その胸に還ろう   作:キューマル式

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予言

 

「あれが件の艦隊か……」

 

「はい……」

 

 今日は轟天たちE・D・F艦隊との交渉の日だ。中條元帥が双眼鏡でお気を眺めながら呟く。

 

「しかし……本当に轟天()の同型艦がいるとは……」

 

 隣で同じように双眼鏡をのぞく中條提督は、轟天と並んで航行する、同じように巨大なドリルを搭載するという非常識の塊を見て呻く。そして、隣の元帥を見ながら言った。

 

「何故、轟天()の同型艦がいると知っていたのですか?」

 

 E・D・F艦隊に交渉のための電文を送ったのは中條提督だ。その内容は元帥の命令によって『交渉にはもう一隻の同型艦も連れてこい』というような内容になったことに疑問は持っていたが、本当に同型艦はいた。ということは元帥は、やはり彼らのことを何かしら知っているということである。

 

「まさか……」

 

 嫌な予感がした。

 轟天は、自らは記憶を失っており、己の過去を知らないという。その原因が日本海軍の行った何かしらの人体実験の結果だとしたら……。

 しかしそんな中條提督の心を読んだのか元帥は首を振る。

 

「あいにくと男性適合者を造るような研究も実験もやってはおらんよ。そんなことができるだけの余裕はない。

 第一、彼らの生身の部分はいいとしてその艤装……あの明らかに我々の技術レベルを超越した武装についてはどう説明する?

 あれだけのものが造れる技術があるのなら、とっくに量産体制に入っとるよ」

 

 そう言われれば、確かに納得のできる話だ。しかし、やはり『なぜ元帥が轟天たちのことを知っているのか?』という疑問は残る。

 

「それはこの会談で話そう。心配しなくていい、別にやましい話ではない。

 ただ、古い恩人に話を聞いた、というだけだ」

 

「はぁ……」

 

 どこか遠い目をしながらそう言う元帥に、中條提督はあいまいな返事をすることしか出来なかった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 誘導に従い、前回同様に第4ドッグに轟天たちが入っていくと、そこでは榛名が待っていた。

 

「やぁ、榛名さん」

 

「轟天さん、お待ちしていました。

 今日は初めて見る方も多いようで……」

 

 今回のメンバーは前回のメンバーに加え、羅號と『ラヴァーズ』の面々である。

 

「ああ、どうやらお招きいただいたみたいだからな。

 今回は弟とその側近……っていうか嫁候補たちというか狂信者どもというか……まぁ、そういう類のを連れてきた」

 

「は、はぁ……」

 

 なんとも返答に困ることを言われ榛名はあいまいに頷くしかない。そんな榛名に、一歩踏み出した羅號が挨拶をした。

 

「はじめまして、僕は海底軍艦『羅號』です。

 兄さんともどもよろしくお願いします」

 

「あ、ご丁寧にどうも。

 私、金剛型3番艦、高速戦艦の榛名です。

 よろしくお願いします」

 

 礼儀正しく自己紹介する羅號に、同じように挨拶をする榛名。そして前回いなかった『ラヴァーズ』の面々も次々にあいさつしていく。

 一通り挨拶が終わった段階で、轟天が口を開いた。

 

「それで、もう会談かい?」

 

「ええ。提督も元帥閣下もお待ちです。

 案内しますのでどうぞ」

 

「了解。

 俺の方は村雨に来てもらって残りは待機してもらうが……羅號、お前の方は全員は無理だ。

 せめて半分に減らせ」

 

 さすがに『ラヴァーズ』の面々全員で会議に出るのは無理だろう。その言葉で熾烈な椅子取りゲームが勃発するかもと言った後に密かに轟天は後悔したがしかし、すんなりと暁、山風、マックスが待機すると言いだした。どうやら彼女たちの中では彼女たちなりに順番というものが出来ているようである。なんだか弟周辺がどんどんと後宮とか大奥とかになっているような気がして轟天は短くため息をついた。

 結局最初期のメンバー……轟天・羅號・村雨・朝潮・呂500・リベッチオの6人で榛名の先導でトラック泊地を歩いていく。そんな中、世間話がわりにと轟天が口を開く。

 

「俺たちの『お土産』はどうだった?」

 

「ええ、さっそく試させてもらいました。

 すごいですね、あの装備は。艦載機は2種類とも素晴らしい性能を発揮しましたし、あの高速連射が可能な速射砲、試射を担当した秋月ちゃんが是非とも自分に使わせてくれって言ってきかないんです。

 ……まぁ、過半以上の子たちにはそれよりも頂いた糧食の方を喜んでいましたが。

 あの大量のチョコレートですが、全員に配り終えた後に残っていたものを巡って駆逐艦の子たちが争奪戦をやりまして……現在罰として泊地内を掃除中です」

 

「あはは、満足してもらえたようで何よりだ。

 ただ、あれは喰いすぎると本気で太るぞ」

 

 甘味はいつの時代でも人を狂わすらしい。特に轟天たちが贈ったのは軍用レーションに入れるチョコレートだ。それだけで一日分のカロリーを摂取でき、しかも味も悪くないというとんでもない代物である。当然、喰いすぎれば一気に太る。

 その言葉に、ビシリと榛名が固まった。どうやら彼女もチョコレートの魔力にはかなわなかったようで、この様子では結構な量を食べているようだ。

 

「……ま、まぁ艦娘なんて激務の連続だし、多少のカロリーなんてどうってことないんじゃないのか、うん!」

 

 さすがに空気を読んだ轟天が言い訳じみたことをいうものの、榛名は肩を落としたままだ。

 

「うわぁ……女の子にカロリーの話なんて轟くんったらデリカシーがないんだから」

 

「しょうがないだろ、こんなことになるなんて思わなかったんだよ!」

 

 からかうようにクスクスと笑う村雨へ轟天は言い返すものの空気は微妙なままだ。結局、その微妙な空気は払拭されることなく会議室へとたどり着いてしまう。

 

「元帥閣下、提督、お連れしました」

 

「うむ、入ってくれ」

 

 部屋に入ると、そこに待っていたのは覇気に満ち溢れた60ほどの歳の男だ。その目には力が溢れており、とても年齢を感じさせない。軍服にはいくつもの勲章が輝いており、彼の人生が戦いの連続であったことを物語っている。

 轟天と羅號が一瞬気圧されるほどの覇気に、なるほど彼こそが日本海軍元帥であると理解する。同時に2人は心の中でホッと息をついた。懸念していたような、『老害』という要素が感じられないからだ。

 

「はじめまして、私は日本海軍元帥、中條信一という。こっちは私の秘書艦の大淀だ」

 

 元帥が自己紹介をし、隣の大淀もペコリと頭を下げてくる。

 

「ご丁寧にどうも。

 俺は海底軍艦『轟天』、そしてこっちが弟の羅號」

 

「はじめまして、海底軍艦の『羅號』です」

 

 互いに自己紹介をすると、席について話が始まる。

 まず、改めて轟天は自分たちが記憶を失っていること、『捨て艦戦法』で見捨てられた艦娘を保護し仲間にしていること、そして妖精さんたちの助けで拠点を築き新型兵装を開発しながら生活していることを話す。そして自分たちの目的は『深海棲艦の殲滅』であり、そのために日本と接触したと語る。

 

「俺たちは仲間が不当な扱いを受けずに過ごせるための『立場』とその『保証』が欲しい。

 もしそれを約束してくれるなら、俺たちの持つ技術の一部を提供し、戦力として俺たち自身を派遣する用意がある。もっともタダってわけにはいかないからそれなりの対価は支払ってもらう」

 

「……つまり『傭兵』のような感じで理解すればいいかね?」

 

「そういう理解でもいいが、俺たちE・D・F艦隊は一歩進んで『同盟』を日本と結びたいと思ってる」

 

 轟天は『商品』を並べると、「さぁ、どうだ?」とでも言うように元帥を見た。

 元帥は手元の書類を見ていたが、老眼鏡を外して一度目を瞑る。そして轟天をはっきりと見ながら言った。

 

「私としては今すぐにでも君らと『同盟』を結びたい。

 しかし、だ……ことはそう簡単でもなくてな」

 

「つまり……僕たちが『怖い』ってことですか?」

 

 羅號の言葉に元帥は「そういうことだ」と頷いた。

 

「これだけの技術力と戦力を持った集団だ、やはり無警戒というのは無理がある。

 とはいえ、ここで君らと同盟を結ばないという選択肢は絶対に人類のためにはならない。

 だからこそ、『妥協』がほしい」

 

「具体的にはどんな『妥協』が欲しいんだい?」

 

「そうさな……連絡員ということでこちらからの人員をそちらに送り込ませてほしい」

 

「俺たちの首に鈴をつけさせろ、ってことか?」

 

 轟天はこの連絡員が自分たちの『監視役』だということにすぐに気付いた。

 

「あくまで建前上のことだ」

 

「……いいぜ。

 ただし変なスパイ行為はなしにしてくれよ」

 

「そんなつまらんことで、この話をふいにするつもりはないよ」

 

 轟天の言葉に肩を竦めながら応じる元帥。しばしの沈黙が訪れ、書記である大淀がペンを走らせる音だけが室内に響く。

 ややあって、頃合いと見たのか轟天の雰囲気が変わった。それを感じ取って元帥は「いよいよか……」と心の中で襟を正す。

 

「……今、俺たちはそっちの頼みを聞いて1つ『妥協』したんだ。

 だから1つ、『対価』を支払ってもらえないか?」

 

「わかっている。君らは何が欲しい?」

 

「……『情報』だ」

 

 そして、轟天は元帥をまっすぐに見た。

 

「俺と羅號は始めに言ったように過去の記憶がない。俺たちはその手がかりを探してるが……今のところは何の手がかりもない。

 でもあんた……俺たちのことを何か知ってるな?

 羅號の姿は今のところ、日本海軍(あんたら)には見られていなかったはずだ。スパイの線も考えたが、それならもっと早くそっちからの接触がなきゃおかしい。

 だから羅號の存在を日本海軍(あんたら)が知る手立てはなかったはずだ。なのにあんたはこの会談への招待状に『俺と同格のもう1隻も』って羅號を引きずり出した。最初はブラフの類とも思ったが、数まで限定してるのはおかしい。そうなれば……あんたは羅號の存在を知っていたとしか思えない。

 教えてくれ、あんたは俺たちの知らない、俺たちの一体何を知っている?」

 

 嘘は許さぬと言った、殺気すらこもる轟天の視線が、元帥の視線と交錯する。

 

「……確認だが、もし仮に君らが日本海軍(我々)のせいで記憶を失っていたとしたら、この『同盟』の話はどうなるかね?」

 

「……どうもしねぇよ。

 『同盟』の話は俺と羅號だけじゃねぇ、『E・D・F艦隊』に所属する全員の今後に関する話だ。

 だが記憶の件は俺と羅號の個人的な事情だ」

 

「しかし君が一言言えば、その個人的な事情で組織の行動を決定することも仲間は納得するのではないかね?」

 

「だとしても、そんなことはする気はさらさらないね。

 一応、俺もE・D・F艦隊のリーダーを名乗ってる身だ。そんな個人的な事情で、仲間の未来を危険に晒すような真似ができるかよ。

 もっとも、俺と羅號個人としては、あまりいい気がしないのは確かだろうがな」

 

「そうか……」

 

 肩を竦める轟天に、元帥は小さく頷く。轟天という相手が単に戦闘能力が特出した個人ではなく、正しく集団のリーダーであるということが元帥には理解できた。

 

「で……それが答えなのか?」

 

「とんでもない。

 元帥として誓って言うが、我々日本海軍では、新たに男性適合者を生み出すような研究は行っていない。

 今の戦況だ、そんなリソースがあるのなら前線で戦っている艦娘のための追加武装や補給物資のためにつぎ込むよ。

 それに君らの身体はいいとして、その艤装やそこに使われた技術の出所はどう説明するのかね?

 それだけの兵装の開発が出来ていたのなら、とっくに量産体制に入ってもう少し戦況をマシなものにしとるよ」

 

 そう元帥は肩を竦めながら答える。

 一方の轟天と羅號も、元帥の説明は納得できる話だ。しかし、そうなると今度は元帥が2人のことを知っていたということが謎のままだ。

 そして、答え合わせだというように元帥が語り始める。

 

「実は私も君ら2人のことは知らない。

 ただ君らのことを知っているかもしれない者から話を聞いたにすぎんのだ。

ずっとずっと昔……私がまだ若かったときに『命の恩人』たちからな」

 

 そして元帥はどこか遠い目をしながら昔語りを始める。

 輸送船を襲われ海に投げ出されて死を覚悟したこと、しかし奇跡的に生き延びて『ある島』へと流れ着いたということをだ。

 

「私の流れ着いたその島は、『彼女たち』は『インファント島』と呼んでいた」

 

「『インファント島』?」

 

 轟天はその名前を口にするとどういうわけだか、頭の中の『何か』が反応する。隣を見れば羅號も同じような顔をしていた。この『インファント島』という場所はやはり自分たちの記憶に何かしら関係があるようだ……そう思いながら轟天は先を促す。

 

「私も生きて戻ってから調べてみたが、そんな名前の島はどこにも存在しなかった。

 無論だが、どこにあるのかもわからない。

 だが……あの時の出来事は、『彼女たち』の存在は本物だった……」

 

「さっきから、あんたを助けた『彼女たち』っていうのは誰なんだよ?」

 

「『彼女たち』とは、この世界に生きるものなら誰もが知っている存在……『はじまりの妖精』のことだよ」

 

 その言葉に、会議室内の全員が息を呑んだ。

 およそ100年前、深海棲艦出現と同時に現れて人類を助けたという伝説の存在である『はじまりの妖精』……彼女たちに会ったというのである。この話を元帥が語るのは初めてらしい。息子であるはずの中條提督も、そして側近として長く仕えた大淀ですら目を丸くしている。

 

「私は彼女たちが『はじまりの妖精』なのだと気付いたとき、その場で頼み込んだ。

 もう一度人類とともに深海棲艦の脅威と戦ってくれ……とな」

 

「……今現在、その『はじまりの妖精』が一緒に戦ってくれてないところをみると、共闘は断られたのか?」

 

「結果的には、な。

 だが、そこで彼女たちから語られた内容は想像だにしないものだった……」

 

 元帥はゆっくりと、そのときに『はじまりの妖精』に語られたことを話す。

 深海棲艦は真の絶望ではない、それよりもなお強大な『真の絶望』は別に存在する。『はじまりの妖精』はおよそ100年前のその時に『真の絶望』の方を封印、封印が解かれるときに備えて傷を癒し力を蓄えているので今は人類とともに戦うことができない……と、その時に『はじまりの妖精』に語られた内容を話す。

 

「100年前に突如として『はじまりの妖精』が姿を消したのはそういう理由か……しかし……深海棲艦よりも強大な『真の絶望』……」

 

 今でも研究者の間で様々な憶測を呼んでいた『はじまりの妖精』が姿を消した理由を、そして『はじまりの妖精』によって示唆された深海棲艦を凌駕する脅威の存在を知って提督は息を呑む。

 その場にいたほとんどの人間に、重いものが圧し掛かっていた。その名は『絶望』だ。

 深海棲艦の侵攻という現状で、人類はすでに版図の3分の2を失っている。その深海棲艦よりも強大な敵……そんなものが現れたら今度こそ人類は『絶滅』する。

 しかし……そんな空気に頷いた元帥は先を続けた。

 

「若かった私も、あまりの絶望に目の前が真っ暗になったよ。

 だが……『はじまりの妖精』が教えてくれたのは絶望だけではなかった。同時に『希望』が存在することも教えてくれたのだ」

 

 『はじまりの妖精』は、『絶望』に対抗するために人類の前に『2つの希望』が現れる。その時には再び『はじまりの妖精』も人類の前に現れて力を貸す、という言葉を残したと伝えた。

 

「その後、気がつけば私は本土近海の島の浜辺で倒れておった。まるですべてが夢だったようにな。

 しかし、あの出来事は本物だ。その証拠に……」

 

 そして元帥は懐から木箱を取りだした。開けてみるとそこには『太陽をかたどったような円と射線、そしてそれを四分する十字の溝の入った石』が入っている。

 

「これがポケットに入っていた。これは『はじまりの妖精』の紋章、私にとっての一生のお守りだよ。

 私はその言葉を、『2つの希望』が現れるということを信じて今まで戦い続け、この元帥という地位にまで上り詰めた。

 そして……」

 

 そこで一度言葉をきると、元帥は轟天と羅號を見ながら言った。

 

「こうして私は今、『2つの希望』へと巡りあえたというわけだ」

 

「……俺たちが『はじまりの妖精』が言っていた、『2つの希望』だと?」

 

「少なくとも、私はそうではないかと思っておるよ」

 

 そう言って元帥は言葉を締めくくる。

 元帥の話を聞いて轟天は考えていた。元帥の話で、『何故自分たちを知っているのか?』という疑問は氷解した。自分たちの記憶の答えを知っていたわけではないが、重大な進展である。

 その時、轟天と同じく何かを考えていた羅號が声を上げた。

 

「僕たちがその話の通り、その『2つの希望』だとしたらだけど、『2つの希望』は『真の絶望』に対抗するために現れるんでしょ?

 じゃあ、もうその『真の絶望』っていうのは姿を現したの?」

 

「いや、まだそれらしいものは確認できていない。

 しかし……その前兆ではないかという『異常』をここ、トラック泊地から報告を受けた。

 大淀くん」

 

「はい」

 

 元帥が大淀に合図すると、その資料を配っていく。

 それはトラック泊地から夜間偵察任務に出て行方不明になった駆逐艦娘の遺体の資料だ。

 

「この近辺では複数の泊地で協力して、敵泊地攻略戦を予定している。

 そのための準備として夜間偵察任務に出た駆逐隊なのだが……ご覧の状態だ。

 だがこの遺体の特徴は、どうしても既存の深海棲艦の攻撃とは合致しない」

 

「……確かに深海棲艦にやられたにしてはおかしな遺体だ」

 

「杞憂であればいいが……しかしどうしても悪い予感がする。

 そこで1つ、日本海軍元帥から君らに依頼したい。

 20日後に予定されている敵泊地攻略戦に君らも参加してほしい。

 君らという存在のお披露目と……最悪の場合に現れる、『真の絶望』への対策としてだ。

 頼めないかね?」

 

「……羅號、いいか?」

 

「兄さんの決定に従うよ」

 

「……わかった」

 

 唯一艦隊で序列が互角ともいえる羅號に確認をとると、轟天は答える。

 

「了解した。

 俺たちE・D・F艦隊は要請に従い、日本海軍の敵泊地攻略戦を支援する」

 

 こうしてE・D・F艦隊の日本との『同盟』の第一歩、敵泊地攻略戦への参加が決定したのだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「……あのなぁ、アホの子。ここはラゴス島秘密基地(ウチ)じゃねぇんだぞ。

 他の基地(ひとんち)来てまで人のベッドに入り込んでくるのはどうなんだ?」

 

「しょうがないじゃない。だってそうしないと眠れないんだもん」

 

 結局、トラック泊地に一泊していくことになった轟天たちE・D・F艦隊。客でもある轟天たちには小さいながらも個室があてがわれていた。さてそろそろ休むかと思っていた轟天の部屋がノックされ、ドアを開けてみればそこにいたのはいつものように村雨だった。

 

「もし誰かに見られたら言い訳のしようがないぞ、コレ」

 

「大丈夫、静かにしてたら誰にもばれないわよ」

 

 今日も今日とて轟天と一緒に眠るためにやってきた村雨だが、さすがに人の基地でコレは知られたらマズいと轟天は渋い顔をする。しかし事情も誰よりも深く知っているため無下にも出来ず、しばらく後には押し切られた轟天はいつものように村雨と一緒にベッドに入っていた。

 

「しっかし……今日はいろいろあったな」

 

「ホントよね。 まさかここで『はじまりの妖精』なんて言葉を聞くことになるなんて思わなかったわ」

 

 2人は口々に今日の出来事を語る。

 

「でも……よかったね、轟くん。記憶の手がかりが見つかって。

 『はじまりの妖精』に会えれば、きっと轟くんの記憶について何か分かるよ」

 

 『はじまりの妖精』の言葉通り轟天と羅號が『2つの希望』だというのなら、『はじまりの妖精』たちは轟天と羅號のことを何か知っているのだろう。そして、『はじまりの妖精』は『2つの希望』が人類と戦っていれば合流する、という内容の言葉を残している。つまりこのままいれば、いつか『はじまりの妖精』は合流してきて話が聞けるということだ。

 しかし、轟天はそれを素直に喜べない。

 

「あのなぁ……その変わり『真の絶望』とかいう強敵の出現だぞ。

 そりゃ本気でヤバいだろ?」

 

「それは……」

 

 ただでさえ深海棲艦相手に追い詰められている人類に、さらに敵が増えるなど悪夢でしかない。それが分かって村雨は口ごもる。

 

「まぁそういうわけで、俺としては今回の件は元帥のじいさんのただの妄想だって、嘘でもいいから思いたいところだな。

 それに……だ」

 

 そして轟天は部屋の天井を眺めながら苦笑する。

 

「この俺が『希望』、ねぇ……正直そんな御大層なもんとは思えないんだがな」

 

「まぁ確かに。

 轟くんってば案外適当でがさつでぐーたらで、戦い以外ではダメ人間の見本市みたいな人だし」

 

「アハハハハ……少しぐらい手加減して言わねぇと優しい俺でも怒るぞオマエ」

 

「でもね……」

 

 すると村雨の雰囲気が先ほどまでとはガラリと変わった。驚いて轟天が村雨の顔を見ると、村雨は微笑みながら両手で轟天の頬を挟み、顔を固定して真っ直ぐに轟天を見つめている。

 そしてゆっくりと言った。

 

「あの死を覚悟した瞬間、絶望で目を瞑った私を轟くんは救い上げてくれた。

 神様も仏様もいない、祈りなんてどこにも届かない、そんな真っ暗な絶望の海で、私を轟くんは救い上げてくれた。

 他の人がどう思うかなんて知らないし関係ないけど……私にとって轟くんは何よりも眩しい『希望』だよ」

 

 そんなことを面と向かって言われては轟天も気恥ずかしい。

 

「な、なに言ってんだよお前」

 

「あはは。

 轟くんには感謝してるよ自信持って話なんだけど……なんか改めて言うと物凄く恥ずかしいね、これ!」

 

 顔を赤くした轟天が村雨の手を払ってプイッと顔を背けると、村雨もつられるように顔を赤くして、ごまかすように照れ笑いする。

 

「まったく……ほれ、明日も早いぞ。さっさと寝ろよ。

 そうだ、せっかくだし寝るまで『はじまりの妖精』の話でもしてくれよ」

 

「今日の千一夜物語(アラビアンナイト)のネタは決まりね」

 

「……くれぐれも変な着色するなよ」

 

「了解了解、スタンバイOKよ。

 この村雨にお任せ!」

 

 そしてゆっくりと、絵本で語られる『はじまりの妖精』の物語を語っていく村雨。

 トラック泊地の夜はゆっくりとふけていった……。

 

 

 




インファント島とやらにいる『はじまりの妖精』……いったい何美人なんだ?(棒)

次回、ついに連中との交戦開始。

次回もよろしくお願いします。

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