大いなる海の母   作:村雪

9 / 10
 どうも、村雪です!一日空いてしまいましたが明けましておめでとうございます!今年が皆様にとって良いものでありますように!
 そして一日どころか半年以上あけての投稿!お待ちしていくださった方々、ほんッとうにお待たせいたしました!一応生きてはおりますよー!

 さて、色々と謝らないといけないところなのですが、まずはどうか文を読んでいただければ!相変わらず拙い文章で読みごたえがないかもしれませんけども…!

 それでは久しぶりにっ!

--ごゆっくりお読みください。





鬼-のお護りは岩の如し

プルプルプル プルプルプル

 

 

プルプルプル プルプルプル

 

 

(んんっ?)

 

 

 砲丸が飛び交い、海賊と海兵でごった返す氷の戦場。安全な場などないその一帯に気の抜ける音が連続して響き渡る。それが距離の離れた人物との会話を可能にする念波を発する珍しい生物、電伝虫の鳴き声だと把握したスイカは辺りを見渡した。

 

 

 

(海兵か・・・。一斉通信ってことは、そこそこ大事な――――)

 

 

 

 ギラッ!

 

 

 

「よそ見などするな酒呑童子!おおおおっ!」

 

 

 そんなあからさまなよそ見を対峙していた巨人中将・ラクロワは見逃さず、握りしめた両刃剣を高く振り上げ容赦なくスイカの頭上に振り下ろした!

 

 

 

 

 バキィンッ!

 

 

「!んが、っと・・・!」

 

 

 

 少し腕の立つだけの人間では持ち上げることさえ出来ない、まさに力が物を言う巨人族の武器。その全力の一振りが頭頂に直撃したスイカはさすがに無反応というわけにはいかずフラフラと数歩ふらついた。

 

  

 

「!?こいつ・・・!」

 

 

 

 ただ生憎と、それは衝撃を受け止められなかったゆえに起こしただけの反応。まともに攻撃を成功させたラクロワだが全く喜ぶことがないまま叫んだ。

 

 

 

 

「ど、どんな身体をしているんだっ!」

 

 

 

 業物、とは呼べないかもしれないがそれでも長らく戦場を共にし数多くの海賊を打ち沈めてきた頼れる一刀。

 

 その長年の相棒がこうもあっさりと中腹を中心に砕け散ってしまうとは、ラクロワには信じられず信じたくない現実であった。

 

 

「―――そぉぉぉぉいっ!!」

 

 

 ガッ!

 

 

「グガ・・・っ!?」

 

 

 

 その戸惑いは戦場では命取りとなる。

 

 

 小さな拳から放たれる一振りが一気に2人の距離を詰め、ラクロワが動く前には己の顎を的確に捉えていた。身体の大きさが違えど人体である以上構造は同じであり、顎と共に脳も揺さぶられたラクロワはぐるりと白目を剥き、重力に従って巨体を沈めた。

 

 

 

「どんなも何も、こんな身体が私さ巨人海兵!見た目で判断すると痛い目に合うよ!」

 

 

 まるでからかうようなラクロワへの返事だがすでに彼の意識はない。それを確認したスイカは先ほど中断された周囲の観察を再開し、電伝虫の念波に耳を澄ませる。

 

 

(さて、何を通信しあってる・・・?)

 

 

『ーー目標はTOTTZ。 陣形を変え通常作戦3番へ移行。準備ぬかりなく進めよ』

 

 

(・・・・・なるほど、さっぱり分からん)

 

 

 ようやく聞こえてきたのは全く理解できない内容。どうやら海兵の暗号のようで海賊であるスイカが把握できる余地はなさそうだ。何か情報を獲ようとしていたため肩透かしを受けた気持ちとなってしまう・・・が、最後に続いた内容だけはスイカも理解できた。

 

 

 

『――――整い次第予定を早め、エースの処刑を執行する!』

 

 

「!!・・・おいおい、本気かよ?」

 

 

 思わず口にしてしまうスイカ。既に処刑時刻は定まっており、それは何もこの戦場で決めたことではなく、前々から世界へ伝えられていた決定事項。つまりそれは全世界の人間をだますとも言えることであり、そこまで強引に押していくほどの作戦となると・・・・・・

 

 

 

「よくもラクロワをっ!酒呑童子ぃいいいい!!」

 

 

 

方針を定めるのと同時に新手の巨人族が襲い掛かる。刀よりも破壊力がある戦斧を構え勇敢に迫ってくるのは、ラクロワと同じ中将にして同郷の男、ロンズだ。

 

 

  

「・・・・悪いね!ちょいと用事が出来た!」

 

 

 同じように迎え撃つ、と思われたがスイカがとった行動は意外にも真逆。

 

 迫るロンズに目をくれず、彼女は後方へ振り向きながら呟いた。

 

 

 

「厭霧(しょうむ)・・・!」

 

 

スカッ

 

 

「うぬっ!?」

 

 

 

 変化はあっという間だった。風に吹かれる砂のように、小さくも確立した存在感を醸すスイカの姿が徐々に薄らいでゆき、ロンズの斧が振り下ろされた時には完全に姿を消し去っていた。

 

 

 それは〝ギュムギュムの実〟の能力者である彼女にだけ許された固有の移動手段。海をまたいでここ(海軍本部)へ来たように、スイカは目当ての人物の元へ空気を駆けた。 

 

 

 

「―――――話、いいかい?」

 

「なんだ、今さら怖気つきやがったか?」

 

 

 元の姿に戻ったのは白ひげ海賊団の母船モビー・ティック号の船首。堂々と先を走ったスイカをまた横に感じた白ひげはどこかからかうような言葉で彼女に耳を貸した。

 

 

「ばーか、違うっての。・・・ちょっと気になることを耳にしたもんで報告だ」

 

「ん?」

 

「エースだったか?あんたんとこの若いの・・・どうやらソイツの処刑時刻が早まるらしいよ?」

 

「!!・・・・・本当か?」

 

「ああ、海兵の電伝虫の連絡を聞いたから間違いない」

 

 

 内容が内容なために白ひげの顔もすぐに一変する。スイカはそれを確認したうえでさらに続けた。

 

 

 

 

「その上であんたに聞きたい」

 

「・・・・・・・」

 

「あの頭の働きにかけては随一の堅物が、ザルのように筒抜けになる方法で重要な作戦を回すと思うかい?」

 

「ありえないな」

 

「だよねぇ」

 

 

 白ひげの即答に、むしろ満足そうにスイカは頷いて見せた。

 

 

 むこうが自分達を知るように、こちらも長年海で顔を会わせた正義の猛者達を忘れるはずもない。

 

 末端に至るまで策を巡らし目標を追い詰める。ガープとは違って策士としての一面を全面的に出してきた男がそんなドジを踏むわけがないと、2人は処刑台で構える〝知将〟仏のセンゴクを一切見くびらなかった。

 

 

 

「なら、どうしてそんな方法で情報を流す?まるでこれを聞きつけて早く助けに来いと言わんばかりに、さ」

 

「・・・前に罠でも構えたか、あるいは俺たちの注意を処刑台にだけ向けさせるため、といったところか」

 

「同意見。とはいえ前に進まにゃ処刑台にはたどり着けない。だったら――」

 

「俺たちの注意が甘くなってるところを叩けばいい。・・・・丁度目につくモノがありやがるな」

 

「あぁ・・・脇の軍艦共かい?確かに前のことばかりで眼中にかけてなかったしねぇ」

 

 

 2人が警戒したのは白ひげたち海賊を左右から挟む軍艦の群れ。三日月形の湾岸に沿った形の布陣となるが、包囲網を敷くようなその配置に少なからず引っかかりを覚えたのだ。

 

 

「どうする?私がのかそうか?」

 

「余計な世話だ。おめぇはそこで指でもくわえてろ」

 

「む、あのバカみたいなこと言いやがって。ガキと一緒にすると痛い目見せるぞ~?」

 

「ふん、やれるもんならやってみろ。―――――こちら白ひげ、スクアードはいるか」

 

『はい。船長なら・・・・・あれ?おかしいな、さっきまでここにいたのに』

 

「なら、ディカルバン兄弟だ―――」

 

 

 白ひげは懐に入れていた電伝虫を取り出し傘下の海賊たちと連絡を図る。自分が指揮を取ってもいいが、戦地の状況は刻一刻と変動するため現場の人間が指示を下す方が効率的。連絡の取れたディカルバン兄弟に狙いだけを伝え、具体的な策は全て2人に任せた。

 

 

『了解!任せてくれオヤッサン!』

『了解!オヤッサン任せてくれ!』

 

 

「ああ、頼んだぞ。――――これで両脇は問題ねぇ」

 

「う~ん。と言っても、あの数の軍艦をあんたの若いの達だけで沈められるのか?ここは手堅く私が・・・」

 

「ふん、おれの家族をなめてくれるな。お前の手を借りるまでもねぇよ」

 

「・・・・むぅぅ、なんだよー。せっかく手ぇ貸すっつってんだから少しはやらせろよー」

 

 

 情報を仕入れてきたのは自分なのにと、蚊帳の外の扱いをされたスイカは分かりやすく拗ねた表情で軍艦へ向かう海賊たちを眺めた。

 

 

 

 

「・・・・なぜ俺に手を貸す?」

 

 

 そんな外見ふさわしい態度を取る彼女に白ひげは尋ねた。 

 

 

「んぁ?どうしたのさ急に」

 

 

 見上げるとこちらを凝視する白ひげと目が合う。その表情は控えめに見ても疑いが濃く、スイカを警戒しているのは明白だ。

 

 

「今まで散々俺とドンパチしてきた女がどうして手を貸すかって聞いてんだ」

 

「・・・・・・ん~、それは答えなくちゃならない?」

 

「ああ。じゃないと気味が悪くて仕方ねえからな」

 

「気味が悪いって。長年の知り合いになんてこと言うんだい全く」

 

 

 がしがしと頭をかきながらスイカはため息をついた。確かに海賊が海賊に手を貸すなど利が無ければありえないし、ましてやそれが命を取り合ったほどの関係となると用心深くならない方が愚かだと言えよう。

 そうなると誤魔化しは逆効果。スイカははぶらかすのをやめ正直に答えた。

 

 

「・・・大した理由じゃない。ちょいと面白いヤツがいてね。正直火拳の命がどうなろうと興味ないけどそいつが随分と助けたがってるもんだから、心打たれてってやつさ」

 

「・・・・・・お前を動かすか。誰だ?」

 

 

 白ひげの質問には先ほどより好奇が込もっていた。

 

 この小さな海賊は自由気ままに動く性格でその影響は大きく、行くところ行くところで騒動を起こすその姿に〝歩く災害〟と呼び称える人間も出る程だ。そしてそれらの行為全てが彼女の意思を反映させており、決して誰かの指示に従って動くようなタマではない。

 

 

 そんな彼女が、酒を酌み交わすことがあってもあくまで敵であった自分と共闘するなど天地がひっくり返ろうともありえない事態。白ひげの興味を沸かせるに十分だった。

 

 

 その心境を察したスイカは珍しい宿敵の反応に愉快そうな笑みを浮かべながら言う。

 

 

 

「ああ。聞いて驚くなよ~?なんとそいつはだ・・・・

 

 

 

 ・・・・・ね・・・?」

 

 

「?おい」

 

 

 

 その先は続かなかった。数秒経っても無言のスイカに白ひげは急かすが、それでも返事がない。

 

 

 

 

「・・・あ、ははは。本当に無茶をやるねぇ~、あの血筋は・・・!」

 

「ん?」

 

 

 ようやく返ってきたのはそんなつぶやき。いつもの小憎らしい表情ではなく、どこか呆れを感じさせる笑顔で彼女が見るのは上空だった。

 

 思わず白ひげもそちらを見ると・・・

 

 

 

 

 

『ああああああああ~~~・・・・あっ!おれゴムだから大丈夫だ!』

 

『貴様一人だけ助かる気カネッ!なんとかするガネ~!』

 

『こんな死に方ヤダっちゃブル!誰か止めて~ンナッ!』

 

『てめぇの言うことなんか聞くんじゃなかったぜ麦わら!ちくしょ~~!!』

 

 

 

 

 

「・・・・なんだありゃあ?」

 

「インペルダウンの囚人共と、面白い小僧一人さ。来るのは分かってたけどよもや空から降ってくるとはねー・・・ともかくあのままじゃまずいね、っと・・・」

 

 

 数えきれないほどの人間が、風を受ける帆と波を受ける船底をひっくり返した軍艦と共に空から降り落ちてくるではないか。予期せぬ出来事に白ひげはまゆをしかめる中、先にスイカは落ち着きを取り戻し・・・

 

 

 

 

「気溜(きだま)り」

 

 

 それらが落ちるであろう氷の大地よりやや上に差し伸ばした手を、握りしめた。

 

 

 ボフンッ!

 

 

『ぶへっ!?』

 

 

 100メートルは下らない上空から地面に落下すれば人間の身体はただでは済まない。・・・その常識に反し当事者の彼らが上げたのは気が抜けるくぐもった叫び声。

 

 圧縮した空気はその力が強いほど重いものを浮かばせる。スイカが落下地点に集めた空気がその例に漏れず、囚人たちの身体を受け止めたのだ。

 

 

 

「ほいっと」

 

『うおっ!?』

 

 

 全員が空気の上に落下したのを確認したスイカはもう大丈夫だと能力を解く。再び浮遊感に苛まれることとなるが、数メートル前後の高さなど札付きの悪共にはなんてことはない。先に落下した軍艦へ次々と上手く着地していった。

 

 

 

「やぁやぁ!海を走る軍艦でいったいどこを走ったのさねあんた達!」

 

「ぶはっ・・・!あっ、スイカ!それに・・・・・!やっと会えたぞ、エース~!」

 

 

 その例外として顔から着地してしまったルフィだが、この一連の騒ぎを起こした引き鉄にして最大の目的である兄、エースを見た途端破顔して起き上がる。身体は世界最大の監獄・インペルダウンでの戦闘であちこちから血が流れているが本人は全く気を向けない。大きく息を吸い込んだルフィはその場の全員に宣言するかのように叫んだ。

 

 

「助けに来たぞ~~!!エ~~ス~~ッッ!!」

 

 

 

 

「・・・・あれぁエースの弟じゃねぇか。あの小僧がソレか?」

 

 

「おうとも、あの若い芽が私を動かしやがったのさ。なかなか面白そうなヤツと思わないかい?」

 

 

 おそらくクルーであるエースが語ったのだろう。世間では知られていない事実を淡々と語る白ひげにスイカは愉快そうに見上げた。

 

 

「さぁな。エースはあの小僧を買ってるようだが俺はアレのことを知らねぇ。だからどう思うも何も――」

 

 

 

 ギラッ!

 

 

「「!」」

 

 

「久しぶりだな白ひげ・・・!」

 

 

 すると新たな影が2人の元へ急接近していく。四肢の一つとなっている黄金色の鉤爪を構え迫る男。それはスイカと同じインペルダウン脱獄者にして白ひげに恨みを抱く元王下七武海、サー・クロコダイルだ!

 

 

「!?ちょいま――!」」

 

 

 スイカは慌てて止めにかかろうとしたが、背後からの見事な不意打ちに無駄な動きはなく、既にクロコダイルの攻撃を止めることは間に合わず・・・

 

 

「だ~~っ!」

 

 

「!ち・・・っ!」

 

「おっと、おにーさん!」

 

 

 白ひげに触れようか、というところで雄叫びと共に2人の間にルフィが割り込んだ。砂の身体であるクロコダイルにただの体術は効かないが、以前の激闘から知り得た弱点・水を滴らせたルフィの足は完全にクロコダイルの腕を捉える。

 

 

「お前との協定は果たされた・・・なぜ白ひげをかばう?」

 

「やっぱりこのおっさんが白ひげか。じゃあ手を出すな、エースはこのおっさんを気に入ってんだ!」

 

 

 千載一隅のチャンスを邪魔されたクロコダイルは忌々し気にルフィを睨み、ルフィも負けじと白ひげを背にクロコダイルを睨んだ。

 

 

 

「小僧」

 

「ん!?なんだおっさん!」

 

 

 そんな2人を横目に見ていた白ひげが、口を開いた。

 

 

「お前がこの馬鹿を解いたのか」

 

「ちょっと!?誰がバカだい!」

 

 

 急な侮蔑に慌ててスイカが異議を唱えるが2人には届かない。意外な質問を受けたルフィは物怖じすることなく世界最強の男に尋ね返した。

 

 

「おっさん、スイカのこと知ってんのか?」

 

「あぁ。腹立たしい事によぉく知ってるさ・・・・で?」

 

「ううん、おれは何もしてねぇ。スイカが海桜石の手錠をちぎって自分から出てきたんだ」

 

「・・・だが、小僧が出てくるきっかけになったらしいな。このバカにでけぇ借しを作ったことになるが」

 

 

 白ひげはさらに質問を重ねる。

 

 

〝酒呑童子の救出〟。それすなわち世界最強の一角を思いのままに利用することも夢ではなくなる、いまだ誰も手にしたしたこともない最上の利権。上手く利用すれば同じく世界最強である自分の首・・・・あわよくば〝世界〟すらも狙えたかもしれない歴史的転換点でもあった。

 

 

 

 

「そんなのどうだっていい!おれは!おれはエースを助けるためにここまで来たんだ!おっさんと話してる暇なんかねぇんだ!!」

 

 

 しかしそれは無意味すぎる問いかけ。

 

 どこまでも無鉄砲で愚直で頑固で。ただただ兄を救いたいルフィには問答に付き合う時間も惜しく、あっさりと白ひげの言葉を受け流した。

 

 

 

「・・・グラララ。なるほど、ガープの孫か。生意気なところはそっくりだ・・・!」

 

「にひひひ。でしょ?なんとも興味を沸かせる男なのやらね~!」

 

 

 やはり血というものは争えない。英雄と呼ばれたあのタフな男に劣らない不敵な態度に、幾度も対峙してきた白ひげとスイカはたまらないと笑いをこぼすのである。

 

 

 

「おにーさん」

 

「ん?なんだスイカ!」

 

「好きなように動きなよ。この私が全力で援護を務めてやろうじゃないかっ!」

 

 

 この女海賊にそこまで言わせた者はそうはいない。いや、もしかすれば誰1人いない可能性もある。

 

 

 そんな史上初となる言葉を受けたかもしれないルフィだが・・・彼が取る行動は変わらない。

 

 

 

「言われるまでもねぇ!おれがここに来た理由はただ一つなんだ!待ってろエースぅぅぅ!!」

 

「はっはっはぁ!厭霧!」

 

 

 ルフィは勇ましい雄叫びと共に戦場へと降り立ち、それに遅れまいとスイカも再び身体の密度を薄めていく。白ひげは姿を消していくスイカへ声をかけた。

 

 

「行くのか」

 

「まぁね。お?なんだなんだ。ひょっとして私のことを心配してくれるのかい白ひげ?」

 

「馬鹿言うんじゃねぇ。必ず獲ると決めた首を海軍なんざに取られちまったらたまらねぇだけだ」

 

「ちぇ。そうかよ。その海兵の狙いはどっちかって言うとアンタだってことを忘れんじゃないぞ~?」

 

「余計な世話だ。俺を誰だと思ってやがる」

 

「はんっ。そんなもん確認するまでもないさ、白ひげ」

 

 

 白ひげの挑発に近い言葉に、スイカは肩をすくめながら答える。

 

 

「ガープにあんた。そんであの大バカ野郎・・・・・・この私と張り合った男共を忘れるわけないじゃないか」

 

 

 そこでスイカの身体は完全に霧散した。向かう先は勇ましく戦場を駆けていくルフィのもと。突如現れたルーキーはおおいに海兵たちを焚きつけるのあった。

 

 

「おめぇを掴まえねぇと天竜人がうるさくてね~。麦わらのルフィ~・・・・!」

 

 

 真っ先に構えたのは一週間ほど前にシャボンディ諸島でルフィ及びその一味の捕縛を失敗してしまった黄猿だ。輝く足をルフィに突き出し・・・・!

 

 

「!よぉし!来るならこ――」

 

 

「来させたら手遅れだっての馬鹿っ!」

 

「ぐえっ!?」

 

 

 光線が放たれるのと、ルフィの顔を鷲摑んだスイカが横へ跳ぶのは同時だった。ひと際まぶしいビームが尾を引く速度でルフィがいた場所を突き抜けていく。

 

 

「ん~、邪魔だてしてくれるねぇ。どうしてそのガキを庇うんだい~?」

 

 

 攻撃を外したことに気を留めず脚を降ろした黄猿は2人を見据える。世代が二回り以上違うであろう2人に共通点があるわけなく不思議に思うのも当然だが、それを親切に教える必要などない。

 

 

 スイカはルフィから手を放し、

 

 

「行きなおにーさん!この小僧は私が相手をしておく!」

 

「・・・!うんっ!ありがとうスイカ!!」

 

 

 情報に疎いルフィでもここまでの道のりで彼女がただの少女ではないと分かっていた。礼を告げたルフィは迷うことなく処刑台へと奔走し、その姿を確認したスイカがさらに叫ぶ。

 

 

「ジンベエ!イワンコフ!しっかり援護してやんな!」

 

「ああ!任せいっ!」

 

「引き受けたっちゃブル!ヒーハ~~!」

 

「んがーはっはっは!あちしも頑張るわよスイカちゃ~ん!!」

 

 

 そのあとをMr.2、ニューカマーランドの囚人たちが怒涛の勢いで続いていく。海兵の注意を引くには十分な行列であったが・・・・・・黄猿は一切そちらに構わなかった。

 

 

「ふ~~、仕方ない。今は見逃すしかないねぇ・・・」

 

「おや。てっきりまた光でおにーさんを攻撃をするのかと思ってたんだが」

 

「おめぇが横槍を入れてくるのは明白じゃないかぁ。わっしは出来るだけ無駄なことはしたくないんでねー」

 

 

 それにと、黄猿は変わらず呑気な口調で続ける。

 

 

「後であの小僧を始末すればいいだけのこと。少し後回しになっただけの話だよ~」

 

「ほう?」

 

 

 その言葉の裏を真に理解した上で、スイカは笑みを浮かべつつ首を鳴らした。

 

 

「そりゃあ私を倒すのに時間はいらねえってことかい?始末どころか、何べんも私にのされてきた三下が言うようになったねぇ…」

 

「昔を引き合いに出さないでほしいもんだねぇ。でも、そう思うなら来なよぉ?時代遅れの老いぼれが~」

 

「--はっ、上等っ!」

 

 

 挑発だろうが売られた喧嘩は買うのが性分。氷を砕く勢いで踏み抜き黄猿と空いた距離を詰め・・・

 

 

「武装ぉ!ぬぅりゃあ!」

 

 

 豪っ!と荒ぶ風と共に覇気を纏う拳が繰り出される!叩きつけるような風を身体に浴びた黄猿は・・・

 

 

「八咫鏡(やたのかがみ)~・・・!」

 

 

「!なるほど隙をつこうとするのは悪くない!」

 

 

 攻撃に出るかと思われたが彼のとった行動は回避。光へ姿を変えた彼は一瞬でスイカの視界から姿を消した!

 

 

「…けど、せっかくの行き先を光の尾が教えてんのは変わってないねぇ!」

 

 

 しかしキラキラと漂う光の欠片をスイカは見逃さない。その先であろう方向--自らの後方へと拳を構え振り返った。

 

 

ピッ

 

 

「っ!?」

 

「そればっかりは変えれなくてねー・・・承知の上での策だよ~~」

 

 

 そこには予想通り元に戻った黄猿が構えていた。

 

 ただ予想外だったのは彼は武器のようなもの持っておらず、かわりに二本の指をスイカの目前に突き出していたこと。

 

 

 ほんの数秒だがスイカの不意を突くには十分な一手だった。

 

 

ピカァッ!

 

 

「!!ぬぅぁあああ!?」

 

 

 その指先が輝いた瞬間、間抜けな悲鳴が響き渡った。強烈は発光は酒呑童子と呼ばれた大海賊であろうと容赦なくその視界を奪い取る!

 

 

 ピュンッ!

 

 

「おぅっ!?」

 

 

 視界と引き換えとばかりに脇腹に二度ほど焼けるような熱さと痛みが染み渡っていく。視覚を奪われた彼女には分かりえぬことだが、その時黄猿が放った二本の光線が的確にスイカの脇腹を貫通していた!

 

 

「おめぇには腐るほど借りがあるからねぇ。子供の姿だろうが容赦なんかしないよ~…!」

 

 

 そう告げた黄猿の足は既に横蹴りの姿勢を取っている。

 

 標準は人体の急所である一つ、頭部。人体最も弱い部位めがけて光速で足を払い…!

 

 

ズガンッ!

 

 

「つつ……当然だ。そんな手心加えられるほど弱いつもりはないからねぇ…!」

 

「!おっとっと…!」

 

 

 宣言どおり黄猿は手加減などしておらず、正真正銘渾身の一蹴りだった。

 

 だがそれを即頭部に受けたスイカの反応は大きくずれたもの。なにせ頭が僅かに横へぶれただけで、その足元は一歩たりとも動いていないのだから…!

 

 

「さぁ、こっちの番だぜ若僧ぉ!」

 

 

 スイカの拳が覇気を纏っていく。攻撃を仕掛けてくると判断した黄猿は足を上げたまま両手を重ね、回避に移る!

 

 

「八咫鏡!」

 

「むっ、おいおい…!」

 

 

 瞬間黄猿の身体が光となって消え去った。当然スイカは目標を失うこととなるのだが…

 

 

「私からの返しを袖にするたぁいただけないねっ!」

 

 

 彼女は変わらず拳を構えたまま、空いた右手を前に出した。

 

 

 

 

 

 

 そして、

 

 

「萃素(すいそ)」

 

 

 

 

 

パッ

 

 

「・・・・と・・・っっ!?」

 

 

 姿を消していた黄猿が現れた。

 

 それも構えるスイカの真正面、差し向けた掌の目の前に…!

 

 

 

 

 だがそれが不本意な登場だったのは彼の驚き、戸惑いの表情を見れば明白。その突然の事態に次は黄猿が行動を鈍らせ……!

 

 

「さぁ、遠慮せず受け取りな……っ!」

 

 

 

--砕き月っ!

 

 

その言葉を聞いていた時には黄猿の身体は空気を引き裂きながら吹き飛んでいた。

 

 

『うわっ、なんー!?』

 

『ええっ!?き、きざーーっ!?』

 

 

 届く声も最後まで聞き取れず、最前線にいた黄猿は瞬く間に後方へと押し下がる。そして……

 

 

ドガァン!

 

 

「~~っ!あいたたた・・・」

 

背を打ち付けたのは重砲を備え付ける岸の防壁。幸か不幸か頑強な造りだったために黄猿の身体は強烈な痛みとともに勢いをとめた。

 

 

「げほっ・・・やれやれ。わっしも年かねぇ・・・」

 

 

 腹に走る痛みは並みではなく少し動くだけでも眉をしかめてしまう。それでも口調を崩すことなく、落ちたサングラスをはめなおし崩れた身体を起こした。慌てて駆け寄ってくる海兵達が目に入るも意識するのは遠ざかった女海賊。再び戦場へ戻るべく身体を輝かせながら黄猿は呟いた。

 

 

「思うもの全てを集める・・・・・〝ギュムギュムの実〟の基本の能力を忘れるとは、あの老いぼれ女のことをバカに出来ないよ~」

 

 

 

 

 

 

 

「くぁ~…!やっちゃったね、光ってのも侮れないもんだまったく…!」

 

 

 一方スイカも手痛いダメージを受けている。二度放たれたレーザーは腹部に小さいながらも風穴を開け流血させており、反省と成長する敵への感心で汗をにじませながら苦笑していた。

 

 

『おのれ酒呑童子!』

 

『よくも黄猿大将をぉ!』

 

 

 その隙をつかんと様子を伺っていた海兵たちが一斉に武器を構え迫る。

 ある者は刀を、また他に銃器や拳を向けてスイカに攻撃をしようと動く数およそ20前後。その数を見たスイカは一人一人の相手を諦めた。

 

 

 

 そして、高々と掲げた両拳を握りしめ……

 

 

「まとめて落ちとけぇ!」

 

 

 

 全力で足元の氷を叩きつけた。

 

 

 バギャンッ!

 

 

 

『げっ!?』

 

『うわ~~!?』

 

 

 足元の亀裂はさらに広がっていき、手前の海兵が気付いた時にはもう手遅れ。隠れていた海水が顔を見せ、接近していた海兵たちを次々と飲み込んでいった。そしてその前に1人飛びあがっていたスイカは落ち行く海兵を確認しつつ、護衛対象であるルフィの姿を探した。

 

 

「おにいさんは・・・っと、あそこか!」

 

 

 かなり早く移動したようで既に湾岸に届く距離まで近づいている。とは言えこの場にいる海兵たちは強者ばかり。ここで再会した時よりも血が流れていて遠目にも重傷なのがわかり、思わずため息をつきたくなった。

 

 

「・・・んっ!?あいつは・・・!」

 

 

 しかしルフィが進む先で待ち構える男を見てそんな悠長な気持ちは吹き飛んだ。

 

急いでスイカは身体を霧散させようと―――

 

 

 

ゴォオォッ!!

 

 

 

「!?(バッ)」

 

 

 突然風切り音が急接近してきた。意識をルフィに向けていたためスイカは反射的に〝ソレ〟に手を差し出し・・・・・・

 

 

 

「!!うあっちぢぢぢぃぃぃぃっ!?」

 

 

 またもやたまらず悲鳴をあげてしまう。

 

だがそれも仕方ないことであり、彼女が触ったのは豪炎さえ陳腐に見える獄炎の主――マグマ。直接触れた手のひらは血のように真っ赤に焼けただれ、体勢を崩してしまったスイカは頭から落下していく。

 

 

「んぬ…っ!厭霧!」

 

 

 自分が崩して出た水面に落ちるわけにもいかず、身体を一度霧散させ氷の上にて身体を戻したスイカ。彼女ははるか遠く――処刑台のふもとで構える犯人を見定めた。

 

 

「ふ~、ふ~・・・!い~火力してんじゃないか、サカズキィ・・・!」

 

 

 いたのは海軍本部大将の1人、赤犬ことサカズキ。〝マグマグの実〟を食べたマグマ人間の男は真正面からスイカの眼光を受けたまま冷酷に笑い返した。 

 

 

「ふん、じゃったらおどれを焼き尽くして骨も残さんのもいいのう。葬儀なら喜んで引き受けちゃるぞ?大罪人が」

 

「あっは。面白い冗談を言うようになったね~。あんたが弔われるの間違いだろ?赤犬、いや、負け犬だったかな?」

 

 

互いに相手を恐れなどしない。だがこの時は時間が惜しいスイカが折れ赤犬から目を逸らした。

 

 

「あんたの相手は後だ・・・!まずは、こっちさ!」

 

 

 再び大気に溶け入り一直線でその場所へ向かう。そしてその男に迫ったところで肉体を戻して・・・!

 

 

「武装っ!」

 

「!!武装・・・!」

 

 

 

 拳と刃がぶつかる。

 

 瞬間、黒の雷が周囲に迸った。

 

 

『うあ・・・っ!?』

 

『げはぁ・・・っ!』

 

 

 自然でも聞くのが稀な激しい雷鳴が響き渡り、海兵、海賊を問わず近くにいた未熟者たちは次々と泡を吹いて気絶していく。一般に〝覇王色の衝突〟と呼ばれるその現象は覇王色の覇気を有する者同士がぶつかることでのみ発生する、いわば王の資質を持つ者たちの戦いを意味するのだ。

 

 

 

 

「・・・この黒刀を素手で抑えたのは、お前が初めてだ。酒呑童子」

 

 

 世界最強の女海賊の拳を受け止めた己の武器を見つめながら、冷静に言葉を紡ぐ男。そしてスイカもまた、世界最強の剣士を見つめながら口元をゆるめた。

 

 

 

「それは恐縮。ついでに青すぎる芽なんかより、熟れた私と戯れないかい?鷹の目」

 

「・・・・・・・・・」

 

 

 男、ジュラキュール・ミホークは多く語らない。通り名にふさわしい射抜くような瞳でスイカを、そしてその後ろで膝をつきながらも闘志を消していないルフィを見つめてから、一つ尋ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――〝麦わらのルフィ〟に、何を見た?」

 

「退屈しない未来を。あの大バカにこうも似た小僧を失うのは惜しくてね」

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございました!うーん、久々にして新年初の投稿!萃香さんをまた出せたことの達成感と共に内容がどうだったかという不安が混み上がります…っ!
 では改めまして、久々の投稿となって申し訳ありません!心では出したい!出したいと思ってたんですけどなにかとバタバタしていた一年でしたので…なんとか今年はベースをあげたい…!

 そして作品の方につきまして!相も変わらず萃香さん押しが強いと思いますが、決して海軍の戦力が弱いわけではない、ということで色々と書いてみましたがどうだったでしょうか?個人的には白ひげと萃香さんの語り合い辺りが好きだったり!

 では長々となりましたが、戦闘描写は相変わらずですがそこを踏まえ読んでくださった人達が楽しんでもらえる作品を目指しますので、今年もよろしくお願いいたします!

ではまた次回っ!戦争中盤に突入ですよ!



 あと完全に余談ですが、サブタイトルがことのほか難しい!ここを考えるので1時間かかった上にひねりも何もないがな…!


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。