英雄王《偽》の英雄譚 作:課金王
子ギルとなった、ギルガメッシュによるギルブートキャンプ。
それは、彼女の身体能力が向上する度に進化していった。
脂肪を燃焼させる有酸素運動に加え、実戦による筋力増強。
魔法のテーブルクロスによる美容と健康、さらに成長促進が考えられた食トレ。
バストアップ体操にヨガ。
ギルブートキャンプを始めて一年。
11歳となった彼女の体は激変した。
モデルのようなスラリとした足にくびれたウエスト、バストは地獄先生の生徒と並ぶDカップへと超進化を果たした。
彼女は見事に
そして、周りの少年たちの熱い掌返しが再び、炸裂した。
『今まで辛く当たっていたのは、〇〇が命令してきたせいなんだ』
『悪口を言っていたのは君に対してじゃない。近所の〇〇に対してだ』
などと、意味不明な言い訳を並べ立て、今までの事を謝罪し、あわよくば仲良くなろうと近づき始めた。
さらに、神経の太い少年は激太りする前と同様にラブレターと甘いお菓子を彼女の家のポストへ入れるようになる。
当然、エーデルワイスに返事をする気など一ミクロンもなく、ラブレターは冬の暖炉で使う着火剤として細切れにされ、お菓子は未開封な物はご近所の幼児達へプレゼントされた。
開けた痕跡のあるものは中身を確認することなく、すぐにゴミ箱へと投げ捨てられた。
再び、美少女の栄光を取り戻したエーデルワイスは大人顔負けのスタイルから、村の独身男性の注目の的になった。
生まれ変わった彼女の姿にロリコンに目覚めた成人男性は少なくない。
しかし、エーデルワイスは一人を除いて村の男達に興味を示さなかった。
むしろ、彼以外の男は見た目が変わっただけで、発情する犬畜生にも劣る存在であると彼女は思っている。
そんな、お高く留まっているようにも見えるエーデルワイスだったが女子受けは悪くない。
むしろ村の女性たちは尊敬の念さえ抱いていた。
彼女の母親を含め、どんどん美しくなっていくエーデルワイスを見て村の女性たちは彼女のダイエットを見学した事がある。
村の女性たち全員が見学に乗じて、ギルに頼めば自分たちも……と考えての見学であった。
しかし、彼女のダイエットはもはやダイエットと呼べる代物ではなく、究極の美と強さを手に入れる為の修行と肉体改造だった。
獣が居る山と村を往復し、休む間もなくバストアップ体操と体を整えるヨガ。
模擬戦闘に至っては、ギルとエーデルワイスの衝突により地面が抉れ木々が吹き飛んだ。
あまりにも衝撃的な光景に自分たちには到底無理と判断した彼女たちは、簡単なバストアップ体操と脂肪を燃やす有酸素運動だけをギルに教えてもらって、大人しく自宅へと帰って行った。
故に、村の女性たちはエーデルワイスの美貌は努力の賜物であり、これからどんどん美しくなるであろう彼女を妬むのは愚かな事だと悟ったのだ
だから、村の女性たちは少女であるエーデルワイスを一人の女性として尊敬し、ダイエットの助言を聞いたり食トレについて語り合うダイエット仲間となったのだ。
実際に効果を体感した彼女の助言によって、上手く行かなかったダイエットとバストアップに成功し、都会での合コンで大勝利。
村の若い女性達はイケメンな旦那を捕まえたり、逆玉に成功したりと華々しい戦果を挙げていた。
中には都会で洋服を買っている途中で芸能事務所にスカウトされ、モデルとなった人も居る。
以降、ギルガメッシュはダイエットの神として村の女性たちに崇められ、エーデルワイスはダイエットの先生として女性人気を不動な物としたのだった。
――――。
ダイエットの神として、時々お祈りとモテない男達に呪詛を吐かれる程度の変化以外は何も変わらないギルガメッシュの生活。
エーデルワイスのダイエットに付き合い、畑仕事をする。
そんな日々の中でギルガメッシュのスマホが自宅で鳴り響いた。
スマートフォン、略してスマホ。
これは、地球に住む少年が異世界でスマホを使って美少女ハーレム作るアニメのコラボアイテムをギルガメッシュの会社の研究員が解析し、可能な限り再現した普通の携帯電話である。
発売と同時に最新の固定電話を置き去りに、一大ブームを巻き起こした新商品だ。
ギルガメッシュがアラームのなるスマホに気づいて、テーブルから手に取ると……。
着信相手は親友
久しぶりの親友からの連絡に心躍らせたギルガメッシュは通話ボタンを押した。
「やあ、龍馬。お久しぶりです」
『……すみません。間違い電話です』
親友の久々の会話はわずか数秒で切られた。
まあ、龍馬は彼が子供になっている事を知らされていなかったのだから仕方がない。
全面的に龍馬に伝えていなかったギルガメッシュが悪い。
切られてから数回、電話を掛け続け何度も本人証明の問答を繰り返した所でようやく信じてもらえたギルガメッシュ。
彼は一時間を掛けてようやく用件を知る。
『実は
「へ~、半端な奴は弟子にしないと公言していた寅次郎がですか……。
それは中々に興味深いですね。
彼も歳ですし、嫁探しから弟子探しに変更したんですかね?」
『はっ!中身が中年のてめぇが何を言ってやがる。
家に来たらどんなちんちくりんなガキになっているか拝んでやるぜ!
後、お前には渡したい物があるからちゃんと来いよ!!』
用件を伝えるだけ伝えた龍馬は楽し気な様子で電話を切った。
彼の息子も結婚し、孫もプロの魔導騎士として活躍し始めたのに、まだまだ元気な親友に笑みがこぼれるギルガメッシュ。
しかし、気がかりなこともある。
渡したいものってなんだ?
酒やつまみを送ったり、貰ったりした事はあったが時期は決まっている。
この時期に渡される物が何なのか、ギルガメッシュには心当たりはなかった。
少しだけ、頭を悩ませたが当日になれば分かると割り切り、エーデルワイスの為に自主トレメニューの制作に取り掛かった。
翌日。
エーデルワイスに自主トレメニューを渡した彼は宝具によって光学迷彩が施された、《ヴィマーナ》に乗って黒鉄邸へと訪れた。
「お前さん…本当にガキになってるな。
俺はてっきり、変声機か何かで声を変えているもんだとばかり……」
「……信じていなかったんですか?」
「いや~、最近ドッキリが流行っていてな。
正直、お前さんのも冗談だと思っていた」
三人が集合するいつもの別邸で待っていた龍馬はギルガメッシュの姿を見て驚いた。
何と彼はギルガメッシュの悪戯かドッキリの類だと思っていたのだ。
それなのにギルガメッシュ本人が本当に小さくなり、戦場でよく乗っていた空飛ぶ船でやって来たのだ。
これには龍馬もギルガメッシュの言葉が本当だと信じるほかなかった。
「せっかく、来る途中で松坂牛をお土産に買ってきたのですが……。
いらないみたいですね」
「俺が悪かったって!こんなことで拗ねるなよ。
…見た目だけじゃなくて中身も子供になったのか?」
「失礼ですね。精神が肉体に引っ張られているんですよ。
それに…怪しい俺様系の男よりも、品行方正な子供の方が色々と便利なんですよ」
ギルガメッシュが言ったように、大人の姿で仮に村に移住しようとした場合。
村人たちは拒否していただろう。
よそ者の上に世界的に有名な伐刀者。
小さな村には害悪でしかない。
しかし、子供の姿なら向こうが何かしらな事情を村人たちが妄想し、手厚く迎えてくれるのだから手間もない。
村人たちを騙している様なものだが、あの村には様々な知識や宝具によって多大なる恩恵を与えている。
お互いにウィンウィンな関係と言える。
それに、自分の事で何かあれば正体を晒して、全ての責任を取る覚悟をギルガメッシュは決めていた。
どんなに村に貢献しようともエーデルワイスを含め村人全員を騙している事には変わらないからだ。
余談ではあるが、この後、焼肉パーティ―を楽しんでいた二人の元にもう一人の友人である寅次郎が到着する。
彼は、残り少なくなった肉と小さなギルガメッシュを見て驚いた。
もちろん彼が一番に驚いたのは鉄板で焼かれる少なくなった肉であった。
ギルガメッシュについては……もうコイツなら何をしてもおかしくないと開き直ったらしい。