ドラゴンクエストⅪ 復讐を誓った勇者   作:ナタタク

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第89話 ミナカトール

円陣を組むエルバ達の中で、セーニャが祈りを捧げるように目を閉じ、集中を始める。

契約したわけではない呪文をこれから使う。

マホカトールの使えない自分に果たして使えるのか?

迷いはあったが、目の前にどうしても救いたい人がいる。

何としても成功させて見せると決意するとともに、詩経を始める。

それに反応するかのようにセーニャの勇者の印が光り、エルバ達の足元に魔法陣が現れる。

そして、セーニャの体を青い光の柱が包む。

(これは勇者の印が見出した、お前の心の力の色だ)

「エルバ様」

「ああ…」

セーニャが伸ばす手を握り、エルバは目を閉じる。

エルバの勇者の印が光り、エルバを灰色の光が包む。

(灰色か。こいつは珍しいな…)

「爺さん」

「うむ…カミュよ、もう少しだけ待っていておくれ」

続けてエルバの手を握ったロウの勇者の印が光るとともに、銀色の光が包んでいく。

その後でマルティナがロウの手を取り、今度は緑の光の柱が生まれた。

「ラゴス様、この光…私たちが使っているオーブとも関係があるのですか?」

(察しがいいな、おてんば姫)

「お、おてんば…??」

(オーブはかつて、ロトゼタシアが生まれるときに大樹が自ら生み出したものって話だ。そして、オーブはその色と同じ心の力を持つ人間に惹かれるらしい。ちなみにレッドオーブは勇気だ。ま、罪におびえる臆病者に力をやるほど、俺も暇じゃねえってことだ)

「そうなんですね…」

言っていることは分かるが、どうしてここまでいちいち棘のある言い方をする必要があるのか。

かつての勇者ローシュの仲間であり、悪い人物でないのは確かだと信じたいが、仮にそういう人物でなかったなら、危うくきれていたかもしれない。

気を取り直して、マルティナは隣のシルビアと手を繋ぐ。

すると、シルビアの勇者の印が光ると同時に黄色の光の柱が生まれた。

「あら、黄色!ということは、イエローオーブがアタシに力を貸してくれるってことね?」

(そうだ、もっとも、今はまだ力が必要なタイミングでもねえみたいだ。おとなしく待ってろ)

「そうさせてもらうわ。さあ、グレイグ。次はあなたよ」

「ああ…。ふぅぅ」

深呼吸をしたグレイグはシルビアの手を握り、紫の光の柱を生み出す。

それに連動するかのように、カミュの勇者の印も光り、赤い光の柱が生まれた。

最後にグレイグの手をセーニャが握る。

そして、脳裏に浮かぶ言葉に従いセーニャは呪文を唱える。

「今、慈愛…相克…英知…闘志…希望…正義が勇気を黄金のくびきより解き放たん…。ミナカトール!!)

詩経が終わると同時に魔法陣がマホカトールを上回る強い破邪力を発揮し、城全体を破邪の光が包んでいく。

あまりのまぶしさにエルバ達が顔をそむける中、セーニャは腕で目を守りながら魔法陣の中心を見る。

「あ、ああ…!!」

セーニャの目には次第に黄金から元に戻っていくカミュの姿が映り、その嬉しさに目に涙が浮かぶ。

黄金化が解除し、倒れそうになるカミュの元へ走り、抱き留めたセーニャは涙を流しながらカミュの頬に触れる。

「セーニャ…俺…」

「カミュ様…よかった…」

エルバ達がいることなど気にせず、セーニャがカミュに口づけする。

唇から感じる甘さとしょっぱさをかみしめつつ、カミュも目を閉じてセーニャの唇を受け止める。

本当はすぐにでも駆け寄りたかったマヤだが、その光景と自分のやってしまったことへの罪悪感から動くことができなかった。

(おい、恩人の前でいちゃつくとはいい度胸だな)

そんな中でラゴスの声が響き、はっとした2人は唇を離し、7人は宙を舞うレーヴァテインを見つめる。

レーヴァテインから放たれる赤い光はバンダナを鉢巻のように額にまき、剣の鍔で作った眼帯を右目につけたコート姿の男性のシルエットとなる。

(ま…ひとまずミナカトール成功で黄金から解除できたのはおめでとさんだ。これでお前らは六軍王のうちの4人をぶっ潰したことになる。あと2つ、ブルーオーブとシルバーオーブはまだ奴らの手の内だがな)

「ああ、ありがとな…。ラゴス。それに、セーニャにみんなも…悪い、さんざん迷惑をかけちまって…」

「気にするな、仲間だろう?」

まだ口数の少ないエルバだが、笑ってそう答えてくれること、自分の恥部を散々見せたにもかかわらず、仲間だと言ってくれることにカミュは感謝の思いを抱く。

「そうですわ。話してくださいますか?イシの村の神の岩のことを…。あれを落としたのがセニカ様というのは…」

(ああ、そうだな…。ローシュは旅の中で邪悪の神を倒すための剣を求めていた。その時、邪悪の神は強力な結界を展開していてな。それを突き破らないと、邪悪の神に会うこともできない。そのために手に入れたのが勇者の剣だ。もっとも、今は魔王の剣というべきだろうがな…。その剣はローシュが自らの手で作り出したのさ)

「勇者の剣はローシュ様が作ったじゃと…!?」

(知らないのも当然だな。ローシュ戦記の原本にも、そんなのは書いてねえ。書いて、誰かにパクられて量産されたらたまんねーからな。ま、あんな代物、量産するのも無理な話だがな)

「ちょっと待って…原本って、なんでそんなことをラゴスちゃんが知っているのよ?もしかして…ローシュ戦記って…」

(書いたのはセニカの奴だ。俺たちも手伝ったがな。筆者を分からなくするために、いろいろと手を打ったんだぜ?にしても、よく自分の感情を押し殺した書き上げたもんだ。こっちはページの大半があいつとローシュの官能モンにならねえかってハラハラしてたんだぜ。あいつら、これみよがしにテントでも宿屋でも…)

「ま、待ってくれ!いろいろと暴露話はよしてくれ!いろいろと良くない雰囲気になる…」

きっと、ここからの内容は偉大なる勇者ローシュと大賢者セニカのイメージをとことん叩き潰すような内容になりかねない。

今のカミュとセーニャにはその光景がなんとなく察してしまい、腕の中にいるセーニャはもう顔を真っ赤にしている。

救いなのは、セーニャがまだムフフな知識を持っていないことだろう。

(分かった分かった。ここまでにしといてやるよ。で、剣を作るための鉱石だが、ロトゼタシアにある鉱石をかき集めても、満足できるものは手に入らなかった)

ロトゼタシアとは異なる異世界に住まう神とされる幻魔の力を宿した魔石である幻魔石や最も高い重量と強度を誇る金属であるヘビーメタルを使ったとしても、それを成し遂げるだけの剣を作ることができなかった。

当時最高の鍛冶職人であったサスケの手を借りても難しく、手づまりな中でセニカとウラノスが思いついたのがロトゼタシアの外の世界の鉱石を手に入れることだった。

その時、ウラノスは星を落とす呪文を研究していて、それを利用すれば外の世界の鉱石を手に入れることができるのではと考えた。

研究の結果、どうにか1回は使える状態になったが、問題はそれを実行する場所だった。

セニカがその呪文を使って星を落とし、ウラノスがグランドクロスでブレーキをかける形をとるが、それでも大きなクレーターが生まれる可能性があり、周辺の城や町、村を巻き込む可能性があった。

それを実行できる場所を探す中で、イシの村のある地域が候補に挙がった。

山で囲まれたその地域はそれが盾になって被害を抑えてくれる。

当時の村長も村が破壊される可能性があったにもかかわらず、邪悪の神を倒すきっかけになるならと合意してくれた。

(んで、セニカと落とした隕石がお前らの言う神の岩になるんだが…ま、その神の岩で手に入れた鉱石でできたのがグレイトアックスや魔甲拳といった武器だ。あと…よく言われるユグノアで獲れてたって話はフェイクだ。最も、それを使っても勇者の剣は作れなかったがな)

「神の岩から生まれた武具…」

(おっと、もう枯渇しているから、今から獲りに行って、新しく作ろうなんて無駄な期待はやめろよ。だが、旅の中で俺たちは永久不滅の金属を手に入れて、それを使って勇者の剣を作り出した)

「永久不滅の金属…それって、オリハルコンのことか!?」

「知っておるのか?カミュ」

「ああ、マヤがよく言っていた金属だ。地上には存在しない伝説の金属…物語でしか存在しないと思っていたが…」

(そうだ。オリハルコンはロトゼタシアを探しても見つけることのできない金属。唯一残っているオリハルコンも今やウルノーガの野郎の手の内…。もしお前らが本気でオリハルコンを手に入れて、勇者の剣を手に入れたいというなら、ラムダの里へ行け。そこで神の乗り物の情報を見つけろ。あと、残り2つのオーブを取り戻すことも忘れるなよ)

そう言い残して、ラゴスの幻影が消え、浮かんでいたレーヴァテインが床に落ちる。

落ちたレーヴァテインを手にしたカミュはそれを握りしめた。

 

キラゴルドを倒し、ミナカトールによって黄金化を解除してから数日が経過した。

黄金化していた人々は国へ戻り、黄金病が消え去ったことでクレイモランは再び平和を取り戻した。

街中には外に出た子供たちが楽しそうに遊びまわっている。

そして、カミュを除くエルバ達は城でシャールに黄金病の真相と出発の挨拶をしていた。

「ありがとうございます、黄金病の真相を突き止めるだけでなく、その根源であるキラゴルドを倒すなんて…」

「うむ…。既に死んだ者までは取り戻すことはできなかったが、それでも黄金にされた人々を救うことはできた。これでシャール殿も少しは休むことができよう…」

「ええ…。まだウルノーガの脅威が消え去ったわけではありません。ですが、きっとエルバさん達ならば…」

「ありがとうございます、シャール様。アタシの船の乗組員のみんなを預かってくれて」

「構いません。国を2度も救ってくれた皆様へのせめてものお礼です」

シルビア号を失った今、アリス達にできることは限られている。

ソルティコにいるジエーゴを頼るにも、船のない今はそれが不可能であるため、ここに置いていくしかない。

「古代図書館にいるリーズレット殿らには早馬で知らせております。近いうちに、戻ってくるでしょう」

「リーズレット殿か…。そうなると、もしかしたら途中で会うことがあるかもしれんな」

「ゼーランダ山は大樹が落ちた日、大きな被害を受けたと聞いています。どうか、お気をつけて…」

 

一方、教会の一室ではフード付きの厚手の子供用のコートで身を包んだマヤが荷物を持って出発の準備をしていた。

「カミュ、いいのか…?もしよかったら、私がここで彼女を匿うことも…」

「気持ちはありがたいけどよ、ここにいたらマヤが嫌な思い出を思い出しちまう。別の場所にいたほうがいい」

「まぁ、そうだな…。あんなことがあってはな」

カミュは神父にだけ、黄金病とマヤ、そして首飾りのことを伝えていた。

神父の気持ちはうれしいが、キラゴルドだったころのマヤは黄金化した魔物たちを手足に使ってクレイモランを何度も襲撃し、犠牲者も出ている。

マヤ=キラゴルドだったという真実は知りようもないだろうが、ここで暮らしていたらマヤが罪の意識で押しつぶされるかもしれない。

あの老婆のように、カミュやマヤのことを知っている人間と出くわす可能性もある。

だとしたら、マヤをラムダの里へ連れていき、そこでウルノーガを倒すまで過ごしてもらう方がいい。

「兄貴、準備…できたぞ。早く…行こうぜ」

「ああ、そうだな…。じゃあな、神父さん。全部終わったら、改めてお礼させてくれ」

「分かった、道中気をつけてな」

マヤを連れ、2人で教会を出ていく。

彼女の顔はフードで隠し、2人で表門の近くまで歩いていく。

「なぁ、兄貴…俺」

「何も言うな、マヤ…」

「けど…」

「俺たちのやってしまったことは取り返しのつかないことだ。一生背負わないといけないものだ。だからよ…背負っていこうぜ、2人でな…」

「…うん、ごめん。ごめんなさい…」

すすり泣くマヤをカミュは何も言わずに抱き寄せる。

カミュ自身の贖罪も、マヤがこれから行わなければならない贖罪も、まだ終わっていない。

だが、少なくとも再び2人で過ごす時間、共に背負う機会を得ることができた。

その奇跡を感謝しつつ、カミュはエルバ達が来るのを待つ。


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