その胸に還ろう   作:キューマル式

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時間のあるときにちょくちょく書いていた作品。
他作品もあるので更新は不定期になると思いますが、良ければお楽しみください。



起 希望、降リ立ツ
降り立つ2隻


「「……あれっ?」」

 

 青い青い、どこまでも青い海のど真ん中に、2つの間の抜けた声が響いた。

 混乱したように……いや、事実混乱の極みにあって2人はキョロキョロと辺りを見渡すが、その場には海の上に立つその2人以外には人影どころか島の影さえない。

 海の上に立つのは2人、それはどちらも少年だ。

 片方は鋭い目つきにツンツン頭の14~15くらいの年の少年である。もう片方の少年は柔和そうなたれ目の10前後の少年だ。

 どう見ても性格は真逆そうだが顔の造形は似ていることから、兄弟であろうと思える。そんな2人が海の真ん中に突っ立ち、お互いに顔を突き合わせて途方に暮れていた。

 海の上に立つ少年たち……それだけで特異な話であるがしかし、この2人の特異性はそんな程度のことではない。

 その背中に背負うようにして、鋼鉄の輝きを放つ機械を身に纏っている。

 

「……なぁ、弟よ」

 

「……何、兄さん?」

 

「俺はめちゃくちゃ混乱していて、何が何やらわからないんだが……」

 

「奇遇だね、僕もそうだよ」

 

「さしあたって基本的な話なんだが……俺たち、『兄弟』だよな?」

 

「うん……それは間違ってないってのは分かるんだけど……」

 

「なら……『俺たちの名前はなんだ?』」

 

「……」

 

 その言葉に、弟は押し黙る。

 2人は『お互いに兄弟である』ということは分かる。しかし、それ以外のことがまったくといっていいほど分からない。

 自分たちの名前は何なのか? 年齢は? 両親は? 友達は?

 一般的な事柄は分かるのだが、それらの自分たちに関する情報が完全に頭から抜け落ちている。

 

「参ったな、こりゃ……おまけにここがどこだか、どういう状況だか全くわからん……」

 

「同感だよ、兄さん……」

 

 2人揃って仲良く肩を落とす。2人の背中に背負った機械が、ギシリと重量を感じさせる音を立てた。

 

「……で、そろそろこの背中のものについてツッコんだ方がいいのかな?」

 

「これ、なんなんだろうね?」

 

 2人は揃って振り返るようにして自らの背中に装着された巨大な機械を見る。

それは武骨な金属の塊だ。砲などの明らかな武装が備え付けられており、何らかの武具であることは間違いない。

 だがその中で異彩を放つのはその円錐形のシロモノ……ドリルである。2人の背負う機械には、巨大で武骨なドリルが取り付けられていた。

 見るからに凄まじい重量があるだろうそれだが、2人は重さなどほとんど感じない。それほどまでに身体の一部であるかのように馴染んでいた。

 すると、その機械の中から小さな人影が何人も出てくる。

 

「な、なんだなんだ?」

 

「えっと……小さな人?七人の小人?」

 

「俺たちはどこの白雪姫だ? あと七人程度じゃないぞ」

 

 弟の呟きにその小人たちはブンブンと首を振る。

 

「なら……妖精とか?」

 

 どうやらそれで合ってるようだ。肯定するように首を縦に振っている。

 

「で、その妖精さんたちは何を言いたいんだ?」

 

「艤装を……始動させてみろ?」

 

 何となくだが、2人には妖精さんたちの言っていることが分かった。

 

「起動させろって言われてもなぁ……えっ、とりあえずやってみろ?」

 

「それらしく『始動』って言えばいいのかな?」

 

 弟の言葉に妖精さんたちは首を縦に振る。

 

「わかったよ。 それじゃ……機関、始動!」

 

「機関始動!!」

 

 2人がその言葉を口にすると、背中に背負った機械……『艤装』の心臓部が唸りとともに動き出した。

 同時に、2人は雷に撃たれたような感覚を味わう。

 自分たちの中に膨大な情報が流れ込んでくる。それは背負う艤装の情報だ。

 これはやはり戦うための道具だ。その力の使い方が、まるでソフトウェアをインストールでもするかのように2人の中に流れ込んできたのだ。

 同時に、2人はこの艤装に対して絶対的な信頼を覚えた。この艤装とともになら超えられぬ試練などない。

 

 この艤装は人類の英知。

 この艤装は人類の見た夢。

 この艤装は人類の祈りが生んだ希望。

 この艤装は人類の堕ちた狂気。

 この艤装は人類の醜い悪あがき。

 この艤装は人類の運命を拒絶する妄執。

 

 この艤装はそれらの度し難いものをコンクリートミキサーで混ぜ合わせてぶちまけた『人類』という存在そのものを正しく表す、希望と呪いのシロモノだ。

 それが、2人には理解できたのである。

 突然の情報の濁流に晒されふらつく2人だが、すぐに頭を振って持ち直す。

 

「痛ぅ……今のは効いたぜ。

 でもまぁ……何も分からないからは一歩だけ前進だな」

 

「そうだね……。

 どうやら妖精さんたちが、落ち着けそうな拠点を知ってるらしいよ」

 

「そりゃありがたいな。

 それじゃさっそくそこに向かうとしよう」

 

 そう言って、2人はもはや自分の半身である艤装を起動させた。

 2人は未だに自分がどこの誰なのか名前すら思い出せない。だが、この艤装の名前ならば分かる。

 だから、2人はその名を高らかに宣言した。

 

「海底軍艦『轟天』、出撃する!!」

 

「海底軍艦『羅號』、出撃します!!」

 

 人類最強の矛ともいえる2人の兄弟が今、この海に降り立った。

 彼ら2人の行く先になにが待っているのか……それはまだ誰にも分からない……。

 

 




私の他の作品では『ハーメルンに羅號の活躍する作品ないなぁ』ということで羅號を主人公にしたものを書きましたが、同じように『艦これクロスもので、というかハーメルンで轟天号はあまり見ないなぁ』と思ったので轟天号主人公作品です。

あと前に書いていたSSで結局でききれなかった、『兄弟活躍』をやりたいということで轟天と羅號の兄弟となりました。


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