自由な黒猫魔導師の野良猫生活   作:軍曹(K-6)

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第十三話 翠屋の白い天使

誘拐が起きた翌日。俺達はいつも通り家に居た。

 

何で翌日なのか、など色々言いたい事はあるが決まってしまった事はしょうがないだろう。こうして一人声に出す事なく愚痴っていても何も始まらない。

 

 

『トレイン。高町士郎から連絡です』

 

「居留守は?」

 

「留守とかそういう問題じゃないと思う・・・」

 

「・・・だよな。繋いでくれ」

 

『・・・どうぞ』

 

「トレインだ」

 

『ああ、トレイン君かい? こちらの準備が出来たから、今から来れるかい?』

 

「周りに他の人間は居ないでしょうね?」

 

『ああ、周りには私の家族と昨日の人間以外はいないよ。今は店の中にいるし、シャッターも閉めているから』

 

「そっか。じゃあ綺麗な魔法を見せてやるぜ」

 

 

端末に仕組んだ魔方陣を発動させる。向こうでは端末から魔方陣が飛び出して空間に浮かんでいる所だろう。こちらも同じように空中に転移魔法が発動している。

 

アリシアと一緒にそこを潜ると、翠屋の中だった。

 

 

「昨日ぶりだな! シロー」

 

「あまり使わない挨拶! 昨日ぶり!」

 

「ああ。すごいね・・・。今のは魔法かい?」

 

「なんとでも思ってくれ、俺に出来ねー事はねーからよっ!」

 

「そうか。・・・ようこそ、翠屋へ。今日はゆっくりしていってくれ」

 

「ほら、なのは」

 

「うん。・・・あの、トレインさん、アリシアちゃん。私のこと覚えてますか?」

 

「「・・・()()()()()」」

 

()()()、なの!」

 

「ああ、覚えてるよ。・・・なんにせよ勇気を持って踏み出せたらしいな」

 

 

ある意味乱暴に、しかし丁寧に俺はナノハの頭をなでる。アリシアが何故か小動物を可愛がるようにナノハの両頬に手を添えて揉んでいるのが気になるが。

 

 

「ふにゃぁぁぁぁ」

 

「・・・私、なのはのあんな幸せそうな顔初めて見たわ(気持ちはスゴく分かるけど)」

 

「そうだね。なのはちゃんとっても幸せそう(いいなぁ、羨ましいなぁ・・・)」

 

「さてと。また食えるんだったよな?」

 

「翠屋のシュークリーム!」

 

「そうだね。とは言ってももうお昼時だ。好きな料理を注文してくれ」

 

「うんじゃ、海鮮パスタ。食後にチーズケーキとミルクをくれっ!」

 

「私、オムライスにシュークリームとオレンジジュース!」

 

「かしこまりました。・・・他の皆も好きなだけ注文してくれ。今日は私のおごりだ」

 

「「「「イエー!」」」」

 

 

各々が好きに注文をし、全てとり終えた後、厨房に戻っていくシロー。どうやら、モモコが既に厨房でスタンバっていたみたいだな。

 

暫く待って運ばれてきた料理を口に運ぶ。

 

 

「あの、トレインさんは海鮮パスタ好きなんですか?」

 

「ん? 俺は基本食事に好きも嫌いもねぇよ。まぁ、海鮮料理がずば抜けて好きってぐらいだ」

 

「し、将来お嫁さんにするのは、やっぱり料理が出来る女の人のほうがいいですか?」

 

「そうだなぁ・・・。人と一緒に料理をするっていうのは結構楽しいから、お互い料理が出来るっていうのは良い関係なんじゃないか?」

 

「毎日作ってるもんね」

 

「当たり前になっちまってるからなっ」

 

 

朝食担当が俺、弁当などお昼担当をアリシアが。晩飯は二人で協力して作る。というのが家の水面下での掟になっている。

 

 

「へぇ~。どんな料理を作るんですか?」

 

「こったものは作らねぇよ。誰かに出すわけじゃねぇから、その日その日でバランスを考えてなんでも作ってる」

 

「うわ~・・・、羨ましい! 私は全然だめだからなぁ・・・・・・」

 

「美由希のは料理じゃない、化学兵器だからな」

 

「恭ちゃん酷い! 私だってちゃんと成長してるんだからね!」

 

「確かに。この間の料理で気を失った時間を更新したからな」

 

「ひどっ! なのはぁ、恭ちゃんが酷いよぅ」

 

「事実なの」

 

「!? な、なのはにまで裏切られた! うぇーーん!」

 

「どれだけ下手くそでも食えるものを作ってやらねぇと、食材への冒涜だぞ」

 

「料理する人間にとって、食べさせる人を気絶させるなんて言語道断だよ」

 

「ぐっ! はぐぅ!」

 

 

恐らく予想だにもしなかったであろう場所からのストレートをまともに受けたミユキは崩れ落ちた。

 

 

「そう言えばだが、トレイン君は何か武術なんかをやっているのかい?」

 

「ん? そんなことしてねーけど?」

 

「じゃあどうやってあの時・・・・・・」

 

「そういや、あの消えるような動きどうやったんだ? 流石に移動先に勘で合わせる事しか出来なかったんだけどよ」

 

「単純な速度なんじゃないかな? それでもトレインには届かなかったけど」

 

「だなっ」

 

「・・・・・・、もう一度。私と手合わせをしてもらえないだろうか」

 

「別に構わねーけど? 負ける事も念頭に置いてくれよ?」

 

「ああ。良く覚えておくよ」

 

 

翠屋がある海鳴町商店街から移動して、高町家に隣接した道場で俺とシローは向かい合って立つ。

 

 

「今一度名乗ろう、永全不動八門一派・御神真刀流小太刀二刀術師範、高町士郎。行くぞ!」

 

「んじゃあ俺も名乗った方がいいのかな? 特に流派があるわけじゃねーけど、これに名前をつけるなら、(かた)()無双(むそう)流何でも有り闘争術、トレイン=ハートネットだ!」

 

 

 

 

小太刀の木刀を持って突入した士郎の刀は、全て受け流された。

 

 

「?! ・・・・・・合気道か」

 

「ちょいと昔戦った相手がやってたのを真似てるだけなんだけどなっ」

 

「他にも何か混ぜているな?」

 

「俺は結構つまみ食いが好きでね。これいいなーって思ったのはつまんでんだ」

 

「なん・・・。普通そんなつまみ食いしないぞ!?」

 

「そ、並の人間ならどっち付かずの中途半端がオチ。それをまとめ上げるのもトレインのセンスって奴よ」

 

「まぁだから・・・」

 

 

瞬間的に消えたトレインが、士郎の剣を一本奪って後ろに立っていた。

 

 

「あんたらの神速(お得意)も見よう見まねでここまでなら、な」

 

「ッ!? ・・・参った。降参だ。トレイン君、君はいったいどうしてこんなに?」

 

「アンタなら分かるんじゃねーか? 高町シロー。そんな力をつけなきゃ生きていけない世界に居たからだよ」

 

 

十の頃からそういう世界に生きてきたつもりだったからな。とりあえずシローに見せつけるように愛銃(ハーディス)を抜いて、見せる。

 

 

「今でこそ撃ち出すのはゴム弾だったりするが・・・、もちろん初めはマジモンを撃ってたんだぜ?」

 

「・・・・・・なるほど。私も過酷な世界で生きてきたつもりだったが、上には上が居るというわけだ」

 

「そろそろいいか? 四時から依頼が入ってるんだ」

 

「あぁ、まだまだ私も上に上がれる気がしてきたよ」

 

「そうかっ。行くぞ、アリシア」

 

「うんっ!」

 

 

転移門を開いて俺達は依頼主の元へと転移した。


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