大いなる海の母   作:村雪

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どうも、村雪でございます!梅雨もそろそろ終わりで夏が来ますねー!

 さて、今回から頂上戦争に突入するわけですが・・・なんというかもう、ご都合主義と言いますか、語彙がないと言うか描写が下手と言うか!色々と思われる部分があると思われます。後書きでも書かせてもらいますが、ひとまずは一読してもらえることを願って!


頂上戦争、開戦です!


――――ごゆっくりお読みください。




開戦―単騎、なれど伴うは千人力

ザバァァァアア!!

 

 

 津波――それは海のある場所では当たり前に発生する自然現象。

 

海に面するマリンフォードでも常日頃見られるものなのだが、今そこにいる海兵たちは揃って目を剥いていた。その津波が彼らの経験したことのない規模で2箇所同時に襲い掛かって来ては致し方ない反応だった。

 

 

 

『なっ・・・なんだあの津波は~!?』

 

『でかいなんてもんじゃねぇぞおおおお!?』

 

 

彼らの視界に映るのは、自分たちの本拠地である海軍本部よりもさらに巨大な大津波。

 

軽々とマリンフォードを呑み込める自然の猛威を引き起こした白ひげは、高らかに笑いながら満足そうにその光景を眺め、隣にいるスイカは爛々と目を輝かせて派手な開戦の合図を称賛した。

 

 

 

 

「グラララララッ!これで満足かぁ!?」

 

「ひゃ~~~っ!こりゃ悔しいけど参った!最高だよ白ひげー!」

 

 

 

もしも津波がマリンフォードを呑み込んだとすれば白ひげたちの目的であるエースの身にも危険が及ぶが、そんな重要なことは互いに百も承知。これはあくまで開戦の合図に過ぎず、これしきで終わるようなやわな相手ではないと分かっていた。

 

 

 

 

 

パキパキパキパキ・・・・!

 

 

それに応えるように一人の海兵が動いた。

 

 

轟々と唸りをあげる大津波の腹にそれぞれ一本の氷を伸ばし、瞬く間に山のよう津波を凍りつかせる!

 

 

 

「氷河時代(アイス・エイジ)!」

 

 

海軍本部大将の1人、青キジ。〝ヒエヒエの実〟の能力者にしてあらゆるものを凍てつかせる〝氷結人間〟が、全海兵に変わって動いたのだ!

 

 

「青キジィ・・・若造が・・・!」

 

「両刺矛(パルチザン)!!」

 

 

そのまま青キジは攻撃に移る。刺突と斬撃に特化した形状へ氷を変化させ、五つほど展開したそれらを白ひげへと放つ!

 

 

「ぬぅん…!」

 

 

 当然白ひげも迎え撃とうと左手を引き、絶大な破壊力を持つ振動を放とうとする。

 

 

 

「・・・・・・・・・(スゥゥゥゥゥ)」

 

 

 

 だが隣のスイカの方が早い。彼女は頬が丸くなるほど大きく息を吸い込み、一気に吐き出した!

 

 

 

『――――があああぁあああああぁぁああああああああああああーっ!!』

 

 

 

ビキッ!バキバキバキィィン!!

 

 

「!うぉおっとぉ・・・っ!?」

 

 

 

 生まれたのは身体全身を震え上がらせるほどの大音声。それにより生じる衝撃は迫る氷の槍を軽々と瓦解させ、後方に滞空する青キジにも及び彼の氷の身体に亀裂を走らせた!

 

 

「危ない危ない・・!やっぱり、まず船を凍らせるべきかねっ!」

 

 

 かろうじて砕けないまま青キジは凍らせた海面へ着地し、お返しとばかりに仕掛ける。狙いは航行手段。氷点下を超える冷気の手が浸された海水はみるみると凍りついていき、スイカ達の乗るモビー・ティック号、及びその親船を守備する子船の3隻。さらには湾内を超え湾頭を守備する軍艦にまで氷波は及んだ!

 

 

パキィイィイン!

 

 

「…ふん。まずは動きを、か」

 

「まあ妥当だね。しかし軍艦も凍らせちまうとは、見境なしだな~」

 

 

 慌てることなく状況を把握する2人だが、海賊である彼らには良い状況ではない。なにせ海面を凍らされたことで船の舵が取れず、動きを封じられた海賊船4隻は砲撃の格好の的なのだから。

 

 

『撃て!モビーティック号を破壊せよ!!』

 

 

 

ドンッ!ドドドドンッ!

 

 

帆船を破壊することに特化した巨大砲弾。それが一人の号令と共に何十と放たれる!正確な砲撃は見る見るうちに白ひげ海賊団の船へ迫り着弾するまで10秒とない・・・が、経験というものか、大海賊2人は慌てず口を交わす。

 

 

「一応言っとくけど、アンタの仲間になったわけじゃない。そこは勘違いしてくれるなよ、私はあんたの船のことなんか知らないからね~?」

 

「頼まれても断るに決まってんだろうが。部外者のおめえこそ勝手に動くんじゃねえぞ」

 

「あはっ。・・・そりゃ~できない相談ってやつだ」

 

「ん?」

 

 

ボォン!と、甲板に砲弾が着弾して後方で爆炎が上がるものの2人は目もくれない。会話相手の白ひげの言葉にも耳を貸さず、スイカは戦場を一瞥するのみだ。

 

 

 

 

「私がこの光景を前に大人しくしてるタチじゃないってことぐらい、アンタなら分かってるだろっ!」

 

「!おい!」

 

 

 そして彼女は世界最強の男の抑制も聞き入れず、勢いよく跳ねて船首から飛び降りる!処刑台からそれを見ていたセンゴクが即座に全海兵へ告げた!

 

 

「酒呑童子が動いたぞ!絶対にヤツを広場へ上げるなぁ!」

 

 

『おぉおおおおおおおおおお!!』

 

 

 

 

「・・・たく・・・あのバカ女が!」

 

 

興奮を滾らせる海兵にもひるまずどんどん遠ざかっていく小さな背中を睨みつけたまま、白ひげはしばらくぶりに頭を抱えた。そしてセンゴクに負けない声で船員(クルー)へと号令を出す。

 

 

「野郎どもぉ!あのバカ女に遅れるんじゃねえぞ!」

 

『うおおおおっ!』

 

 

 上に立つ者の責任として安々と動くわけにはいかない。せめてもと仲間たちに出撃を促し、好敵手に後れを取らない!

 

 

 

 ガコン・・・ッ!

 

 

 

『標的変更!偶数番で射程範囲に捉えた重砲は、酒呑童子を狙え!!』

 

 

 それでも先を走る要注意人物を見逃すはずなく、海兵たちの間に通信が走りモビー・ティック号からいくつかの砲台が氷上のスイカへと標準を変え始める。この日のために訓練された海兵の動きに無駄はなくいつでも砲撃できる態勢を取った!

 

 

 

『撃てぇ!』

 

 

ドッ!!ドドドドン!

 

 

間もなく連続した砲撃音が響きスイカ目がけて弾丸が殺到する!帆船を破壊するために作られた兵器ゆえ、人に直撃しては五体満足で済むかも怪しい。それを何十発と浴びては人としての原型さえ保つことは出来ないだろう。

 

 

 

 

「さぁ、誰が出てくるかな~・・・!」

 

 

だが、まさに現在狙われてるスイカはどこ吹く風。疾走中の海賊は凶悪な砲台になど眼も向けずこれから迎え撃つであろう強豪のことで頭を埋め尽くしている。

 

 

 

 

ボォンッ!!ボボボボボボゴォン!!

 

 

 そんな侮辱を後悔させるとばかりに海王類をも仕留める砲丸が、瞬く間にスイカへと一気に殺到していく!着弾と共に爆炎があがり、小柄なスイカの身体はあっと追う間に姿を覆われ、双眼鏡で観察していた海兵は手に持つ子電電虫へ叫んだ。

 

 

『着弾確認!!このまま〝酒呑童子〟の生死を――』

 

 

 

 

 ボファッ!

 

 

 

『っ!?』

 

 

「げっほげほげほ!ああ~煙たいなこのやろぉ!」

 

 

 海兵は目を大きく見開いた。爆炎から突き抜けた彼女からは、砲撃を受けた証の焼煙が確かに立ち込めている。

 しかしただそれだけ。怪我を負った様子など全く見せず、彼女は氷の上を駆けた!

 

 

 

 

 

「アイス塊・・・!」

 

「!まずはお前かぁ・・・クザン!」

 

 

 その進行上で構える一人、青キジへとスイカが野蛮な笑みをかたどる。そんな歴戦の海賊にも怯えることなく青キジは氷を変形させ、一人迎え撃った!

 

 

「暴雉嘴(フェザントベック)!」

 

 

 バサッ!

 

 

 形成したのは先ほどよりずっと巨大な雉の彫刻。命をも刻まれたのか氷の羽を一度羽ばたかせ、鋭いくちばしをぎらつかせスイカへと飛び掛かる!

 

 

 

「おっと、なら!」

 

 

 正面から迫る氷鳥を見て、スイカは自分の囚人服をあさり出した。無遠慮に服の内側へ手が入れられ服の中の肌が見えたりもするが全く気にすることなく、彼女は目当てのものを取り出す。

 

 

キュポン

 

 

「んぐんぐ・・・いきゅよぉ~・・・っ!」

 

 

 手にしたのは戦闘とは結び付かない一品。スイカはここ(海軍本部)へ来る前に軍艦で見つけたワインを豪快に口へ流し込み、先ほど同様大きく頬を膨らませる!

 

 

 

「大酒火(おおさけび)ぃ!」

 

 

 

ボォォォオオォォッ!!

 

 

 

 度数が強い酒には火が灯る。そこいらの兵器にも負けない勢いで火炎が視界一杯に広がり、接近する氷の鳥を完全に呑み込んだ!

 

 

「・・・!まったく。まるで〝火拳〟みたいじゃないの・・・!」

 

 

 氷人間にとって炎と熱は大弱点。奇しくもこれから処刑されようとしている海賊、〝火拳のエース〟に似た技を続けて駆使され青キジは皮肉的にも笑ってしまうが、すぐに頭を切り替える!

 

 

「アイス・サーベル!」

 

 

 ザンッ!

 

 

「む・・・っ!」

 

 

スイカと同じように口から冷気を吐き出して冷氷の刃を精製する。綺麗な曲線を描くことは出来なく刃こぼれしたような形の代物だが、切れ味は確かなもの。眼前にまで接近していた炎を切り裂き、目視できるようになったスイカへと素早く切りかかる!

 

 

 

ガヅンッ!!

 

 

「・・・・!以前より随分と重いね!随分と鍛錬したようじゃないかぁ!」

 

「5年ってのぁ一言で言うほど短い年月じゃねえってことさ。あの時と一緒にされちゃあ困るってものよ、酒呑童子・・・!」

 

 

 狙い通り氷の刃は目標へと牙を立てた。だが響いた音は肉を断つものではなく、金属同士がぶつかりあったような鈍い高音。腕と刃にそれぞれ覇気を纏っており、素人相手のような一方的な結末は起きず2人は力をせめぎあう!

 

 

 

「ははっ、それもそうだ!だが5年で私を超えられるかはどうかはまた別さぁ!」

 

 

 ググ…!

 

「・・・っとっと!」

 

 

 しかし拮抗を保てたのは数秒。刀の腹に当たったスイカの拳の力が徐々に増していき、最初とは打って変わり小柄の体躯から繰り出される一打に青キジの身体は徐々にのけ反っていく。

 

ムキになってそれに対抗することも出来たが、青キジも状況を把握しない未熟者ではない。彼は迷うことなくことなくつばぜり合いを打ち切り後ろへ跳び下がった。

 

 

「あはははっ!まだまだぁ!」

 

「当然・・・!誰も降参なんてしちゃいないのよ!」

 

 

 あくまでも態勢を整えるため。追撃に走るスイカに全く恐れることなく、青キジは再び刃を構え迎え撃とうと構える。

 

 

 

だが、ここにいるのは彼ら2人だけではない。当然乱入をしてくる者がいてもおかしくなかった。

 

 

 

ピカッ!

 

 

「!?っと!」

 

「・・・!」

 

 

 

 

再び衝突を果たそうとしたところで視界を遮るほどのまぶしい光が2人を襲った。完全に視界を奪われることとなるが、2人は揃ってその場から飛びのき攻撃をかわした。

 

 

 ズゥン!

 

 

間もなく一筋の光線が降り注ぎ、着氷した瞬間爆発するかのように光が膨張して一瞬で空間を呑み込む!!青キジはその光景を見て、自らにも危険が及びかねなかった可能性も否定しきれず大きなため息をついた。

 

 

 

「おいおい、ひどいじゃーないの。ボルサリーノ」

 

「ごめんよ~。君なら大丈夫だと思ってねー、クザン」

 

 そして犯人であろう同僚へ苦言を呈す。実行者である男も青キジの隣に降り立ち、場に似合わない呑気な声で釈明の言葉を返す。

 

 

 名はボルサリーノ。〝ピカピカの実〟を食べた〝光人間〟にして、周囲から黄猿と呼ばれる青キジと同じ海軍本部大将の1人。彼のことも知っているスイカはさらに笑みを深めた。

 

 

「光小僧~・・・あいかわらずまぶしくて目に悪い奴だ」

 

「お~、そのままおめぇの目が潰れてくれたらわっしらは大助かりなんだけどね~」

 

「はっ!とぼけた顔にあわない生意気な口ぶりは変わんないねっ!らぁ!」

 

 

 挨拶とばかりにスイカが左腕を振りかぶる。捻りもない愚直な攻撃だが彼女が放てば必殺の一撃。爆風を巻き起こしながら黄猿へと拳圧が襲い掛かった!

 

 

 

ピカッ!

 

 

「そんな単調な攻撃は当たらないよ~・・・!」

 

 

 だが威力はあれど光速の移動を可能とする男には遅すぎる。身体を光へ変えた黄猿はスイカから目を離すことなく一瞬で上空へと移動し、自らの手を逆さに重ね合わせる。

 

 

 

「八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)!」

 

 

今度は彼が攻撃をしかける時。周囲を曇らせるほどの暴力的な光が手のひらの中に生まれ、限界まで育った光が弾けるように尾を引いて放たれた!

 

 

ドッ、ドドドドドドッ!!

 

 

 それはまるで雨の如く、人体も貫く凶悪な光線が目測では数えられない群れとなって氷上で構えるスイカに降り注ぐ!

 

 

 

「はっはー・・・!その言葉、そっくりそのまま返してやろうか青二才っ!」

 

 

迫る光線は文字通り光速の速さ。当然見る見るうちにスイカへと距離を詰めていくのだが、当の標的はそこから動かない。彼女はただ眩しそうに上空を見上げながら負けじと能力を発揮する!

 

 

 

 

「厭霧(しょうむ)!」

 

 

 スゥゥゥゥ・・・

 

 

 それはここ(マリンフォード)へきた方法と全く同じ。霧のように身体を霞ませたスイカの身体は徐々に姿を消え去り、光の雨が注ぐころには完全にその場からいなくなった。だが標的を失ったからといって光は留まらない。誰もいない氷の大地へ次々と光は突き刺さり連続して爆炎が立ち込めた。

 

 

 

「・・・天叢雲剣・・・!」

 

 

攻撃が不発に終わった黄猿が次の行動へ移る。彼が合わせた両手に再び光が集まるが、今度は遠距離を狙ってのものではなく近接戦闘を目的にした長剣へと形を変えていく。

 

 

そして切っ先を向けるのは、空中にいる自分よりもさらに上。掬うように下から上へと光剣を振り払った!

 

 

 

「いよっとぉ!」

 

「!あっはははぁ!」

 

 

 

 そこにいたのは霧散していたスイカ。覇気を纏わせて空へ掲げていた右足を、ためらいなく刃へ振り下ろす!

 

 

 ガァァァン!!

 

 

『うわ・・・っ!?』

 

 

 衝突と同時に辺りへ今まで以上に激しい光が行き渡り、注目していた海兵と海賊が一斉に腕をかざした。

 

 そんな周囲の影響など意にもせず、2人は力を込め続ける・・・!

 

「へぇ~・・・よく防いだね、昔はこれであっさりやられていた小僧がっ!」

 

「ん~・・・!昔は昔。そんな偉そうにほざくほど実力の差が今はあるのかなぁ~・・・!」

 

 

 過去を引き合いにスイカは皮肉るが、挑発の一つでぶれるようでは海軍本部大将など務まらない。黄猿は皮肉を返しながらさらに次の一手を―――

 

 

 

ガシッ!!

 

 

「んっ!?」

 

 

 その時、黄猿の身体が大きく傾いた。何かに首元を掴まれ、空中で不安定だった態勢が一気に崩れる!

 

 

(なんだぁ~・・・!?)

 

 

 真っ先に思い浮かんだのは目の前の海賊に掴まれたということだが、掴まれてる感覚がある今彼女の手をはっきりと目視でき、開いた手には当然何も握られていなかった。

かと言ってこの上空に2人以外の第三者は存在しない。ならば、自分の首元をつかむのは?

 

黄猿は首元へ視線を落とすと・・・・・・

 

 

 

 

『――――(ニコニコ)』

 

 

 いたのは現実的にして、非現実的な存在。満面の笑顔を浮かべ、人間の手のひらに乗ることが出来る程小さな〝ナニカ〟だった。

 

 

「・・・っ!」

 

 

 世界にはどれほど年を取ろうとも身長が十数センチ以上にはならない〝小人族〟という種族がいる。今首元にいるのがその小さき部族だったならば、黄猿もさほど動揺することなく対処をしていただろう。

 

 だが彼は、首を掴む〝ナニカ〟を小人族とは考えない。

 

 

 

 なぜなら、歴史に名を残した海賊〝酒呑童子〟を、そのまま縮小させたかのように容姿も角も彼女と瓜二つな小人族がこの海に存在するとは思えなかったからだ。

 

 

グイッ!

 

 

「!!おっとっと・・・!」

 

『――――!(』

 

 

 無邪気に笑ったままの小さな〝ナニカ〟だが、襟元を掴む力は見た目に反してかなり強い。比べると巨人と人ほどの差がある黄猿の身体をなんなく降り上げ、海兵たちが集うオリス広場へ向かって投擲した!

 

 

「!!危ない離れ、っわぁああああ!!?」

 

 

 離れる間もなく黄猿は広場へと落下し、その余波に何人かの海兵が巻き込まれてしまう。だが重傷というわけではなく、すり傷や打撲程度の軽傷で戦闘に支障は出ない。懸念されたのは墜落した上司の安否で、海兵達は口々に落下した黄猿へ叫んだ。

 

 

 

「き、黄猿さんっ!」

 

「ボルサリーノ大将ぉ!」

 

「大将どの!ご無事で――」

 

 

「ん~、そういえばあんなことも出来てたね~~」

 

 

『あっ』

 

 

 ゆったりとした歩みで黄猿が粉塵の中から姿を現す。一斉に上司の身体を注視する海兵達だが外傷は見受けられず、せいぜい衣服に汚れが付いたことぐらいが先ほどとの相違点。

 

 何事もなさそうだと海兵たちが安堵する中・・・・・・覇気の籠った踵落としを間接的に受け止め、その時のしびれが残る腕を落ち着かせながら黄猿はぼやいた。

 

 

「ふ~・・・・・・まったく、あんな小娘みたいな姿でこの馬鹿力。こっちの面子を叩き潰してくるところは腹が立つぐらい変わんないよぉ」

 

 

 

 

パキパキパキ!!

 

 

「アイスタイム・カプセル!」

 

 

 

 一方、黄猿を押しのけたスイカだったがまだ氷上に大将は残っている。接近戦は下策と見た青キジが氷点下の冷気を巻き起こし、人をも凍らせる寒波がスイカを呑み込んだ!

 

 

「おおおお~っ!?極寒地獄に負けない寒さだねぇえええ!」

 

 

 すでにスイカの着る囚人服は凍結しており、耐えきれなくなった衣の一部がパキリと欠け落ちる。そしてそこから服の内側へと極寒の風が入り込み、スイカの身体にも直接牙を剥いていく・・・!

 

 

 

「が、私を凍らせるにはいまいちだなぁ・・・!」

 

 

 そのままいけば完全に氷漬けにすることも出来ただろう。それをスイカが待つ道理などなく、彼女は左手を大きく掲げ、

 

 

 

「熱(ほとぼり)!」

 

 

ゴォォォ!

 

 

「っ!」

 

 

 ほぼ同時に、対峙していた青キジの頬を突風がかすめていった。しかもそれは自分の能力では生み出せない、火元でしか味わえないむせ返るような熱風。それが四方からスイカへと募っていく。

 

 

 青キジは知り得ないことだが、海兵と海賊の砲撃によってあちこちに立ち込めていた爆炎がこの時急速に勢いを無くしていった。

 

 

 

ジュウゥゥゥゥ・・・!

 

 

「今度は熱か・・・!上手く苦手な分野を突いてくれるっ」

 

 

 再び攻撃を防がれ青キジは顔をしかめた。彼女の取った行動の目的は氷結した身体、及び周辺の冷気を消し去ること。十秒とないうちに青キジが生み出した氷は水へと融解し、スイカの身体は水浸しとなった。

 

 

「ふ~~。さぁふりだしだ。もう一度やってみるかい?」

 

「もちろん。海賊相手に、しかも一番悔しい思いをさせてくれた女を前に逃げるわけにはいかないじゃぁない・・・!」

 

 

 犬のように頭を振るいながらのスイカの挑発に、青キジは笑みを浮かべながらのっかった。

三度目の衝突に進むかと思われた二人だが・・・・・・それが実現することはなかった。

 

 

 

「クザン大将に後れを取るな!我々も行くぞっ!!」

 

『おうっ!』

 

「・・・あらら。勇敢なのは結構だが、命を粗末にだけはするなよ・・・!」

 

 

 大将だけに任せてはいけないと、勇んで出てきたのが優に15メートルを超えた身長が特徴である巨人族の海兵達。元来から戦うことを生業としている彼らも恐れることなくスイカへと進撃する!

 

 

 スタンッ

 

 

「派手好きは変わらないな。当事者の俺たちがまるで部外者だよいっ!」

 

「マルコか・・・!あいにく、宿敵の船員(クルー)に気を遣う理由なんかないからね!」

 

 

 そして上空からスイカの近くに降りたったのは、白ひげ海賊団一番隊隊長・〝不死鳥マルコ〟。及び同格である各隊隊長たちが遅れまいと後ろから駆け寄ってくる。

 

 

スイカは、その歴戦の海賊である隊長たちへ堂々と叫んだ。

 

 

「私が出しゃばって気に食わねぇなら、それ以上の活躍をしてみせなガキどもっ!」

 

『言われずとも!!』

 

 

 戦争は開かれたばかり。マリンフォードでの戦いは本格的に激しさを増していく・・・!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――やはり無駄な心配だったか。5年も籠っていては、と思ったが」

 

 

 

 

 

その戦場の光景を、“彼女たち〟は一室から眺めていた。

 

 

 

「お前たちの言った未来通りだな。つい先ほど聞いた時は正直、今回初めて外れるのかと・・・」

 

 

「ふん。なめるなよ」

 

 

 一人の言葉が言い終わる前に、同室にいた別の一人によって遮られる。

 

 

「これまで嫌というほど見たくない運命を見てきたんだ。今更そう簡単に外れてたまるか・・・・・こいつと同じというのは気に食わんがな」

 

 

 頬杖をついた女はそう吐き捨て、妙味に乏しい瞳で近くに腰かける男を睨んだ。

 

 

「そうか。・・・・・・どうした?扉の方を向いて」

 

 

 高圧的な口調で反論されてもたいして気にせず、彼女は女が睨む男へと目を移した。

 

 

「・・・あと10秒後に扉が蹴破られて、抑えられなくなったバカたちが海軍本部に殴り込もうと訴えに来るぞ」

 

 

「む・・・」

 

 

 男の言葉に彼女の表情が少し動く。内容はいずれにせよ、この場で騒がれたらそちらに気を向けてしまい時代の節目となるこの戦争を見ることに集中できなくなってしまう。彼女は即座に2人へ頼んだ。

 

 

 

「事の収拾を頼めるか」

 

「(ガタン)おい。一緒に来い」

 

「・・・ちっ。断じてお前の頼みを聞いたわけではないぞ、勘違いするな(ガタリ)」

 

 

 男は不承不承としか言えない表情の女を連れ、数秒後の波乱を収めに扉近くへと足を動かした。

 

 

 

「でもさ。実際どうするの?―――――親代(おやしろ)」

 

 

 

 

 また別の一人が煙草を咥えながら尋ねる。火種となる道具を持っていないが、彼女の人差し指が近づくと自然と火が起こった。

 

 

「海軍に文句があるのは同じってことであのジジイに共闘を提案したけど、見事に振られちゃったじゃないか。いくらこの状況でも、勝手に手を出したらまずいんじゃない?」

 

「個人的感情を切り離せばその通りね。確約を破棄して得られるのは自己満足と、誇りに対する大きな負い目・・・・私たちがあそこへ行くのは決して最善ではないでしょうね」

 

 

 別の一人が冷静に状況を分析する。・・・・口ぶりとは裏腹に手に持つ扇子は落ち着きなく揺れていたが。

 

 

「むろん、白ひげとの約束を違える気はないさ。私たちが勝手なことをして〝あいつ〟に恥をかかせるわけにはいかんからな」

 

 

 沸き上がる意見を全て考慮したうえで彼女は結論付ける。電伝虫の映像の中では、突然現れた女海賊が巨人族相手に拳を振るっていた。

 

 

 

 

「今は傍観だ。状況が変化してから動いても遅くあるまい」

 

 

 




 お読みいただきありがとうございました!さて、果たして皆様にどう思われたやら・・・!そろそろタグも増やしていかなあきませんね!

 ようやく始まった頂上戦争編。手錠も取れたことで、能力を使えるようになったスイカさんにはこれからもどんどん活躍してもらうのですが、今ここで断言できることが一つ・・・!
 思い切りひっかきまわします、彼女!ご都合主義だろうとなんだろうと、村雪の趣味を思い切り込めさせてもらいますので、読んでくださっている方にはいろんな意味で心構えを推奨しますね!



 そして最後に、ようやく〝彼女たち〟の姿がチラリと。まだまだ詳しくは書きませんが・・・・・・村雪は、ドーナツが大好きですだっ!ポンデリングこそ至高の一品!


 それではまた次回っ!誤字とか変なところがあったらぜひご連絡を!

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