英雄王《偽》の英雄譚 作:課金王
エストニアへと逃げるようにして帰って来たギルガメッシュは、手に入れた
ロリコンとドMなんて業が深すぎる性癖の扉は開かなかったが、精神的にだいぶ追いつめられているようだ。
そんな彼を見て、一週間モヤモヤソワソワしながら待っていたエーデルワイスは色々と彼に聞こうと思っていたが、彼の体調を優先して聞くのを止めた。
彼女は自身の事よりも好きな男を優先できる良い女なのだ。
「どうですか?」
「ああ…本当に美味い」
疲れた彼の為に母に教わった疲労回復におすすめの温かいスープを作り、自宅から取って来た自家製のパンをギルガメッシュの前に出すエーデルワイス。
料理に釣られたのだろうか?
ぐったりとした体を起こし、エーデルワイスの作ったスープを飲んで家庭の味に癒されるギルガメッシュ。
そして、見た目は若いのに内面同様におっさん臭くなるギルガメッシュを優しい笑顔で見るエーデルワイス。
エーデルワイスに母親のように見守られながら、パンとスープを残さず食べたギルガメッシュはエーデルワイスへ感謝し、自室で一人眠る。
この日の夜は少しだけ両親の事を思い出し、ちょっぴりセンチメンタルな気分になるのだった。
ー翌日ー
連盟と同盟の両軍の兵士の為の休暇期間が終わり、戦争が再開された。
休みで体力を回復させた兵士達の表情は明るい。
勿論、体力が回復したからではない。
この、戦争にエストニア政府が雇った『傭兵』が参戦すると世界中に生放送で発表されたからだ。
参戦するのは行方不明となっていた日本の英雄、《王者》ギルガメッシュとその弟子。
この情報と二人の画像をエストニア政府が発表した際に、同盟と連盟の兵士たちは英雄の参加に喜び、世界は驚いた。
兵士達は勝機を、世界は行方不明だった英雄が昔と変わらぬ姿で現れた事。
そして、何よりも世界が注目しているのは英雄の弟子であるエーデルワイスの実力と世界的に有名な女優すらも霞むその美貌。
彼女は世の男達を魅了した事で、『あの娘は誰だ!?王者との関係は本当に弟子か!?』等と色々と騒動になっている。
彼女の登場で一番騒いだのはエストニア戦争の野次馬である《好き好きサムライちゃん》。
略して《SSS》である。
彼らはエーデル武蔵である《サムライ・ガール》を信仰する信者たちだった。
強い団結力を持ち、エーデル武蔵の応援の為に自分達が作ったオリジナル応援ソングを歌って踊るファンクラブ。
海外にはエーデル武蔵のフィギュアや僅かに彼女が写った写真からブロマイド制作し、世界に向けて販売をしている。
ちなみに売り上げは、グッズの制作費とエストニア戦争によって村から避難し、仮設住宅に住むことになった村人達に『サムライちゃんが喜んでくれるかも!!』と募金している。
人数の規模は日に日に増えていき、今ではファンクラブの会長と幹部クラスが所属する『現地応援班』。
テレビとネットでサムライちゃんの情報がUPされるのを待ち、UPされたら現地に情報を送る『情報班』。
そして、サムライちゃんグッズを制作・販売・募金を行う『グッズで応援班』。
肖像権とか色々とダメな事をしている彼らは色々とギリギリだ。
これ以上何かすれば警察がやって来るだろう。
しかし、彼等が好きなサムライちゃんの情報を得る為にテレビとネットにかじりついている《SSS》情報班がギルガメッシュとエーデルワイスの情報をキャッチした。
『サムライちゃんの敵になるヤ〇チンとビッチだ!!』
重度のサムライちゃんファンである情報班の班長は、真っ先に上記の文面と画像を現地のファンクラブ会員にパソコンで一斉送信した。
戦争が再び再開した時、彼等のアイドルであるサムライちゃんに敵対する二人をブーイングし、口汚く罵って物を投げつける事を期待したからだ。
しかし、班長の願い通りにはならなかった。
何と、驚くべきことにファンクラブの《にわかファン》達が幹部たちに反逆した事で、内乱が発生したのだ。
幹部クラスが二人のアンチを考える中、重度のファンではない現地人の《にわかファン》が幹部クラスの考えるアンチ作戦に反対したのだ。
『現地応援班』には幹部クラスを除くと重度のサムライちゃんのファンは居ない。
なぜなら、誰もが彼らの様に自宅警備員という職を捨てたり、有給を取ったり、無断欠勤出来るわけではないのだから……。
よって、『現地応援班』は時間と共に現地の《にわかファン》によって構成され、重度のファンが消えてゆく。
この状態を例えるなら、家を大きくする為にリフォームするが、リフォームの度に弱くなっていく欠陥住宅だろう。
その、すっかり脆くなった組織は、美しき銀髪美女の画像によって崩壊した。
平会員の謀反によって、著しく勢力を失った《SSS》。
銀髪美女という新風にウハウハする者達と《二人とも愛せばいいじゃない?》という博愛主義者達。
一つの目的に集まっていた男達がそれぞれの道を歩み出した事で衝突する。
論争から始まり、最終的には殴り合いに発展した彼らは戦争による被害を抑える為に、他の野次馬達と共にエストニアの軍隊によって強制退去させられる事になった。
―――。
戦場から離れた場所で野次馬達が退去する姿を観察する、黄金の鎧を身にまとうギルガメッシュと
「まさか、戦争が始まる前から一部で暴動が起こるとは……エストニアの軍もご苦労な事だ」
「ええ、全くその通りです。彼らは戦場を遊び場か何かと勘違いしている」
彼等はエストニアの傭兵としてアピールする為に小規模であるがエストニア軍の兵士達と行動を共にしていた。
「野次馬達を退去させました!!」
若い男の兵士が見事な敬礼を見せて報告すると同時に、チラチラとエーデルワイスのへその辺りに視線をさまよわせる。
男の悲しい習性だ。
ギルガメッシュは彼の視線の動きを見なかった事にした。
エーデルワイスは彼を道端に転がる石ころでも見るようにチラっと見ただけだ。
「そ、それと、緊急報告です。
どうやら……連盟と同盟がゆっくりとこちらに向かって来ているそうです」
「なんだと?
「はい、こちらが抗議の連絡を入れると……両軍の指揮官が共に『通信機が故障して、間違った命令が伝達されたようだ』と」
「チッ。つまらん嫌がらせをしてくれるものだ」
「ギル。私が追い返しますか?彼等程度なら大した労力になりません」
エーデルワイスの言葉を聞いて顎に手を当てて考えるギルガメッシュ。
彼は十秒ほどそのままで居たが、ニヤリと笑いだす。
「よい、
「いいのですか?」
「ああ、せっかく無傷で戦争を終わらせてやるチャンスを自ら不意にするのだ。
奴らにはまた、メンテナンス料を払ってもらう事にしよう。
それに、一週間の地獄を見た事で得た
エーデルワイスとの会話を終えると一瞬だけ幼女との嫌な思い出がフラッシュバック。
ブルリと軽く震えた後、不思議そうなエーデルワイスの視線が突き刺さるが、何事もなかったかの様にパチンと指を鳴らすギルガメッシュ。
これにより、戦場の真ん中に二つのバビロンの門が展開され、展開された門から現れる二人の戦士。
エーデル武蔵とデブガメッシュだ。
「さあ、戦争の再開だ。
せいぜい、金を稼いでくると良い《贋作》共」
全ての読者様に感謝して十話を投稿。
前回は、未熟な作者のせいで振り回してしまい申し訳ありませんでした。
感想で応援の言葉をくださった読者様、本当にありがとうございます。
誤字脱字や文章がおかしい未熟な作者ですが、これからも応援よろしくお願いします。