英雄王《偽》の英雄譚   作:課金王

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プロローグ

MMORPG『フェイト/ワールドオーダー』

 

数多に開発されたダイブ型ゲーム『PS(プレイヤーステーション)10』の大人気ソフトである。

 

プレイヤーはフェイトシリーズに登場するサーヴァントとなって、あらゆる時代と広大なフィールドで戦い、プレイヤー同士の戦いである聖杯戦争を生き抜く魅力あふれるゲームだ。

彼、坂口(さかぐち) (わたる)もこのゲームに魅了された一人。

 

社会人プレイヤーで、普通のサーヴァントよりも育てるのに数倍の経験値と鬼畜な難易度を誇るギルガメッシュを選択する訓練されたファンであり、安い給料をギリギリまでゲームにつぎ込む数少ない哀れな廃課金プレイヤーである。

 

普通に会社に勤め、好きなゲームに金を溶かす毎日。

 

酒も付き合い以外には飲まないし、ギャンブルもしない。

普通の社会人であり、大麻や危険ドラッグの使用もしていない。

 

だが、そんな彼にあり得ない出来事が発生した。

それは、本当に一瞬の出来事だったのだ。

 

集めた宝具を奪われないように細心の注意を払いつつ、課金アイテムを駆使しながら6時間ほど、ランスロット(バーサーカー)を何度も倒し、激レアスキルをようやく獲得した瞬間。

彼の目の前の空間が裂け、広がったそれは周りの光景とは別の景色を映し出していた。

目の前の光景はまさに荒野の戦場。

 

砲弾と銃弾が飛び交う地獄であった。

 

「また何かのバグか?」

 

このゲームはイベントの度にエラーやバグが発生し、メンテナンスが多い事でも有名であった為、渉は特に気にする事無く、運営に連絡を取る為にコンソール画面を開いた。

 

渉が運営と連絡を取った……その瞬間。

彼は裂け目の中へと引っ張られてしまう。

 

「えー、なんか他のエリアにつながっている感じで…うおっ!?」

 

突然の出来事で、回避も留まる事も出来なかった彼は無抵抗のままに掃除機に吸われる埃の様に裂け目の中に吸い込まれた。

頭から吸い込まれ、そのまま飛び出した彼は顔面から草の生えない地面へと直撃する。

 

「ブヘッ!?」

 

醜い声を出し、顔面の痛み(・・)に悶絶する渉。

 

「いたたた……」

 

痛む顔面を両手で抑えながらゆっくりと起き上がる。

 

「ちくしょう…ベッドから落ちてダイブギアが外れたのか?」

 

片手を顔面から放して、痛みで閉じていた瞳を開ける渉。

顔面の痛みで、ゲームから切り離されたと考えて居た彼は絶句した。

 

「は?ま、まだ、ゲームの中に居るのか?」

 

彼が見ている光景はさっき自分が観察していた裂け目に映っていた光景だった。

銃弾と砲弾が飛び交い、地面に着弾しては大きな音を立てて、土を吹き飛ばす。

 

「は、早く戻らないと!!」

 

ゲームのシステム上絶対にありえないはずの痛みを感じている異常事態に本能が警報を鳴らす。

ここに居てはならないと。

後ろにあるであろう亀裂に向けて、勢いよく振り返る渉……。

 

しかし…。

 

「な…ない?」

 

そこには何もなかった。

裂け目も、さっきまで居たランスロット(バーサーカー)の出現エリアも何もない。

居るのは、血の付いた刀を持ってこちらを見ている一人の侍風の男と青い瞳を見開いたまま、地面に倒れて血を流す軍服を着た金髪の男。

 

そして、そのまま侍風の男と見つめ合っていたのだが、動けない渉に呆れた侍風の男は頭を掻き始め、一人で語り出す。

 

「《次元切り》のマックーサーの残した斬撃から、おかしな奴が出てきやがった……」

 

「…《次元切り》?」

 

「おうよ、このマックーサーっていうアメリカ軍大佐は次元を切り裂き、遠くに移動したり兵隊を呼ぶ事の出来る有名な伐刀者(ブレイザー)だ。

だが……死に間際に放った斬撃で呼んだのが、まさかお前さんのようなおかしな奴とは……。

巻き込まれた感じのお前さんにはワリィが、マックーサーが不憫だよ」

 

今の状況が理解できずにオウム返しで言葉を返す、渉に律儀に答える侍風の男。

彼はため息と共に、憐れむような瞳でマックーサーと呼ばれた男を見つめていた。

 

「で?お前さんはどうするんだい?

アメリカ人みたいな金髪だが瞳は紅く金ぴかな鎧を着ているし…アメリカ兵ではないんだろ?

ヴァーミリオン皇国あたりの人間か?」

 

「ヴァーミリオン皇国?」

 

聞いたことのない国名に首をかしげる渉。

その様子に呆れを通り越して、頭を押さえる侍風の男。

 

「ほ、本気か?小国とは言えそこそこに有名な国だぞ?

まさか、次元の裂け目から出て来た時に頭を強く打ち過ぎたか?

アイツ、勝負の後にとんでもねぇ置き土産を残していきやがった……。」

 

地面を見つめて項垂れる侍風の男。

彼はしばらく戦場で項垂れた後、渉に歩み寄って来た。

 

「とりあえず、日本語がそれなりに堪能みたいだから日本軍が駐屯している安全な所まで運んでやるよ。

それだけ日本語が喋れるなら悪いようにはされないだろ」

 

「に、日本軍?」

 

歩むの腕を引っ掴み、速足で歩き始めた侍風の男の言葉に疑問を浮かべる渉。

それは仕方のない事であった。

渉の居た時代では日本軍は第二次世界大戦の終わった数百年前になくなっており、日本に居る軍隊は国を守る自衛隊だ。

 

伐刀者(ブレイザー)というわけの分からない単語で頭が混乱しているが彼の次に口にした単語で一つだけ分かった事がある。

 

それは……。

 

「おうよ、第二次世界大戦で活躍する最強の日本軍兵士!!

《サムライ・リョーマ》とは俺の事よ!!」

 

そこそこの違いはあれど、タイムスリップをしたらしいという事だ。

 

 

――――。

 

 

第二次世界大戦。

 

日本の勝利となったこの戦争の立役者達が居る。

 

一人は大戦初期にアメリカ艦隊を輪切りにして海に沈めた事で世界にその名前を轟かせた《サムライ・リョーマ》と呼ばれた黒鉄(くろがね) 龍馬(りょうま)

彼が、大戦時中盤のアメリカ本土での戦いでアメリカ軍最強の男《次元切り》と恐れられるマックーサー大佐と三日三晩の戦いを繰り広げ、人の居ない森を荒野に変えたのは有名な話だ。

他の兵士たちは援護射撃だけで精いっぱいだったそうだ。

 

そして、もう一人は《サムライ・リョーマ》の好敵手(ライバル)

 

《闘神》の異名を持つ男 南郷(なんごう) 寅次郎(とらじろう)

自身の存在を大戦終盤まで明かす事なく、アメリカ軍の要人を暗殺し、

自身の正体が感知された後は、戦場にてアメリカ兵を龍馬と共に敵をねじ伏せた。

 

 

そして、《サムライ・リョーマ》がマックーサー大佐との戦いに勝利した時に出会った男。

 

彼が最後の立役者。

 

死ぬ間際に放ったマックーサー大佐の斬撃によって生まれた次元の歪から出て来た金髪に紅の瞳。

黄金の鎧を着た全身が黄金の男。

 

ギルガメッシュ。

 

彼は平和な地で過ごして居たのだが、マックーサー大佐の攻撃により、問答無用で戦場に拉致された非戦闘員だった。

しかも、技の衝撃で彼の記憶の大部分が失われてしまった。

 

彼の状態を見た、我らが《サムライ・リョーマ》は彼を日本軍の駐屯地まで連れ帰り、保護した。

 

そんな彼の優しさに感銘を受けたギルガメッシュは日本軍に志願して、日本軍を爆撃をしようと飛んでいたアメリカ空軍を壊滅させた。

何者も寄せ付けず、一つの動作で百を超える武具が戦闘機を撃墜させる姿はまさに《王者》。

 

彼ら三人こそが我ら日本を戦勝国へと導いた大英雄である。

 

 

…………。

 

 

「である…ではないわ!!このたわけ!!」

 

戦勝から数年。

日本の東京に建てられた豪邸から一人の男の怒鳴り声が響く。

そう、声の主は豪邸の家主にして日本の英雄にされた渉…いや、ギルガメッシュだった。

彼は庭先で読んでいた本を怒りに任せて真っ二つに引き裂き、芝生の生えた地面にたたきつける。

 

「おいおい、気持ちは分からなくはないが人が持って来てやった本を破いて捨てるなよ」

 

そんな彼に苦笑しながら近づき、真っ二つになった本を拾い上げる着物姿の男。

黒鉄龍馬だった。

 

「元をただせば、あんな場所に俺を連れて行った貴様の責任だろう!!大体何が『優しさに感銘した』だ!!

俺の力を知って、協力しなければ処刑すると言って集団の伐刀者(ブレイザー)で取り囲んでいたであろうが!!

あれは、脅迫と言うのだ!!脅迫と!!」

 

そう、保護された彼は調書と一緒に身体測定という名の伐刀者(ブレイザー)の能力テストを受けさせられたのだ。

それに、幸か不幸か、彼の身体能力と魔力はアバターのステータス通りであった。

故に、彼は魔力量ランクAをたたき出し、民間協力者として強面の兵隊達にお願い(・・・)されたのだった。

 

パンピーだった頃の彼には、しばらく夢見に影響するほどのトラウマだったのだ、彼が怒りを覚えるのも無理はない。

 

まあ、そんな彼も戦場に立ち続けたお陰か、度胸やらが色々と付いて軽くギルガメッシュ化もしたようだ。

 

「まあ、それはそれとして、今度3年目の戦勝記念祭をするらしいが……お前さんはどうする?

婚約の申し込みも多いみたいだから、そこで嫁でも探すか?なんだったら手伝うぞ?」

 

大戦が終了したのちに恋人と結婚した龍馬はニヤニヤしながら嫁探しの手伝いを申し出た。

ギルガメッシュには戦勝記念祭にはろくな思い出がない。

それは、記憶がないと公表されている彼に祭りに乗じて自称家族・恋人が殺到したり、婚約を申し込む権力者の娘に毎回もみくちゃにされ、ひどいストレスを抱える事になるからだ。

ギルガメッシュは分かっていてニヤ付く友人の姿にため息を吐いた後、何もない空間に出現した黄金の波紋から空飛ぶ船《ヴィマーナ》を呼び出した。

 

「悪いが、身に覚えのない自称家族や名声や金目当ての女には興味はないのでな。

俺は世界を旅する事にした、故に祭りには参加する気は毛頭ない。

あのアホ総理に伝えておけ」

 

「カッカッカッカ!初めて会った時に比べて面白くなったじゃないか!!

俺も修行の旅に出るつもりだからな。

英雄が二人も居ない祭りなんて、きっと総理大臣の度肝を抜けるぜ」

 

「クックック。そうか、祭りは例年通り全国に放送される可能性が高いからな……。

きっと、テレビを点ければ青筋を浮かべた珍しい総理大臣が見れるだろうよ」

 

お互い、悪戯小僧の様に笑う二人の英雄。

偽物の黄金の王は空飛ぶ船に乗り込み、友である最強の侍は黄金の王を見送った。

 

この日以降、黄金の王である《王者》ギルガメッシュは世界から姿を消した。

 

 


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