暴走運転・銃乱射犯の逮捕後、俺たちは警察署に来た。
現職の婦警さんと別れた後、俺は事情聴取のためにと、何故か取調室に連れられた。
何故この部屋なのかと聞いてみると、他に空いている部屋が無かったとのこと。
本来の使い方をせず、照明は全部点けられて明るい一室なんだが、スチール製の小さな机と俺のほうに向いてるライトスタンド、そして壁の一面にある不自然に大きな鏡、その正体はマジックミラー。
犯罪を犯したわけじゃないが、どうも落ち着かない。
とりあえず、部屋の内装に関しては極力気にせず係りの警官の質問に答えていく。
事件に関する事情聴取が終わり、今度は俺自身のこと。
主に車の修理代などの交渉に入ろうとしたところで誰かが入ってくる。
一緒に追走した婦警さんだった。
「ご苦労、あとは私がやっておくので、君はもう帰ってよい」
「わかりました、お疲れ様です常山刑事」
警官と入れ替わって、巡回用の制服からスーツに着替えた、婦警さんと思っていたけど実は刑事さんの常山さんが俺の前に座る。
「さて…ここからは私が代わって行うが、その前に…改めて、犯人逮捕に協力いただき感謝する」
「いや、俺としてもアレは放っておけなかったし、逮捕出来て良かったです」
「そう言っていただけるとこちらもありがたい。
だが、それで車に傷が出来たのはこちらの落ち度、今からその辺りについて話し合おう。
特に修理についてだ。
修理代をこちらが出せるようにするにはいろいろ書類手続が必要でな」
それから当時の経緯・状況・車の状態・必要修理箇所・保険etc…
と、書類を作り終わると、外は既に暗くなっていて、時計を見ると夕食時だった。
「ふむ、とりあえず必要な書類は出来たな。
後は後日修理工場と交渉・手続きを行い、
そこでまた必要な書類手続があるだろう。
今日のところはこれで終わりなのだが…所で、今日はこの後予定はありますかな?」
「?いや、後は帰るだけですけど」
「ならば少しよろしいかな?
個人的に話したいことがあるので」
「まぁ…いいですけど」
「感謝する。時間も遅いしまずは夕食にしよう。
用意してくるので少し待っていてくれ」
そう言って取調室から退室する星子さん。
手続などは問題なく終わったのに、刑事が個人的になんだろうと疑問がわく。
同時に星子さんと初めて会った時から感じていたこと、何処かで彼女の事を見たことがあるのではという感じも強まってくる。
思い出そうとしていると、丼と小鉢、小皿にコップが乗った二つの盆を持って星子さんが戻ってきた。
「待たせたな。さぁ、遠慮なく食べてくれ」
「どうも、ありがとうござ…」
星子さんの持ってきた料理を見て、驚愕のあまり俺は硬直してしまった。
出された料理は、一言で表すなら…メンマだった。
丼で白米に乗っているのはメンマ、小鉢のおかずはメンマ、普通なら漬物とかがある所にもメンマ、コップに注がれてるのは…流石に普通のお茶だったが。
メンマ尽くしの様を見て、取調室なら普通カツ丼じゃないかって突込みが浮かんだが、それよりも聞きたい事、確認したいことが出来た。
会った時から感じていたこと、見覚えがあると思った顔とメンマ料理。
そして”星”子という名前。それらから導き出された答えは…
「…ちょっと突拍子の無いこと、聞いていいですか?」
「構いませんぞ」
「まず…転生って信じます?
前世で死んで、その後記憶を持ったまま生まれ変わるって言う」
「確かに突拍子がないが、私は信じている」
「良かった。それじゃ、本命の質問。
星子さんって…前世では趙雲子龍で真名が星、だったりしました?」
直球で質問すると、少し沈黙が降りた後、星子さんはニヤリと笑った。
「会った時からもしやと思っておりましたが、やはりそうでありましたか」
「てことは、正解?」
「ええ、では改めて自己紹介をしておこう。
私の名前は常山星子、職は刑事。
前世では趙雲子龍、常山の昇龍の異名を持ち、真名は星であった。
そう言うそちらは顔と言い名前と言い、私のことを知っているということは…
主殿もしくはその転生者ですかな」
高らかに自己紹介した後、俺にそう聞いてきた。
書類作成のときに名前を見てるから、カズトって名前であり、星の前世も知ってるんで、俺が一刀であると思って何処か期待もあるんだろう表情だけど…
「確かに、俺の名前は”ホンゴウカズト”だけど…
残念ながら星子さんにとっての主殿ではないです」
「…なん、だと…………そうであったか」
多少ショックを受けた様子だったけど、立ち直るのも早かった。
「あまりショックじゃなかった感じですね?」
「ああ、他人の空似という場合も度予想はしていたからな。
しかし、そうなると何故私のことを知っているのかという疑問がわいてくるが…」
「そのことについてなんですが、星子さんって恋姫†夢想ってゲーム知ってますか?」
それから、俺たちは星子さん特性のメンマ定食を食べながら恋姫のことと転生者のことを話した。
三国志のことは知っていたが、恋姫のゲームの存在は知っていなかった。
星子さん自身は正史とは異なった三国志から転生したのだという認識していて、自分以外にも同じように転生した者もいるだろうという所までは考えたが、他に転生した娘に関しては元々の性格から自分から探すよりも、運に任せて見つけるor見つかるのを待つ方がよいと考えた末、結局自分から探すことはしていなかったらしい。
そして今日、俺という外見と名前(読みだけ)が一致した者が現れて、声をかけたことで今に到るということだった。
一通り星子さんについての話を聞いた後、俺自身のことを話した。
なんちゃって大学生で、大学の勉強以外にもいろいろやってること、
恋姫のゲームの存在を知り、それがきっかけで彼女と別れることになったこと、
それから暫くして転生した華琳と出会えたこと、
その後、華琳の希望もあって二人で積極的に恋姫からの転生者探しを行って、既に何人かの転生者と会うことが出来たことを話した。
「まさか…普通の三国志とは違うとは思っていましたが、ゲームの世界とは予想出来なんだ。
それも18禁の…
まぁ、主殿と私たちが乳繰り合っていた日々は結構あったから納得は出来てしまうが」
「そのせいで、俺は彼女と別れちまったんで、星子さんも俺=一刀って考えはしないでくださいね」
「承知した。それにしても、やはり私以外にもいたのですな…
その娘たちとは今も連絡を取り合っているので?」
「もちろん。なんなら会えるようセッティングしますか?」
「ああ、ありがたい。暫くは今回の事件のことでいろいろあるだろうし、私自身の仕事もあるので、いつ出来るかはわからぬが…
連絡先を交換しておこう。都合の良い日を連絡する」
「了解、そんじゃ今後ともよろしく」
~それから数日が経ち…~
「と、いう感じだな」
「…当事者から聞くと、改めて何の映画の撮影をしていたのって思えてしまうわね」
食事を食べつつ、酒を飲み、メンマをつまみ、時々華琳からつっこみを喰らいながら、俺と星は会ってから今に到るまでを語った。
「それで、星は今まで自分から他の娘を探してはいなかったようだけれど、今後はどうするのかしら?」
「私としましても会いたいという思いはありますが、何分刑事としての仕事もありますからな。
仕事をしている中で手がかりになりそうなことがあれば連絡するということで」
「わかったわ。なら私からも、刑事である星に協力してもらいたいこととかあれば連絡するわ。
もちろん、それ以外でも他の娘が見つかったときは一報入れるわ」
「うむ、よろしくお願いしますぞ、華琳殿」
華琳と星が連絡先を交換した後、暫く酒とつまみを取りながら談笑した。
日をまたぎそうな時間帯になったが、3人とも酒を飲んだので運転者無し。
いつものパターンで、二人は俺の家に泊まることとなった。
翌日、3人互いに別れを告げてお開きになる、と思ったところで星の携帯が鳴った。
「はい、こちら常山です。はい、はい…なるほど、例の集団が…
えぇ…む、それはしかし…」
敬語であることから電話の相手は上司で、何かしら事件か何かかと予想は出来た。
暫く見守っていると、何故か星が俺の事を見て考え始めた。
「…とりあえず、本人の了承が取れたらということで。
少々お待ちを」
そう言うと、携帯を離して俺に向かって問いかけてきた。
「カズト殿、少々厄介なことが起きてな。
その運転技術を見込んで協力してもらいたいことがあるのだが」
「…また事件?銃を撃たれるの可能性があるんなら却下するが」
「いや、今回の相手はいわゆる暴走族の集団でな。
主にある峠で不法レースを行っているらしく、一網打尽にするにはレースに参加する形で入り込みたいのだ」
「…また映画みたいな展開になりそうね」
「うむ、まぁカズト殿の運転技術ならば問題ないと私は見ている。それから、カズト殿に頼む理由はそれだけではないのだ」
「「どうゆうこと?」」
「何日か前からその事件のことを調べているのだがな…
そのレースに参加している者、その一人が…私たちと同じく転生者であると私は考えているのだ」
と言う感じで、星の話でした。
ついでに次に出てくる娘の伏線もちょろっと…
勘の良い人なら、次に出てくる娘が誰なのかわかっちゃうかな?
それでは、また次の機会に。