現代に生きる恋姫たち   作:MiTi

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プロローグの2話目です。

まずはプロローグ3話分をまとめて投稿します。


プロローグ②

カズトの名前が聞こえて振り返った先に、二人の男の姿が見えた。

そこには太陽の光を浴びて白く輝く頭…ハゲの男と、

ハゲの男の片腕が肩に置かれ、もう片方の肩に光を反射して白く輝く服、

恐らくポリエステルの服を肩に下げた男がいた。

 

黒い髪にポリエステルの服、

聞こえた会話の内容からして不満があるのか若干うな垂れてる様子、

そこからハゲじゃない方がカズトだと判断して私は後を追った。

 

カズトを確認できたけど、そこに追いつくのは苦労した。

今の時間はコスプレイベントが終わってから30分くらいが経った時間。

終わるタイミングは人それぞれで早く終わる人もいればギリギリまでいる人もいる。

で、今回は後者が結構いたからか、カズトの姿を見てすぐに通路が人ごみで埋まってしまった。

右側通行・譲り合い精神なんて欠片もない人ごみの中をすり抜けるようにして後を追う。

幸いカズトの相方の光り輝く頭が目印になってたから見失わなくてすんだわ。

 

やっとのことで追いついたときには、そこはすでに会場の外。

相変わらず人の数は多いけど、多少は開けてる。

目印の光る頭の方を見ると、肩にポリエステルの服を下げた男と向かい合って互いに手を上げていた。

多分会場から二つある最寄り駅でそれぞれ違うほうに乗るのね。

と言うことは、二人は分かれて一人になる。なら好都合ね。

 

人ごみをすり抜けながら、私はカズトを追う。

人ごみに慣れてるのか、カズトはスイスイと何処かに向かって進む。

恐らく切符を買うために券売機に向かってるのね。

と言うことは、並ぶ時間、買う時間に捕まえられる。

 

そう思ってたけど、私の予想と違って、

カズトは既に改札口前の列に並んでいた。

事前に買ってたのか、何かしらのカードを持ってるのか。

そんなことはどうでもいい。

今を逃せば2度とチャンスがないかもしれない。

そう思った私は、ちょっと強引に人ごみを掻き分けて進み、

あと一人の待ちで改札口を通ってしまうカズトの手をとって叫んでいた。

 

「待ちなさい、一刀!」

 

私の呼び声に、私が掴んだ手に驚きカズトが振り返った。

やっとカズトを見ることが出来た。

 

髪の色、瞳の色、体型や顔、そのどれもが私の記憶にあった一刀の、

三国が平定して数年が経ち、初めて会ったときよりも成長した一刀と同じものだった。

やっと会えた。フランチェスカが存在しないと知って、会うどころかそもそもいないと思っていた一刀に会えた。

言葉をなくして喜ぶ私に一刀はこう言った。

 

 

「えっと…誰だ?てか、なんで俺の名前を?」

 

 

その言葉を聞いて、先ほどまであった喜びが吹き飛んで、代わりに怒りがわいてきて、

感情のままに私は叫んでいた。

 

「なっ、わ、私がわからないって言うの!?」

 

「いやいや、初対面なのにわかったらおかしいだろ」

 

「初対面?馬鹿言ってんじゃないわよ!私よ、華琳よ!!

 三国が平定してから真名で呼んでいたでしょう!?」

 

「だから、俺は君とは初対め…ん?

 真名?…華琳……三国………」

 

そこまで言ってカズトは黙り込んで何やら考え始めた。

多分思い出しているんでしょうね。

 

「…確認なんだが、君ってもしかして……曹操孟徳?」

 

「ええ、そうよ。思い出したかしら?」

 

「いや…なんて言うか、ちょっと。いやかなり信じられなくて…

 現実でこんなことってあり得るのか…」

 

なにやらぶつぶつつぶやきながら考え込んだわ。

私が華琳だとわかっても未だ信じ切れてないようね。

暫く待ってると、考えが収まったのかカズトは私に問いかけてきた。

 

「…なぁ、ちょっと話がしたいんだが、この後って時間とか予定とかってあるか?」

 

「?特にないわ。

 もしかしたら同好会の子の家に泊まりに行くかもしれないって言ってあるから。

 このまま一刀の家に行っても問題ないわよ」

 

「いやいや、そこは問題ありだろ。

 初対面の女が男の家に泊まりに行くとか」

 

「別に私たちは初対面と言うわけではないでしょう?」

 

「いや…どう説明すればいいかな?

 …まぁ、初対面うんぬんに関しても話のうちにあるからな。

 ちなみに、そっちの家の最寄り駅は?」

 

「私?私の家の最寄り駅は○○よ」

 

「なんだ、一駅先か。なら、帰りは俺の車で送っていけるな。

 そういうことなら別にうちでもいいか。

 内容からすると誰かに聞かれたくはないし…」

 

「どういうこと?」

 

「話せばわかる。とりあえず行こうか?

 今なら快速に乗れるだろうし」

 

時計を確認しながら一刀はそう言った。

私も切符は用意してるし、それに同意して私たちは改札をくぐり電車に乗った。

 

時間的に、私たちが乗った電車はいわゆる帰宅ラッシュの時間帯のもので、

降りる駅を確認してからは、扉こそ一緒だったけど、

とても話しながらすごすことは出来そうになかったから、無言のまま駅に着くのを待つしかなかった。

 

 

 

駅について電車を降り、改札を出てそのまま駐車場へ。

一刀の車に乗って駅から10分ほどで家に到着。

そこはごく普通の、二階建ての一軒家だった。

 

「さ、上がってくれ」

 

「ええ。所で、家族の了承とかはいいのかしら?」

 

「ああ。そこは問題ない。家族とは別居してるからな。

 今は、俺一人がこの家を使ってるんだ」

 

「そう…何か複雑な事情でもあったりするの?」

 

「うんにゃ、全然。昔買ったはいいけど今は使われてなくて、

 俺が一人暮らしするにあたってアパートとか借りるよりかは、

 空家状態のこの家のほうが何かと都合がいいからって事で

 俺が一人暮らしで使ってるだけ」

 

「そういうことなら、遠慮なく上がらせてもらうわ」

 

で、上がらせてもらった。内装に関してもごく普通だった。

 

「とりあえず何か飲むか。何がいい?

 お茶、紅茶、コーヒー、ジュース、酒やカクテルとかでもいけちゃったりするけど」

 

「…何なの、そのレパートリーの豊富さは?」

 

「いろいろとバイトしててね。

 酒に関してはダチや親父が酒好きだからいろいろ揃ってんだ」

 

「そう。とりあえずお茶でいいわ」

 

「了~解」

 

そうして私をリビングに待たせて、一刀はキッチンに向かう。

二部屋をつなげたようにしてあるリビングとキッチン。

ソファを挟んでリビング用とキッチン用のテーブルがあり、

キッチン用のテーブルの向こうに台所スペースがある。

ここまではごく普通…なんだけど、キッチンの方には普通じゃないものがあった。

諸々の調理器具機械にコーヒーメーカー。ここまではいい。

だけど…普通の一般家庭にはサイフォンやらサーバーやら、

喫茶店や居酒屋でないとなさそうなものまであった。

一体どんなバイトをしていると言うの…?

 

 

 

「ほい、あの場所にいたって事は今日のコスイベントに参加してただろうから、

 冷蔵庫で冷やしてたやつで申し訳ないけど、今は冷たいお茶の方がいいだろ」

 

「そうね、いただくわ」

 

出てきたのは柚子茶だった。ほのかな柑橘系の香りと透き通った味わいでのどが潤されるのを感じながら私は思った。

ここで柚子茶を出す時点で、冷蔵庫に柚子茶が作りおきされる時点で普通と少しずれていると…

 

「ふぅ…さて、いろいろと話したいこと。

 と、言うより確認したいことがあるんだが、いいか?」

 

「ええ。いいわ」

 

「そんじゃまずは、君っていわゆる転生者ってやつで、

 前世が曹操孟徳で真名が華琳。間違いないか?」

 

「ええ、そうよ。それから私のことは華琳でいいわ」

 

「…それって、俺がカズトだからか」

 

「まぁ、そうね。それに…

 あなたの容姿で君とかあんたとか言われる方が違和感があるのよ。

 それに、三国が平定してからは全員真名で呼び合う仲だったしね」

 

「あ~…そのことで言っとかなきゃいけないことがあるんだが」

 

「何よ?」

 

何やら言いづらそうにしていたけど、意を決したのかカズトは重要なことを言った。悪い意味で。

 

「まず…俺は華琳が思ってる北郷一刀じゃない」

 

それを聞いた瞬間、私は硬直してしまった。

意味がわからない。目の前にいるカズトが私が知る”北郷一刀”じゃない?

 

「どういうこと?私の前世を知っていながら、私が知ってる北郷一刀じゃない?」

 

「ああ。確かに俺の名前はホンゴウカズトなんだが、字はこう書く」

 

言いながらカズトは二通りの名前を、テーブルの片隅においてあったメモ用紙に書いた。

”北郷一刀”と”本剛和斗”と。前者は私の知るカズト。後者が、今目の前にいるカズト。

 

「そんで、ダメだしみたいで申し訳ないけど、俺は華琳みたく転生者でもない。

 生まれてから今まで三国志の時代に飛ばされた覚えもない。

 夢の中だとか、そういうことも一切ない」

 

「じゃあ、何故私のことを知っているの?」

 

「…口で言うよりも現物を見てもらえば多分納得できるもんがあるが、

 女の華琳に見せて大丈夫か不安なやつがあるんだが…」

 

「それを見せなさい」

 

「…見ても怒ったり八つ当たりしたりしないでくれよ」

 

「いいから見せなさい」

 

「へいへい」

 

渋々といった感じでカズトは二階へ上がっていった。

 

 

 

戻ってきたカズトの手にはDVDのパッケージがあった。

 

「で、これが問題のブツなんだが…これを見る覚悟はできてるか?」

 

「何故そこまで念を押すのかはわからないけど、大丈夫よ。

 天の世界、一刀がいう未来、現代に転生した時点でも信じられない事実なのよ。

 並大抵のことで驚いたりはしないわ」

 

「その並大抵の範疇を超えてると思うんだが、まぁそこまで言うなら」

 

そう言って持っていたものを私に渡してきた。

それを見て、私は驚き、開いた口がふさがらなかった。

 

見せられたパッケージ。タイトルは『真・恋姫†夢想』。

そこには二次元で描かれた私とわかる少女とかつての仲間たちが描かれていた。

 

「これは…どういうこと?」

 

「あくまで俺の推論でしかないんだが…つまりはだ。

 華琳はゲームの中からこの世界に転生したってことだな。

 小説とかでよくあるネタ、現代で死ぬなりなんなりして

 ゲームや小説の世界に転生するってのとは逆のパターンで」

 

「私が…ゲームから?」

 

「どういった経緯で前世のことを思い出したかは知らんけど、

 三国志の歴史の授業とかで自分が知ってるのとは違うと感じたことがあるだろ。

 この恋姫ってゲームから転生したんなら、それが証拠だな」

 

指摘されて、私は納得せざるを得なかった。

裏返してあらすじを読むと、確かに私が知る歴史と同じだった。

かつて私が感じた疑問の答えにもなる。

 

「なるほど。そういうことなのね…」

 

「さすがに驚いた…というかきつかったか?こんな現実は」

 

「…えぇ、そうね。さすがに私の前世がゲームのキャラだったなんてね」

 

「まぁ、そりゃそうか」

 

それから暫く沈黙が続いた。

パッケージに描かれている私たちを見ながら、私はどんな表情を浮かべていたのやら。

そんな私を見てカズトは何も言わずに席を立ってキッチンに向かった。

 

 

 

どれほど時間が経ったのかしら。それほど経ってないはずだけど、かなり長く感じた。

戻ってきたカズトの手には湯気を立ち上らせた湯のみがあった。

 

「とりあえず、これ飲めや」

 

「…ありがとう」

 

混乱した頭で何かはわからなかったけど、それは中国のお茶。

その香りと温かさから大分落ち着きを取り戻せた。

 

「落ち着けたところで…これからどうすんだ?」

 

「どう、と言うと?」

 

「いや、言っちゃ悪いかもだが、華琳が転生者で、

 俺が華琳が思ってた”北郷一刀”じゃなかったとして、

 別にどうってことじゃないからさ。

 華琳が誰かに「私の前世は曹操孟徳で真名は華琳だったわ」

 とか言っても、この現代世界じゃそれがどうしたって感じだしな。

 むしろオタク女だとか痛い女って思われるのが落ちだろうし」

 

「…た、確かにそうね。

 こうやって現物を見せられたら言い返せないわ」

 

「だろ?そもそも、なんで俺に声をかけてきたんだ?

 仮に俺がこの恋姫の世界にいた北郷一刀だったとして、

 なにがしたかったんだ?」

 

「そうね、私は…」

 

それから、私はこれまでのことを話した。

三国志の授業が進むにつれて違和感を感じるようになったこと。

それがきっかけで前世を思い出したこと。

私同様に転生した娘がいないかと、可能なら会いたいと思ったこと。

一番可能性が高かった北郷一刀を探したこと。

フランチェスカが存在しなかったことから諦めたこと。

それからは宗祇華琳として生きたこと。

そして、同好会の活動でコスプレイベントに参加してカズトに会ったことまでを話した。

 

 

 

「なぁるほど。いろいろあったんだな」

 

「ええ。そうね、いろいろあったわ」

 

私が話し終えるまで、カズトは何も言わずに聞いてくれた。

私がゲームから転生した存在であるという信じられないことでも疑わず、

話す内容にも疑問を感じている様子はなく、全てを事実として聞いてくれた。

 

「で、改めて聞くが、これからどうすんだ?

 前世の事情とか転生の事情とか、何も言わなかったら別段何があるわけでもなし。

 と言うか、今でもこの恋姫の誰かに会いたいって願望はあんのか?」

 

「そうね。会いたい…と思ってるのでしょうね。

 そうでなかったらカズトの手をとってまで声をかけなかったでしょうし」

 

「だろうな。そこでなんだが…」

 

私の本心を聞いたカズトは苦笑を浮かべたが、その次になにやら楽しげな表情で私に語りかけた。

 

「もしも恋姫からの転生者を探して会いに行きたいってんならだけどよ、

 俺にも手伝わせてくれないか?」

 

「…は?」

 

「これも何かの縁だし、なんか面白そうだしな」

 

そう言うカズトの表情は、この先に起こる事を想像してか、本当に楽しそうな表情を浮かべていた。

 

「あなた、何を言ってるのかわかってるの?

 さっき自分で言っていたオタクとか痛い奴とか思われるかもしれないのよ。

 そもそも、手伝ってくれたとしてあなたに何の利益もないじゃない」

 

「言っただろ、面白そうだって。それにオタクなりなんなりに思われるのは、

 あくまで何にも知らない奴にこのことを話したらであって、

 俺自身は華琳が嘘言ってるわけじゃなくて全部事実だって思ってるから、

 事実なら問題なし」

 

「そう…ならお願いしてもいいかしら?」

 

「おう、これからよろしくな華琳」

 

「ええ、こちらこそよろしく。カズト」

 

言いながら私たちは握手を交わす。

この日私はあまり多くない男の友人、親友とも呼べる存在が出来た。

 

 

 

~おまけpart1~

 

「ねぇ、パッケージに書かれたあらすじを読む限り、

 蜀以外に一刀が来た場合の話もあるのよね」

 

「ああ。そうだが?」

 

「ふ~ん。ねぇ、やってみたいからこれ、貸してもらえないかしら?」

 

「…いや、女の、ましてや本人が出てるゲームやらせるのはちょっと…」

 

「なんでよ?」

 

「…パッケージの端っこ、見てみ」

 

「?………R18」

 

「このゲーム…いわゆるエロゲーなんだよ」

 

「…あなたも男の子ってわけね」

 

「そんな目で見ないでくれ!?」

 

~おまけpart2~

 

「所で、私と同じように転生者を探すって事は、女を探すってことになるけど、

 彼女がいたりしたら問題があるんじゃないの?」

 

「…………|||」

 

「ど、どうしたのよ?」

 

「…俺の名前って”本剛和斗”だろ?」

 

「ええ、そうね」

 

「字は違うがこの恋姫ってゲームの主人公も”北郷一刀”だろ?」

 

「そうね。それが?」

 

「聞いた限りだと蜀√だと思うんだが、

 まぁどの√でもやってることや評価は変わらんだろ。

 …で、北郷一刀ってどんな風に呼ばれてたりした?悪い方ので」

 

「確か…絶倫だとか種馬だとか女に見境がないとか、

 とにかく女性関係でいろいろあったような」

 

「あぁ…おれ自身はそんなことねぇのによ、

 ダチが俺と同じ名前の主人公が出てるゲーム、

 つまり恋姫を「今度のイベントの題材はこれだー!」っつって、

 俺の家でプレイしてたんだ。…彼女がいる前で」

 

「………」

 

「で、内容を見て名前が同じってだけで、

 俺=北郷一刀(変態)って認識持たれちまって、

 そんな奴と付き合えないって別れられた(涙」

 

「……………」

 

「なんとか誤解は解いたと思うんだけど、

 それでもどっかで俺=北郷一刀って認識があるのか、

 もう一度付き合おうって思われなくて、結局そのまんまだ…」

 

「…何と言うか、ごめんなさい」

 

 




プロローグの2話目です。

続いて3話目もどうぞ。

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