ドラゴンクエストⅪ 復讐を誓った勇者   作:ナタタク

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第87話 キラゴルド

「まったく…悪趣味なモンスター…ね!!」

黄金の骸骨兵や黄金兵らを真空蹴りで吹き飛ばし、黄金でできた壁に当たる。

黄金の城の中は複雑な構造になっていて、宝を奪われないようにするためか、虎ばさみや落とし穴などの罠がいくつも設置されている。

魔物を蹴散らしたマルティナが見るのは黄金となった男女で、運命を受け入れて抱き合っている状態で黄金と化しており、それが美術品のように飾られている。

「黄金にした人や生き物を飾る…一体、あのキラゴルドというのはどういう神経をしているの!?」

「うむう…いやなものじゃな。こういうものは…」

魔物に警戒し、ゴールドフェザーを手にしているロウが見ている黄金の牛にふと、過去に歴史書に書かれていた処刑道具のことを思い出してしまう。

本来は真鍮で作られているが、罪人をその中に入れた状態で火あぶりにするという。

ゆっくりとあぶっていくことから罪人が受ける苦痛はすさまじく、悲鳴や声が中にあるラッパから奏でられる音が牛の鳴き声のようなものとのことだ。

大昔に実際に処刑道具として使われていたが、現在では廃止されている。

「キラゴルドをぶっ倒せば元に戻る…そう信じてえが!!」

奥から黄金のキラーマシンがやってきて、カミュは鈍く光るカメラに向けてナイフを投擲する。

ナイフが直撃し、視界を奪われたキラーマシンはあたりに剣を振り回し続ける。

最後はエルバが発現させた覇王斬の巨大な刃によって打ち砕かれていった。

「動きが戻ったな、カミュ」

「ああ、おかげさまでな。そういわれたら、記憶を失っても体が覚えているって話はこれで嘘だって立証されたな」

カミュ自身はその間のことはあまり覚えていないが、普段なら作ることのできた音響爆弾や吹き矢用の矢づくりなど、記憶がある間は普通にできたことができなくなっていたようだ。

唯一使うことができたのはわずかな呪文で、それについてはロウ曰く、本人の素質のみに依存している呪文についてはたとえ記憶を無くしたとしても使うことができるらしい。

実際、記憶喪失の少女がどこで覚えたかもわからない呪文を使うことができたという記録も残っている。

「だが…黄金病と、黄金に変える首飾り…。もしやとは思うが、キラゴルドは首飾りを手に入れるためにカミュの妹をさらい、首飾りを手にしているのではないか?」

そして、キラゴルドはその首飾りの力を増幅させて、クレイモランに黄金病を流行させている。

そう考えると、首飾りと黄金病の結びつきを説明できる。

「くそ…!だったら、せめて首飾りを破壊しておくべきだった…」

マヤが黄金になってしまい、旅立とうとしたとき、せめてもの供養としてカミュは一度、首飾りを破壊しようとした。

だが、それによって呪いが襲い掛かることを恐れて、断念した。

もし黄金病を生み出す原因に首飾りがあるというなら、クレイモランに災厄を招いた原因は自分ではないか?

そんな考えがカミュの脳裏によぎる。

「カミュ様…」

「くそ…!考えるのは後だ!キラゴルドのところにたどり着かねえと!」

やはり六軍王の居城ということもあり、警備の魔物の数が多い。

「邪魔を…するんじゃねえ!!」

ナイフを手にし、行方を阻む魔物たちに突撃していくカミュ。

グレイトアックスの刃が黄金兵を粉砕し、黄金のゴーレムといえる魔物、ゴールドマンを魔甲拳で鎧をまとったマルティナの蹴りですっころぶ。

「ねえ、グレイグ…。レッドオーブのことだけれど…」

「姫様も気づいていらっしゃいましたか。あれは…」

パープルオーブもグリーンオーブも、グレイグとマルティナが手にしたとほぼ同時にその中の魂であるネルセンとネイルと対話し、武器となった。

六軍王と戦っている最中ということもあっただろうが、オーブはすぐに助けてくれた。

だが、レッドオーブからは何も反応がない。

オーブを取り戻した時、真っ先にカミュの元へと飛んだことから、もしかしたらカミュが選ばれたかもしれない。

オーブを奪ったジャゴラを倒してからオーブを取り戻したから、もしくはカミュがその時に記憶を失っていたということもあるのだろうと思い、最初は特に気にしていなかった。

しかし、記憶を取り戻してもなお、レッドオーブからは何も反応がなく、それに宿っているであろう魂が姿を見せさえしない。

もしかして、カミュが選ばれたというのは気のせいなのか?

仮にそうだとしたら、選ばれたとするなら今、この場にいないベロニカなのか?

それを考えている中、エルバ達はようやく最上階の扉、六軍王の間の目前にまで到達する。

それぞれが回復呪文や薬草を使って傷を癒し、この先にいるであろうキラゴルドとの戦いに備える。

(ここまで、マヤはいなかった…。もしかしたら、この中に…)

黄金にされただけに飽き足らず、連れ去られて、しかも首飾りを利用されているマヤ。

もう十分苦しんだであろう彼女がなぜまだ苦しまなければならないのか。

一刻も早く解放してやりたいと思い、カミュは重く冷たい黄金の扉を開く。

ゴゴゴと音を立てながら開き、その先にある大部屋が見えてくる。

「これは…」

開いて最初に見えたのは部屋の中央に置かれている少女の黄金像だった。

首飾りはされていないが背格好は大樹の根で見たマヤそのものだ。

「マヤ…マヤ!!」

走り出したカミュはマヤの像の前に立つ。

何年も放置してしまったが、この像の恐怖に満ちた表情に変化はなく、ひび割れなども見受けられない。

何一つ変わっていない、カミュの罪と同じように。

「迎えに来たぜ…マヤ。キラゴルドをさっさとぶっ倒して、お前を…」

マヤの像に向けて手を伸ばすカミュ。

だが、触れる直前に像はひび割れ、粉々に砕けてしまった。

「ああ…!?」

「ひどい…」

「なん…で…??」

何が起こったのか、目の前で突然起こったことにカミュの頭の整理が追い付かない。

黄金となったマヤが粉々に砕けるなど、悪い冗談、悪い悪夢としか思えない。

そんな中で、少女の笑い声が部屋の中で響き渡る。

「アハハハハハハハ!!馬鹿だなぁ、こんなのに騙されるなんて…相変わらずの単細胞って奴だな…兄貴」

「その…声…まさか!?」

「マヤ…様?」

「悪い冗談だな、カミュ…。あの玉座に座っているのが、お前の妹なのか…?」

エルバの言葉にカミュは部屋の奥にある黄金の玉座に目を向ける。

クレイモランでシャールが座っていた玉座を上回る大きさで、さまざまな種類の宝石がちりばめられた贅沢なつくりとなっているそれに座っているのは、黄金像になったはずのマヤだった。

大樹の根で見たそれと寸分の変化もない姿をしていて、唯一違いがあるとすれば、首飾りから紫の光が発生し続けていることだけだった。

「マヤ様…あなたが、カミュ様の…」

「へえ、兄貴。そういう女が好みなんだ。ってか、マヤなんてダサくて貧乏くさい名前なんて、もう捨てたよ。今はキラゴルドって呼んでよ…クソ兄貴」

「マヤ…まさか、お前が?」

「そうだよ、黄金病…だっけ?そんな名前で呼んでるあれ…ぜーんぶこの俺、キラゴルド様の仕業なんだよ」

「くっ…そんな…!」

首飾りの力が使われている可能性は考えたが、まさかキラゴルドがマヤだとは夢にも思わなかった。

先ほどのものをさらに上回る悪夢にカミュはこぶしを握り締める。

「おいおい、そんなに緊張しなくていいんだじゃないか?ビビんなよ、クソ兄貴。けなげな妹らしく、これでも気を使ったんだぜ?おとなしく黄金兵に捕まって、ここまで来てくれれば、てめえを直接俺の力で黄金に変えてやったのに。そんでもって、その後でそこのクソ女も黄金にしてやったのによ」

「マヤ…てめえ!!」

「別にいいだろ?お前…俺のことを捨てて、その女と乳繰り合ってんだろ?だったら、永遠に一緒にいられるようにしてやるんだから、ご褒美みたいなモンだろ?」

「俺のことはいい!!俺は…お前に恨まれて当然のことをした。けど、セーニャは関係ない!それに…なんでこんなことをする!?これは俺とお前だけの問題だろう!?」

確かに、マヤは調子に乗って鳥を黄金に変えてしまったことがあったが、それを反省して首飾りを外そうとした。

憎まれ口を叩きながらも本当に間違ったことはしないマヤはどこへ行ったのか?

必死に問いかけるカミュの姿にマヤはフゥとため息をつく。

妹の気持ちも知らないで、それで兄をこれまで名乗っていたのかと失望する。

「めんどくさい奴…いいぜ、特別に教えてやるよ」

 

大樹が落ちた日、当然クレイモランにも灼熱の衝撃波が襲った。

岩山に囲まれていたクレイモランとバイキングのアジトはそれが盾になったことで大きな被害を受けずに済んだ。

それはマヤがいる小屋も同じだった。

そして、哀れなマヤに救いの手を差し伸べる男が入って来た。

彼は左手を首飾りにかざすと、黄金になっていたマヤは元に戻った。

元に戻ってすぐはよくその姿が見えなかったが声ははっきりと聞こえた。

「哀れな者よ…貧しさに苦しめられ、孤独になり…挙句の果てには兄に見捨てられたか」

まるでこの小屋で起こったこと、自分の身に起こったことをすべて知っているかのような言葉に最初は頭に来た。

自分の傷口に塩を塗ろうとしているのかと思った。

だが、彼はそんなマヤの心境など構うことなく、言葉をつなげていく。

「だが、安心するがいい。絶望、欲望、孤独を味わった貴様こそ、この世界で力を得ることができる。さあ、受け取れ…」

彼はマヤにイエローオーブを差し出す。

ようやくはっきりと目が見えてきたマヤは目の前にいる存在に恐れを抱く。

柄の部分に目があり、黒々とした刀身の大剣を握る悪魔のような男で、恐怖のあまり足がすくみ、腰を抜かしてしまった。

そんなマヤに彼はゆっくりと近づいてくる。

「許せないのではないか?あの男たちを…貴様の兄を。お前を孤独にさせ、お前を見捨てた者たちに復讐し、富と力を手に入れるがいい。我は魔王ウルノーガ…この世の支配者なり」

ウルノーガと名乗る悪魔と視線が合った瞬間、マヤの脳裏に幻影が飛び込んでくる。

金髪で清楚な、マヤとは正反対の女性と幸せそうにともに歩くカミュ。

2人が唇を重ね、2人っきりのテントの中で重なり合う姿。

それを見た瞬間、マヤの中に暗い憎悪の念が宿り、涙を流しながら唇をかみしめる。

ああ、そうか…カミュは自分のことなど忘れて、のうのうと生きていたのか。

そんな男なんてもう兄貴じゃない。

怒りと共にマヤはイエローオーブを手に取った。

 

「おい…てめえら生きてるか…?船はどうだ!?船は!!」

「ああ、カシラ!問題ありませんぜ!にしても、なんだ…あの揺れは!?」

アジトの中にいるバイキング達は突然の激しい揺れに動揺し、外が見えない分、何が起こったのかも理解できていなかった。

ただの地震にしては今までにない揺れで、状況を確かめるには外へ出るしかない。

「船が無事なら、何人かで外へ確かめに行け!そして、クレイモランへ…」

「よぉ、久しぶりだなぁ…」

部下に命令しようとするシグルは突然聞こえた少女の声に驚き、それが聞こえた場所に目を向ける。

自分が座る椅子の右側にある小道から足音が聞こえ、入ってきたのはマヤだった。

「てめえは…マヤ?その姿は…それに、今までどこへ!?」

カミュの脱走は知っているシグルだが、マヤは行方知れずの状態で、いつまでも見つからない2人をとっくに死んだものと思っていたシグルは変わらない姿で現れたマヤに喜び以上に驚きを覚えていた。

「お前ら、何も知らねえんだ。命の大樹が落ちてさ…もうこの世界はおしまいなんだってさ」

「何!?命の大樹が…」

「おい、このガキ!?何ふざけたことを言ってやがる!命の大樹が落ちる…?そんなのあり得ないに決まってるだろ!?」

新参のバイキングを中心に、マヤのことを知らない男たちにはその言葉がふざけて言っている言葉のようにしか思えなかった。

突然の出来事で混乱している中で、悪質なデマを流そうとしているのか。

「落ち着け、マヤ…。まずは教えてくれ…。お前に何があったのか?カミュは…カミュはどうしたんだ!?」

「あんな奴…知らねえよ。でも、そういっているということは…兄貴、どこか行っちまったんだ…。じゃあ、しょうがねえ…」

「マヤ…お前!?」

マヤがイエローオーブを取り出すと、それと首飾りが共鳴したかのように金色の光を発し、マヤの体を金色の魔力が包んでいく。

「まずはお前たちを俺のペットにしてやるよ!!死ぬまでこき使ってやる!!」

「待て…マヤ!うわあああああ!!」

「あああああああ!!!」

黄金の光がアジトを包んでいき、男たちは次々と黄金兵へと姿を変えていった。

 

「魔王ウルノーガ…あのクソ野郎が!!」

確かに、ウルノーガならやりかねない。

絶大な魔力でマヤを呪いから解放し、奪ったオーブで力を与えることも容易だろう。

まさかそれでマヤを六軍王に仕立て、クレイモランに黄金病を、いや、首飾りの呪いを襲わせるとは思わなかったが。

「はっ、クソなのはそっちだろ。この世界のだれも…兄貴でさえ、俺を助けてくれなかった」

カミュだけは守ってくれると信じていたのに。

それを裏切った時点で、マヤはもうカミュを家族だと思うのをやめた。

結局どこまでいっても一人。

たとえ他者が苦しみ、死んだとしても、自らが傷つくことも死ぬこともない。

だから、助けられることもないし、助ける必要もない。

「でもいいんだ。ウルノーガ様が俺を復活させてくれたから。それに、この首飾りの力も思うがままだ!!あのバイキングどもを手駒に変えたように、今度は俺がこの力で世界中の奴らをこき使ってやるんだ!!」

「魔王の手下になって、そんなことを…?それがお前の望みなのか!?」

「アハハハ!今さら説教しようっての?本当にバカなクソ兄貴!」

「でも…これだけたくさんの黄金を集めても、どうしてマヤ様は寂しそうで…満たされていないのですか?」

カミュの隣に来たセーニャの静かな言葉にマヤの目が大きく開く。

ウルノーガが見せた、兄貴を奪ったクソ女。

まるで自分の心を見透かし、かき乱してくる彼女のその言葉が我慢できない。

「うわああああああああ!!!!」

激昂するマヤの体と首飾りから黄金の光が発生し、周囲の財宝が集まっていく。

イエローオーブの力によって変異していったそれらは3本爪の脚と5本爪の腕を持つ黄金の一角獣といえる甲冑へと変わっていく。

8メートル近くある巨人の中に入ったマヤの頭の動きと連動し、獣の目がセーニャに向けられる。

セーニャをかばうように前に出たカミュは自分の掌を見つめる。

「この5年間…ずっと考えていたんだ。俺が生き残ってしまった意味、やるべきことを…」

あの時、この手を伸ばしていたら何かが変わっただろうか?

マヤ諸共死ぬことになっただろうが、少なくともマヤの憎しみと欲望が育つことはなく、ウルノーガに目を付けられることもなかっただろう。

だが、生き延びてしまったことでかけがえのない仲間とセーニャに出会うことができた。

その幸せをたとえ妹であったとしても、奪われるわけにはいかない。

「マヤ…お前がそんな姿になってしまったのも、すべての原因は俺にある…。なら!!ここでお前を倒すことが、俺に課せられた贖罪だ!!」

もうこれ以上、マヤに罪を重ねさせるわけにはいかない。

過去を終わらせるためにも、マヤを葬る。

ナイフを抜き、刃を向けるカミュにマヤはこぶしを握り締める。

「クソ兄貴とそのご一行が偉そうに正義のヒーロー気取り?俺さえ救ってくれなかった奴らが…今さら!!…ああ、うざい!!超うざい!!クソクソクソぉ!!てめえも、てめえの仲間も、そのクソ女も!!みんな、みんな黄金にしてやるよぉ!!」

「カミュ様…」

「行こう、セーニャ…みんな。もう、覚悟はできている!」


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