自由な黒猫魔導師の野良猫生活   作:軍曹(K-6)

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第十話 翠屋のシュークリーム

高町家の事案から早二ヶ月。ようやく俺達は翠屋のシュークリームを食べに行くことが出来そうだった。

 

それもこれも突然舞い込んできた依頼のせいだろう。受けた俺達も悪いかもしれないが、半ば脅しのような依頼料を手渡されたのだから仕方がない。仕方がないとは言ったものの、アリシアの不機嫌さは目に見えて現われており、仕事の内容で敵対した相手が可哀想に思えるほど、オーバーキルを連続していた。

 

と言ってももちろん本当に殺したわけではない。そこはアリシア自身もちゃんと分かっているらしく、デバイスの設定を変えることはなかった。だが、いくら非殺傷といえどゼロ距離で数十発以上撃ち込まれてはいっそ一撃で仕留められた方がマシというものだろう。

 

そんな事を行うぐらいアリシアの機嫌は悪かった。

 

 

「なんでこういう事するかなぁ? 本当に・・・死ねばいいのに」

 

 

その時彼女が放った言葉については冗談だと思いたかったが、あの目は本気だった。俺の知る限りアリシア・テスタロッサという少女はこと仕事中という一点に限って言えば、人々の想像もつかないほど、どうしようもなく怠惰で、傲慢で、そしてやはり自分勝手だった。

 

 

 

「トレイントレイン! さあ行こう! シュークリームが私達を待っている!」

 

「待ってるわけねーだろ」

 

 

テンションが高いのは分かったからもう少し大人しくしてほしいと思う。と言うか結局オリ主は現われなかった。不干渉で行くのか、それともヴィヴィオ辺りで登場するのか、それは俺にも分からない。だが、少なくとも無印の原作に関わろうと思うのなら、いかんせん登場が遅いような気もする。

 

あれだろうか。よくある五歳ぐらいまでの記憶がなくて、なのはのイベントをのがしたという奴だろうか。それならそれベ構わないのだが、それにしても魔力反応がないのはおかしい。やはりこの世界には転生者がいないと言うことだろうか。

 

だとすれば、よくある『蕾の花園』を形成するのは俺の可能性が高い気がしてきた。それだけは何としても避けなければならない。元より俺は“同年代、誤差は三歳”と、ストライクゾーンは狭めだ。そんな俺が四捨五入すれば二桁に届く歳の差恋愛なんてしたあかつきには、そこら中の人間からロリータコンプレックス扱いだ。

 

絶対に避けなければ!

 

そんな事を考えながらもいつも通う海鳴商店街の一角、翠屋が見えてきた。アリシアの足は目に見えて軽く速くなっているし、かく言う俺もそれに会わせて速くなっている。というか、アリシアを見失うと危険なのだ。親代わりをしている弊害もあるのかもしれないが、アリシアは迷子になるとロケットボムと言っても過言ではない威力で腹部にタックルを食らわせながら帰ってくる。それもできれば避けたい。

 

 

「いらっしゃいませ~」

 

「どもっ」

 

「ご注文は?」

 

「私、シュークリームとオレンジジュース!」

 

「チョコケーキとミルク頼む」

 

「牛乳好きだね~」

 

「強くなれるらしいからな!」

 

「おや? 兄弟かい?」

 

「いえ。なんの血の繋がりもありませんよ?」

 

「ただ一緒に住んでるって言うだけです!」

 

「そうか・・・・・・ッ!」

 

 

店主である士郎の目つきが変わった。気付いたか。アリシアからはかすかに、俺からは強くにおう血の匂いに。

 

 

「・・・・・・ちょっと、いいかな二人とも」

 

「別に、構わねーぜ?」

 

「問題ないよー」

 

「すまん桃子、ちょっと彼等と話がある」

 

「お金は払うから注文取っといてくれよなー」

 

「食べに戻ってきますからっ」

 

 

翠屋からほど近い、廃ビルの中。俺達と高町士郎は向き合っていた。まったく、どうしてこうなった。は予想出来るから言わないにしても、せめて食べてからが良かったかな。

 

 

「さて、一つ聞かせてもらおう。君達は何者だ」

 

「は?」

 

「言い方が悪かったな。家に何しに来た」

 

「シュークリーム食べに来たんだよ?」

 

「・・・・・・では何故、君達から我々と同じような匂いがするのか教えてもらおうか」

 

「そういう仕事をしてるからだけど?」

 

「依頼を受けて依頼通りに働く。それが私達の仕事」

 

 

 

トレインとアリシアは揃ってそう答える。その返答に何か不満があったのか士郎は眉をひそめると、いつの間にか持っていた真剣を抜いた。

 

 

「詳しいことは抜きでいいな。お前達の狙いは御神流(ウチ)だろう?」

 

「いや、まぁ翠屋のシュークリーム(あんたらのトコの)で間違ってはねぇけど・・・。なんで真剣?」

 

「君が私達の敵かもしれないからだ。御神真刀流、高町士郎。参る!」

 

 

廃ビルの中に甲高い金属音が響く。士郎の抜いていた真剣を、トレインのハーディスが受け止めていた。

 

 

「っぶねーなぁ! 敵じゃねーっつの!」

 

「ならそれをどうやって証明する!」

 

「俺達はただ翠屋のシュークリームを食いに来ただけだ!」

 

「信じられるか!」

 

 

何度もトレインはハーディスで士郎の刀を止めるが、本格的な打ち込みが始まっていた。

 

 

「・・・強いな」

 

「相応の修羅場は潜ってきてるんでね・・・」

 

「なるほど!」

 

 

トレインが手練れだと分かると、士郎は攻め方を変える。アリシアはその後ろで何かをしていた。

 

 

「なぁ、アンタが何を勘違いしてるか知らねーけど、俺達は本当に翠屋のシュークリームを食いに来ただけなんだって。そもそもアンタは強ーけど、俺には届かねぇ。手は出さないことを約束するから見逃してくれねぇかな」

 

「まだ、負けたわけじゃないぞ!」

 

「じゃ、これで終わりな」

 

 

発砲音が響いた。鋭い痛みを肩口と手に感じた士郎はそこを見る。近くにはゴム製の弾頭が落ちていた。

 

 

「流石に鉛玉を常日頃から装填しておくわけにもいかねーからな。日本(ここ)じゃ拳銃や刃物の所持は御法度。お開きにしようぜ。高町士郎さん」

 

「・・・・・・いやはや、すまない。途中から戦うことだけに夢中になっていたようだ」

 

「マジかよ・・・」

 

「トレイン。終わったなら翠屋に戻ろう? 私はシュークリームを食べに来たんだから」

 

「ああ、そうだな。・・・士郎さんはどうします?」

 

「私も店に戻るとするよ。すまなかったね」

 

「構わねぇよ」

 

 

その後、翠屋でのんびりそれぞれシュークリーム、チョコレートケーキといった甘味を味わった後、トレイン達は奇跡的に高町なのは(爆弾)に遭遇することなく帰宅を果たしたのだった。


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