぎるとのお言葉を頂いたので、若干思考に介入されてたんだよ、っていう設定を追加してみました。転生は実際に起きてるんだし、不可能ではないということにしてください。後付けなので、そのなにかの登場予定はありません。
どうせなら、宝具を渡されるみたいなイベントがあってもいいかなぁ……と思ったりはしますが。

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