自由な黒猫魔導師の野良猫生活 作:軍曹(K-6)
トレイン15歳 アリシア6歳 なのは4歳
アリシアと俺もこの海鳴市での生活に慣れ始めたころ。俺達は公園へと向かっていた。公園と言えば俺の中ではあまりいい思い出がない。そもそも遊びに行っても一人だったから様々な遊びを開発したが、それでも誰かと一緒に遊ぶ。と言う体験を公園でしたことがなかった。
公園での一人遊びは、ジャンルは問わずそれはもうたくさんのものを作った。ブランコの揺れ幅時間を極限までに短縮してみたり、滑り台の滑走時間を究極に長くしてみたり、鉄棒に逆さまでどれだけぶら下がれるか試してみたり、ジャングルジムの中でどれだけアクロバティックな体勢が出来るか検証してみたり、砂場を底まで掘って何があるのか探してみたり、シーソーでものを飛ばしてみたり、回転遊具の速度を限界まで上げてみたり、広場に魔方陣を描いて魔法を発動させようとしてみたり、他の子どもが作っていた秘密基地を荒らしてみたり、本当にいろいろなことをやっていた。
なんだろうな・・・哀しくないのに涙が出るよ。
「・・・なんで泣いてるの、トレイン」
「公園って言う単語でいやなことを思い出した」
「・・・・・・あっそ」
「最近アリシアが冷たいんだが」
「・・・さぁ、遊ぼう!」
「十五になってまで何やってんだろうなー、俺」
ため息をつきながら走って行ったアリシアの後ろ姿を見る。ああやっていると年相応の子どもに見える。家で過ごしている時はどこか大人っぽくなっていて、やっぱり甘えたがりならしく、甘えてくることも多いが、全体的に思春期というか、心の成長が早くなっているような気がする。
そう言えば、この世界には他の転生者がいるんだろうか? アリシアのおかげで時代を良く確認した俺は原作より二十年ほど早く生まれている。原作が始まる新暦六十五年に俺は、ちょうど成人していることだろう。話が逸れたが、他の転生者だ。踏み台だとかちゃんとしたオリ主とかあるが、ここはどうなんだろうか。居ても居なくてもどちらでもいいが、せめてまともな人間であってほしい。
「トレイン。ちょっと」
「・・・ん?」
「あの子、さっきからずっと一人でブランコに座ってる・・・」
「・・・あぁ」
アリシアの指差す先にはリリカルなのは主人公、高町なのはがいた。そう言えば、魔力反応なんかを調べればオリ主が居るかどうか調べられるんじゃないだろうか? 『
で? アリシアはどうする気なんだ? 将来の魔王に対して・・・。おおっと勇敢にも話しかけに行ったー・・・。
「ねぇ。お嬢さん一人?」
「ふぇ?」
「これから私と一緒にッ!! イイッタァイアタマガァ・・・・・・」
「ナンパ男かお前は」
「ちょっ! ハーディスで叩くのはなんか違うと思う! そこは優しく手でチョップを入れるのが正しいツッコミだと思う!」
「あ、あの・・・・・・」
「そんな正しさなんか知るか! 大体なんだお前は! 首都圏外の小さな店で伝統芸能を受け継げって言う頑固親父かお前は! だったら、俺は東京でサラリーマンになるんだよ!」
「ならんわ! お前は家の家業を継いで、このブランコを作るのだ!」
「あり合わせのもんでボケてきてんじゃねーよ! 俺伝統芸能つったよな?! どこの小さな店でこんなでっかいブランコ作ってるんだよ!」
「え、えと・・・・・・」
「今ならこんな犬もついてくる・・・・・・」
「プラモデルか! それとも通販か? どっちしろまともな売り物じゃないことは確かだぞ!? どこの世界にブランコとそれに繋がれた犬を商品に、売り出す会社があるんだよ!」
「バン○イ」
「お前今すぐバン○イさんに土下座して謝ってこい! そんな需要が足りなさそうなものが販売されるわけがねーんだから!」
「あのっ!!」
「「?! ・・・・・・き、君は?」」
「さっきからここにずっと居ました!」
居たっけ・・・。ああ、居たわ。何で俺はこの子のことを忘れていたんだろうか。主人公に嫌われたらスターライトブレイカーで消されるぞ・・・。
「悪い。ちょっと熱くなってな」
「いやはや一度乗ってくるともう止められないよね!」
ケラケラと二人で笑う。俺達の息も大分あってきたものだ。一、二年一緒に居ただけだがそれでも長い付き合いとは言えるだろうな。
「俺、トレイン=ハートネットだ」
「アリシア・テスタロッサだよ」
「私、高町なのはなの」
「「なのはなの? 変わった名前だ
「なのはなの!!」
「だからなのはなのでしょ?」
「な・の・は、なの!」
「高町なのは。・・・なの?」
俺のその言葉に高町なのはは高速で首を縦に振る。まあ俺は最初から分かっていたけどアリシアは怪しいな。
「あはは~。そっかー。なのはか! うん、分かってたよ最初から。全部ね! わっはっはっ!」
オーケー誤魔化すのがへたくそなのは良ーく分かった。そんな誤魔化し方したらまたこの子が怒って―――
「もうっ、分かってたなら最初からちゃんとしてほしいの!」
「ごめーん」
―――え? 信じた!? 信じたの!? なのはさん、アリシアのへたくそな誤魔化しを信じたのか!? ・・・まぁ、純粋な子で良かったよ・・・。
「・・・あんまりこういうことは言いたくないが、子どもがこんな時間まで一人ってのは見過ごせねーぞ」
「え。う、うん・・・」
「何か事情があってのことだろうがな、誰かに話せばスッキリするぞ」
「えと、実はね―――」
俺じゃねーよ! いや、まぁ・・・話すって言うんなら聞くしかないんだろうけどさ。俺じゃなくて親御さんにって事なんだけど、何で俺なんだろう・・・。
《トレイン、時には諦めも肝心です》
《わざわざ念話にしてまで言うことか? それは!》
なのはの話が終わってふと思う。いや、二次創作とかで見聞きしてきたけど、なんでこの子この年でここまで変な考え回してるのさ。いや、もうここがアニメの世界じゃないって事は俺自身が生きてきた十数年で重々承知しているからこそ、こんな頭の回る幼児がいるのだろうか。とは頭を捻るのだが、とりあえずそれっぽい事言っておこう。
「ほーう。寂しいのを我慢していい子でいる。ってことか」
「うん」
「バーカ!」
「ひゃうっ」
「子どもは親に甘えるのが仕事! それをさせない親は親失格だ。我が儘を言わない程度に甘えろ。それを邪険にするようならなのはの母さんは親失格ってことだ」
「うぅ、でも・・・でも」
「・・・なのはちゃん。言い言葉を教えてやろう!」
「ふぇ?」
「おい、どっから出したそのメガネ」
「『勇気をもって踏み出せば、夢は必ず叶うんだ』!」
ドドン。と効果音がつきそうな勢いでアリシアはそう言った。
「勇気・・・」
「夢は叶うよ♪」
「・・・なのは、頑張ってみる!」
「その意気だ!」
年齢が近いとこうなるのかね。三人寄らずとも姦しいぞ。
「ありがと! お兄ちゃん! お姉ちゃん!」
俺達にお礼を言ってなのはが公園の入り口にかけていく。アリシアは手を振ってそれを見送っていた。さて、これで終わりかな。と、思った矢先。
なのはが道路に飛び出した。公園の前に横断歩道があって向こう側に渡れるようになっている事は多くあるが、流石に飛び出す事はないだろうと思っていた。だが、今はマズい。
「バカッ!」
スキルを無駄に使ってなのはの近くまで移動して、彼女を抱えて向かい側の歩道まで跳ぶ。
その後を車が何台も通り過ぎる。
「トレイン! なのはちゃん!」
「ふぇ・・・」
「バカなのは! 道路に飛び出すなって親から言われなかったのか!?」
「ふぇえぇ・・・・・・」
「聞いてんのか? おい」
「怖かったよぉー!」
何故そこまで怖がるのか、泣きついているのを良い事に記憶を覗いてみる。そこには、俺達に手を振って道路に飛び出した瞬間。恐ろしい速度で襲いかかってくる化物(車)が映っていた。
あぁ、こりゃ怖かったろうに。何故あんな化物に見えたのかは知らんが、もう道路に飛び出す事はないかもしれないな。ホント、心配させないでほしい。
「大丈夫!?」
「俺もなのはも無事なのは当たり前だが・・・トラウマにならなきゃ良いんだけどな」
「タイガーホース」
「虎馬ってか? やかましい」
その後、泣き疲れて眠ってしまったなのはが起きるまで待って、家の近くまで見送って家に帰ってきた。その道中俺の服の袖を持って離さなかったのが気になるが。