自由な黒猫魔導師の野良猫生活 作:軍曹(K-6)
つい先程、高町なのはの話を聞いた俺達は話に出てきた彼女の父親、高町士郎がどのような状態であるのか気になったため、彼が入院する病室を訪れていた。
「・・・どうだ?」
『・・・・・・検査完了。まぁ見た目で分かると思いますが、生きているのが不思議なぐらいです。このままでは助かることはないでしょう』
「可哀想・・・」
『あと三日、持てばいい方でしょう』
「アリシア。回復魔法、使うか?」
「ううん。あんまり早く回復させたら駄目だと思う。だから・・・回復力を上げる! トレイン、イヴ。今から言うことを実行!」
『Yes,sir』
「り、了解! って、お前の主は俺だろーが!」
『・・・知ってますよ』
士郎side
私は夢を見た。仕事で怪我を負い、生死の境をさまよっていた時のことだ。と、元気になった今なら言える。その夢の内容がなんとも不思議なものだった。
突然暖かい光に包まれたと思ったら、私の目の前になのはが居たのだ。
『お父さん! 早く起きて! 私はお父さんに早く会いたいんだから! 元気になってよ!』
そんな事を最愛の娘から言われたら、絶対に起きないといけないだろう? だから私は自らの全力を持って回復を目指したんだ。
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トレインside
嘘だろ? アリシアの言った通り、細胞の自己回復能力を活性化させるために微弱な晴の炎を照射していたし、なのはが父である士郎を励ます夢も見せた。だが・・・回復速度が異常すぎるだろ!! 流石戦闘民族高町家!
『意識の回復が起きそうなので早々に退散しましょう。すでに自己回復可能領域に入っています』
「逃げるぞ、アリシア」
「了解っ」
俺達は脱兎の如くその場を離脱した。
アジトに帰ってきた俺達は、神々の閲覧機と名付けた『いつ、どこの情景でも』視ることができる機械を使って高町士郎の様子を見守った。
―――病院。
ベッドの上で目を覚ました高町士郎に回診に来た看護師が仰天し、慌てて担当医を呼びに行く。その後ドタバタと駆けつけてきた医師が士郎の状態を確認していった。
「不思議なこともあるものだ・・・。おい、君。高町さんのご家族に連絡を!」
「は、はい!」
「・・・あの、先生。私は」
「一体何があったんだ? 君はもう死ぬ直前と言っても過言ではないほどだったんだ。それなのにここまでの快復か。何かあったのか?」
「・・・夢を、見ました」
「夢?」
「娘が元気になれと私を励ましてくれたので、絶対起きてやらないとと思いまして」
「娘を思うがゆえの快復か・・・、人間ってのは何を起こすか分からないな・・・。医者を続けて大分立つけどね。君みたいな奇蹟を起こした患者を僕はあまり見たことはない。その事を念頭に置いて、もう二度と重傷を負わないように気を付けることだね?」
「・・・はい。もちろんです」
暫くして高町家の面々が病室になだれ込んできた。
「あなた!」
「「お「父さん!」」」
「桃子、なのは、美由希、恭也・・・・・・。皆、心配掛けたようだな・・・・・・」
「実を言うと信じられないことなんです。今だから言えることなんですが、助かる見込みは低かったんですが・・・・・・、奇蹟としか言いようがありません」
「私が勇気を持って踏み出したから、家族皆で暮らすっていう願いが叶ったの! アリシアちゃんの言ったことは本当だったの!」
「奇蹟・・・。そうね、まるで魔法みたいよね」
「桃子、なのはの言うアリシアちゃんというのは?」
そう問われた桃子は士郎に今日なのは似合ったことをかいつまんで話す。もちろん会話の中には、彼女の勇気をくれた二人の名前も出てきていた。
「そう・・・か。なのはを結果的に助けてくれたその彼等には、感謝しないといけないな。私が回復したのは、勇気を持って踏み出したなのはのおかげだから」
「えへへ~」
「先生、夫はもう大丈夫なんでしょうか」
「ええ。怪我は大分治っています。ですが、今暫く安静にしておく必要がありますので・・・、少ししたら退院出来るでしょう」
「そう、ですか・・・。それではよろしくお願いします。さあ、みんな。今日は帰りましょう」
そう言った桃子に続いて、高町家の面々は病室を後にした。
「凄まじい快復力だね」
「ああ。どんだけ末娘のことが好きなんだって話だな。もしそれに奥さんも居たら一瞬で快復してしまいそうだけどな」
『それはもう化け物の域なのでは?』
「仕方ないんじゃない? 戦闘民族高町家だし」
アリシアの評価が中々に酷い気がするが、それで説明がついてしまうから高町家は凄いと素直に称賛してしまう。
「トレイン。これからどうするの?」
「正直な所どうもしないさ。いつも通り野良猫生活だぜ?」
「私も野良猫~。あ、翠屋に私は行って見たい! って、アリシアはアリシアは今後の予定を提案してみる!」
「・・・・・・士郎さんが退院して一週間ぐらいしたらな」
「・・・なんでそんなに待つの?」
「俺の予想じゃその頃からが翠屋の本領発揮だと思うからだよ。それより早くても全開の美味さは味わえないし、それより遅いとアリシアが耐えられないだろ?」
「うん。まぁ、そうなんだけどさ・・・。私そんなに我が儘?」
「親に取っちゃ子どもの我が儘なんて可愛いもんだっつの。言ったろ? 子どもは甘えるのが仕事ってよ」
「そうだけど・・・(私はトレインの子どもじゃないもん・・・・・・)」
アリシアが何か考えてるな。大雑把に読んで分かったが、俺に取っちゃお前は娘みたいなものなんだよ。妹かもしれないが、育てて愛情を注ぐ先って奴だ。
(お嫁さんだもん!)
?! ・・・・・・それは、マジですかアリシアさん・・・。何となく予想はしてたけど見事直球で来たか。しかし
「トレイン? 変な顔してる」
「いつも通りの顔つきだよ」
「なんだっけ。苦虫を噛み潰したような顔してるよ。知りたくもなかった真実を知ってしまってどうしようか悩んでるって言うか」
「・・・・・・」
勘が鋭すぎるだろこいつ。まさかアリシアも心が読めるんじゃないだろうな・・・。
「例えそうだとしても、アリシアにはカンケーないぜ」
「えー? そうなのー?」
「ああ」
少なくとも、今はまだ。な・・・・・・