現代に生きる恋姫たち   作:MiTi

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中編です。どうぞ・・・


雪蓮と冥琳の中編

『──他に質問のある方はいらっしゃいますか?』

 

その場は静寂に包まれていた。

その講演を聞いていた者は、ステージにいる女性に唖然としていた。

 

その女性は事前に教授から聞かされていた話や、

講演を聞くにあたって調べた彼女の職歴とは合致しない、

気さくな人物だった。

 

最初に教授に紹介され、

ステージに上がった時は会社の副社長らしい厳格な表情であったのだが…… 

講演が始まると一転、笑顔を浮かべて話し出したのである。

 

「……他にいないようですね」

 

『それでは、これで加東蓮雪様の講演を終わりにいたします。

 本日はご多忙の中お越し下さいまして、ありがとうございました』

 

「いえいえ、私としましても有意義な時間を過ごす事ができました。

 ありがとうございました」

 

『ありがとうございました。

 加東様が退場いたします、盛大な拍手でお見送り下さい』

 

 

 

 

「……はぁー! やっと終わったー!」

 

「お疲れ様だ、雪蓮副社長殿」

 

ステージの袖に引っ込み、近くの控え室に来た途端に、

副社長こと加東蓮雪は盛大に息を吐く。

 

先程まで講演を行っていた気さくながらも厳格な副社長はどこへやら…… 

と言った感じに体の力を抜き、

近くに備え付けられているソファーにどっかりと座り込む。

 

その後は彼女の秘書からコーヒーを受け取るが、

蓮雪はお酒は無いのかと文句を垂れていた。

 

「……こんな所に持ってくるわけないだろう」

 

「ぶー、いじわる……」

 

「そうは言うが雪蓮、まだ仕事中なのだが?」

 

「じゃあ、仕事が終わればいいのね?」

 

「そういう問題では……」

 

蓮雪はコーヒーを飲みながら秘書と冗談交じりの話を続ける。

 

そうしてしばらく話していると、控え室の入り口から、

彼女等の学生時代の教授が姿を現した。

 

彼らは現在でも付き合いがあり、この日の講演も、

彼が蓮雪をこの学園祭に招待した事によって叶った代物であった。

 

未だにコーヒーを飲む蓮雪を尻目に、

彼女の同期でもある蓮雪の秘書は真っ先に挨拶へと向かっていた。

 

「お久しぶりです、教授。本日はお招き頂いてありがとうございます」

 

「こちらこそ、来てくれた事に感謝するよ。 

 ……正直な話、あまり乗り気ではなかったのだろう?蓮雪君?」

 

「いいえ、決してそのような事は──」

 

「直前まで

 『嫌だー、行きたくないー。休みの日くらい朝からお酒を飲ませなさいよー』

 と言っていたのは何処の誰だったかな?」

 

「うっ……」

 

「ハッハッハ、変わらないね、君達は」

 

「えぇ、お恥ずかしい話なのですが、副社長がこんなんですから」

 

「ちょっとー、こんなんって何よー!」

 

「ですが今日は貴重な休暇です。

 この後は文化祭を楽しむ事にします」

 

「人の話を聞きなさいよー!」

 

などと暢気に会話を交わす。

 

数年ぶりの再開だった為に話題は尽きなかったが、

教授は別の用事があるので抜け出そうとした時、

思い出したかのように懐から1枚の紙を取り出した。

 

「そういえば、教え子の一人からこんな物を預かっているよ」

 

「なんでしょうか?」

 

蓮雪と秘書はその紙を受け取り、一緒に見る。

 

若干の殴り書きに何処かの電話番号と文章が書かれていた。

 

「なんでもその友人が君達に会いたがっていると言っていたな。

 名前は確か…… ホンゴウカズトと言ったか」

 

「っ!?」

 

「私はこれで失礼する。久々に話が出来て楽しかったよ。

 また、何か会ったらよろしく頼むよ」

 

「あ、はい。 ……では」

 

教授の口から出た名前に二人は唖然としていた。

 

「……どう見る、雪蓮」

 

「……恐らくは本物ね。私の勘がそう告げているもの」

 

「……雪蓮がそう言うのならばそうか。なら早速」

 

「ちょっと待って」

 

蓮雪は秘書が携帯電話を取り出した所で待ったをかける。

 

秘書は彼女の行動が理解できなかったが、

一方の蓮雪は子供のような笑みを浮かべていた。

 

 

side.カズト

華琳と別れてから、適当に大学構内をぶらついてしばらく。

雪蓮(かもしれない)からの連絡を待たないといけないが、

暇を持て余すこととなってしまった。

 

友人に託した俺のメモは、しっかりと教授に渡したというので連絡に関しては何の問題もないはず…… 

なのだが、雪蓮が記憶を思い出しているかは正直怪しい所だ。

 

むしろ、これまで出会った転生者全員が、

前世の記憶を思い出しているだけでも奇跡の産物だ。

現在の雪蓮は会社の副社長という立場であり、

果たしてたかが一介の学生にしか過ぎない俺に取り合ってくれるかどうかは、

いささか疑問ではあるのだが……

 

「……まぁ、そんな事を気にしてもしょうがないな」

 

連絡が来ないのならばそれでもいい。

後日、どうにかして別の方法でコンタクトを取ればいいし、

仮に前世の記憶を思い出したのならば、その時はその時で連絡が来ることだろう。

 

「……そういや、蓮華に連絡すんのを忘れてたな」

 

株式会社ブンダイの副社長、加東蓮雪…… 

こと雪蓮の事を知ったのがつい先日だったので、

今の今まで忘れてしまっていた。

 

ある意味で、前世で姉妹の関係にあった雪蓮に会う事を一番望んでいた蓮華に、

この大学に来る前に連絡の一つでもやればよかった。

というか、先ほどの空き時間にでも電話をしてやるべきだったな。

 

……まぁ、事後報告にはなってしまうが今からでも遅くはないか。

 

携帯のアドレス帳から蓮華の名前を取り出し、

『雪蓮が見つかったので今会いに行っている』

という報告のメールか電話の一つでもしようと思ったのだが……

 

~~~♪

 

電話が鳴った。相手は華琳だ。

 

「はいはい」

 

『あ、カズト? 今何処にいるのかしら?』

 

「さっき話をしてた喫茶店だ。どうかしたか?」

 

『サークルの子達と別れる事が出来たから、合流しようと思って』

 

「そうか。ちなみに、今どの辺にいるんだ」

 

『さっきカズトが一服してた喫煙場よ』

 

「なら、ここから遠くないし、今からそっちに行くんで、

 待っててくれるか」

 

『えぇ、わかったわ』

 

「煙たかったら、その近くにいてくれりゃこっちで見つけるから」

 

通話終了。 

 

 

 

「蓮華に連絡をしていなかった?」

 

「あぁ。ここん所は俺の方もゴタゴタが続いてて、今の今まで忘れてたよ」

 

華琳と合流後。再び連絡を待ちながら、

改めて携帯のアドレス帳から蓮華の名前を取り出し、

メールか電話での報告を行おうと思ったのだが……

 

~~~♪

 

またも電話が鳴った。

 

今度は俺のアドレス帳には登録されていない携帯電話の番号だった。

 

「はい、もしもし?」

 

『突然のお電話失礼致します。

 私、株式会社ブンダイで加東の秘書をしております、アマネと申します──』

 

 




電話の主、アマネとは一体誰なのか!?

名前から特定することはできなくても、
雪蓮といえば?って考えればわかっちゃうね。

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