現代に生きる恋姫たち   作:MiTi

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前回の桂花に引き続き華雄です

どうぞ


華雄
華雄 前編


私の両親は男の子が欲しかったそうで、私が生まれたその時も、「この子は男だ!」そう言って、そのまま決めていた名前をつけたそうだ。

 

『金剛 雄』

 

かなたけ・ゆう、と読む。これが私の名前だ。

 

で、そんな両親だから、私が完全に物心つき、自分が女であることを意識しだすまで、私のことを男として育てた。

私も、小学校に上がるまでは本気で自分を男だと、そう思っていたぐらいに。

 

しかし、さすがに小学校へとあがり、性別でのいろんな違いを知るようになると、私も自分が女であることを自覚するようになり、第二次性徴を迎える頃には、さすがのあの両親も、私のことを男扱いすることはなくなっていた。

まあ、当たり前といえば当たり前だな。

 

しかし、だ。

 

小さい頃からそんな風に育てられた方としては、そう簡単にそれまでの習慣が抜けるわけでもなく、それ以降も、私は男子の着る服を好んで着続けたり、男子のする遊びにばかり夢中になった。

口調も基本は男っぽい喋り方で、唯一、一人称を私、と言うぐらいなもので、もって生まれた体質なのか腕っ節もそこらの男たちより強く、男子との喧嘩なんかしょっちゅうだった。

 

『姐御』

 

それが、私の中学時代のあだ名というか、周囲からの呼ばれ方だった。

バレンタインには同姓からチョコをもらうなんてのはもう毎年恒例だったし、面と向かっての告白(当然女子から)だってされたこともあったな。

 

高校に入学してからも、私は特に自分を変える気はなかった。

私の通っていた学校は私服制だったため、学校へ行くときもいつも通り、男物の服を着て通い続けた。

その高校二年のとき、私はそれとであった。

 

『パンクロック』

 

実際に詳しいことを語りだすときりがなくなるので、簡単に言えば激しいビートサウンドが特徴の、バンド形式の音楽がロックで、パンクはそこから派生したスタイルの一つだ。

私が演るのはギターで、ステージに立つときの衣装は、ビキニの水着のトップに、ジーンズのショートパンツ、そして、ファー、つまり毛皮製のハーフコートを腰に巻く、といった出で立ちがメインだ。

 

普段着もそれに影響を受け、完全にそっちの系統の趣味に染まってしまっているのは、まあご愛嬌というやつだ。

 

この趣味、高校卒業後も続き、短大に通っていた間にもやっていた訳なのだが、ある時、臨時でバンドのメンバーに加わったやつから、私は妙な話を聞いた。

 

「……雄さんってさ、なんか、似てるんだよね……」

 

「?似てるって……誰にだ?」

 

「ああ、うん。雄さん、ゲームってやる?パソコンとか、家庭用のやつとか」

 

「まあ、少しぐらいはな。パソコンも親父のがあるし、ネットぐらいはたまに、バンドの動画とかみるが、ゲームに使ったことはさすがに無いな。

……それがどうかしたか?」

 

その後。ソイツの口から語られた言葉、それが私の、『前世』を思い出すその切欠となったんだ。

 

「いや、パソコンでやるゲームの中に、『真・恋姫†無双』ってのがあるんだけど、その中のキャラクターに似てるんだよね、雄さん。『華雄』って言う名前なんだけど」

 

「……かゆ……う……?」

 

一瞬。その名前を聞いた瞬間、なにか、映像みたいのが、私の脳裏にその時よぎった。どこかとても広い土地で、斧みたいな得物を担ぎ、薙刀のような武器を持った女性と真っ向から対峙する、そんな『私』の視点から見た映像が。

 

「髪の色、それ、染めてるんですよね?紫っぽいの、その色もそのキャラそっくり。

そういや、ステージ衣装も、どこと無く彼女を髣髴とさせるかな」

 

「……そう、なの、か……?」

 

頭痛がしていた。ソイツの言葉も半分ぐらいしか聞こえていなかったかもしれない。

そして、バンドの練習が終わり、ステージを何とかこなし、帰途へと着こうとした私は、さっきの男の言葉がどうしても忘れられず、途中にあったゲームショップに立ち寄り、そいつが言っていたゲームを探し、買った。

 

……まあ、そのゲームがいわゆる十八歳未満禁止の、アダルト系のゲームだったのは、少々予想外ではあったが。……店員の目が、ちょっとだけ、痛かったかもしれない。  

 

そして、確かに『私』は、そこにいた。

 

ゲーム的にはまだまだ序盤の、汜水関の戦いの場面で、挑発され、それに乗り一人暴走して、相手方の将の一人、関羽によって倒される『私』が。

 

董卓軍の将軍である、『華雄』の姿が、確かにそこには描かれていたんだ。

 

そのイベントの後、『私』の出番はまったく無くなってしまったが、ネットで調べると、クリア後に出るおまけシナリオにまた出ているようだったし、公式の文庫小説や、非公式の二次創作とやらの小説の中では、割とよく出てきていた。

 

そして、この『真・恋姫†無双』というゲーム、それをしたその日から、私は毎日夢を見るようになった。

ゲーム内では描写のされなかった、“知るはずのありえない”、董卓軍内での皆との日々を、そして、汜水関で関羽に敗れ、その後、大陸各地を流浪し、袁術と張勲の二人に拾われるという、“やってもいない”おまけシナリオの日々まで、夢というにはあまりにもリアルすぎるそれを、三日三晩に渡って。

 

 

そして、自覚した。

 

「……『私』はかつて、あの世界において、董卓さまに、月さまにお仕えする、『華雄』だった……」

 

生まれ変わり。

 

過去の人物から、現在の自分へと、死と生を超えて行われるソレ。

それが、ゲームの世界から、現実の世界へと行われた。

 

信じられないこと。

通常なら、ただの夢と妄想で終わるような事を、私は、それ以降、真実だと微塵も疑うことが無くなった。

そして、思うようになった。

もう一度月さまと、詠こと賈駆、霞こと張遼、呂布こと恋、陳宮こと音々音。

……あの時の仲間たちと、もう一度、現実で会えないものだろうか、と。

 

しかし、現実に、この世界にあの彼女らも生まれ変わっていたとしても、それをどうやって探し出せるというのか。

日本という国の中ではなく、大陸や、はてはヨーロッパの方に生まれている、そんな可能性もある。

 

それにこんな話、まともに取り合う人間など、ほぼ皆無だろう。

いたとすれば、かつての仲間たちぐらいだろうし、それ以外の普通の人間からすれば、こんな夢物語としか受け取り用のない話は、どこか頭のおかしいやつの妄想、そんな程度にしか受け取られないだろう。

 

だから、私は半ばあきらめた。

そう、その日が来るまで、かつての同士、かつての敵、そのすべてを越えた、かつての仲間たちに、今生において再会できる日など、来るはずも無いと、そう、思って。

 

けれど、現実はどうやら、奇跡というものを起こしてくれたようだった。

 

その日の私は、いつものバンドの練習の帰り、駅に着いて構内を出るべく階段をゆっくり歩いていた。

駅員の、電車の発車を告げるアナウンスを聞きながら、一段一段階段を上っていたその時、その出会いは訪れたのだ。

 

「っと!?」

 

「きゃっ!」

 

どうやら相当に慌てていたらしい、その、私とは反対側から駆けてきた、一人の少女とぶつかってしまった。茶色のウェーブのかかった髪の、その少女と。

 

「ご、ごめんなさいっ!私、慌てていて前を」

 

「ああ、別に気にしなくていい。それよりいいのか?電車、出てしまうが?」

 

「あ!」

 

私の指摘で少女はその事に気がつくも、時すでに遅し、彼女が乗ろうとしていたらしい電車は、ホームをすでに去った後だった。

そして、その少女がため息混じりに言った次の言葉、それを、私は聞き逃さなかった。

 

「あー……やっちゃった……はあ、遅刻ね、これは。

……華琳さまに、メールしておかないと。

はあ、かつての荀文若ともあろう者が情けな」

 

「……おい」

 

思わず声をかけていた。

驚き、興奮、そういった感情が、私の心の中に沸きあがる。

今、この少女の言ったその名、それが、かつてあの世界で、確かに聞いたことのあるソレだったことに。

そして、気がつけば問いかけていた。

 

「……まさか、とは思うが。

お前、魏の、曹操の所の軍師だった、荀彧……か?」

 

「……え……っと。その、ど、どちら、さま?」 

 

ふむ。

どうやら向こうはあんまりピンと来ていないようだ。

だが、その名に対する反応を見ると、これはどうやら“当たり”のようだ。

私は意を決し、自己紹介をその少女にした。

 

「ああ。そういえば、あの頃はあんまり、皆と交流がなかったっけな、私は。

お前とも口を利いたことがあるのは……そうだな、一、二度、くらいか?

私は、今の名前を『金剛 雄』。

かつて、“前世”においては、董卓様にお仕えする将、『華雄』だった人間だ」 

 

「……うっそ」

 

驚愕にその両の眼と口を思いっきり開くその少女と、微笑を顔に浮かべてその彼女を見つめる私。

駅のホームに、再び列車の到来を告げるアナウンスの響く、そんな中での出会いだった。

 




後編に続きます

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