少し変わった乙坂有宇 作:々々
今回はオール友利視点です。
鈍い音が体に響く。イヤホンをしているので直接耳に届くことはないが、殴られた部分から痛みが生じる。そのまま続けて同じ場所、左の頬を殴られる。
血の味がしする。これは頬が切れましたかね。痛みには慣れているはずですが、思わず脚の力が抜けて倒れそうになってしまいました。
目の前にいる女4人はそれを許しません。倒れそうになるあたしの髪を掴み、無理やり持ち上げます。そしてそのまま膝を腹部に入れます。
「次は百合子の分!」
殴られた衝撃で外れたイヤホンからそんな声が聞こえてくる。
難儀なものですね。彼女らが科学者に捕まる前にこちらで保護したものの、不満があるようです。少々手荒い場面もありましたが、兄が科学者に受けた実験と比べると何百倍も何千倍もマシです。
あたし自身の体はいつの間にか横になっていました。ふっ、我ながら自分のことを客観的に見過ぎました。どうやら考え事をしている間に、更にボコボコにされてしまったみたいです。
上を見上げると依然として、その瞳にはあたしに対しての怒りの炎が浮かび上がっていました。
ですが、ふと一人からその炎が消えました。
「ねぇ、誰か見てない?」
「本当か?」
「うん。だから早く行こうよ」
その人はその場にいた二人の手を引いてそそくさとこの場を離れていきます。残った一人も彼女たちに付いて行きました。
手に力を入れて立ち上がろうとしますが、力が入らず上手くいきません。
そんな私の上に影が差しました。
「生きてるか?」
それはやはり乙坂有宇でした。あたしが連れ出させるのを見ていたのは彼と高城だけでしたし。
高城はあたしを助けには来ません。彼は彼で独自の正義感を持っていますし、彼はあたしの泥を被るやり方については口出しをしないという約束をしました。
「なんのつもりですか?」
彼の本心は分かりません。彼の行動の基本には常に自分自身か歩未ちゃんが存在します。前回、黒羽さんを助ける際にそれは確信が持てました。他者への圧倒的なまでの無関心、自分に振りかかるリスクを減らした上での行動。
では今回は? 今回はあたしを助けることは何一つとしてメリットはありません。むしろこの状況を見られる方がデメリットになり得るとも言えます。現に、先ほど遠くに行った彼女たちが遠目であたし達を確認していました。
「あたしなんかを助けに来て……」
「僕がお前を助けに来た? 何を言ってるんだ?」
その声は心からの物のようで、本当にあたしの言っていることに疑問を持っているようです。
「僕はお前を助けに来てなんか無い。ただ、お前が居なかったら生徒会の活動に支障が生じる。僕は早く家に帰りたいんだ。だからお前が無事か様子を見に来ただけだ」
「助けたことは否定しないんすね」
「事実だからな。それで、見た目は結構ボロボロだけど立てるか?」
力は戻っていて、今回はきちんと立てることが出来た。でも、足元はまだ覚束なく体勢を崩してしまう。
「無理すんな。僕に迷惑がかかるから」
「一言多いです」
そんなあたしの手を取って支えてくれます。
「肩貸せば歩けそうか?」
「それなら」
「そうか」
あたしの腕を肩にかけ歩くのを手助けしてくれます。どこに連れて行くのかと思うと、その先は保健室でした。
扉を開けて中を見るが、生憎と養護教諭はいません。乙坂有宇は溜息をひとつ吐いて、あたしをベッドの上に座らせます。
「勝手に使って文句とか言われないよな」
「その点は大丈夫です。我々生徒会は怪我をすることも多いので、よっぽどたくさん使わない限りは何も言われません」
「高城とかしょっちゅう使ってるもんな」
石鹸で手を洗った後、医療品が入っている棚を一瞥し迷いなく物をとっている。それから慣れた手付きで準備を整える。
「歩未が良く怪我するから慣れてるんだ」
「はい?」
「お前がどうしてここまで手際がいいのか、疑問を感じているように思って」
「何言ってイテッ!」
いきなり消毒液を掛けて来るのはダメだろ!? 普通それくらいは分かるだろ! 何けろっとした顔で「お前何してるんだ?」みたいな顔してんだ! 普通に引くなっ!
「黙っとけ。口の中もキレてるんだろ」
「なっ!」
「口開けろ」
「何でですか!?」
「こんだけ喋れたら大丈夫だろ。取り敢えずあまり刺激を与えないようにしろよ」
いつの間にか手当ては終わっていました。痛みを感じたのも最初の一回だけで、他の所は全く痛みを感じませんでした。歩未ちゃんに良く手当しているというのは本当のことの様ですね。
片付ける乙坂有宇を見ていると、携帯が震えました。どうやらまた特殊能力者が見つかったようです。乙坂有宇にそれを伝えると頷き、あたしを立たせて二人でむかうことになりました。
乙坂有宇の持つ『略奪』と呼ばれる特殊能力。本人はそれを『5秒だけ相手を乗っ取れる』だけだと思っているようですが、絶対そんな事はありません。
何せ有働に能力の使用の危険性を説明した際、「この話をすると大抵の人が能力を使えなくなるんですけど、貴方はどうですか?」と嘘を聞いてみた時、彼は既に能力が使えませんでした。
だからこそ、略奪は『特殊能力を奪う』もしくは別の何かとともに能力を奪っている。というのがあたしと高城の考え方です。
本人はまだ気づいていないのでそのままにしておきましょう。
少し二人の仲を見せようとしたら5話終わりませんでした。次で5話終わります。
これからも応援お願いします。
書きたいことが上手く書けず、語彙が少ないので勉強して戻ってきます。