英雄王《偽》の英雄譚 作:課金王
バビロンに収納されている回復薬を飲む事で、胃を瞬時に治療したギルガメッシュ。
彼は《連盟》と《同盟》両組織のトップと日本の連盟支部でエストニア戦争の件で会談をする為に日本にやって来た。
「お久しぶりです、マスター。
トップの者達は既に会議室に集まっています」
「そうか……」
支部の玄関でアンジェリカと合流したギルガメッシュは、トップたちが待っている第一会議室へと向かった。
社内地図を頼りに3階にある会議室へとたどり着いたギルガメッシュは扉を開ける。
扉を開けると部屋の全貌が視界に入った。
広い室内にある中央の細い長い楕円形のテーブル、奥には巨大なスクリーンが壁に掛けられていた。
そして、卓を囲うように何人ものスーツ姿の者達が座っていた
ギルガメッシュから見て右側が《連盟》左側が《同盟》らしく彼らの前には所属と役職が書かれたプレートが置かれていた。
部屋に入った事で全員の視線がギルガメッシュとアンジェリカに集まった。
初めは、大戦時の姿から全く衰えていないギルガメッシュの容姿に驚きはしたものの、彼の持つ道具を使ったのだろうと割り切った。
彼らにとって、ギルガメッシュの容姿よりもこれから始まる交渉の方が何倍も大事だからだ。
彼らの殆どの視線には、まるで地獄にたらされた一本の糸を見るようで『助けてくれ』と彼らの瞳は訴えている。
彼らはそれほどまでに追いつめられていた。
毎日のように鳴り響く本部への悪戯電話。
さらなるネタを集めようと自宅に張り込むパパラッチ。
そして、ここぞとばかりにネチネチと電話で攻めてくる加盟国。
彼らの胃は荒れ、髪も抜け落ちて色々と限界なのだ。
しかし、同情はできない。
全ては自分たちの利益の為に戦争を引き起こした自業自得である。
ギルガメッシュは彼らの頭に簡易な黙祷を捧げるとスクリーンの前まで移動し、彼らを見渡しながら口を開いた。
「さて……貴様らに集まって貰ったのは他でもない。
条件を飲んで俺を雇うのか雇わないのか?ただ、それだけだ」
一方的なギルガメッシュの言葉の中で
彼らの使命は何としても
しかし、突然ギルガメッシュから放たれる圧力に誰もが顔を伏せてしまったのである。
だが、そんな中で一人だけ、歯を食いしばってギルガメッシュに発言する者が居た。
「《王者》ギルガメッシュ……どうか、譲歩してもらえませんか?」
戦場経験をそれなりに積んでいた老紳士はギルガメッシュを見つめ、冷や汗を流しながら譲歩を願い出る。
しかし……。
「却下だ、こちらは譲る気は一切ない。
こちらの要求が通らないのならば
彼の申し出は、ギルガメッシュに容赦なく切り捨てられる。
ギルガメッシュの返答を聞いた老紳士は体を震わせながら怒鳴った。
「貴方のシナリオ通りに終戦する事と、禁呪指定の永久破棄は飲めます!!
しかし、『エーデルベルク周辺の領有権の買取と建国を認める』とは無茶が過ぎますぞ!!
それに、領有権の購入と建国などエストニア政府が飲むはずがない!!
国土が少ないエストニアの首を絞める事になる!!」
そう、ギルガメッシュが要求する条件はこの三つ。
老紳士の言った二つまでの条件までなら、彼らは喜んで条件を飲んだ。
しかし、三つ目のエーデルベルク周辺の領有権の買取と建国を認める事は世界の秩序を守る組織を
「ふん。無茶だと?貴様、誰に向かって言っている?
買取の交渉はすでにエストニアと済んでいる。
貴様ら自慢の紙切れの様に脆い軍隊を相手にするのも、こうして会談すること自体も煩わしいのだ。
さっさと条件を飲むがいい。
別に断ってくれても構わんぞ?
「なん…だと…?」
ギルガメッシュの言葉で驚愕するトップ達。
彼らの反応は当然である。
エストニアはヴァーミリオンと同等の国土を持つ小国であり発展途上国だ。
世界で勝負できる国産品もない。
緑豊かな事だけが取り柄のエストニアにとっては自殺行為である。
しかし、領地を失って余りあるそれ以上の恩恵が、かの国には与えられる。
まずは領地の買取金額。
両組織から一年以上も搾取した金とギルガメッシュのポケットマネーから出される先進国の国家予算レベルの金。
小国であるエストニアも納得する莫大な金額だ。
次に恩恵である関税ゼロとエストニアが領地を手放す一番の要因である留学生制度。
ギルガメッシュが建国した際には世界中に支部を持つ、大財閥『ウルク』の本社がアンジェリカの魔術によってギルガメッシュの国へと移動する。
これにより、関税ゼロのお陰でエストニアは最新技術の発信源と呼ばれるウルクの製品を安く購入が出来、留学制度によって将来有望な若者が最先端の工学技術を学ぶ事が出来るのだ。
全ては、エストニアの成長と未来ある子供たちが《連盟》と《同盟》の身勝手な命令で戦争へ赴き、命を落とさない未来の為。
エストニア政府は身を切って、自国の未来をギルガメッシュとウルクに投資したのだ。
彼らの高潔な覚悟と思いに当てられたせいだろうか?
買取が内定したその日の夜、エストニアの村にある自宅で軽く涙を流しながら親友たちに電話越して熱く語ったのをよく覚えている。
ギルガメッシュはサラリーマン時代からそういう話に弱いのだ。
当時の事を思い出し、エストニアの事をかいつまんで話し終わると一人の男が体を怒りに震わせながら、下を向いていた顔を上げる。
「馬鹿な!!あの小国は世界平和を何と考えている!!
自国の成長?若者の未来?我々はそれを守る為に命懸けで働いているのだぞ!!」
顔を上げたのは、ギルガメッシュが宝具で変装するローマの太いセイバーに負けずとも劣らない
唾を卓に飛ばしながらエストニアに対する文句を吠える。
その容姿からはとても、何かを守る為に命懸けで働いているとは思えない。
「然り!我々が居なければ第三次世界大戦が幕を開け、
デブに触発されたのか?トップは口々にエストニアに対する文句を吐き出す。
その光景は醜く、その声は自己中の塊で醜悪。
だが、その醜悪な言葉は止まる事になる。
何故なら、彼らの頭部に向けて聖剣に魔剣、槍や斧。
古今東西の武器が黄金の波紋から矛先を覗かせているのだから……。
「返答はイエスかノーだ。早くしろ雑種。」
もはや家畜…いや、ゴミを見るような目で返答を迫るギルガメッシュ。
もし、トップ達がノーと言えば、彼は躊躇なくトップたちを皆殺しにするだろう。
彼にとって今のトップたちは、利用価値がなければ捨てる汚物に過ぎないのだ。
戦装束である黄金の鎧をいつの間にか装備したギルガメッシュの冷徹な紅き瞳を見た老紳士は戦場で経験した事のある命の危機を感じながら、ゆっくりと口を開いた。
「イ…イエス」
脅迫されて条件をのんだ形となったトップ達だが、日本支部をギルガメッシュが去っても誰も文句を口にする者は居なかった。
この日、世界で最も力を持つ二大組織は一人の男に屈服した。
投稿する度に評価が減っていますが、気にせず投稿。
減る評価に挫ける作者さんが多いそうですが、自分も楽しく、楽しんで読んでくれている読者様の為に不定期更新ながらも頑張ります。