チーズハンバーグ   作:はなみつき

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と言う訳で、第二章(?)


輸出チーズと10話

 始まった時には長く思えた夏休みも、終わってしまえばあっという間のような気がする。なんだかんだと夏休みの宿題も滞りなく終了し、また今日から今までと同じ学校生活が始まろうとしている。

 

 そう思っていた朝の俺を、ぶん殴ってやりたい。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

「以上で、始業式を終了します。続いて、連絡事項があるので生徒はそのまま待機していてください」

 

 始業式が終われば教室に戻り、今日はすぐに解散だと思っていた生徒達は出鼻を挫かれたような気分だ。

 楽しい夏休みが終わり、久しぶりの学校ということにみんなの表情からうんざりとしていることがありありと伺える。俺とて例外ではない。九月とはいえ、まだまだ暑い。始業式が行われる体育館は全校生徒が集まっているということもありサウナと化している。さっさとこの場から出たい。

 

「えー、本校が黒森峰女学園と提携していることはみなさんご存知でしょう」

 

 初耳だが。

 

「来年度、この学校同士で生徒を互いに交換しあう制度を試験的に導入することとなりました。本来であれば、女子高である黒森峰に送る生徒は女生徒が好ましいと思われたのですが、あちら側の要望により我が校からは男子生徒を一名を含む三名を送り出すこととなりました」

 

 は? なんだそりゃ。女子高に男一人とか一体どこのライトノベルだよ。そんなこと許されるのか。

 男ならだれもが妄想するシチュエーションではあるのだろうが、実際にそんなことになったら地獄だろ。

 

「もちろん、その三名は我が校を代表することになるので、厳正な審査により選抜されます。一次選考として各クラス男女一名ずつ、この後のホームルームで決めておいてください。連絡は以上です」

 

 そう言って先生は退場していった。

 希望者……ね。ある意味地獄のような状況ではあるだろうが、そんな状況を望む野郎は少なくとも一人はいるだろう。俺のクラスだったら、女好きのタロウが自主的に手を挙げるはずだ。

 そんでもって、二次選考で落とされて今回の話はそれで終わり。きっと、男子の中でも品行方正、頭脳明晰な奴が選ばれるはずだ。

 

 俺の成績は悪くはないが、職員室前に張り出される上位二十位以内に入れるほどではない。素行が悪いつもりもないが、礼儀正しい人間かと聞かれれば首をかしげざるを得ない。

 

 うん、縁のない話だな。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 嘘だろ……

 

「そういうわけで、男子の短期転校は君に任せたい。我が校の代表ということを自覚しつつ、黒森峰で多くのことを学んで来なさい」

「はい……」

 

 はいじゃないが。

 

 どうしてこうなったのだろう。

 校長室の無駄にフカフカしたイスに座りながら、校長先生と対面している。だが、俺のハンバーグ色の頭も今日ばかりは真っ白だ。

 

 どうしてこうなったのだろう。

 思いつく限りでも失敗は二つ。

 

 二学期初日のホームルーム。前日夜遅くまで次に作るハンバーグのことを考えていたために寝不足だった俺は、話し合いの結果も分かりきっていたこともあり、うとうとしてしまっていた。

 それが失敗のその一。

 

 目を覚ましたらクラスの立候補者は俺ということになっていた。

 後に聞いた話では、確かに予想通りタロウが立候補したらしい。しかし、タロウの女好きは周知の事実。タロウが立候補した時点で担任の先生が却下したのだ! なんて、余計なことを……どうせ、二次選考で落とされただろうに……

 その結果、候補者は居なくなり、推薦となったわけだが、この時すっかり眠って話を聞いていなかった俺をこれ幸いにと全員が推薦しやがった。面倒くさいことは押し付ける。基本だな。

 

 このことを知って愕然としたものだが、特に気にしていなかった。何故ならその後の選考で落ちるだろうとタカをくくっていたからだ。

 

 

 二次選考は個人面談だった。まあ、予想通りだ。これで個人の資質を見極めるのだろう。特に嘘を言う必要もないと感じて素直に質問に答えていった。

 それが第二の失敗。

 質問の一つにこんなものがあった。

 

『友人、又は親族に黒森峰女学園に在籍する方は居ますか?』

 

 これに対する答えは当然Yes。我が幼馴染たるエリカは黒高の生徒だからな。

 後から知った話だが、この質問は男子に対してのみ行われたものらしい。

 黒高に送り込まれる人達は、他校の生徒との交流という目的のため、別々のクラスに振り分けられる。とはいえ、男子一人に他見知らぬ女子というのは辛かろうということで、黒高の知り合いが居ることが一つの条件となったらしい。

 もちろん、俺以外にも黒高に知り合いが居る人はいただろう。だが、その知り合いが同学年という条件に当てはまる人間はそんなに居なかったようだ。

 

 そして、これは俺の失敗というよりはどうしようもなかったことだが、選抜される人間は必ずしも品行方正、頭脳明晰な人間というわけではなかったようなのだ。

 黒森峰女学園は中高一貫の女子高ということもあり、その性質上お嬢様学校と言っても過言ではない(グロリアーナ程ではないが)。そこで、男に慣れさせるという意味もあり、今回の企画に男子も含めるようにと黒高から申し出があったそうだ。

 そして、今回の選考において高得点となるのは礼儀正しさ等ではなく、女子に対しても分け隔てなく友好関係を築けるか。俺としては普通に過ごしていたつもりだが、先生達としてはそこもそれなりに評価されていたらしい。

 

 と、そんなこんなあって俺は今、学校代表の男子生徒として校長室で校長先生とお話ししているわけだ。

 

「それでは、担任を通していくつか書類を渡しますので、必要なものに署名をして期日までに提出してください」

「はい……」

 

 はいじゃないが。

 

 はあ……

 女子は怖いからなぁ……

 俺知ってるよ。IS何とか学園に例外的に入学した男子は超絶イケメンだったから良くしてもらえただけで、フツメンの男が一人入学したところで碌な目に合わないってこと……イケメンではないにしても、俺はフツメンレベルはあると信じたい。

 憂鬱だ。

 

「ああ、そうそう。今回、学園艦生活をしてもらうことになるので、少しばかりですが、返済不要の奨学金が出ることになっています」

「学校を代表しているということを肝に銘じ、頑張ります!」

「よろしくお願いしますね」

 

 そして、俺は覚悟を決めた。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 とまあ、そんなことがあったわけだ。

 二学期の始業式も今は昔。いや、今は二か月後。

 時の流れは早い。

 

 とりあえず、エリカに知らせておこう。

 

 

 

 Sub 無題

 To エリカ

 本文 俺、黒高に転校するから。

 

 送信っと。

 

 ……

 

 って、もう返信来た。早いな。

 

 Sub Re:

 From エリカ

 本文 は? ちょっと待ちなさい。どういうことかちゃんと説明しなさい。

 

 まあ、そうなるな。

 

 

 

 


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