その胸に還ろう   作:キューマル式

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拠点の登場。
東宝の中でもマイナーな方なんですが、私はあの作品大好きなんですよね。


緯度0秘密基地

 

 妖精さんたちの案内によってやってきたのは、一見すると何もない島だった。どこにも手を加えられていないように見える、自然そのままの島である。

 しかし轟天と羅號にはこの場所がそうでないことが何となくわかった。

 

「『緯度0秘密基地』……か」

 

 妖精さんから聞いたその名前を轟天はつぶやく。羅號もその言葉に頷いた。

 2人ともその言葉にどうしてか、いいようもない『懐かしさ』を感じてしまうのだ。これは失った記憶の中にこの基地のことがあるということなのだろうか……?

 何もないように見える島の岸壁、しかし轟天と羅號がそこに近付くとゆっくりとその壁が開いていく。

 隠しドッグになっているそこを入っていくと……。

 

「うわぁ……」

 

「これは……すごい」

 

 轟天と羅號も、思わず声を上げてしまう。

 ドッグにはいくつものクレーンが備わっており、同時に何隻もが整備・修理ができるようになっている。その設備の充実度はもう素人目にもわかるほどで並大抵のものではない。

 

「これを妖精さんたちが用意したの?」

 

 羅號の問いに、羅號の艤装の妖精さんたちはエヘンッと胸を張った。どうやらその通りらしい。

 

「妖精さんすげぇな、おい!」

 

 轟天がヒュゥと口を鳴らすと、妖精さんたちはそれこそ倒れるんじゃないかというくらいに胸を張る。妖精さんたちは褒めて伸びるタイプらしい。

 轟天と羅號がドッグに着くと、ロボットアームが伸びてきて自動的に艤装を外してくれる。

 そして2人が海上からドッグに降り立つとそこには……。

 

「おぅっ!?」

 

「すごい数の妖精さんだ!」

 

 そこにはそれこそ数えきれないほどの数の妖精さんたちが待っていた。誰もかれもが笑顔で2人に敬礼をしている。そのあまりに熱烈な歓迎っぷりに、2人は少し引いてしまったくらいだ。

 そして2人は案内されるまま、この『緯度0秘密基地』を散策するのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「……すごい場所だな、ここ」

 

「ほんとだよね」

 

 『緯度0秘密基地』の食堂スペースで食事をしながら、轟天は羅號とともにしみじみと頷く。

 食事の内容は唐揚げ定食だ。パリッと揚げられた鶏をメインにサラダ、ご飯にみそ汁という一般的な内容である。それをパクつきながら、2人は今日一日基地内を見て回った感想を言い合っていた。

 

 まず艤装の整備・修理を行える大型ドッグが8つ、これは大規模な艤装改造までもが可能な代物であった。そんなドッグには新型装備を開発するための工房まで併設されている。

 さらに身体を治療するための医療設備……特殊な溶液につかることで傷を癒すことのできるメディカルポッドが完備されている。

 これで艤装の修理や身体の傷で困ることはほぼない状態だ。この段階で軍事基地としては十分すぎるのだが、『緯度0秘密基地』のトンデモナイところはここからだ。

 

 先ほどから2人が食べている唐揚げ定食……実はその材料はすべてこの『緯度0秘密基地』に備わる『食料プラント』で生産されているものなのである。

 さらに海底や地下採掘によって各種鉱物資源を自動で採掘する『鉱物プラント』、オーランチオキトリウムの培養によって燃料を生成する『燃料プラント』、それらを材料にさまざまな物資を生産する『工場』が備わっていた。

 つまりこの『緯度0秘密基地』は、外部からなんの補給もなく機能し続けることが可能になっているのである。居住区も広く、最大で1万人ほどの人間が暮らしていける地下居住空間だ。

 

「ここまでくると一個の『街』……いや、小さな『国』だな」

 

 感心しているのか呆れているのか、轟天は肩を竦めて言った。

 

「でも拠点が豪勢だってのはいいことだ。

 妖精さんたちから聞いた、『敵』の存在を考えるとな」

 

「……『深海棲艦』だっけか、兄さん?」

 

「そうだ」

 

 羅號の言葉に、轟天は頷く。

 2人は今までの中で、この『世界』の敵の存在を妖精さんたちから聞かされていた。

 その名は『深海棲艦』、突如として深海から現れ人類から海を奪い取った『敵』である。人類は妖精さんと、彼らの作る『艤装』を身につけることのできる少女たち『艦娘』が、彼女らを指揮する『提督』とともに日夜戦っている……らしい。

 この『緯度0秘密基地』には轟天と羅號以外には、人間は誰もいなかったのですべて妖精さんたちの受け売りである。そんな妖精さんたちも、現在の具体的な世界情勢や戦況については分からないとのことだ。

 

「……いろいろ慎重に調べないとならねぇな、こりゃ」

 

「そうだね……」

 

 2人にとっては、『自分たちは何者か?』という自分たちの記憶探しが目的なのであるが、2人が男でありながら艤装を身につけ戦えるということを考えると、その過程で『深海棲艦』との戦闘は確実にあるだろう。

 かといって何の情報もなく人類戦力である『艦娘』に接触するのも危険だ。

 妖精さんたちの話では『艤装を使えるのは適合者の資格を持つ女のみ』なのだそうだ。轟天と羅號は『男』……この段階でもうイレギュラー確定で問題山積みである。『男』が艤装を使えるための研究のために捕まえて『解剖』やら、イレギュラーだから『排除』という判断を下しかねないし、そもそも自分たちが記憶を失った原因が『男が艤装を使えるようにするための人類の人体実験の結果』という可能性もあり得る。そのため、人類戦力との接触にも慎重にならねばならないだろう。

 

「何はともあれ、まずは情報を集めよう。

 そうしないと、とてもじゃないが動きようがない」

 

「確かに……」

 

「それと、艤装にも慣れよう。

 多分、どこかで誰かとの戦いは避けられない。

 その相手が深海棲艦なのか人類なの分からないけどな」

 

 そう言って轟天は肩を竦める。

 

「……」

 

 羅號は今後のことを思ってか静かに考えを巡らせていた。その表情にはどこか不安な色が見て取れる。

 

「なぁに、俺たちにはこの『緯度0秘密基地』がある。

 生活や戦力の維持には何も問題はないんだ、時間はいくらでもある。

 ゆっくり、気長にやっていけばいいさ、弟よ」

 

「そうだね、兄さん」

 

 励ますように言って羅號の肩を叩く轟天。そんな兄の気遣いに羅號は頷きながら笑った。

 

 こうして2人は拠点を得て自らの失われた記憶を探し、行動を始めることになる。

 そして、2日後……。

 

 

 

「……なぁ、弟よ」

 

「……何、兄さん?」

 

「俺たちは2日前、

 『人類・深海棲艦どちらにも接触せず、いまは慎重に情報を集めよう』

 ……そう決めたよな?」

 

「……うん」

 

「だったら……これはどういうことだ!!」

 

 轟天が額に血管を浮かせながら怒鳴る。

 艤装に慣れるためと周辺の偵察に出た羅號の帰還したドッグ、そしてそこには……羅號の後ろに3人の傷ついた少女たちの姿があったのだ。明らかに『艦娘』である。

 年の頃は羅號と同じ10歳くらい、小麦色の肌の少女2人と気真面目そうな少女だ。

 気真面目そうな少女は日本人っぽいが、小麦色の肌の少女たちはどうも外国人っぽい。そんな3人組である。

 

「兄さん、話は後で聞くよ。

 今は早く治療をしてあげたいんだ」

 

「……わかった。

 終わったら事情を説明してもらうからな」

 

 憮然とした表情の轟天を尻目に、羅號は3人の少女たちの艤装を解除すると医療施設の方へと案内していく。

 こうしてほとんど情報を集めることなく、2人は『艦娘』と接触することになったのである……。

 

 




というわけで基地の登場と、羅號のヒロインたちの登場でした。

どうしても羅號のイメージが、私の書いている艦これSS『轟ケ天ニ』に引っ張られているので、性格的にもほぼ同じとなります。
しかしヒロインズには若干変更が……。

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