その胸に還ろう   作:キューマル式

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ここで一応、第一部完といったところです。


目覚めるもの

 

 

 そこはどこなのか……ゴツゴツとした岩肌の洞窟のような場所だ。しかし洞窟特有のジメジメとした雰囲気もなければ、真っ暗ということもない。冷涼にして澄んだ空気に満ち溢れ、光る苔のような植物によって十分な明るさを保っている。

 そこに声が響いた。

 

「「ついに時が来てしまいました……。

あれから100余年……『封印』は解かれ、再び『滅び』が現れる……」」

 

 2つの声が唱和するように響く。

 それは2つの、少女の姿をした人影だった。

 

「「あの100余年前では人は……どうやっても『滅び』に抗えなかった……。

だからすべてを賭けて『封印』を施しましたが……もはやそれにも綻びが生じ始めている……。

『滅び』は遠からず、再び現れるでしょう……」」

 

 憂うような声……そこには大いなる慈愛が見え隠れしているような気がする。

 

「「でも100余年前とは違う。 今は……2つの『希望』が間に合ってくれた」」

 

 その声には安堵の色が見えた。

 2人は祈るように腕を組み、目を瞑る。

 

「「『希望』よ……どうか人類の未来を……お願いします」」

 

 

 キシュゥゥゥゥゥン!

 

 

 その2人の背後、そこで巨大な『何か』の鳴き声が響いた……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「はぁはぁ……!!」

 

 夜の闇の海を、荒い声の少女が駆けていた。

 駆逐艦『朧』の艦娘である彼女の表情には隠しようのない恐怖が見える。しかし、それでも守らなければならない約束が彼女の足を動かしていた。

 彼女の駆逐隊は敵泊地周辺への夜間偵察任務へと赴いていた。

 気心の知れた仲間たち……今まで幾多の死地を乗り越えてきたその連携は巧みで、みんなと一緒ならきっとどんな敵とも戦えると信じていた。しかし、そんな仲間たちは『朧』を置いて逝ってしまった。

 だが、彼女たちを襲ったのは見慣れた深海棲艦ではなかったのである。

 

「必ず、必ずあの『化け物』のことをみんなに伝えるから……!」

 

 『漣』はバリバリと頭からむさぼり食われた。

 『潮』は一瞬で輪切りにされた。

 『曙』は朧を逃がすために囮としてその場に残った。

 

 そんな仲間たちの最後を、そしてその情報を生きて持ち帰るのだ。その思いが、朧の恐怖に震える身体と心を奮い立たせる。

 だが……そんな彼女の足元に、すでに死神は迫っていた。

 

 

 ザバッ!!

 

 

「がぁっ!?」

 

 突如として現れた巨大な何かに、朧は捕まっていた。

それはハサミだ。甲殻類のような赤い色の巨大なハサミが、朧の腰をがっちりと捕まえていた。

 

「い、ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!??」

 

 そのハサミの圧力に、朧の口から絶叫がほとばしる。艤装と装甲がその圧力に耐えきれずにひしゃげ、朧の女の子らしい細い腰の骨が砕け散る。

 

「この! このぉ!!」

 

 血を吐きながら手にした12.7cm連装砲を撃つが、ゼロ距離だというのに強固なそのハサミはほとんど傷つかない。

 

「ぐ、ぎゃ、がぁ……」

 

 朧の口からはもはや、悲鳴でさえ血の混じった壊れたコーヒーメーカーのような音が漏れるだけだ。

 薄れる意識の中で朧は絶望しきった顔で、最後の最後に苦笑を漏らす。

 

「私はカニ派。 エビは……嫌いよ」

 

 

 バチンッ!!

 

 

 




朧が、お/ぼろになってしまいました。
くそぅ、一体なにエビなんだ!

次回更新は未定、まとまったら投稿します。

よろしければ次回もお願いします。

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