現代に生きる恋姫たち   作:MiTi

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タイトルの通り、孫権こと蓮華の話です。

一応ストックの内の一つなんですが、元の執筆者は自分ではないです。

本シリーズの完結を目指すにあたり、自分一人では大変で難しいと思い(キャラ数50近くいるのに一人でとか…)、執筆のヘルプを募集しました。

その結果、案を提供してくださった方や、一話(一キャラ分)を丸々提供してくださりました。
その中の一話です。
(引っ越し通達済み、作者許可済み)

ちなみに、時系列は朱里と雛里のちょい後くらいです。


蓮華
蓮華 前編


「ここですか……」

「そういえばこの前訪れた時、たくさんの人がいたような……」

その情報を知った時、俺は唖然とした。

友人から雑誌を受け取り、何気なしにページをめくっていた時、喫茶店の特集の所で俺の手は止まった。

──メイド喫茶特集

その雑誌ではメイド喫茶だけではなく、少女が男装をして接客を行う執事喫茶(と言うのか?)が取り上げられていた。

ただのメイド喫茶特集なら、スルーしていた。……いや、問題はそこじゃあない。

その喫茶店はよほど人気があるのか大きく取り上げられており、そこに写っていたのは、顔なじみと言うべきか何と言うべきか…… 

とにかく、こいつもそうなんだろうかと思い、3人の知り合いにメールを送った。

「本当に、ここにいるというの?」

「あぁ、恐らくはな」

それから全員の都合がついた数日後。俺達4人は秋葉の一角のビルの前にいた。

他のメイド喫茶では、看板を大きく立てかけているが、この執事喫茶は大きな看板を掲げず、小さく質素な看板を掲げているのみだった。

「でも、もしいないか、違っていたら……」

「違っていたらそれでもいいし、いなかったら店員に言伝を頼めばいい」

「それもそうね、行きましょう」

 俺は執事喫茶のドアを開ける。

「お帰りなさいませ、お嬢様」

 執事喫茶のテンプレ台詞で俺達を出迎えてくれたのは──

 

~side.??~

 

親や友人曰く、幼少時から真面目な性格であったらしい私は、第一志望の大学に入学する事が出来た。

しかしその大学は実家からかなり距離を有しており、おいそれと毎日通学できるような距離ではなく…… 

仕方なく、学校の近くでアパートを借りて住み始めた。

確かに一通りの家事はこなせたし、通学に時間とお金をかけるよりかは、学校の近くに住んだ方が経済的にも安上がりというもの。 

……なのだが、一人暮らしをするにあたって大きな問題が一つ。

そう、生活費についてだった。

入学後しばらくの間は、親からの仕送りを受けていたけど、それではいけない…… 

と思い、大学の友人に相談を持ちかけてみると、友人はうーむと唸っていた。

「一応、私の働いている所が今人手不足だし蓮華の家からも近いし、給料もいいから紹介してもいいんだけど……」

「……だけど?」

「堅物な蓮華が働けるのかと考えるとどうにもねぇ…… いや、堅物だからこそいいのか?」

「……?」

……さて、自己紹介が遅れてしまったようね。

私の名は浦木(うらき)蓮華(れんか)。かつて私は三国志で有名な呉の王、孫権仲謀であった。

私が何故孫権であると思ったのか…… 

と、思い出すまではかなり長くなってしまうのだけれど。

 

「働けるならどこでも構わないわ」

「……ほほう、言いますね」

友人は眼鏡を光らせる。

……あれ、なんだか嫌な予感。

「ちょっと待っててね」

友人はどこかに電話をかけていた。

電話の内容からして恐らくは彼女のバイト先の上司と話をしている。友人は2.3度首をかしげたり笑顔を浮かべたりの百面相を続け、数分後に通話を終了した。

「今店長がいて、すぐ来てだって!」

携帯電話をしまう友人は立ち上がり、私の手を引っ張る。

「へ? いや、履歴書は?」

「そんな物は後で書いてくれればいいって。さ、時間も惜しいし行くよ!」

「いや、ちょっと待って、一体どういう──」

どういう所なのという、私の言葉は友人には届かず、私は友人に引っ張られたまま彼女のアルバイト先へと連れ去られることになってしまった。

 

「……」

友人に無理矢理連れ去られ、電車に揺られて到着したのは高層ビルの立ち並ぶ電気街のある秋葉原。

数年前に、この電気街を舞台にしたドラマが放送されていたので名前だけは知っていたけど、まさか来る事になるとは予想もしていなかった。

「あの、これは一体……」

看板には『執事喫茶』と書かれた文字が見えたのは気のせいだと思いたかったけど、気のせいでもなんでもない現実。

私と友人を出迎えてくれたのは、数名の少女。

……しかし、『執事喫茶』の名を関しているだけはあり、皆、シャツとスーツを着用している。

今は夏である為か、上着を着る者はいない。

「ん? だから、執事喫茶だよ?」

「いや、そういうわけじゃなくて……」

「蓮華は顔立ちがいいから、男装しても違和感無いと思ったんだけどなぁ」

「この子がさっき話してた子?」

「女の子なのにイケメンなのね。嫌いじゃないわ……!」

従業員は私の事を好き勝手につついていた。私が場馴れしていないせいなのかもしれないけど、この従業員のテンションはどこかおかしい。

確かに他の女の子に比べたら生真面目すぎて可愛げがないとか、そんなことを言われたことはあったけど、女の子に対してイケメンって……

「店長は?」

「──おお、やっと来たか。待ちくたびれたよ」

店の奥から、壮年の男性の声が聞こえてきた。

その男性は私をじっくりと見る。

周りを見渡せば全員黙っているし、この中で唯一の男性であるので、恐らくはこの喫茶店の店長であると思った。

「君、名前は?」

「はい、浦木蓮華です」

「歳は?」

「19歳です」

「よし、採用」

「へっ!?」

店長の言葉に唖然とした。

え、今のって面接だったの!?そんな某バイト戦士みたいにアッサリ即決しても良いものなの!?

唖然とする私を他所に、友人や従業員からは歓声が上がっている。店長は今から働けるかと聞き、大した予定もなかった上にコントのような面接内容に呆けていた私は「はい」と頷いてしまったのが運の尽き。

従業員に押され、気がつけば私も、彼女らと同じスーツとシャツを着せられていた。

「おぉ、似合ってるじゃん、蓮華!」

「うぅ、すっごく恥ずかしいんだけど……」

本当は今すぐ逃げ出したかったんだけど、従業員はそれを良しとしない。

気がつけば私は彼女らに囲まれてしまっていた。

何か、獲物を見つけたかのような目で見る者が多く、こんな時の女性の気迫ほど恐ろしいものはないと思った。

「メイド服着るとかよりはいいっしょー?」

「そ、それはそうかもしれないけど……」

「まぁ、数ヶ月経てば慣れるって! ね?」

「……はぁ」

時期的には夏休みで、こういった秋葉原の喫茶店は繁忙期に入る。

その中で新人である私に、いきなり接客などをやらせるのは無理があるため、まずは呼び込みなどによって言葉遣いなどを覚えさせる…… 

と、店長は話す。

 

それから数日間は呼び込みを行い、その後は喫茶店に入り、友人や先輩達に教わりながら、執事の何たるか、言葉遣いといった事を学んだ。

しっかりとした言葉遣いを学ぶ為に、友人に執事の出る漫画を借りて勉強を行う事などもあった。

そうして、大学生としての生活と、執事喫茶のアルバイトの生活を続けて数ヶ月が経過していた頃には、私はすでに、この執事喫茶でのあるバイトに慣れきってしまっていた。

友人や店長曰く、私が入った事によってこの喫茶店の売り上げと客足はかなり伸びたらしい。

それまでは、こうした喫茶店の中ではそこそこの売り上げだったのだが、私が入った後は客足が途絶えない日はあまり無いらしかった。

 

「これも一重に蓮華のおかげだねぇ。いやぁ、いい友人を持ったよ私は」

「……喜んでいいのか悪いのかわからないんだけど」

「まぁそんな事よりさ。バイトも終わったし今からどっか行かない?」

「それは構わないけど……」

この日も業務を終え、友人と着替えている時だった。

「すみません、探し物してて遅れましたぁ!」

先輩である、もう一人の従業員が慌しく従業員室に入ってきた。

彼女の手には、小さな箱が数個入った大きな袋が握られていた。

「ちょっとー、遅刻だぞー?」

「いやはや、新しいプラモの発売日だったんですぅ」

「……孫権ガンダム?」

置かれた袋から、箱に書かれた文字を見る。孫権ガンダム、劉備ガンダム、呂布トールギスなどと書かれていた。

「およ、蓮華どーしたの?」

「ねぇ、この孫権とかって……」

「おぉ! まさか蓮華がこれに興味を示すなんてね!」

 その先輩は袋の中から箱を取り出す。

「三国志とガンダムを組み合わせた漫画だよぉ! 今日はそのプラモの発売日だったのさぁ!」

「そ、その漫画、今持ってる!?」

「うん。あるけど……どうしたの?」

「……ちょっとだけ、興味が出てきた、かな」

孫権仲謀。何故かはわからないけど、不意に頭の中にそんな言葉が浮かんでいた。

三国志なんて、名前しか聞いた事がないはずだったのに、何かが心の奥に引っかかっていた。

ちょうど明日はアルバイトもないし、この漫画を読もう。きっと、心の奥に引っかかった何かがこの漫画によって明らかになる。そんな気がしていた。




後編に続きます。

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