少し変わった乙坂有宇   作:々々

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日常

「ゆうおにいちゃん! はやく!」

「まってよあゆみ!」

 

 ここしばらくの間同じ夢を見る。小さい僕が、さらに小さな歩未と手を繋いで歩いている。それは河原であったり、近くにあった商店街であったり場所は様々だ。時には研究室のような無機質な場所のときもあった。そんな所に二人で行った記憶はない。

 周りには僕ら以外にも人がいるが、その殆どがのっぺらぼうのように顔が見えない。例外も存在していて、友利や高城や黒羽妹の生徒会メンバー。それと見たこともない人が4人。

 そして毎回のように夢が覚める直前に出てくる人がいる。少し青のかかった黒髪に優しそうな表情。誰だっけこの人は……忘れちゃいけない人のような気がする。

 

「■■もはやくぅー!」

「待てよあゆみ」

 

 あぁ、そうだ彼は……。

 

 

「有宇おにいちゃん!早く起きなきゃ遅刻しちゃうよ!」

 

 歩未の声で眠りから覚める。また同じような夢を見ていたのかもしれないな。内容は覚えてないが、心の中に靄がかかったようにスッキリしないことが数回ある。

 もやもやを晴らすように冷たい水で顔を洗い、そのまま寝癖を直す。ワックスを付けて、いつもの髪型になったらダイニング兼リビングに行く。

 

「おにいちゃんはお茶準備してー」

「あいよ」

 

 冷蔵庫から取り出す。歩未は作った料理をテーブルに運ぶ。なんか少しだけ顔赤くないか?

 そんなことを思った瞬間、歩未の足が覚束なくなる。料理が無くなり空になった手でテーブルを掴む。僕も急いで駆け寄り抱き留める。

 

「はぁはぁ」

 

 息は荒く額には汗をかいている。

 昔からこうだ。怠さや咳や鼻水といった症状よりも先に熱が歩未を襲い、本人が倒れるまで分からない。呼吸は浅く苦しそうにしている。

 

 体に力の入らない歩未を抱き上げ、部屋に連れて行く。さっきしまわれたばかりの布団をもう一度敷き直し、その上に歩未を寝かせる。

 隣に座り、手を握る。横になって楽になったからか、さっきよりは呼吸がしっかりとしている。

 

 台所に行き、冷蔵庫を開く。前に買っておいた冷えぴたがまだ残っているから取り出す。スポーツドリンクもあるが、風邪の時は常温のほうがいいんだっけか。

 流し台の下の開けると、入学祝いとして叔父さんから送られてきたインスタントラーメンがあって、その隣に数本スポーツドリンクがあるからそれを取る。

 

「あとは学校に連絡して……」

 

 薬が無いから友利に頼むか。歩未が風邪って聞いたら飛んででも来そうだけどな。

 

「そう言えば冷蔵庫にピザソースなかったな」

 

 なんてどうでもいい事を思い出した。

 

 

 風邪の引き始めで中々熱が下がらなかったから、僕も学校に休む旨を伝えた。お昼を過ぎたあたりから熱は下がり始めたので、つきっきりで見守る必要がなくなった。

 忙しくてきちんと出来ていなかった掃除を本格的に始める。トイレやお風呂など、水回りを中心に攻めていく。

 

 テレビを付けて眠りの邪魔をしても悪いので、友利から渡された音楽プレイヤーでZHIENDの曲を聞きながら行っていた。初めて聞くはずなのに耳に馴染む曲が多くて、心地よさと不気味さを感じた。

 アルバムを一周した頃、家のチャイムが鳴るのが聞こえた。玄関まで行って小さな覗き窓から見ると背丈の小さいのが3つ。歩未と同じ制服だ。

 

「どちら様ですか?」

『あゆっち……歩未ちゃんのお兄様ですか? クラス委員長の野村と申します! 今日はあゆっちのお見舞いをしに来た所存であります!!』

「歩未に聞いてくるから待っててくれ」

『了解であります!』

 

 部屋に行くと歩未は今のチャイムで起きたようで、眠そうに目をこすっていた。

 

「だれだったの?」

「お前のクラスの友達だってよ。野村って言ってわかるか?」

「のむっちが来たの! 入れて入れて!」

「はいはい。あまり興奮して熱ぶり返さないようにな」

「そんなことしないから!」

 

 僕からしたら安静にして欲しいが、同級生と会えば精神的に元気になるだろう。それは家族である僕には出来ない部分だからな。

 

 

 彼らが来てから20分位経った時、携帯が小さく震えて画面にメッセージが現れる。

『これから黒羽さんと共にお祝いに行きますが、大丈夫ですか?』

 分かったと返信して、歩未に伝えるために部屋に行く。

 

「それじゃあ早く治してまた学校でね!」

 

 これまた丁度いいタイミングで歩未の同級生が部屋から出てきた。僕にも挨拶をしてそれぞれ家に帰って行った。

 

「へぇ、お見舞いって交換式なんすね」

「はわぁ、歩未ちゃんアイドルみたいです」

 

 歩未の同級生達に出していたコップをお盆に乗せ、流し台に持って行こうとしたら後ろから二人の声がした。振り返ると、何故か赤縁のサングラスにマスクをした黒羽妹がいた。

 

「なにやってるんだ?」

「変装です☆」

「ちっ、なんも反応ないとかつまんねーの」

 

 黒羽妹は変装を解いて、いつも通りに。

 友利は能力を解いて姿を表す。

 

「お前の能力は肉眼じゃ見えなくなるだけで、声とか匂いは残ってるからな」

「匂いで分かったんすか、キモいっすね」

「……今回は玄関の写真立てに反射してたから分かったんだ」

 

 歩未に負担かけるなよ、と言い残して本来の目的だった流し台に向かう。使われたコップは洗う。来客用のやつは丁度3つしかないので、友利と黒羽妹の分が無かった。

 洗って、専用の付近で水滴を拭いて麦茶を注ぐ。あんまり時間は経ってないだろう。

 

「邪魔するぞ」

 

 お盆を持って部屋に入る。

 

「邪魔するなら帰ってください」

「ここ、僕の家なんだけどな」

 

 

「ちょっとお話いいですか?」

「ん? なんだ?」

「いいからっ!」

 

 3人が部屋で話してる間にお粥を作って、夕食時になって4人で一緒に食事をした。米の残りがなくなったから休日に買わないとな。

 二人が買ってきたなめ茸や海苔の佃煮と一緒に食べた。デザートとして黒羽妹がコンビニのレジの裏に置いてある棚から買ったゼリーを食べ、黒羽妹はテレビの収録で中抜けした。

 

 使った食器を洗っていると「客人を放置するとはなんですか」と言われ、友利が食器を拭いてくれた。すると歩未がカップルか、なんてからかってきた。この歳の女子は浮いた関係に興味があるから仕方ないか。

 諸々が終わって歩未の熱を測るとまた熱が上がっていたので、買ってきてもらった薬を飲ませ冷えぴたを貼ってが寝させた。その後、帰ると言った友利を送り出そうとしたらそのまま外にひっぱりだされた。

 

「なんだよ」

「歩未ちゃんが寝ている最中に悪夢を見たと言いました」

「熱が出てるんだから見ることもあるだろう。なにか気になることがあるのか?」

「……いえ。ただ、あたしと兄、黒羽姉妹のように兄弟の両方が能力に目覚めることは十分考えられると思います。なので、これが能力の兆候である可能性もあります」

「っ! そうか」

 

 完全に忘れていた。歩未にもその可能性があるということを。

 

「ですのでその夢の詳細を尋ねてください。それがヒントになる可能性もあるかもしれませんので」

 

 では、と言い残して友利は去っていった。

 夜中目を覚したら、聞いてみようか。

 




少々短いですが読んでいただきありがとうございました。一度ランキングにも乗ったみたいで、投稿してないのにアクセス増えてて驚きました。
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