英雄王《偽》の英雄譚 作:課金王
エストニア戦争 一年目。
世界中からエストニアの国民の安否が心配される《連盟》と《同盟》による戦争。
現在も憎しみと憎しみが連鎖し、数多の悲劇を生み出す戦場は今……。
「いいぞー。《紅の豚》!!」
「今日も楽しいショーを頼むぜ!!」
「キャハハハ!高ランク騎士の癖にだっさーい!!」
「俺達の税金を貪る《連盟》と《同盟》のクソ共なんかボコボコにしちまえ!!」
「《紅の豚》饅頭はいかがですかー」
世界が注目する世界規模のエンターテインメントとなり、殺伐とした戦場は人々の笑いを巻き起こすイベント会場へと変わっていた。
――――。
何故こんなことになってしまったのか?
それは、デブガメッシュとエーデル武蔵が戦場で暴れ始めた頃に話を戻さなくてはならない。
当初、戦争の始まりと同時に世界はエストニアに同情した。
加盟を断った事で《同盟》に進軍され、それを食い止めようとする《連盟》の軍隊による衝突。
さらに、《連盟》と《同盟》という巨大組織の軍に立ち向かう、第三勢力の二人の伐刀者が現れたのだ。
所属、名前が共に不明の男女。
美しい髪を揺らし、戦場で舞い踊る美しき二刀の女侍。
彼女はその容姿から《サムライ・ガール》または高ランク騎士を気配もなく、あっさり倒す姿から《アサシン》と呼ばれている。
そして、神秘の輝きを放つ三叉槍を扱い、大地と地下の水流を操る
血のように赤いコートを身にまとい、腹と顎の贅肉を揺らしながら両軍の兵士達の攻撃を弾き、槍を振るって両軍をセーフティーゾーンまで押し流したAランク騎士と思われる怪物。
彼はその容姿から《紅の豚》・《鉄壁の贅肉》・《地上最強のデブ》と呼ばれている。
戦場は混乱し、大戦を彷彿とさせ、沢山の死者が無造作に転がる地獄になると予想されていた。
しかし、そうはならなかった。
もちろん、一度は
なのに最終的な死者数とけが人はゼロ。
理由は世界を牛耳っているのでは?と噂されるほどに成長した大財閥『ウルク』の女社長、アンジェリカ・エインズワースが両軍に有料で貸し出した沢山の
お陰で、数か月後には混沌とした戦場で死者とけが人が共にゼロと世界中のニュースに取り上げられる事になり、
ただ、このニュースを世界中のテレビで見た視聴者達からは《エストニア戦争》を《なんちゃって戦争》と呼び始めた。
初めは視聴者たちもカプセルや学生騎士が凄いと人類の科学の結晶と学生騎士の才能に感心してニュースを見ていた。
しかし、数か月ほど戦争が続くと世界中の…特に《同盟》や《連盟》の加盟国に住む視聴者達の関心は怒りに変わってくる。
もちろん、戦争で死者が出たわけではない。
問題はカプセルのレンタル料と戦場で壊れた際のメンテナンスだ。
両軍は百機を超えるカプセルを格安とは言え、毎月億単位の金をウルクに支払っている。
これだけなら毎年、加盟国から徴収する組織の運営資金から出せるし、想定された期間内に落としどころを見つけて戦争を終わらせれば、資金的には問題なしと両軍のトップたちは判断していた。
しかし、彼らが計画していた調整できる戦争は計算を狂わせるデブと美女が現れた事によってご破算となった。
彼らが暴れまわる事によって、毎日のように数百人規模で行われるカプセルの連続使用。
それによるシステムエラーや、痛みで暴れる兵士によって起こる部品の破損。
これらによって積み重なったメンテナンス費が数百億単位となり、レンタル料とセットで両軍は当初の予定になかった巨額請求を毎月されるようになったのだ。
値下げ交渉をウルクのアンジェリカ・エインズワースに願い出てみるが失敗。
両組織の交渉人たちは悉く、あしらわれてしまう。
これらの出費は税金であり、何の戦果も挙げずにウルクに吸い取られていく事実に危機感を感じたトップたち。
彼らは、この事実の隠ぺいを図るも
世界に広がった、両組織による数百億単位の出費の隠蔽。
この事実が世界にバラまかれた事によって、加盟国の国民達は怒り狂ったのだ。
そして、怒り狂った国民の一部は戦場にデモ隊として、軍を罵倒。
それに釣られ、デモ隊に紛れて高ランク騎士をバカにして自尊心を満たすドキュン達。
《連盟》と《同盟》の連合軍には興味ないと、《サムライ・ガール》を応援する為のファンクラブと《紅の豚》の弟子になろうとやって来た太い男達。
そんな人々に商売をする商魂が逞しい商人達。
日に日に、戦場にやって来る人々が増えて戦場はついに、《同盟》と《連合》を罵倒して楽しむエンターテインメントとなったのだ。
これにより何が目的だったのか、すっかり分からなくなった事と野次馬達の罵倒で下がる兵士の士気と、さらなる出費を抑える為にゆっくりと減っていく物資。
死者は出ないが精神を病む者が続出し、軍から逃亡する兵も増えていく。
なのに、戦争は終わらない。
いや、何かしらの戦果を世界に証明せねば終わる事が許されないのだ。
もし、たった二人の人間に敗戦したとなれば、組織の権威だけではない。
加盟国を守護するという《同盟》と《連盟》の存在意義も無くなってしまう。
利益を得るための戦争は利益を求めた組織の首を絞める結果となったのだった。
―――――。
戦争一年目の今日、装備を外してデブガメッシュからギルガメッシュに戻った彼はパソコンの画面を前にほくそ笑んでいた。
評判と信頼を失墜させて、弱っていく気に入らない組織の連合軍に、個人のネットバンクに毎月振り込まれる巨額の金。
予想よりも過剰であったが、おおむね彼の計画通りに事は進んだ。
「さて、予想以上に早く組織は疲弊し、金も稼げた。
そろそろ、計画の最終段階に進もうと思うが……お前はどう思う?」
『そうですね。マスターの言うように最終段階に進めてもよろしいと思います。
恐らく、これ以上の攻撃は組織の解体と共に世界が混沌とするでしょう』
ギルガメッシュを除いて誰も居ない村の自宅。
一人っきりの彼の言葉の後に、パソコンの隣に置いてあるケータイから発生する感情の薄い女性の声。
彼女こそ三人目の高ランク自動人形、アンジェリカ・エインズワース。
「そうか…では、さっそく本部で火消しに慌ててる《連盟》と《同盟》トップ共と連絡を取れ」
『イエス、マスター』
ギルガメッシュの命令を承諾した人形は、簡素な返事と共に電話を切る。
「ふん。外伝に忠実とはいえ…本当に感情が薄い人形だ。
あの二人ほどではなくとも、もう少し感情表現があれば……いや、言っても仕方がない事か」
スマホの電源を落とし、パソコンの画面を眺めて笑うギルガメッシュ。
「ククク…喜ぶがいい、雑種共。
すぐにでも戦争を終わらせる
まあ、当然ダダでは動かないがな」
ギルガメッシュの目的を完遂させる計画の完了まで……あとわずか。
「やべえよ……どうなってんだよ…これ?
上手く行きすぎだろ?…胃がいてぇよ」
やけくそ気味で頑張っていた英雄王《偽》の胃が悲鳴を上げる。