愛しい瞳   作:シーマイル

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ようやくここまで来ました。ついに地獄の面々との直接対決です。

では、どうぞ


13 群衆の目 こころの瞳

私たちはついに旧都に足を踏み入れることとなった。

そこは酒飲みたちが集まるとは思えないほど静まりかえっていた。

おそらく私たちが来たからなのだろう。

しかし心の目に映る景色はとても騒がしい。

(おいおい、ついに来やがったよ。)

(あいつらのことだよな、覚ってのは。薄気味悪いねぇ~。)

(いきなり余所者連れてきて大役任せるってのも無理な話だろうに。)

だいぶ歓迎されているらしい。旧都の話題は私たちでもちきりのようだ。

それにしても騒いではいるがどちらかというと馬鹿にされているような感情ばかりだ。

どうせ酒の肴にするだけなのだろう。

····話し合いする前から気が滅入る。

あまり考えない方が良いのだろうが。

と言うか霊歌さん、さっきから全く恐怖といった感情が読み取れない。

鬼やら土蜘蛛やら結構やばい妖怪ばっかりなのだが狼狽える様子もない。

普段はあれだがやはり博麗の巫女なだけある。

それはそうと

「まだなんですか?飛んでいった方が速かったんじゃないでしょうか?」

さっきからかれこれ30分程歩いている、正直疲れた。

普段遠出する時は浮いているので余計にだ。

「まぁそう言うなよ、旧都の観光 いや視察も兼ねてるんだ。

 後で案内してもらう方が良かったかい?」

「···いいえ結構です。お気遣い感謝します。」

「それにほら、あそこに屋敷が見えるだろう。もうすぐそこだ。」

あぁ遂に始まってしまうのか。しかしこれさえ乗り切れば。

(こいし、もうすぐだけれど大丈夫かしら?)

(うん、とりあえずは。思ったより気味の悪いものはないし。

 それより面白いね。居酒屋さんばっかり、所々大穴が空いてるけど。)

確かに、外観に無事と言える店は無かった。

(それは多分喧嘩の跡なんでしょうね。

まぁ今から直談判することになるから気を強く持ちなさい。

八雲紫の後ろ楯もあるのだから恐れる必要はないわ。)

(···うん、頑張ってみる。)

「おい、着いたぞ。ここがそうだ。」

見上げると、とは言っても平屋のような一階建てであろう建物が目の前にあった。

しかし旧都にしては珍しく酒の匂いがあまりしない。

「ではお邪魔します。」

「しま~す。」

勇義さんを先頭にぞろぞろと中に入っていく、そこには

鬼たちがいた。

まぁ地底だから当たり前なのだがどれもこれも正に鬼の形相という言葉が相応しかった。

···そんなに警戒しますかね。

「旧都へようこそ、遠路はるばるよく来て下さったな。

 儂は一応ここの代表を務めておる虎熊という。

 それで見たところあんたたち二人が覚かね。」

表情こそ険しいものの威圧的なものでは無かった。

「はい、私が姉の古明地さとり、そしてこちらが妹のこいしといいます。

 この度は地底の怨霊を鎮めるべくやって参りました。」

「そして私は博麗霊歌と言います。八雲紫より古明地姉妹の身を守るべく遣わされました。」

「そうであったか。勇義、オオビ、案内のほうご苦労だった。こちらにもどれ。」

「わかったよ。それじゃ古明地のまたな。」

「ええ今回はありがとうございました。いずれまた。」

「星熊さんまたねー。」

結構余裕ねこいし、やけくそかしら。

「それではそちらに座りなさい。これから集会を始める。」

促されるまま私たちは座敷に座った。さすがに椅子はないか。

「今回来てもらったのは他でもない、覚こと古明地姉妹たちとの話し合いをする為だ。」

「話し合いですか?私たちを相手に。」

「何も問答をしようと言うわけではない。知ってのとうり古明地姉妹の着任にあたって不信感を覚える者が多くてな

 こうして直に話しをしようというわけだ。

 それに直に話した方がどういうものかよくわかるだろう。」

なるほど、覚のことをわかった上で直接話そうというわけだが、早速ヤジが入る。

「待ってくれ。そもそもがこいつらに任せることを認めてねぇ奴もいるんだ。

 話し合いになるかよ。」

「そうだ。まずそいつらのことをどうにかしなくちゃいけねぇだろう。」

「いい加減にしろと言っただろう。もうずっと前に決めたことだろう。

何時までもうだうだと引きずるな! 」

(引きずるなだって、そもそもがおかしなことだろうに。)

(地上と地底は不可侵入条約があったはずだろうに十数年で破るとはな、

 それが問題だというのに。)

あぁもう、まだ会話すらしていないというのにネチネチと。

「すまんかったな。それでは、」

「その前に宜しいでしょうか。」

「····(やはり直接会わせると言うのはまずかったかね。)

 何かな?さとり殿。」

「いえ、先程からずっと陰口ばかり五月蝿いものでこの際言わせて頂こうかと。」

私が口を開いたとたんその陰は一層濃さを増した。

(陰口だと!そちらが盗み聞きしているだけだろうに。)

(そんな気味悪いもんこっちに向けてんじゃないよ。)

(その瞳が濁っているからそんな物が見えるんだよ。)

(消えてしまえ。そんな瞳。)

消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ、キエロ

(ぁっああぁうっ、嫌だ、見たくない、やめて。)

っつ不味いこいしが、私はおもいっきり、そしてこいしの心を奮わせるため叫んだ。

「黙りなさい! いいえ正確にはその薄気味悪い思考を止めなさい。」

「っ何だと、勝手に覗き見しといてよく言うじゃねえか。」

「いちゃもんつけてんじゃねぇよ。」

「先程から怒りにまかせて何を隠しているのでしょう?」

「何だと?」

「もっと詳しく言いましょうか?怒りの感情でなにを塗り潰しているんですか?」

「なにふざけたこと言ってやがる?」

「····その程度の怒気で怯むと思いましたか?黙ると思いました?隠せるとでも?

 ふざけてるのはあなたたちです。」

「いい加減にしろよおめぇよぉ。」

もうそろそろ頃合いだろう、煽るのもここまでだ。

私はとびっきりの笑顔を作った。

「何時まで茶番を続けるのでしょう?いい加減見せて下さい、あなたのトラウマを、隠している恐怖を。

 そんなちんけな感情じゃ余計に分かりやすい。」

「っつふざけんな。」 

突然鬼の一人が立ち上がりこっちに向かって来る。

「おっと手を挙げるんですか?良いでしょう。」

「さとり、いくらなんでもやり過ぎじゃ、」

霊歌さんの呆れた声がかかる。

「大丈夫ですよ。私一人で行けますから。」

「なめてんじゃねぇよ。こっちをみろぉ!」

ブンッ と空気の弾ける音がする。

要するに拳が空を切ったのだ。私の顔面を狙っていた拳が。

ブンッブンッブンッっと私に当てようととした拳はことごとく外れる。

この時相手の視線に第三の目を会わせることを心掛ける。

そうする事で相手の心が読みやすくなると同時に恐怖心を与え易くなる。

そうして読むことで相手の次の動きも把握出来、避けることができる。

まさに一石二鳥というわけだ、

しかし流石は鬼の拳、速い、速すぎる。本当にギリギリで避けることになってしまいかなりひやひやしているのだが、

ここでも笑顔を忘れてはいけない。薄気味悪い笑顔を。

「はっはっ はあああぁぁ、(畜生、何なんだよこいつ。いい加減当たれ!)」

ここまで来るともう読める。さてどんなトラウマかしら?

「····ふふっフフフフフ。」

「·········(何なんだ、いきなり笑いやがって。)」

「知りたいですか?」

「っつ別に話すことなんざねぇよ。」

「そうですか、でも私には有るんですよ。

 どうやら人間にこっぴどくやられたことがある様で。いいですねぇー実に鬼らしいです。」

「だから話すことなんざねぇんだよっ。」

「そうでしょうそうでしょう、しかも退治屋でも侍でもないただの農民に。」

「うるせぇっ」

「酒に毒、ですかそれもまた鉄板ですね。今でもその銘柄は飲めないと。」

「うああああぁぁああおおぉぉ。」

もういいだろう。それじゃあ仕上げといきますか。

「はいそれでは私の瞳をよく見て下さい、---想起「テリブルスーヴニール」---」

その鬼は次の拳を振るうことなく崩れ落ちた、心なしか震えているようにも見える。

まぁ当然か、過去の恐怖をそのまま味あわせてあげたのだから。

こいし相手が怒っている時にはこうするのよ。

(···解ってる解ってる、けどっ 今の私には無理。そんな意地悪く成れない。)

実の姉に向かって意地悪いとは、普通に傷つく。

(本当に意地悪いなぁあれやってる時のさとりさん。)

あなたもですか霊歌さん。

((流石ご主人様!!))

お燐、空、あぁやっぱりペットは私の癒しだわ。

それはともかく。だいぶ静かになった。

あの陰はその濃さを潜め別の闇が宿っている。暗いまた別の感情が。

「お騒がせしました、私もついかっとなってしまいこのようなことに。

 申し訳ありません。」

「いいやうちのものがすまないことをした、こうならないようきつく言っておいたのだがなぁ。

 まぁ仕方ない、それで?申したいこととはその事では有るまい。」

「そうですね、言いたかったことは私たちは平穏を求めてこの地に来たと言うことです。

 私たちは旧都に強く関わろうと言うわけではありません。

 あの建てて下さったあの館で静かに過ごしたいだけなんです。

 居場所が欲しいだけなんです。」

「ほう、あの洋館気に入ってくれたかの?」

「えぇそれはとてもあの様な素晴らしい物にして下さって、本当に感謝します。」

「それは良かった。そしてその口ぶりからするとそこからは動く気はないと。」

「そう言う事です。必要がない限り旧都に赴くこともありませんしこの様なことにもならないでしょう。

 私たちが心を読むのはそれしか抵抗する手段がないからです。

 むやみやたらに使うことは有りませんしあなたたちの生活にすら付け入る気は無いのです。

 私は居場所のために仕事をするだけです。」

「···よく分かった。おい皆の衆、さとり殿はこう言っているがどうだ?

 まだ追い出したいやつはいるか?

 そもそもここは地上に嫌気のさしたものたちの為の場所だろう?

 新参だとか心を読むなどでは追い返す理由にも為らない。

 どうだ?それでも追い出したい奴はいるか?」

「··········」

「どうやらそんな輩はいないらしい。」

「その様ですね。」

「では改めて歓迎しよう ようこそ旧地獄へ」

 

私は、いや私たちは新たな家族をと居場所を手に入れることが出来たようだ。

 




遂に4000文字を越えてしまいました。
この調子でどんどん文字数を増やせていけたらなと思います。
それとどうでしょう?意地の悪いさとりさまは書けていたでしょうか?
こういう心理描写は初めてなのでおかしなところもあるかもしれませんが
楽しんで頂けたら幸いです。
では、また

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