ドラゴンクエストⅪ 復讐を誓った勇者   作:ナタタク

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第12話 セーニャ

夜になり、ホムラの里から西にあり、ベロニカがいうアジトのある場所の中間に位置するキャンプ場で、3人はテントを設置し、たき火をしてキャンプを始めた。

西と東、南にある通路は狭く、魔物が襲ってきたとしても、空から来ない限りは少数ずつ倒すことができる。

今回はホムラの里で調達した炭を使うことになった。

薪とは違い、炭は火力調整が可能なうえに安定させやすいため、調理が容易だ。

3人はエルバが作った豆のスープを食べていた。

「うう…まずいわね…」

「まずかったら、食わなくていいぞ。お子様の口には合わねえみてーだし」

「だから、お子様じゃないわよ!!ああ…もう、食べればいいんでしょ!食べれば!!」

カミュの言葉で意地を張ったベロニカは口に合わないのを我慢しながら、スープを飲む。

このスープはエルバが作ったもので、イシの村では朝食のメニューとして出されやすい。

今回使った豆はイシの村のものではなく、ホムラの里のものだが、同じ種類の豆なので、味はそれほど変わりない。

カミュの出身地は知らないが、少なくともベロニカが暮らしている聖地ラムダではこのような味は馴染まないようだ。

「ったく、こんなんじゃなかったら、あんな魔物なんか…」

スープを食べ終えたベロニカは同中に起こった戦闘を悔しがりながら思い出す。

このキャンプ場に来るまで、3回魔物と遭遇し、交戦した。

神の岩でエルバが遭遇したヘルコンドルと似た姿で、体の色がオレンジ色のガルーダ3匹と最初に遭遇し、馬1頭用意に運べるたくましい両足があり、おまけに空中から攻撃してくることから苦戦した。

ベロニカが翼を焼いて地上に叩き落すためにメラを唱えようとしたが、なぜか杖から出てくるはずに火球が出てこず、やむを得ずエルバが1匹をギラで、カミュが魔法の聖水や魔法の小瓶の空き瓶で作った火炎瓶を使って3匹を地面にたたき落とした。

地面に落ち、身動きが取れなければ、もはや敵ではない。

そのあとでカミュが2本の聖なるナイフで、エルバはグレイグの大剣でとどめを刺した。

次に遭遇したのはふとやかな緑色の体で、両手に持つ2本のバチで腹部にぶら下げている太鼓をたたくドラムゴートだ。

カミュいわく、攻撃力と防御力が高いだけのノロマだが、問題なのは太鼓での演奏だ。

周囲の魔物がその演奏につられてこちらに来て、おまけにその演奏で攻撃力が強化されてしまうとのこと。

集団戦に持ち込まれて、リンチにされて死亡した冒険者や旅商人は数多く存在する。

そのため、まずは動きの遅さを利用してエルバのデインで太鼓そのものを破壊した。

太鼓を失えば、もはや彼のできるのは攻撃だけで、動きの遅い攻撃は怖くない。

壊れて地面に落ちた太鼓を踏み台にしてジャンプしたカミュの投げナイフで両目を潰し、エルバが渾身斬りで真っ二つに切り裂いた。

また、ベロニカは薬草や魔法の小瓶を使い、2人のHPとMPの回復に努めた。

そして、キャンプ場まであと少しというところで5匹のドロルに襲われた。

海鞘みたいな突起や牡蠣を思わせるヒダがあり、ナメクジのような目を持つ軟体モンスターであり、長らく虫系モンスターだと思われていたが、最近の研究により、ゾンビ系だという説が浮上し始めている。

魚介類や爬虫類の屍肉を好んで食しており、その性質を体に宿したことで生まれたかららしい。

イビルビーストが使ってきたボミオスとは異なり、単体にしか効果がないものの、より体の動きを鈍らせることのできるボミエだけでなく、相手を眠らせるラリホーや相手の呪文を封じるマホトーンとスカラやバイキルトなどの相手に宿った魔力を消し去る効果を持つ光を放つ機関を目に宿している。

しかし、あくまで軟体モンスターであり、動きも鈍いことから、対応は簡単だった。

背後へ回り込み、後ろを向かれる前に大剣を叩き込む、もしくは走り回り、こちらの動きを捕捉しきれないうちの短剣で何度も攻撃するなどして、容易に撃破することに成功した。

なお、ドロルの肉はカミュいわく、非常にまずいうえに調理に向いていないとのことで、そのまま自然に還すことになった。

呪文が使えないベロニカにできたのは2人のサポートだけだった。

天才と言われた自分がこんなことしかできなくなっていることが、仕方がないことだとはいえ、非常に悔しかった。

「こうなったら、一刻も早くセーニャを見つけて、魔力を取り戻して、あたしをさらったあいつらにたっぷりお礼をしてやるわ…!」

「大事なんだな、妹のことが」

スープを飲み終え、エルバが不思議な鍛冶セットでグレイグの大剣を叩きなおしているのを見ながら、カミュはベロニカの隣に座る。

「うん…当然よ。ずっと一緒に育って、旅をしてきた大事な家族よ。大事じゃないわけがないじゃない」

「そう…だよな。大事にしねえ理由なんてねえよな…」

ふと、何かを思い出したのか、カミュは蒸し風呂の中でエルバに見せたような、悲しげな眼を見せる。

口の悪い盗賊である彼がそんな目をするのが意外だったのか、ベロニカは目を丸くしている。

「おっと、忘れるところだった。こいつは塩漬けにしておくか…。あとで食える」

カミュは肉類を入れた食料袋から今日手に入れたガルーダの肉を出し、塩をまぶしたうえで別の袋に入れる。

本当はそのうえで冷水の中に入れておくといいのだが、ホムスビ山地は熱く、しかもこの周囲には水がない。

里で水をある程度調達できているが、ここから先で水の補給ができるかどうかわからないため、食べる場合は手作業で塩抜きをする必要がある。

「ったく、何なのよ、アイツ…」

話を振ってきて、勝手に話を切り上げたカミュに不満を感じながら、ベロニカは水を飲む。

まずいとはいえ、ご飯を食べることができて、水を飲むことができている。

しかし、セーニャは今大丈夫なのか…?

月を見ながら、ベロニカは妹のことを考える。

(無事でいなさいよ…。あんたとあたし、2人一緒じゃなきゃ、使命を果たせないんだから…!)

 

「よし…馬はここに止める。あとは歩きだ」

西側の山肌の道を進み、3人は加工された石で造られた人工的な洞窟に到着する。

当然、屋内には馬を入れることができないため、付近の草むらに放した。

旅や戦闘のために使用される馬は放していても、口笛もしくは専用のベルを使用することで呼ぶことができる。

「この場所で間違いないのか?」

「ええ…間違いないわ。この場所よ」

ホムラの里まで逃げてきた間のことを思い出しながら、ベロニカは答える。

自然な洞窟が多いこの産地では不釣り合いな石造りの、おまけにホムラの里ではありえない均等な直方体の意思で組み立てられた洞窟。

そんな洞窟はここだけで、見間違えるはずがない。

「この馬は…!!」

周囲を見渡したベロニカはすぐ近くにある小さな池で水を飲んでいる馬を見つける。

その馬にかけられている荷物を調べると、その中には竪琴が入っていた。

「間違いないわ…セーニャはあの中にいる」

「その竪琴…セーニャっていう妹のものか?」

「そうよ!やっぱり…ここに来てるわ。急がないと!!」

竪琴を手にしたベロニカはカミュの制止を無視して、そのまま洞窟へ向かって走っていく。

その洞窟がベロニカが捕まっていた場所だとしたら、中はまさに敵の胃袋であり、戦えない彼女が先行したらまずい展開しか想像できない。

「追いかけるぞ、エルバ!!」

「ああ…」

2人はベロニカを追いかけるように、洞窟の中へ足を踏み入れた。

 

「ああ…くそ!あいつ、どこへ行った!?」

洞窟に入った2人だが、一本道ではなく分岐点や行き止まりの多い複雑な構造であるがために、ベロニカを見失ってしまう。

おまけに洞窟の中には細胞結合を弱め、敵の守備を弱める呪文、ルカニを効果を軽減した代わりに複数の相手にかけることができるようになったルカナンが使えるようになり、誰がその名前を付け、どういう意味なのか全く分からないことで有名な緑色のドラキーであるタホドラキーやバギなマホトーンといった呪文を中心に攻撃を仕掛けてくる怪人、ドルイドなどの魔物と遭遇した。

1対1体は大したことはないものの、やはり洞窟の中というだけあって数が多く、すべての魔物を相手にするわけにはいかない。

先ほど襲ってきた動く悪魔の骨に乗った黒装束の騎士であるスカルライダーの大群から、カミュが投げた煙幕で逃げてきたところで、彼らに追いつかれないように2人は走っている。

「気を付けろ、あいつらは乗りこなすのは下手だが、すばしっこいぞ!」

「わかっている…!ベロニカ、どこだ…!」

並列して走る二人だが、次の瞬間、床からゴトリと変な音が鳴る。

「ゴトリ…??」

デルカダールの地下水路で似たような音を聞いたカミュはその時のことを思い出し、ツーッと冷や汗をかく。

次の瞬間、2人のいる床が崩れてしまう。

「マ…マジかーーーー!?」

「く…罠があったか…!」

幸い、地下1階といえる空間は比較的浅い場所に位置しており、2人は落ちたレンガの上に着地する。

その場所は先ほど通った通路と同じくらいの狭さで、一本道となっている。

「ああーー、せっかく蒸し風呂入ってスッキリしたってのに。帰ったら、また蒸し風呂だな」

「気に入ったのか?」

「当たり前だ!久々の風呂でいい気分になれたからな」

服をポンポンとたたき、砂を落としながら答える。

エルバも蒸し風呂は最初、どういうものかよくわからず、戸惑っていたが、今ではあれもあれでアリだなと思えるようになった。

ベロニカとルコの父親を助けたら、彼に付き合うのもありかもしれないが、それはデルカダールが里に近づいていない場合だけだ。

人助けをしているので忘れているかもしれないが、今の2人は脱獄した死刑囚だ。

「キャアア!!ったく、どきなさいよ!!」

同じ階のどこかから、ベロニカの声と骨が動く音が聞こえてくる。

「ベロニカ…?」

「近くからだ!!」

音が反響し、どこにいるのかを聴覚で判断するのは難しい。

しかし、骨の動く音から、彼女がスカルライダーに追われていることは間違いない。

エルバとカミュはベロニカを探すために再び走り出した。

走って十数秒で、広場に到達し、そこで10匹近くのスカルライダーに石を投げて応戦するベロニカの姿を見つける。

「ったく…呪文が使えないだけで…キャア!!」

スカルライダーの剣がベロニカの腕をかすめる。

それでも、服と皮膚が破れ、血が流れる。

呪文が使えないだけでここまで戦えなくなる自分を呪いながら、ベロニカは腕を抑える。

ジリジリと包囲を固めるスカルライダーをベロニカはキッとにらみつける。

何の力もない自分にできる唯一の抵抗だ。

「デイン!!」

ベロニカの正面に立つスカルライダーに向けて側面から電撃が飛んできて、そのモンスターは3,4体のスカルライダーを道連れに感電し、消滅する。

突然の外からの攻撃に動揺するスカルライダー達に立て直す時間を与えまいと、カミュが大きくジャンプし、投げナイフを3本同時に投げつける。

ナイフがスカルライダーの頭や剣を持つ手に命中し、頭にナイフを受けたスカルライダーは骨から落ち、手に受けたモンスターは痛みで剣を落としてしまう。

「よし、行け!!」

「ああ…」

続けてデインを唱え終えたエルバがグレイグの大剣を振り回し、一度で複数のスカルライダーが乗る骨をバラバラに粉砕し、スカルライダーを真っ二つに切り裂く。

剣で防御しようとしても、大剣の前では無力で、防御ごと粉砕される形になった。

「あんた達…」

「じっとしてろ」

ベロニカに駆け寄ったエルバはベロニカの傷を見る。

幸い、切り傷などで、骨などへのダメージがないことに安心し、彼女にホイミを唱える。

「勝手に突っ走ったときは何してんだって思ったけどな、あんな魔物の大軍を前に泣かないって、中々ガッツがあるじゃねえか!」

回復を行うエルバと回復中のベロニカのカバーに入ったカミュはジバリアを唱え、魔法陣をいくつも周囲に設置する。

魔法陣に飛び込んでしまったスカルライダーは足元から隆起する岩に吹き飛ばされる。

更に隆起した岩によって壁ができ、スカルライダーは3人を襲う邪魔になる岩に剣で何度も攻撃する。

どうにか岩を砕き、絶好の獲物が得られると思い前進しようとするスカルライダーだが、正面から飛んでくるギラに焼かれ、灰となった。

「こりゃ…長くはもたないな」

ジバリアで生み出した岩が砕かれるのを見たカミュだが、もう1度ジバリアを発動するだけのMPが残っていない。

「カミュ!!」

ベロニカの声を聞き、振り向いたカミュに魔法の小瓶が飛んでくる。

それをつかんだカミュは、投げた本人であるベロニカに目を向ける。

「さっさと飲んで、動きなさいよ!!」

「お、おう!!」

魔法の小瓶の中の水を飲んだカミュは壊れた岩、もしくは壊れそうになっている岩の後ろに設置する形でジバリアを発動する。

苦労して岩を砕き、先へ進もうとしたスカルライダーは岩に吹き飛ばされるか、再び阻まれることになった。

 

30分が経過し、スカルライダーの大半が倒れ、生き残りはエルバとカミュを倒すのは不可能だと判断し、逃げ出していった。

「はあ、はあ…」

「飛ばし過ぎだ、カミュ。お前らしくない」

ベロニカから追加でもらった魔法の小瓶を飲み、エルバから治療を受けるカミュは息を整える。

少なくとも戦闘では冷静に武器と呪文、そして道具を選んで戦っているカミュらしくなく、あのスカルライダーの群れと戦っている時の彼はジバリアを連発するなど、エルバの言う通り飛ばし過ぎていた。

戦いが終わり、緊張状態が解けたことでようやく体の疲れを自覚したのか、今はあおむけに倒れ、天井をじっと見ている。

「あんた…」

傷がふさがり、疲れも取れたベロニカがカミュに近寄る。

「よぉ…無事みてーだな、ベロニカ…」

「…」

ベロニカは3本の魔法の小瓶をカミュのそばに置き、後ろを向く。

「これでMPは全快するわよね。それと…」

「それと…何だよ?」

「前に言った、頼りないとかひよっこって言葉…撤回してあげる。それだけよ」

カミュに顔を見せることなくつぶやくベロニカだが、カミュは何の話か分からずにいた。

一方、残った1本の魔法の小瓶でホイミを使った分のMPを回復しているエルバはホムラの里でベロニカに2回目に会った時の会話を思い出す。

その時、そして酒場で話していたとき、確かにベロニカはカミュをそのような言葉で酷評していた。

ルコの件があり、そう思ってしまうのも仕方にないシチュエーションであったことは否定できないが。

「よくわからないけど…俺を少しは、認めてくれたってことか…?」

「まぁ、これくらいの戦闘でバテバテになるようじゃあ、頼りない男レベル2っていったところだけど」

「悪い意味で…レベルアップじゃねえか…!」

エルバの肩を借りて起き上がり、自分を見て舌を出すベロニカに抗議する。

酒場の時ほどではないが、カミュは怒っていた。

「怒れて立てる…ということは、もう大丈夫ね。行きましょう。こっちよ」

「こっちに何があんだよ?」

「登れそうな壁よ。天井のあたりに穴があるから、そこを使えば、きっとあの場所まで戻れるわ」

ベロニカの案内に従って進んだ先には、彼女の言う通り、登れそうな凸凹ができた壁と上の階へと続く穴を見つけることができた。

幼少期から木登りなどで登った経験のあるエルバと旅慣れしたカミュはこの壁を問題なく登ることができるが、問題はベロニカだ。

彼女は幼い少女であり、体力も2人には及ばないため、もしかしたら登っている途中に疲れて手を放し、落下する可能性がある。

「グラップリングフックがありゃあいいが…生憎、手元にねえんだよなー…」

過去にカミュはグラップリングフックを使い、でこぼこのない壁を上って高い場所を上った経験がある。

元々は木登りなどができないデクのために作ったもので、これはデルカダール城へレッドオーブを盗む時に使っていたが、兵士に捕まってしまい、その際にこれは没収されている。

もう1度作ればいいと思っていたが、これまでそれを使う理由がなかったことから、今まで作っていなかった。

まさか、このタイミングで必要になるとは思いもよらず、カミュは頭を抱える。

「カミュがベロニカをおんぶして登ればいい」

「はぁ!?なんで俺が…」

「なによ!?その反応!レディに対して、失礼じゃないの?!」

カミュの嫌そうな反応に怒りを覚えたベロニカが抗議する。

大の男におんぶされるのには抵抗感がある物の、今回の場合は仕方がないと割り切っている。

そんな自分の好意を無下にするような反応が彼女の気に障った。

「エルバ!お前がおぶればいいだろう!!?」

「俺は背中に大剣を差してる。そんな状態で、どうおんぶしろというんだ?」

カミュの言い分を無視し、エルバは先に壁を上っていく。

先に上っていったエルバが戻ってくる気配はなく、やむなくカミュはベロニカをおんぶする。

「ほら、さっさと登りなさいよ!…にしても、ちょっと匂うわね」

「うるせえガキだな。黙ってしがみついてろ!!」

さっさとこのやかましい少女から解放されたいと願いながら、カミュは面倒事を押し付けたエルバを恨み、上へ登っていった。

 

「女神像…なんでこんなところに」

1階に戻り、しばらく北へ進むと女神像を中央に置いた丸い人工的な泉のある開けた部屋に到着する。

魔物の気配がなく、泉に湧き出ている水はイシの大滝に流れる水と同じくらい清らかだが、何か不思議な力が感じられた。

「助かった。ここでも水の補給ができるみてーだ…ん??」

以外な場所で水の補給ができることを喜び、さっそく汲もうとしたカミュだが、その部屋にいくつも配置されている柱に隠れるように、緑色のドレスを着た金色のロングヘアーの女性が倒れているのを目撃する。

「まさか、彼女もベロニカと同じように…」

「セーニャ!!」

ベロニカは自分よりも身長が高く、妹にまるで見えない女性の元へ駆け寄る。

どういうことなのかわからないカミュは困惑し、エルバも表情は変えていないものの、鳩が豆鉄砲を食らったような顔になる。

エルバとカミュの2人と比較すると低いものの、ベロニカの倍近い身長で、年齢もはっきり言えばベロニカよりも上にしか見えない。

「わけありか…?」

駆け寄ったベロニカは何度もセーニャの体を揺らす。

「セーニャ、セーニャったら、しっかりしてよ!!どんな時でもずっと一緒だって、約束したじゃない!!セーニャ!!」

何度も揺らしても、ピクリとも反応せず、ベロニカは肩を落とす。

おそらく、彼女はベロニカを助けるためにここまで来たが、残念ながら…。

エルバは目を閉じ、カミュは視線を逸らす。

「んん…」

「え…!?」

ピクリと体が動いたと思ったら、ゆっくりとセーニャが起き上がる。

そして、のんびりとベロニカのそばであくびをした。

「すみません、私、人を探していて…。疲れてこの泉のそばには魔物が来ないので、休んでいたらそのまま眠ってしまったようですわ…」

起きたばかりのセーニャは目をこすり、そのあとでベロニカの顔を見る。

数秒の間、ベロニカを見たセーニャは目を丸くする。

「お、お姉さま!?なんておいたわしい姿に!?」

「え…あ、あんた、あたしがわかるの!?」

セーニャが無事だったこと、そして自分のことをわかってくれたことを喜ぶベロニカは身を乗り出し、最愛の妹を見る。

驚くベロニカをおかしいと思ったのか、セーニャはフフッと笑う。

「何年もお姉さまの妹をしておりますもの。ちょっとお姿が変わったくらいで間違えたりしませんわ」

「も、もう!!あんなまぎらわしい倒れ方をしないでよね!?あたし、てっきりあんたが…」

照れ隠しか、両腕を組んだベロニカは先ほどのことに腹を立てる。

確かに何も知らない人間があんなのを見たら、おまけに体を揺らしても動かないとなると死体と誤認してもおかしくない。

体温を見ればわかるだろうという突込みはさておき。

「なあ、お取込み中悪いが、セーニャってのはお前の妹なんだろう?一体どういうことだ?」

話が全く見えないカミュがベロニカに尋ねる。

誰が見てもだが、今の2人を見ると、セーニャが姉でベロニカが妹にしか思えない。

「実は…あたしたちは双子なの。こんな見た目になったのは深ーい理由があるの。あたしをさらった魔物がね、ここをアジトにしてたくさんの人をさらっては魔力を吸い取って集めていたの。魔力を吸い取られないようにこらえていたら、ついでに年齢の方も吸い取られちゃって、今はこんな格好ってわけ」

「だから、呪文が使えなかったと…」

「そういうこと。だから…」

ベロニカは真剣な表情を見せると、カミュに指をさす。

「つまり、こう見えてもあたしはれっきとした年頃のおねーさんってこと!これからは子ども扱いしないでよね!」

「な、なんで俺だけなんだよ!?エルバも…」

「あいつは最初から子ども扱いしてないからよ。そうでしょ?」

「薄々と、だがな。もしかしたらと思った」

酒場で初めてベロニカと出会い、彼女と運命について話をしたときの違和感をエルバは思い出す。

ベロニカが見た目は少女だが、本当は大人ではないかという疑念を持っていたが、2人の会話を聞くことで、それが確信に変わった。

「さすが勇者様、鋭いわね。こいつとは違って」

「ぐぅ…!!」

拳を握りしめるカミュだが、ここで暴走するとそのことを自ら認めてしまう格好になってしまう。

二十歳を超えた、このメンツの中では一番の大人である自分がそんな醜態をさらすわけにはいかないと、必死にこらえた。

「彼女を見つけただけでは終わらない。奥にいるお前をさらった魔物を倒して、魔力を取り戻したい…ということか?」

「そういうこと。だから、それまであんた達には付き合ってもらうわ」

「私からもお願いいたします。回復呪文でみなさんのお手伝いをいたしますし、しっかり休みましたので、MPも回復しています。さあ、参りましょう。エルバ様」

「俺の名前も知っているか…」

ベロニカが最初から名前を知っている素振りがあるため、もしかしたらと思ったら当たっていた。

「もちろん、あんたもよ!カミュ!!」

「ああ、分かった分かった。最後まで付き合ってやるよ」

「フフ、ありがとうございます。カミュ様」

ベロニカとカミュのやり取りを見たセーニャは面白おかしいためか、ついつい笑ってしまった。


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