ダンメモ、ハロウィンイベントやるみたいですね。この手の季節イベントは水着以来なかったので、結構楽しみにしてます。
迷宮踏破は進んでますか? 自分には鬼のような難易度なので毎日少しずつ進んでますが……難しいです。でも、迷宮踏破ピックアップでアミッドさんをチョイスした運営には素直に感謝です。
「──【我は血族。穢れた血を啜り、異端として教会に仇なす者也】」
《千景》を構えるヴィンセントが詠唱を始めた瞬間、高まる魔力に触手達が一斉に反応し、彼を串刺しにせんと襲い掛かった。しかしそれが彼に届くことはない。
「邪魔はさせません」
触手の前に立ちはだかるは両手に《落葉》を握るリュー・リオン。かつて神々より【疾風】の二つ名を賜った気高きエルフの戦士である。斬り裂かれ、バラバラになった触手が、彼女の足元に積み重なっていく。
「──【凡百の俗物よ、カインハーストの業を知れ】」
ゆっくりと目を開き、ヴィンセントは駆け出した。
「──【ヴィラ・ブラッド】」
カインハーストの業を再現せし
左手から引き抜かれた千景の刀身はベットリと赤い鮮血に塗られていた。血の刃と呼ぶべき状態となったその長さは元々の二倍近くに伸びている。ヴィンセントはそれを横に一閃、それだけで迫る触手がズタズタに引き裂かれた。
【ヴィラ・ブラッド】の発動中はヴィンセントの血そのものが武器となる。
『ギャアアアアアアアアア!!』
「黙れ」
淡々とした口調と共に振るわれる血の刃。それは先程《シモンの弓剣》を弾いたモンスターの外殻を、熱したナイフでバターを切るようにあっさりと両断した。
支えを失ったモンスターは悲鳴を上げながらもがき、触手を伸ばして崩れる体を立て直そうと図る。が、それらは地面に届く前にヴィンセントとリューによって断たれ、結果盛大な音を立てながら通りに突っ込んでいった。
「……終わりですね」
「とどめを刺す。死に際に何をされるか分からん、下がっていろ」
短くリューに告げ、ヴィンセントはモンスターへと近付いていく。向けられる触手を例外なく斬り捨てながらやって来るその姿は、モンスターからすれば悪夢以外の何物でもない。
『ァアアア……! ギィイイイ……!』
「新種故に少しは楽しめるかと思ったが……存外に呆気ないものだな」
だが安心するといい、と。
ヴィンセントは安らかな声色で言う。
「私には獲物を徒になぶる趣味はない。苦しまぬようすぐに殺してやる」
千景を中段に構え、真っ直ぐモンスターを見据えるヴィンセント。殺られる、そう本能で悟ったのか、モンスターは最後の抵抗とばかりに体を起こし、ヴィンセントを頭から食い千切らんと飛び掛かった。瞬間、その顔面に一筋の斬撃が走る。
「さらばだ。死を恐れたまえよ」
頭から真っ二つにされたモンスターは鮮血を撒き散らしながら倒れ、やがて灰となって跡形もなく消滅した。残されたのは【ヴィラ・ブラッド】を解除し息をつくヴィンセントと、そして
「……」
ヴィンセントは極彩色の魔石を拾うと、それを駆け寄ってくるリューとアミッドに見つからぬよう、さっとポケットに突っ込んだ。この魔石は間違いなくイレギュラー、ならば関わるのは自分だけでいいと判断したからである。
「お疲れ様です、ヴィンス」
「あの程度のモンスターならまだまだ弱い。一体だけなら尚更だ」
「そう言えるのはオラリオでも一握りの実力者だけだと思いますが……。ともかく、手を出してください。すぐに治します」
【ヴィラ・ブラッド】発動のトリガーとした左手の傷にアミッドは手を重ねる。直後、彼女とヴィンセントの手が淡い光に包まれた。掌に刻まれた貫通する程の傷が、治癒魔法によってたちまち癒されていく。
「……流石、オラリオ最高の
「オラリオ最強の冒険者にそう言って頂けるなら、私も日々鍛練をしてきた甲斐があったというものです」
そう言って微笑むアミッドにヴィンセントは感謝を述べると、モンスターの気配を辿って歩を進める。近くで花のモンスターがいるようだが、そちらは既に戦い始めている【ロキ・ファミリア】の冒険者に任せ、彼らは『ダイダロス通り』と呼ばれる住宅地の方へと向かった。
△▽△▽
「どうして戻ってきたんですか、神様!」
ヘスティアを所謂お姫様だっこの形で抱えながら、ベルは彼女に向かって声を張り上げた。
ヘスティアがベルと『シルバーバック』の対峙するあの場に現れた時、ベルが迷わず選んだのは逃走であった。シルバーバックの突進を紙一重で躱した彼は一目散にヘスティアの元へ走り、彼女を抱き抱えると同時に細い路地へと飛び込んだ。そして現在、ベル達は鬼ごっこの真っ最中なのである。
「どうして、じゃないよ! ベル君を置いてボクだけが逃げる訳にはいかないじゃないか!」
負けじと大きな声で反論するヘスティアにベルは面食らうが、すぐに「そんな理由で……」と溜め息をついた。敬愛する主神が心配してくれたことは嬉しいが、少なくとも命を懸けた囮の役目が無駄となったのだから、彼としてはなんともやるせない気分となる。
「ベル君、君はボクの大切な眷族なんだ。ボクを守ろうとしてくれたことは本当に嬉しいけど、それで君が怪我をしたら意味がないよ。自分の身を犠牲にするなんて無茶な真似は、もうやめておくれ……」
「神様……」
泣きそうな顔をして俯くヘスティアに、ふとベルの脳裏を今は亡き祖父の姿が過る。ベルにとって彼は大切な家族で、また憧れの存在であった。
そんな祖父が亡くなったと聞いた時、ベルは深い悲しみに包まれた。この世に独り取り残されたような、どうしようもない孤独感に苛まれたのだ。
もしシルバーバックに敗北してベルが命を落とせば、ヘスティアは彼と同じ悲しみを抱くことになるだろう。家族に先立たれるということは、残された者の心に浅くない傷を刻む。ヴィンセントや人形といった他の家族がいようとも、彼女の感じる"ベルを失ったという悲しみ"が軽くなることはない。
それだけは、駄目だ。
女の子を悲しませるなんてことを、ベル・クラネルは決して犯してはならない。
「──すみません、神様。もう、馬鹿な真似はしません」
ベルはヘスティアを抱える腕に力を込めた。絶対に離さない、守ってみせると言わんばかりに。
その時、彼らの耳にシルバーバックの咆哮が届いた。具体的にシルバーバックがどこにいるのかは分からないが、少しずつ近付かれているのは間違いない。
「くそっ……どうすれば……!」
ベルは苦々しげに呟いた。武器はなし、ヘスティアという守るべき対象がいる今の状態で、彼が打てる手などほとんどない。来るかも分からない援軍に頼るなど論外だ。まさに万事休す、流れる冷や汗が頬を伝う。
「──ねぇ、ベル君」
ポツリと、ヘスティアがベルの名を呼んだ。
「? ……神様?」
「君は、あのモンスターに勝てるかい?」
ベルはその質問の意図が理解出来なかった。だがヘスティアは無言のまま、ただその
「……駄目です。僕じゃ、シルバーバックを倒せません」
「それはどうしてだい?」
ヘスティアが再びベルに問う。そしてベルもまたそれに答えた。
「武器がないんですよ。僕のナイフは……あいつに歯が立ちませんでした。武器がなくっちゃ、そもそも話になりません」
ベルはそう言いながら腰にあるホルスターを一瞥した。そこに納まるナイフは砕け、刀身が半ば程でなくなっている。最早武器として機能しない得物では、シルバーバックを倒すことなど到底出来ない。
この場合での勝利とは、相手を殺すことだけでのみ達成されることである。例えベルにシルバーバックの攻撃を避け得るだけの速さと反射神経があろうとも、こちらが刃を持たなければ限りなく困難だ。逃げるだけではやがて力尽き、叩き潰されるだろう。
しかし、ヘスティアの一言はそれらの理屈を根本から覆した。
「もし、武器があるとしたら?」
え、とベルが困惑する中、ヘスティアは彼の腕からひょいとすり抜けると、今まで背負っていた布をほどいた。「本当はもっとちゃんと渡したかったんだけど……」と、小さな声で前置きをして。
「ベル君、ボクは知ってるよ。君がどれだけ頑張ってきたかを、君がどれだけ一生懸命だったかを」
布の中身が晒され、内側から光が溢れた。薄暗い路地で、まるでそこだけ明かりが灯っているかのような錯覚を覚える。
「君は負けないよ。絶対に負けやしない。ボクの大切な眷族が、ヴィンセント君が認めた冒険者が、あんなモンスターなんかに倒されるもんか」
ベルの視線が布の中身と、微笑を浮かべたヘスティアとを往復した。
「か、神様……」
「これは《寵愛の刃》。ボクとヴィンセント君から、ベル君への贈り物さ」
さぁ、とヘスティアは寵愛の刃を呆然とするベルの胸元に押し付けた。そしていつもの天真爛漫な笑みを浮かべ、彼女は発破を掛ける。
白髪紅眼の、まるで兎のような
「ボク達三人で、あのモンスターをやっつけようぜ!」
「──はいっ!」
△▽△▽
シルバーバックの姿はすぐに見つかった。元々追い付かれ気味で距離的にも近かったこともあるが、やはり一番の要因はその巨体だ。広場で彷徨く相手がまだ自分に気付いていないことを確認したベルは、一度深呼吸をしてから握り締めた得物に目を向ける。
ヘスティアから寵愛の刃と告げられたそれは、見た目だけ言えば幅広く分厚い刀身のショートソードとナイフである。【
だが、それはあくまで外見だけの話だ。
「うぉおおおおおおおお!!」
背中の【ステイタス】が帯びる熱を感じながら、ベルは路地の陰から身を踊らせ、持ち味であるスピードで一気にシルバーバックへ接近した。シルバーバックもまたそんな彼に気付き、振り向き様にその大きな左手を突き出す。そして──
『グァアアアアアアアアア!?』
薬指、中指、人差し指の三本が斬り落とされ、シルバーバックは悲鳴を上げた。その目には困惑の色がありありと浮かんでいる。それも当然だ。先程までベルはシルバーバックの指に傷を付ける程度の抵抗しか出来なかったのだから。
「(いける──)」
傷を負って苦しむシルバーバックに、そして血の滴る寵愛の刃に、ベルは確信した。
「(僕ならこいつを──狩れるっ!)」
ベルは地を蹴る。最早雑魚でなく自らを脅かす存在となった彼に、シルバーバックは両腕から垂れる鎖を滅茶苦茶に振るった。地面が抉れ、噴水が弾け飛ぶ。だが、その鎖がベルを捉えることはない。
「……終わらせてやる」
懐に飛び込んだベルはショートソードを構えた。一度目は失敗した
『ガルルァアアアアアアアア!!』
「──ふっ」
短く息を吐き、ベルは足を踏み出す。振り下ろされたシルバーバックの拳を足場とし、跳躍。その胸へとショートソードを全力で突き刺した。それを受けて、シルバーバックの動きがピタリと止まる。
『ォ……ォオオオ!!』
だが、それもほんの数秒のことだった。ベルの一撃はシルバーバックの魔石を僅かに逸れ、故に即死させることが出来なかったのだ。動き始めたシルバーバックはベルを掴もうと無傷の右手を伸ばす。
そんなシルバーバックに、ベルはニヤリと笑う。左手に握る細身のナイフをショートソードの柄頭へ差し込み、
『ガッ!?』
「終わりだぁあああああああああああああ!!」
ナイフを柄に納刀し、ショートソード元々の刀身に新たな刃が加わったことで、一本のロングソードへと変形した寵愛の刃。ベルはそれを強引に振り抜き、シルバーバックの体を魔石ごと斬り裂いた。魔石を失った体はやがて、大量の灰となって消えていく。
「はぁ……はぁ……」
目の前に積もる大量の灰に、ベルはふっと力を抜いてその場に座り込んだ。上がった息をゆっくりと整え、徐々に沸き上がる勝利の実感にその頬が緩んでいく。
「ベル君っ!」
「わっ!? か、神様!」
「凄いよ! 凄かったよ! やったぜベル君! 流石ボクの眷族だ!」
背中からヘスティアに抱き付かれて前のめりになるベル。しかしその表情は彼女同様、歓喜に満ちていた。ベルがシルバーバックを倒す姿を見ていた人々も次々に彼の勇気を讃え、歓声を送る。
広場は瞬く間に騒ぎに包まれた。新たな英雄の誕生を祝福するように。
寵愛の刃
憧憬に焦がれる少年、ベル・クラネルに送られた無二の「仕掛け武器」
仕掛けにより一本の長剣となる短刀と直剣には、星に由来する希少な隕鉄が用いられている
【
冷たい刃は送り主である女神の想い故か、仄かに温かい
ブラボ風、寵愛の刃テキスト。技量補正は+10でSまでいきそう。
とりあえず『怪物祭』編はここまでかな? 書くとしてもあと一話か、もしかすると書かずに二巻の内容に入っていくかもしれません。早くリリとベル君の話が書きたいなぁ……。
狩人様の
ん、フレイヤ様? バレなきゃ犯罪じゃないのでとりあえず限りなくアウトに近いセーフ。