自由な黒猫魔導師の野良猫生活 作:軍曹(K-6)
第十四話 歪んでしまった願望機
「やめろぉ! しにたくなーいっ!」
「デバイスは非殺傷だ。落ち着け、そして眠れ」
「ガッ!!」
「おーい。こっちは片付いたぞ。そっちはどうだ?」
『バッチリ! ねぇ、死にたくなーいとか聞こえたけど何やったの?』
「いや、ハーディスⅡ向けただけなんだけど・・・」
『銃口は普通に怖いから・・・。杖よりも恐怖感煽るから』
そういう物だろうか? 普段から扱ってると銃口の向きでどう飛んでくるかとか分かるようになって意外と面白いんだけどな。
『依頼完了を報告しておいたよ。いつも通り振り込んでおく、だって』
「おう、了解。んじゃ帰るか」
『「転移」』
遠く次元の彼方から、地球の海鳴町に俺達は転移して帰ってきた。もはや見慣れた光景、親の顔より見た光景だろうな。
「よし、それじゃあちょっくら買い出しに行くか」
「何にする?」
「海鮮系ならなんでも!」
「何でもが一番困るんだよ・・・? ・・・・・・ん? 綺麗な石」
「菱形の宝石・・・。・・・!」
ジュエルシード!
「アリシア。それすぐ隠せ」
「? 分かった」
「家に帰ってから調べよう。・・・誰かに見つかると厄介だ」
まさか
原作組の一人であり、アリシアの妹分。フェイト・テスタロッサに見つからないように家に帰らないといけない。スーパーの中でアリシアにジュエルシードを渡してもらい、すぐに封印処理。絶対見つからないように無限倉庫の中に収納した。
買うべきものを買った後、家への帰り道でもう一個拾った。変な運命。何で俺達が拾うんだろうか。これはバランスが崩れるんじゃないだろうか? いや、ナノハが拾うはずのいくつかがフェイトに渡るという調整が行われるかもしれない。落ちていた位置から考えて、町中を襲ったあのジュエルシードは生み出されないかもしれない。それを考えると、中々上々の結果なのではないだろうか。
「トレイン。何が食べたい?」
「だから、なんでもいいって言ってるだろ?」
「・・・なんでもねぇ。まあトレインなら本当になんでも食べてくれるから作る方も楽なんだけどね」
ここ半年ぐらい完全に家の家事全般はアリシアが握った。俺もたまに作ろうとするんだが、全力でデバイスまで持ち出して俺にさせまいとするから、もう任せている。ただ、アリシアの誕生日などのこちらが祝う側の日は俺が色々しているのだが。
「アリシアは良い嫁さんになるな」
「うん。なるからもらってね」
「俺がかよ」
「私トレイン以外のものになる気はないよ」
「そりゃ、男名利に尽きるって奴だな」
いつも通り軽く流していると、やはりいつも通りアリシアが頬を膨らませていた。悪いが年の差婚と呼ばれるような恋愛はしたくないのだ。ごめんなアリシアよ。流石に九つも離れていたらだめだろ。
アリシアの調理音をBGMに、ジュエルシードの解析作業を進めていた。ジュエルシードは元々願いを叶える願望機。叶えるための膨大な魔力を内包していて、暴走すればたった一つでかなりの大きさの次元震を起こせるほど。
そんな威力の爆弾が、二十一個もアリシアのリンカーコアとしてあの小さな少女の体に収まっている。
「トレイン。
「アリシアから見て右の扉開けた二段目。
「うん。
【なーんでこの人達「あれ」や「それ」で会話が成立しているんでしょうかねぇ・・・】by作者
「そっちにない?」
「・・・・・・これか?」
「それそれ」
話を戻そう。爆弾級のジュエルシードが完全なリンカーコアの代わりを果たしている理由は至極簡単だ。誰かが細工を加えたから。じゃあ誰が? この世界でジュエルシードに細工を加えられるのは俺か、姫っちぐらいなものだ。
と言う事でレッツ改造。まずは願いを不完全に叶える機構を取っ払い、他のジュエルシードと共鳴、一つに合体する機構を搭載。一度それが発動すると、全てのジュエルシードが一点に集まり、アリシアズリンカーコアが生み出されるように設定。まだまだ行くぜ!
「ご飯にするからその宝石は仕舞ってよー」
「うぃー」
メシの時間らしい。とりあえず出していた道具を片付けて食卓へと向かう。
「今日は何?」
「ハンバーグ」
「ハンバ――――グッ?! 魚介は!?」
「魚の肉で作ったハンバーグ」
「・・・また腕を上げてるな・・・・・・」
「お嫁さんになるんだもん」
「女の子の夢だな」
「もらってよ?」
「善処する」
ジュエルシードを後はプレシアが保管しているアリシアの中に二十一個全てを入れて虚数空間に放り込む。そのタイミングも、五年ほど前から姫っちの主計算装置が演算し、最適解を導きだそうとしている。
「善処じゃなくて絶対! 私トレイン以外と結婚する気なんてないからね!?」
「中学生になったらどうなるか分からねーよ。思春期に入って、お父さんとお風呂入らなーいってのがあるだろ? あれと一緒だ」
「トレインは違うもん!」
「例え違ってても、本能がそう、意識し出すんだよ」
「・・・・・・トレインが同年代まで縮めば良いのに」
「おぉ。確かにそうすれば合法的に結婚出来そうだな。俺のストライクゾーンにも入るし」
「え・・・? それ初耳・・・ストライクゾーン!? どんな風な!?」
「俺の年齢から誤差三歳。それが俺の好きになる女の子の範囲だ」
「え・・・ふぇ・・・・・・」
なーに泣きそうになってんだよ。それが普通だ。流石に俺も可哀想だとは思うし、アリシアは可愛いんだよ? だけどさ・・・限度っていうものがあるだろ? 何度も言うけど、誰に問いかけてるわけでもないから自己完結するけど、そういうもんなんだよ。
「トレインが縮みますように。トレインが縮みますように!」
「なんのお願いしてんだよ」
「私の魂の願い!」
「クソくだらない事に魂の願い使ってんじゃねぇ!」
って言うか、魂の願いってなんだよ。俺も突っ込んでみて思ったけど、なんのこっちゃ。
「ご馳走様」
「お粗末様でした」
「それじゃあ俺はあの宝石の改造に戻るぜ」
「うん。洗い物はしておくね」
「・・・・・・な~んかすでに熟年夫婦感がでているのは何故だろう?」
俺は知らなかった。全てアリシアが前々から計画していた、“いつの間にか夫婦生活”の一端であるという事を。
その関係を衆人の前で見せて彼女の母親に殺されかけるのも、娘の事が大好きな母親相手のことだから簡単に予想できたことなのに。