この子、ヒロイン力高いと思うのになんでメインのSSあんまりないのかなぁ……?
「やれやれ……何やってるのかね、俺は?」
轟天は思わずため息をつく。
偵察とは名ばかりの、艤装に慣れるための散歩のようなものだったはずがこうして深海棲艦の集団を前に戦闘態勢に入っている。そしてそんな轟天の後ろには、今にも殺されそうな艦娘の姿。
「羅號に偉そうなこと言えねぇや」
轟天は思わず苦笑した。
羅號があの3人を助けたことにあれだけ偉そうにご高説を垂れたというのに、いざ自分がそんな場面に出くわしてみれば見て見ぬふりはできなかった。
それに……轟天は今初めて深海棲艦の実物を見たわけだが、その姿を見た瞬間に分かったことがある。
こいつらは人類の『絶滅』が目的だ。滅ぼさなければ人類が滅ぼされる。
人型をした個体はいるが、人の形をしているというだけ。どうあがいたところで決して分かり合えることはない。
何故なら、こいつらは『やつら』と同じ■■■■■■■なのだから……。
「ぐぅっ……!」
突然の頭痛に轟天は顔をしかめる。
「本当に……記憶喪失ってのは不便だな。
よく分からんことを口走ったり、ちょっと何かを思い出しかけると頭痛がしやがる……」
深く考えるのは後だと、轟天は頭を振って目の前の敵に集中する。
そう、『敵』だ。
これも失った記憶に関係あるのだろう。見ているだけで嫌悪感が湧き上がる。
こいつらは一匹残らず叩き潰さねばならぬと、本能が叫んでいた。
「まぁいい……詳しいことはゆっくりと、こいつらを叩きつぶしてから考える!」
その声とともに轟天が攻撃を開始した。
「VLS開放。 フルメタルミサイル、発射!」
轟天の背中の艤装、そこから垂直に発射された噴進弾、それが意思を持つように途中で向きを変えながら深海棲艦隊に襲い掛かった。駆逐級はもとより、装甲の分厚いはずの重巡や戦艦ですら一撃でその装甲を貫かれ、内部から爆発していく。
「『やつら』の分厚い防御を貫くためのもんだ、そんな程度の防御力で防げるかよ」
笑いながら言う轟天に、深海棲艦隊は総攻撃を開始した。
レ級から艦載機が発艦し、轟天に襲い掛かろうとする。しかし轟天は慌てることなく指示を出す。
「ドッグファイター射出、制圧しろ!」
轟天から射出されたもの、それは鋭角的なフォルムの飛行機だ。それが猛然と炎を噴き出しながら空へと昇っていく。
その正体はジェット戦闘機だ。数はそれほど多くはないが、そこから噴進弾が発射され迫る深海棲艦の艦載機を叩き落とす。生き残った敵艦載機隊も、その別次元のスピードと機動力によって瞬く間に墜とされた。
続けて深海棲艦隊からの猛烈な砲撃が放たれる。
「回避……はしないほうがよさそうだな」
チラリと背後で茫然としている艦娘を轟天は見た。今ここで回避すれば、下手をすればこの動けない艦娘に敵弾が直撃してしまう。
ならばやることは一つだ。
「小型プラズマメーサービーム砲、全基稼動。 敵弾を迎撃!」
轟天から何条もの光が空に向かって放たれ薙ぎ払われる。それが飛んでくる敵の砲弾をことごとく空中で爆発させた。その光はそれだけにとどまらず、深海棲艦にも放たれる。
光にあたった深海棲艦は、まるでバターを温かいナイフで切るかのように装甲を焼き切られて爆発、そのまま海中に姿を消した。
「さて……残りはお前さんだけだな」
いつの間にか大量にいた深海棲艦は海中に没し、残っていた深海棲艦はレ級だけだ。レ級は強烈な砲撃を轟天に向かって連射するが、そのことごとくは先ほどの光が撃ち落としていく。
悔しそうにレ級は歯噛みした。だが、轟天はそれを見て不敵に言い放つ。
「何だお前、もしかして攻撃を当てさえすれば勝てるとか思ってるのか?」
すると轟天は大仰に手を広げた。
「いいぜ、撃ってこいよ。
サービス期間で迎撃はなしだ。受けてやるから撃ってみな!」
その不敵さに怒ったのかそれとも恐怖を感じたのか、レ級から主砲の一斉射が放たれた。それはそのまま轟天に直撃し、爆炎とともに水柱が巻き上がる。
レ級の主砲、その一斉射撃の直撃を受ければ人類側で最強と言われる大和型戦艦であっても無事では済まない。場合によっては一撃で轟沈だ。確かな手ごたえに思わずレ級の表情にいつものニタリとした笑みが浮かぶが……その顔はすぐに凍り付いた。
「なんなんだぁ、今のは?
ただ海水を巻き上げるだけの攻撃か?」
水しぶきの向こうから轟天が現れた。その姿には傷はなく、まったくの無傷である。
「俺の装甲はすべて、超耐熱耐衝撃特殊合金NT-1とスペースチタニウムの3重複合構造に表面にはブルーダイヤモンドコーティング処理を施した特殊装甲だ。
『やつら』の攻撃に耐えるために造られたこの装甲に、そんなチャチな攻撃が通用すると本気で思ったのか?」
言いながら轟天は右手に持ったドリルメイスを振り上げる。超重量を誇るだろうそれをまるでおもちゃのように簡単に振り上げると、ドリルが回転を始めた。
「さて……覚悟はいいかい?
ミンチになるのお時間だ」
その言葉に恐怖に駆られたのか、レ級はそのしっぽを振り上げながら突撃してきた。しっぽ型の艤装が轟天を噛み砕こうと迫る。しかし轟天は全くひるまず、そのまま回転するドリルメイスを振り下ろした。
グチャ!!
嫌な音ともにしっぽ型の艤装が叩き潰される。それだけでは済まず、回転するドリルによってしっぽ型の艤装がぐちゃぐちゃと音を立てながら引き千切られていく。
レ級の口から、訳の分からない絶叫が響いた。恐怖に顔を歪め、レ級が逃走しようと背を見せる。
轟天はゆっくりとドリルメイスを正面に構えた。すると回転するドリルが光を放ち始める。
「ドリルスパイラルメーサーキャノン、発射!」
放たれたのは光の渦だ。その渦の本流に巻き込まれ、レ級は比喩や誇張ではなく跡形もなく消し飛んだ。
「さて、と……」
深海棲艦を撃滅した轟天はドリルメイスを艤装のマウントラックに戻すとゆっくりと辺りを見渡した、ところどころで深海棲艦の残骸が海を汚しているだけで、静かな海だ。
「……で、大丈夫か?」
轟天は生き残っていた艦娘に振り返る。彼女は目の前の現実が信じられないような顔をしていた。
「私、生きてる……」
「危ないところをギリギリだったみたいだがな……悪運が強いぞ、お前」
そう言って轟天は今だ立ち上がれていない彼女に手を差し伸べる。彼女はその手を握るが、そこで今までの極度の緊張から解放されたせいか、そのまま気を失ってしまった。
「お、おい!」
轟天は慌てて彼女を抱き起こすが、起きる気配はない。
「勘弁してくれよ、まったく……」
轟天はため息をついた。
彼女の艤装の損傷は酷い。この状態で放置してしまえば遠からず沈んでしまうだろう。彼女の艤装に乗っている妖精さんたちも助けてほしいと訴えていた。
「そんな目で見るなよ、ここまで来て見捨てたりしねぇよ。
よっと!」
妖精さんたちに答え轟天は彼女を、いわゆるお姫様抱っこで抱え上げた。
轟天としてはこの行動に他意はなかった。気絶しボロボロの状態の女の子をまさか引きずって行くような真似はできないし、艤装がある関係上背中に背負うことはできない。
そのために消去法でお姫様抱っこで抱え上げたわけなのだが……。
「……すげっ」
思わず声が出てしまった。
戦闘のせいでところどころ破れた衣服から彼女の白い肌が覗く。すすに汚れながらもその整った顔立ちは『美少女』以外の形容詞が出てこない。
そして何より、外見的に年齢は轟天と変わらない14~15歳くらいだろうに、その胸の成長具合は……明らかにスゴかった。そんなたわわなふくらみが、ところどころ破れた服からチラチラと覗いており非常に目のやり場に困る。
「駆逐艦おっぱいビッグセブンの1人です? いや、そんな情報はいらねぇから。
触りますか、旦那? あのな、気絶した相手にそんなことするほど俺は鬼畜じゃねぇぞ」
彼女の艤装の妖精さんたちの言葉に返しながらも、やはり気になってしまうのは悲しい男のさがである。
「しかし……羅號にはどう言ったもんかね……」
再びため息をつく轟天。だが次の深海棲艦が現れる可能性もあるし、艦娘たちに見つかってさらに厄介な話になるものごめんだ。それ以上に彼女は早急に手当てをしたほうがいい。
あれやこれやと考えながら、轟天は『緯度0秘密基地』への帰路に就くのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~
「兄さん、おかえりなさい!」
「ぐっ……羅號……」
誰もいないことを期待しながら轟天は『緯度0秘密基地』のドッグに降り立ったが、その願いは無駄だったようだ。羅號だけでなく、羅號の助けた朝潮・ロー・リベの3人娘まで総出でお出迎え状態である。
気を失った彼女をお姫様抱っこで抱えながら帰還した轟天を出迎えた羅號は満足げなニコニコ顔だ。3人娘まで何か微笑ましいものを見るような感じである。
まるで「こうなることは分かっていました」みたいな雰囲気であり何か言ってやりたいところなのだがうまい言葉が思いつかない。それはなるべく早く彼女を休ませてやるために轟天がかなり飛ばしたせいで、あまり考える時間がなかったのも原因だった。
「その娘は?」
「……深海棲艦に仲間が全滅させられて、やられそうになってたから拾った」
どこか憮然として言い放つと、ますます嬉しそうにする羅號。
「やっぱり兄さんだね。
兄さんも危機に陥った娘を見捨てられず、思わず助けたんでしょ?
兄さんならそうするって信じてたよ」
まったくもってその通りなのだが……なんだかそれを素直に認めるのは負けのような気がしてきた。
「そんなわけあるか。
俺はその……しっかりとした理由があって助けたんだぞ!」
「へぇ、どんな?
いろんな情報も聞けたし、朝潮やろーちゃん、リベちゃんで足りないものがあったの?」
「それは……その……」
無論、そんな高尚な考えなど轟天には欠片もない。必死になって考えを巡らせる。
(どうする? 何かこの3人に無くて、こいつにだけあるものは……そうだ!!)
……人間、往々にして追い詰められて切羽詰まった時にひねり出した考えは穴だらけでロクなもんじゃない。しかし、その瞬間だけは「なんてすごいことを思いついたんだ!俺って天才じゃね?」と心の底から思っていたりするものだ。
もういっぱいいっぱいだった轟天はまさしく、そんな状態だった。だからこそ、そんな言葉を口走ってしまったのである。
「こいつは……『おっぱい成分補給艦』だぁぁぁ!!」
「「「「……はぁ??」」」」
轟天の言葉に、「何言ってんだこいつ?」という感じで羅號と3人娘の声が重なった。
「だから『おっぱい成分補給艦』だよ!
でっかい胸には夢が詰まってる! いるだけで目の保養になって男としての士気に関わるからな!
だがそこの3人の小さな胸じゃまったく士気高揚にならん!
そこで不足分を補ったわけだ!」
「いやいやいやいや、兄さん。
3人は歳相応ってだけで小さいとかそういうわけじゃないと思うよ。
というか何をさも当然のことのようにむちゃくちゃなセクハラ発言してるのさ、兄さん!」
呆れたように息をつく羅號。
「あのさぁ……ちょっと面白がってからかったのは謝るからさ、素直に『見捨てられなかった』でいいんじゃないの?」
「いいや、計画通りの行動だ!」
ここまでくるともう意地である。轟天は素直に見捨てられなかったとは頑として認めない。
そんな意固地な兄に、再び呆れたようにため息をついた羅號はその時に気付いた。
「あっ……。
あの……兄さん?」
「何だ?」
「えーと……」
羅號が言いにくそうにちょいちょいと、轟天の下の方を指さす。
「あん?」
轟天がその指の方にゆっくりと視線を移すと……いつの間にか目を覚ましていた彼女とばっちりと目が合ってしまった。
彼女はちょっと困ったような顔を浮かべながらも、小さく手を振りながら言う。
「えっと……はいはーい、おっぱい成分補給艦の村雨だよ。
あの……よろしくね」
「……」
もうすべてを聞いていた彼女……村雨の茶目っ気をきかせた自己紹介に轟天はしばし無言だった。
やがて轟天は無言でお姫様抱っこで抱えていた村雨をゆっくりと降ろす。
そして……。
orz
あまりの恥ずかしさに膝から崩れ落ちた。
「ちょ、ちょっと。
あの……男の子としては恥ずかしくない普通の反応だと思うよ、うん!」
「……慰めありがとよ。 でも逆にもっと恥ずかしくなるからやめてくれ……」
慌ててフォローに入る村雨に、さらに気恥ずかしなって落ち込む轟天。
こうして轟天と羅號の、人類、そして深海棲艦との初遭遇は過ぎていったのだった……。
轟天の武装の数々は、もう東宝特撮の集合体とも言えるもの。
一体いくつ元ネタが分かりましたか?
轟天は羅號とは逆に、村雨オンリーヒロインとなります。
というか本作は轟天主人公なので、ハーレム化してる弟とは真逆に生きます。
というか、還れる胸が他の連中には、ねぇ……(砲撃音)