ポケモンの言葉が理解できるんだがもう俺は限界かもしれない   作:とぅりりりり

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出会いと出会いと爆発を

 

 

 

 

 

 変な音がしたから、と言おうとして再び地鳴りと絶叫。言葉は聞き取れないが苦しそうな何かは伝わってくる。

「今ちょっと危ないから隠れているか、私のそばにいてくれると嬉しいんだけど」

【このねーちゃんと一緒にいたほうが安全だと思うぜ】

 エモまるが肩でそう囁いてくる。エモまるが言うなら恐らく悪い人間ではない。無言で頷いてレモンさんと一緒にいることを選ぶ。

 差し伸べられた手袋越しの手が強くこちらを握って、まだ彼女のことを全然知らないというのに安心できると感じてしまった。

 轟音が徐々に近づいてくる。そして、レモンさんが突然俺を突き飛ばしたかと思うと、ついさっきまで俺がいたところは焼け焦げており、思わずぞっとする。レモンさんはフライゴンと一緒になって俺の前に立って、その背中を見せつける。

「この近辺にあなたの住み着くような場所はないわ!」

 血走った目のハクリューが森の奥からずるずると這いずってくる。フーッフーッと荒い呼吸を繰り返し、レモンさんと俺を睨みつけている。

【違う違う違う! お前らじゃない! どこだ、どこにいる――!】

 違う、とハクリューは叫ぶ。何のことだかわからないがエモまるだけでこのハクリューへ対抗することは無理だ。レモンさんの手助けをしようにも邪魔になる。

「フレイヤ! りゅうのいぶき!」

 フライゴンのりゅうのいぶきで麻痺を狙っているのだろう。しかし、ハクリューは攻撃こそは効いてるものの麻痺にはならず、長い胴体、というより尾にあたる部位をフライゴンにたたきつけてくる。

「くっ……いったいなんでこんなところに――」

 当然だがレモンさんにハクリューの声は聞こえない。ハクリューの絶叫が耳を劈く。

【どこだ! あの男はどこにいる!】

 泣いているようなハクリューの声に思わず口を開きかけるも会話ができることがバレてしまうと思うと戸惑い、口をつぐむ。しかし、レモンさんがハクリューの攻撃の余波でふっ飛ばされ、彼女を庇うように立つとハクリューに大きな声で言った。

「さっきからお前は誰を探してるんだ! 少しは落ちつけ! 俺が聞いてやるから!」

 ぎろり、とハクリューが睨んでくるがこちとら意思疎通できるんだ。多少のことは怖くない。むしろ一番怖いのは普通じゃないと思われることくらいだ。

「ずっと最初からお前の声が聞こえていた! 信じられないっていうんならなんか言ってみろハクリュー!」

「君、何を――」

 戸惑ったレモンさんの声が辛い。変なやつと思われただろうか。それでも、解決できないよりはマシだ。

【……私の言葉が聞こえている? 馬鹿なことを。ならば答えてみせろ。お前は何者だ】

「俺か? 俺はハツキ。好きなものは静かな場所。嫌いなものはポケモンがたくさんいる場所。お前だけじゃなくどんなポケモンだろうと会話ができるただの一般人だ!」

【一般人ではねぇと思うけどな】

 エモまるが肩で茶々を入れてくるが無視する。実際一般人には違いないだろ。

【確かに、私の言葉を理解して、いる……】

「わかったんならなんで暴れていたか教えてくれ。そもそもお前が住むような場所じゃないんだろ、ここは」

 森のど真ん中。ハクリューが生息するような場所ではない。元々ここに住んでいたわけでもないのだろう。

【私のトレーナーを殺した男を……! あの男を探している!!】

「トレーナーを……?」

 レモンさんを見ると困惑しつつも暴れなくなったハクリューと俺を交互に見ており、少し気まずいが心当たりをたずねてみる。

「レモンさん。この森でトレーナーが殺されたりとか……した?」

「ええ……昨日旅トレーナーの男性が死体で発見されて……手持ちも消えてるから何者かに奪われたんじゃっていう話なら……。私もその件で怪しい人物やポケモンがいないか見回っていたから……」

 もろにそれだよなー。それしかないよなー。

「オーケー、オーケー。ハクリュー、そういうことならやっぱり暴れるのはやめろ。お前が見たっていう犯人の特徴を俺に言え」

【銀髪に赤い目をした白い服の男だ。歳まではわからないが人間でいう成人はしていると思われる】

「銀髪に赤い目……」

 結構特徴的だなと思ってメモしつつ、この際だから他に確認してしまおうとハクリューを見た。

「森を探し回ってるってことはまだいるのか?」

【いるはずだ。あの男は女を追っていた。それを見つけるまでは――】

「女?」

 新情報が浮上し、詳しく聞くとことの発端を聞くことができた。

 

 森を進んでいたハクリューのトレーナーは一人の女と出会ったがその女を追っていた男と敵対し、そのまま殺されてしまったのだと。女はその後逃げ出し、トレーナーの手持ちは男に奪われ、唯一逃げおおせたハクリューが男を探して森をさまよっていたらしい。

 

「その女の特徴は?」

【茶髪に……眼帯をしていた。あの女は好かん】

 まあ自分のトレーナーが死んだきっかけだし嫌うのも無理はない。とりあえず情報は得られたのでハクリューと交渉してみよう。

「ハクリュー、お前が暴れても恐らく犯人は捕まえられない。俺たちに協力してくれないか」

【主人の仇をうつと約束するならいいだろう】

 意外と物分りがいいやつでよかった。普段は言葉がわかるこの能力は疎ましいが意思疎通ができるとスムーズに物事がすすむようなときは本当にありがたい。

 が、問題はレモンさんだ。これ、絶対頭がやばいやつって思われてるだろうな……。

「えーっと……レモンさん、その、なんというか……」

「……君、ポケモンと会話してた?」

 確かめるように、淡々と聞いてくるレモンさんの目はどこまでも真剣にこちらを見据えている。言いづらいがハクリューのためにもちゃんと言わなければならない。

「はい……う、嘘じゃないです。俺本当に――」

「すごい!」

 レモンさんは俺の手を取ってキラキラした目で顔を近づけてくる。まるで子供のように、頼れる雰囲気はどこへ可愛らしい様子でまくし立てる。

「ポケモンと会話ができるなんて素敵じゃない! ねえ、ハクリューとの会話ってもしかして殺人事件の情報? 教えて教えて!」

「あ、はい」

 めちゃくちゃ純粋に喜ばれて面食らってしまった。てっきり怪しまれるか引かれるかすると思っていたんだが。

「なるほどね……わかった。ハクリューの証言はもちろんうまく誤魔化して提出するとして……君はまだ森でハクリューと一緒に犯人探しするの?」

「一応、そのつもりですけど」

 まあさすがに夜なので少しだけ寝かせて欲しいんだけどそれはハクリューとの交渉次第だ。

「ふーん……」

 そう言いながら何か紙にさらさらと書きながらボールからジュナイパーを繰り出して便箋をもたせようとジュナイパーを撫でる。

「ジュナル、これ、町のジュンサーさんに渡してきて。できる?」

【よっしゃ任せろ】

 ジュナイパーも快諾し、夜だというのにそのまま飛び上がって町の方らしき方角へ飛んでいく。

「よし、ジュナイパーに目撃証言は任せたから私も一緒に犯人探しするわ!」

「えっ、いいんですか?」

「当然。それに、君の会話する力に興味があるし」

 そわそわと自分のフライゴンと俺を交互に見て何を期待しているのかすぐに察した。フライゴンもちょっと困っているが声をかけてみる。

「えーっと……フライゴン、会話を求められてるんだけど」

【いや、そんなこと言われても……】

 会話の内容めちゃくちゃ世知辛い。

「レモンさん、せめてなにか聞いてほしいこととか……」

「え? うーんと、じゃあフレイヤは私のことどう思ってる?」

【もうちょっと年相応に落ち着いて欲しい。あと頼むから面倒事に首突っ込まないで】

 レモンさんあなた手持ちにめちゃくちゃダメ出しされてるよ。

 隠してもいいことないしフライゴンのフレイヤの言葉をそのまま伝えるとレモンさんは目をぱちくりさせ、俺とフレイヤを交互に見て「本当?」と聞いているようだった。俺もフレイヤも頷くと頭を抱え「は、反省します……」とフレイヤに呟いた。

 とりあえずハクリューのこともあるし一旦話を戻そう。

「ハクリュー、犯人がどっちにいったとかはわからないのか?」

【いや……見失ってしまった。というより、この森は厄介すぎる】

「森が厄介?」

「ああ、なるほどね。ここは迷いの森だもの。いつの間にか不思議な力が働いて同じところぐるぐるしたり変な方角に進んでたりする場所なのよ」

 どうりで迷ったわけだ。ハクリューも迷っていたし恐らく犯人や女も迷っていると見て間違いない。

「とりあえず一回俺寝てもいい?」

【……まあ仕方ない。私も仮眠する】

 ちなみにエモまるはいつの間にか寝てやがった。こいつ、人が真面目にやってるっていうのに。

「とりあえず、捜索は一度寝てから……」

「じゃあ私もお邪魔しようかな。火を起こすからちょっと待ってね」

 フライゴンのかえんほうしゃでうまいこと火をつけて焚き火を作り、さっき置いてきた寝袋とか荷物を取りに戻る。その間にハクリューは眠ってしまったのか暴れていたときからは想像もつかないほど穏やかだ。

「あ、おかえりハツキ君」

 レモンさんも寝る準備をしてフライゴンも万が一に備えてボールの外で眠っている。なんか出会ってすぐに他人と野宿するっていうのも変な話だ。

「よ、よく信じてくれましたね」

「え? だってハツキ君、嘘つくような人に見えなかったし」

 純粋な目に心がじくじくと痛む。どうして、今までこう言ってくれる人に出会えなかったんだろう。

「それにね、やっぱりすごいなって思ったの。君のおかげで、ハクリューは落ち着いてくれたし、私だけだとどうしても実力行使になっちゃうから……。尊敬しちゃうなって」

「俺はただ会話をしただけですよ」

 俺にとってはそれが普通で、特別ではないこと。特別といえば聞こえはいいが要は異端者なんだ。

「うん。それだけでもね、やっぱりすごいよ。ありがとうハツキ君」

 レモンさんの温かい声になぜか泣きそうになってしまう。すごい、と言われるよりもありがとうと言われたことに嬉しさが湧いてくる。

 自分は、他人に感謝されるようなことを成せたんだと。

「あ、そういえば! レモンさん、なんて畏まらないでいいから! もっと親しみを込めて呼んでみて!」

「えー……例えば?」

「レモちゃんとか!」

「じゃあレモさんで」

「結局さんづけじゃない!」

 レモさんはつっこみながらも笑っていた。ひだまりのような人だ。素直にこの人のことが気になると思えるほどに魅力がある。

「レモさん、いくつですか?」

「私? 19だよ。ハツキ君は?」

「俺は16です」

「じゃあやっぱり私がお姉さんね!」

 なんだか嬉しそうだなぁ、と思いつつちょっと魔が差して気になることを聞いてみた。

「彼氏とかいるんですか」

 明るくて人懐っこい。おまけに顔も悪くない。何を期待しているのか俺はそんなことを口走ってしまう。

 すると、レモさんの表情が陰り、言いづらそうに濁された。

「その……好きな人はい、いたんだけど……まあ、その人とは会えないし、今はいない、かな……」

 あまり突っ込んでほしくない話題なのかちょっと居心地が悪そうだ。出会ってすぐに聞くような話題じゃなかったなとちょっと後悔する。

 逃げるように眠りに入るとアピールするとレモさんは穏やかに慈しむような声で言った。

「おやすみ、ハツキ君。明日はよろしくね」

 この人はいい人だ。でも、今の俺にはちょっと眩しすぎた。

 

 

 

――――――――

 

 

 翌朝、呑気に人の腹で跳ねるエモまるに起こされ、ハクリューはいるがレモさんがいないことに気づく。

「ハクリュー、レモさんどこいったかわかるか?」

【あのレンジャーならきのみを調達してくるからお前が起きたら伝えておけと言っていた】

 レモさん、本当に俺のこと信じてるんだろうな。じゃなきゃこんな言伝頼まないだろうし。

「ねっむ……」

【そっちに川があったぞ。顔でも洗ってこい】

「そうさせてもらうよ……」

 尾で示された先にあるという川へエモまるとともに向かう。冷たい水でようやく覚醒した意識が上流あたりの物音をとらえ、恐る恐る様子を伺ってみると蹲っている女が見えた。

「っ、くそ……しつこい男――」

 不機嫌そうな声が耳に刺さる。茶髪が揺れ、顔が露わになるとその女は眼帯をしていることに気づいた。

 ハクリューの証言通りなら彼女がその追われている女だろう。一応警戒しつつも近づいてみる。

 右目を眼帯で覆っているその女は俺に気づくと不機嫌そうな顔を一転させ、にっこりと愛想の良い笑みを浮かべた。

「あら、かわいい坊や。何、お姉さんに見惚れてるの?」

 蠱惑的な声、甘く蕩けそうな視線に思わず思考が停止する。存在がエロい。顔そのものはとても幼い。が、言動と雰囲気が幼さを打ち消しており、年齢が読めない。

「えっと、あんた――」

「あ、私? 私はねぇ、そうねぇ、オチバって呼んで?」

 オチバと名乗る女はケープのように体をすっぽり覆う服を身にまとっており、立ち上がろうとして足を庇う仕草を見せたことに気づく。服で隠れているが怪我でもしているのだろうか。

「歩けないのか?」

「ええ、ちょっと怪我しちゃってね」

 その様子からして嘘はない。裾をまくってみると捻挫しているようだ。

「とりあえず応急手当できそうな人がいるところまで連れて行くから少し我慢してくれ」

 辛そうな彼女を抱きかかえてレモさんもそろそろ戻っているだろうキャンプ地へと戻ろうとすると、オチバがやたら色っぽい仕草で唇に触れたかと思うと「あ」と気の抜けた声を上げた。

 

「言い忘れてたのだけど、私狙われてるから頑張ってね坊や」

 

 次の瞬間、俺の背後が爆発した。

 

 

 

 




別のポケモン作品の息抜きで書いてるのでもしよかったらそっちもぜひ。ちなみにレモンとオチバはヒロインではありません。

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