自由な黒猫魔導師の野良猫生活   作:軍曹(K-6)

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第一話 神様転生。これってテンプレ?

気がついたら・・・真っ白い場所にいた。なんていう展開だったらどれだけ楽だっただろうか。現在俺はそういう場所にいる。一面真っ白で、俺のこのモノローグが終わったら神様がやってきてあなたは死にましたって言うんだろうさ。でもさ、死にました。って、知ってるんだよ。

 

俺が死んだ理由はかなり簡単だ。トラックに轢かれた。というか、押し潰された。信号を無視した幼女を避けようと、ハンドルを切ったトラックが歩道に突っ込み、歩いていた俺を潰した。しっかり覚えてるんだよ。身体中がきしむ音とか、目が見えなくなる瞬間とか、肋骨が折れて肺とか内臓に刺さる痛みとか、押し潰された内臓が皮膚を突き破って地面に流れ出した瞬間とか、全部全部覚えてるんだよ!

 

普通そういう物って消えるんじゃない? 消えるからこそ『気がついたら』っていうテンプレなのであって、決して俺が頭を先に潰されなかったから覚えている。とかそういう問題ではないと思うんだ。どれだけグロい光景だったと思ってる。今ここで思い出しても吐くぞ? 胃の内容物があって、肉体があればリバースしていたに違いないだろう。

 

さて、465文字ぐらいに渡って長々と愚痴を言ってみたわけだが、そろそろ何とかしてほしい。俺は元来、たった一人で永遠と語るのは好きではない。いや、そもそも人間に永遠はないのだから語れるはずもないのだが。永遠とはその通り、永く遠く続く何らかの状態を指していて、永遠に続くものといえば、宇宙などが一般的だろう。一人の人間の一生では終わりを見ることは決してない、“永遠”と言えるだろう。

 

・・・・・・俺は何の話をしていたんだっけ? あぁ、そうだそうだ。俺が死んだ状況について誰かに説明を求めようとしていたんだった。永遠のせいで120文字ぐらい余計な語りをしてしまった。余計といえば―――

 

 

「いい加減にしてくれませんかねぇ」

 

「・・・・・・どうも」

 

 

ようやく神様の登場か。というか、俺と同い年ぐらい見えるけど、やっぱり年上なのだろうか。神などという存在は俺達人間の感性では表しきれないほど尊いものだ。恐らく今俺の目の前にいる美少女は、人間から神様はこうであってほしいという願望で生み出された、最近の(オタク)文化の弊害だろう。

 

 

「もう、いいかい? いい加減に一人語りはやめてほしいんだけど」

 

「・・・悪い。今まで俺の周りに俺と会話してくれる人間がいなかったからな」

 

 

死ぬ前も死んでからも一人、意外にも俺は上手い事を言ったのではないだろうか。子どもの頃から俺はこうやって一人語りをして生きてきた。誰かに何かを言われた訳でもないが、俺は友人という友人を作ってこなかった。特にアニメの中のヒーローに憧れていたわけではない。ただ、できなかっただけだ。

 

一人で話している内に、俺は一人語りの速度が速くなっていった。17歳の時点で、六千字以上一人で話していたのに現実時間では五分も経っていなかった。そんな俺はまぁ、周りから見ればボッチで、いつも窓の外ばかり見ている変人なんだろうが、成績はそこそこ良かったからいじめなんかに遭うかと思っていた。が、そもそもあいつらは俺に関わろうともしなかった。どれだけ嫌われているんだ俺は、と思ったものだ。

 

俺はそうやって過ごす内に組織の恐ろしさを知った。大人というのは汚く濁っている。別にどこかの高二病みたいに俺の眼は腐ってはいなかったが、周りの大人は腐っていた。周りのクラスメイト達は、成長するにつれ純粋さは失われ汚く染まっていったが、まだ可愛い方だと思う、たまたまだと思いたいが俺の周りの大人は、人間的に生きていたら駄目な種だった。

 

おっと、話が―――

 

 

「大分逸れているんだよ! 一体どれだけ一人で語っているんだいきみは!」

 

「およそ493文字程度だ」

 

 

そろそろマジメに目の前の少女神と話を進めないといけない。あーでも、せめて高校二年の春休みまで待ってほしかった。もしかしたら吸血鬼と出会えたかもしれないのに・・・。吸血鬼にあったらどうするかって? そのまま怪異に関わって、幽霊小学生と戯れて、妹達と過激なスキンシップをして、まぁ色々と夢が広がっていたはずだったんだよ・・・・・・。

 

 

「・・・・・・ゴホン。君は今、自分がどんな状況におかれているか分かっているかい?」

 

「トラックに押し潰されて死んで、意識が飛んだと思ったらここにいた。要するにここは死後の世界。ってところか?」

 

 

死後の世界というには閻魔様もいないし、三途の川を渡った憶えもないのだが、やはりそれは人間の想像であって死んだら無に還るというのが一番正しいのかもしれない。無を取得出来れば星は取れる。エンディングの引き寄せが―――

 

 

「もうっ! 泣くぞ!」

 

「半分泣いてるぞ。握った拳も震えてる。無視したことは謝るから泣かないでくれ。俺は女性の涙には弱い」

 

「・・・・・・そう、君は死んだよ。それも無残に」

 

「おう」

 

「思い浮かべないで! 私、君の死んだ瞬間を見て吐いたんだからな!」

 

「お、おう!」

 

 

やはり吐くのか、あの光景は。轢いたトラック運転手も、近くを歩いていた通行人も俺の姿を見てリバースしているのではないだろうか。無残に内蔵機が飛び出していたり、骨が砕けていたりしただろうからな。

 

 

「・・・そして、謝らなくちゃいけないことがあるんだよ」

 

「なんだ? あなたは死ぬはずのなかった人間です。ってことか?」

 

「あ、うん。そうなんだけど。その理由がね―――」

 

 

その説明を簡単に言うと、結構お偉いさんの神様の娘が人間界に逃亡、ルールを知らず信号無視。神の奇跡のようなものでトラックが幼女を回避。俺に激突、俺死亡。つまり俺は彼女らの仲間のせいで死んだと言う事か。

 

 

「あー。うん。良く分かった。で? 俺はどうなるの? 輪廻の輪に乗れないから数十年ここで待つとか?」

 

「テンプレって奴を知ってて何でそこでそれが出てくるかなぁ・・・。神様転生って奴だよ。君は新たな世界に記憶を引き継いだまま転生出来る!」

 

 

ほう、やはりというか何というか。俺は転生出来るのか。どこへ? いや、どこでも良いな。何でも出来るようなチートをもらって、自堕落な生活を送るとしよう。今まで社会のしがらみに囚われすぎたんだ。転生した後は自由に過ごして良いだろう。野良猫みたいにブラブラと、その日暮らしをするのもいいかもしれない。

 

 

「一体何の世界に転生させてもらえるんだ?」

 

「あ、それは自由だよ?」

 

「自由なのか? ・・・じゃあランダムでいいや。そっちでくじでも引いて決めてくれ」

 

「へ? あ、うん。オッケー。じゃあ特典を・・・えっと、三つまで」

 

「(1)制限や(2)代償なしに(3)スキルを作れるスキルをくれ」

 

「・・・も、ものの見事に三つだね。いいよ。制限・代償なしにスキルを作るスキルだね」

 

「おう」

 

「容姿は? 何か希望はあるかい?」

 

 

容姿か・・・阿○々木先輩とかどうだろう。そこそこのイケメンだったはずだ。いや、待て待て。逆に女性よりになるという手もある。金色の闇のように可愛らしい男の娘になるという手もあるな・・・。あえて特典の元ネタの不知火半纏とか・・・、天使を拾った桜井智樹とか・・・。悩むなぁ。

 

 

「名前の希望はあるかな?」

 

「名前?」

 

 

名前か、名前は漢字を使わなくて良いから横文字が良いと前々から思っていた。そこで俺は閃いたのだった。いるじゃないか。自由な野良猫生活を送るイケメンが!

 

 

「トレインっ! 俺の容姿と名前はBLACKCATのトレイン=ハートネットだっ!!」

 

「・・・えっと・・・ブ、ブ、ブ・・・はいっ。わかりましたー」

 

「それじゃあ?」

 

「はい。では、行ってらっしゃい」

 

「おう、行ってくる」

 

 

そう言った瞬間。俺の体にはたくさんの黒い手がまとわりついてきた。え!? これって・・・真理の扉!? なんっで!?

 

 

「何となくだぜ。落とすというテンプレを覆せ! って言われたので」

 

「えぇい! その幻想をぶち殺してやる!!」

 

 

俺は無意味に吸い込まれていった。これなら真理を見せられた方がマシかもしれない。







語る系主人公。話が進まない。

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