ドラゴンクエストⅪ 復讐を誓った勇者   作:ナタタク

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第104話 六軍王の長

ガリンガを討ち、天空魔城に突入したエルバ達だが、城の中にも数多くの魔物が存在する。

城の外の守りを固めていた魔物を含め、かつてエルバ達がデルカダール地下で見たブラックドラゴンの鱗が黄金色になり、塔の柱のような尾と灼熱の炎を武器としたグレイトドラゴンや血のような暗い赤に染まった鱗のドラゴンにまたがり、同じ色の鎧兜を身に着けたドラゴンライダーといえるハデスナイトや緑色の肌となり、上下一対の長刀を1本装備したガリンガといえる魔物であるサタンジェネラルなどが立ちはだかり、それらの魔物に対応しながら先へ進んでいく。

「だが…本当なのか?預言者に助けられたってのは」

レーヴァテインをふるうカミュはセーニャのそばで幻影となって浮いているベロニカから聞いたこれまでの話をいまだに信じることができなかった。

確かにカミュもガリンガの元から逃げ出す際に預言者から力を借りていて、エルバからも預言者から話を聞いたことは聞いている。

だが、死んだ人間の魂をブルーオーブに宿すなど聞いたことがない。

「それに、これまでに得たオーブに宿っていた魂はいずれもローシュ様と関係の深かった人物。だとすれば、残るシルバーオーブとブルーオーブにはセニカ様とウラノス様のどちらかが…」

ネルセンを除き、魂の中でまだ邂逅したことがないのはこの二人。

それ故に、百歩譲ってベロニカとセーニャがセニカの生まれ変わりで、魂がセニカとほぼ同じだからオーブに宿ることができたとしても、その肝心のセニカはどうなるのか?

ロウはローシュ戦記の最終章を思い出す。

(そういえば、そこで書かれていたのはローシュ様が勇者の星となってロトゼタシアを去ってからの6人の仲間の行方じゃった…)

ネルセンは自身の故郷だった地でバンデルフォン王国を建国し、数多くの騎士を育て上げて余生を過ごした。

ラゴスは再び義賊稼業へ戻り、最期はとある島の花が咲き誇る木にもたれ、眠るように死んだ老齢のラゴスが目撃されたことが最期の記録となっている。

ネイルは自らの役目が終わったことを悟ると武器を置き、故郷へ戻って家庭を持ち、己が会得した武術を書物にまとめたのち、一人の村人として静かに眠りについた。

パノンについては戦いで荒れ果てた地を巡り、人々に笑いと希望を与え続けたが、ある時から彼の消息は途絶えた。

しかし、彼に救われた人々の手で様々な娯楽が生まれていくことになったという。

だが、ウラノスとセニカについては故郷へ戻ったことの記録は残っているものの、その最期についてはパノンと同じく記録が残っていない。

「お姉さま、私…」

再びこうして話す機会を得られると思っていなかったセーニャだが、いざこうしてもう1度話せるとなると、どうしても伝えたいことがある。

命の大樹にたどり着く前夜に話したかった事、話せずに後悔してしまったこと。

それを口にしようとするが、そんなセーニャの口をベロニカの幻の手が触れる。

確かに触れているように見えるが、結局は肉体のないただの幻影。

触れ合っている感触が感じられない。

「あんたはあたしの分もエルバを、世界を守ろうと頑張ってる。ちゃんとあたしとの約束を守ってるじゃない。ちょっと、見直したわ」

「お姉さま…」

「ほら、ウルノーガとホメロスはもうすぐよ。あたしたちの使命を果たすとき、油断しない!」

「は、はい!!」

「ホメロス…か…」

サタンジェネラスの長刀をデルカダールの盾で受け、グレイトアックスの炎でそのモンスターを焼いたグレイグの脳裏に何度も敵対したホメロス、そしてサマディーの砂漠の夢の中で聞いたホメロスの声が浮かぶ。

だが、同時に幼いころから世界が滅びる前までのホメロスとの思い出も甦る。

もうすぐホメロスと決着をつけるときがくる。

魔王の手先となった以上、デルカダールの、世界の敵としてこの手で倒すしかない。

その決意は勇者の盾となった時に決めていたはずなのに、いざその時が近づいてきていることを実感するとともに揺らぐ自分にも気づいてしまう。

「グレイグよ、おぬしはホメロスと縁の深い男。もしつらいのであれば…」

「いいえ、ロウ様。ホメロスが魔王の魂を売った時点で、この時が来ることは決まっていたのです。そして、もしホメロスの…わが友の運命の結末を見届けることができなければ、きっと俺は俺自身を許すことができなくなります」

ホメロスの心の闇に気づくことができず、彼が闇に落ちるのを止めることができなかった。

その後悔はデルカダール王も抱いており、彼からもホメロスのことを頼まれている。

どんなに願っても、もうホメロスとともに過ごしたあの過ぎ去りし時には戻ることはできない。

「だから…戦います。気遣いは…無用です」

「そうか。じゃが、辛い時はしっかり辛いと言うのじゃぞ。やせ我慢も度を超すと、自分も周りも苦しむだけじゃからな…」

「ええ、わかっています」

魔物の屍の山を気付きながら前へと進み、階段を上り、やがて真っ暗な広い部屋に到達する。

扉をくぐり、殿を務めるシルビアが入った時点で扉が閉じ、頭上からは拍手の音が響く。

「ホメロス!ここにいるのだろう!?気に障る拍手をやめ、降りてこい!!」

「これは失礼した。六軍王をここまで倒し、シルバーオーブを除くすべてのオーブを取り戻し、その力を引き出した勇者ご一行を素直に称えたいと思ったのだがな…」

「黙れ…!陛下を裏切り、ウルノーガに魂を売り、世界を滅ぼし…貴様はその手でどれだけの命を奪った!?」

「フッ…そうだな。命の大樹が落ち、その際に起こった激しい衝撃波がまずは10万の命を奪い取った。そして、そこから始まったのは焼かれた大地、処理しきれぬ遺体によって発生する疫病とウルノーガ様の力により狂暴化した魔物の襲撃…それらが重なった結果として、もうすでに482万人だ。必要ならば、死んだ者たちの名前でも答えてやろうか?」

「貴様…!」

不敵な笑みを浮かべながら降りてきた道化師姿のホメロスの左手にはかつてエルバ達を窮地に陥れた闇のオーブが、右手にはシルバーオーブが握られていた。

「どうした…?こうして姿を見せてやっているのだ。さっさと攻撃すればいいだろう」

「ああ…てめえのせいでベロニカが死んだ!ベロニカだけじゃねえ…あまりにもたくさんの人が!!」

「カミュ!!」

声を上げ、刃を握るカミュにグレイグが手を伸ばす。

驚いたカミュは動きを止め、グレイグは一人でホメロスに向けて接近する。

「グレイグ…」

「手を出さないでくれ、今はホメロスと2人で話がしたいのだ」

「ほぉ…」

ホメロスの目の前まで歩いてきたグレイグだが、武器を構えるそぶりを見せない。

ホメロスも両手に持っていたオーブを懐に納め、互いの視線がぶつかり合う。

「ホメロスよ、最後の警告だ。今すぐシルバーオーブを渡し、自害しろ。そうすれば、陛下には最後は人としての心を取り戻して死んだと伝えておいてやる」

「馬鹿な警告をするものだな、グレイグよ。俺がそんなものに応じるとでも…?」

「ホメロス!お前は…お前は本当は…」

「この期に及んで御託を並べ、なまくらな刃をさらすつもりか?そんなものでは、勇者の盾を名乗るなどおこがましいな!」

右手をかざしただけで何か見えない力が働き、グレイグの体が後ろに大きく押されていく。

ようやく目に見えるところまで近づくことができたグレイグとホメロスだが、その心の距離はほんのわずかの間にあまりにも遠くなってしまった。

「武器をとれ、勇者どもよ。ここが貴様らの終の地だ…存分に私に力を見せるがいい!」

高笑いするホメロスが左手の甲をエルバ達に見せ、そこにまがまがしく光る勇者の痣を見せる。

「てめえ…」

「よく見ておけ…。勇者の力の先は、これだ…!」

痣の光る手を額に当て、同時に痣が最初からそこにはなかったかのように消えていく。

そして、左手にあったはずの勇者の痣が額に宿り、それが大型化していくとざわざわと整っていたはずのホメロスの髪が荒々しく波立てていく。

「うおおおおおおおおお!!!!!」

雄たけびを上げるとともに天井が砕け、そこから黒い雷がホメロスに向けて落ちる。

雷の光から腕で目を守りつつ、グレイグが見たものはバキバキと肉体を変化させていくホメロスだった。

獣のような皮を両手足から生やし、肉体もより筋肉質の物へと変わるとともに道化師のような服装から黒がかったグレーのデルカダールの鎧姿へと変わっていく。

背中からは銀色の羽根を生やし、同時に鎧に刻まれた鷲もその色をまがまがしい紫色へと変わっていく。

「ホメロス、魔物になったというのか!?」

「ああ、そうだな…。だが、これはウルノーガ様から与えられた勇者の力が生み出したものだ」

「勇者の力…こんなものが!?」

「こんなもの…?それを貴様が言う資格があるのかな?エルバよ。お前が一番わかっているはずだ。光り輝くほど影は濃くなるように、光の力を引き出すものにはそれと同じだけ闇を生み出す力もあるということを」

「くっ…!」

ダーハルーネ、そして命の大樹でホメロスと戦った際に実際にその力を発動してしまっている。

あの時の勇者の痣の様子はかすかにしか覚えていないが、少なくとも普段勇者の力を出すときと何かが違っていた。

「ウルノーガ様は言っていた。勇者は悪魔の子だと。その悪魔を突き詰めた結果がこの私だ!!」

「御託はいい!そこまで落ちたか…それが貴様の答えか!?ホメ…!!」

風を切る音が聞こえたと同時にグレイグは違和感を感じる左肩に目を向ける。

デルカダールの鎧の頑丈な装甲が切られていて、そこから血が噴き出ていた。

それに気づくと同時に激痛を感じたグレイグは右手で傷口を抑える。

「受けてしまったな…我が一撃を。見えなかったようだな、私のカラミティエンドを」

右手の手刀についた血を払うホメロスは回復呪文を唱えるグレイグを見る。

この一撃はやろうと思えば胸部を狙うこともできた。

これはほんのあいさつ代わり、これこそがホメロスのグレイグへの最後の返答。

「私はこの世界のために命をささげる…。故に、お前たちをここで斬る!」

 

「ふっ…いよいよ始まったか。ホメロスよ…」

魔王の間で透明のオーブ越しにホメロスとエルバ達の戦いを見守るウルノーガ。

彼の脳裏に浮かぶのは勇者の痣を額に移し、その力を完全に目覚めさせたあの男の姿。

初めてその力を見せたのは愛する人に瀕死の重傷を負わせた魔物に対して強い怒りをあらわにした時だ。

そこから始まったものは今でも強烈に記憶の中に残っている。

「あの時に思った…。われにもそのような力があれば、と…なぜ、あの男だけ特別な力を手にし、我は只人であったのかと…」

幸いなのはその姿の記録が残されていないこと、ローシュ戦記でもセニカが瀕死の重傷を負った際に力を発揮したローシュの活躍は描かれているが、彼が今のホメロスのような魔人化したことは一切語られていない。

勇者が魔物のような姿になったなど、大きなタブーになりえる。

「ホメロス、エルバ…もっと力を引き出して見せよ…。わが更なる力のために…」

ホメロスの時折見せる不審な行動についてはウルノーガも気づいている。

だが、それでも魔軍司令として六軍王の頂点に立たせ、なおかつ勇者の力を与えたのはこの時のため。

この時の戦いこそがウルノーガに宿る力をさらなる高みへと至らしめる。

 

「クハハハハハ!!どうしたどうした!?こんな程度の力でここまで来たかぁ!!」

片手でつかんだカミュを壁に思い切り投げつけ、呪文を唱えようとしたロウを急に伸縮する尻尾で薙ぎ払う。

それでもなお攻撃するため、グレイグとシルビアが左右から一斉にホメロスに切りかかるが、双方ともに手刀で受け止められてしまう。

「ふん…まさか、あれほどまぶしく見えたお前の力が…この程度のものになるとはなぁ!!」

「ぐっ…グレイトアックスでさえ、奴に傷をつけられぬとは…!!」

傷は回復呪文で癒して、そのうえで全力で攻撃をしたグレイグだが、魔人化したホメロスがどれだけの力を手に入れてしまったのかを大きく刃こぼれをしたグレイトアックスが教えてくれた。

オーブによって生まれた武具はいずれも再生能力があり、時間がたてば修復するため特に問題とはしていないが、それ以上にこれらによる攻撃を無傷でしのぎ続けるホメロスはもはや先ほど戦ったガリンガ以上の脅威といえた。

「グレイグ、シルビア!!このままで!!」

だが、両手をふさいだならば隙ができる。

エルバは巨大な覇王斬を生み出し、それをホメロスに向けて放つ。

「うおおおおおおおおおお!!!!」

「腕を封じた程度で勝てると思ったか!?」

そう叫ぶとともにホメロスの胸部に埋め込まれているシルバーオーブが光り始める。

そして、そこから銀色の光線が発射されると、それは覇王斬を粉砕してしまった。

「覇王斬が…!!」

「ふん…他愛もない…な!!」

続けて顔をシルビアに向けると、額に映った痣から紋章閃が発射される。

腹部を撃ちぬかれ、そこに紋章を模した穴が開いた状態になったシルビアは声を上げることができず、その場にうずくまる。

そして、自由になった腕でグレイグを殴り飛ばした。

「グレイグ!シルビア!!」

「ぐうう…なんという奴じゃ、これが…魔人化…」

(いや…確かに魔人化もあるだろうが、それ以上にシルバーオーブ、そしてホメロス自身の力も加わっている…。これほどの力を持つとはな…ホメロス…)


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