大いなる海の母   作:村雪

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 どうも、村雪でございます!

 さて、インペルダウンも抜けましてとうとう新世界前までの大山であります!


 大半が村雪の趣味にして勝手な導入とさせてもらっていますが、ちょっとでも楽しんでいただければ・・・!


それでは、


―――ごゆっくりお読みください。





会いまみえし、怪物と怪物

「ここにいたんだね、ジンベエ。探したよ」

 

「おお、無事じゃったか。待たずに出港してすまんかった」

 

「なーに大丈夫だよ。結果的には上手くいったんだからね(ぐびぐびっ)」

 

 

 舵を取っていたジンベエのもとにスイカが近づく。その手にはどこで見つけたのかワインボトルが握られており、久々のアルコールを一気に胃袋へ流し込んでいた。

 

 

「私は全然よくないガネ!ジンベエ!貴様が早く出向してしまったせいでとんだ目にあったガネー!」

 

「(キュポン)も~。またアンタはそんなこと言って。あの時の勇ましい3はどこへ行ったんだい?」

 

「貴様が無理に付き合わせたからああだっただけで普段の私はこうだガネ~!」

 

 

 ともに残っていたMr.3は不服のようだが、残念ながら名実ともに及ばない2人を前にただ騒ぐことしかできない。

 

 代わりに後ろにいたルフィが興味深そうにスイカに話しかけた。

 

 

「でもすげーんだなスイカ。あの毒のヤツをぶっ飛ばすなんて、お前ってすげー強いのか?」

 

「ふふっ。無力ではないことは確かさ。・・・ところであの正義の門はどうやって開けた?あれは政府関係者にしか開かないはずだよ?」

 

 

 ふと気になっていたことを尋ねる。正義の門はインペルダウンの職員が操作しなければまず開くことはない。にも関わらずこの軍艦が通る時には、閉まるどころか全開になっており難なく通過することが出来た。いったいどういうことだろうか?

 

 

「ンガーっはっはっは!そんなのあちしの前では関係ないわよ~~う!」

 

「お、ボンの字か」

 

 

 その立役者であるオカマ、Mr.2 ボン・クレーが変わらない大声で策を明かした。

 

 

「(パッ) あちしがこの姿で看守に門を開けるよう命令しただけ!簡単なことねい!」

 

「!・・・マゼラン?」

 

 

 突然、ボン・クレーの姿が先ほど戦っていたマゼランと瓜二つに変化したではないか。さらに姿だけでなく声もそっくりで、これで服装も同じものを着ていれば偽者と気づくのは難しいだろう。

 

 

「あちしはマネマネの実のコピー人間!一度触れた人間をそっくりコピー出来るのよ~う!」

 

「へ~。人間だけじゃなく、能力も面白いものを持ってるじゃないかアンタ」

 

「うむ。看守もオカマ君の能力じゃと気づかんでな。裏があるのかと思うぐらいすんなりと門を開けることが出来た」

 

「ふむ。それで看守は?」

 

「拘束しておいた。閉じられないようにするため開閉レバーを破壊してからの」

 

「・・・なるほど。どおりであんな簡単に抜けられたのか」

 

 

 スイカは思わず首をすくめる。実力もそうだが、なんともこの脱獄に有効な能力者が揃ったものだ。もしも神というものがいるのならば、間違いなくこちら側の誰かを贔屓しているに違いないだろう。

 

 そんな答えの出ない思考を働かせていると、「そういえば」とジンベエが尋ね返した。

 

 

 

「何やらワシを探しておったようじゃが、それを聞きたかったのか?」

 

 

「ん?違うよ。おにーさんのことを頼もうと思ってね」

 

「・・・・・・・・・ふむ」

 

「あ!また子ども扱いしたなスイカッ!お前の方が子供だろ!」

 

 

 今度はルフィがつっかかろうとするが、スイカはジンベエを見上げたまま置きやる。ジンベエもまたスイカの目論見を考え、ルフィをなだめない。

 

 

「無論そのつもりじゃが、あんたはどうするんじゃ?」

 

 

 その答えはうっすらと予想できた。だがそれでも形式上、いったい何をする気なのかをジンベエは問うた。

 

 

 

「そりゃー、決まってるじゃないか」

 

 

 そして、ジンベエの予想は見事的中するのである。

 

 

 

 

 

 

 

「一足先に、このどでかい祭りの空気を味わいに行くのさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや・・・・俺は行けと言ったぜ。息子よ」

 

 

 

 

 男は訴えられた言葉を否定し答えた。

 

 

 現時点におき、世界で最も関心が集う島〝マリンフォード〟にて、自らの船の船首に仁王立ちする海賊・・・白ひげ⦅エドワード・ニューゲート》は、家族であるポートガス・D・エースの自責の言葉を打ち消す〝嘘〟を堂々と宣言したのだ。

 

 

「・・・・・・!!嘘を付けぇ!!おれはっ、あのときあんたの言葉を!あんたの制止を無理やり振り切って――!」

 

 

 

「おれは、〝行け〟と言った!」

 

 

「・・・っ!」

 

 

 反論を吐こうとしたエースだが、有無を言わせぬ〝オヤジ〟の言葉に二の句を継げない。全ては自分のため。このふがいない自分を見捨てようとしない親の断言に涙を見せることは出来ても、文句など一つも言えるはずがなかった。

 

 

 

「おれは行けと言った・・・・・・そうだろマルコ」

 

「ああ。おれも聞いてたよい。とんだ苦労かけちまったなァ、エース」

 

「まったくだ!だがこの海じゃ誰でも知ってるはずだ!おれ達の仲間に手を出せば一体どうなるかって事ぐらいなぁ!!」

 

「お前を傷付けた奴ァ誰一人生かしちゃおかねぇぞエース!」

 

「覚悟しろ、海軍本部ぅ~!!」

 

 

 そして仲間である者も次々と声を荒げる。家族を捉えられ、挙句の果てには処刑を宣言されては当然の言葉が投げつけられ、海兵たちも戦意をむき出しにするのは正当防衛だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………?」

 

 

 

 

 

 その一発触発な中、最初に〝それ〟に気づいたのは白ひげだった。

 

 

 海軍本部及び全海兵に向けていた恐れなき瞳を、自らのすぐ隣へと移した。

 

 

 

「??どうしたんだオヤジ?」

 

 

『なんだ?白ひげの奴、何処を見てるんだ?』

 

 

 前ぶりない突然の行動に、船員だけでなく警戒を最大にしていた海兵たちも何事かと声を波立たせる。そして敵の総大将である白ひげの僅かな行動さえ見逃すまいと、さらに警戒を強めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりのシャバはどうだ?」

 

 

『・・・・・・・・・・・・・・ん?』

 

 

 ポツリと、敵味方から視線を受けていた白ひげがそんなことを口走った。その意味は不可解なもので、海兵だけでなく船員たちも首を傾げた。

 

 

 

「なんだ?独り言か??」

 

 

 誰かが言うように、白ひげの近くには誰もいない。会話をする者などどこにも存在しないため、何か自分に言い聞かせていたのかと辺りは見当をつけた。

 

 

 

 

 

『―――――もちろんいい気分さ。なんせ5年ぶりの外だからね~』

 

 

 

 

――その声が聞こえるまでは。

 

 

 

『!』

 

「・・・誰だ?今の、どこから聞こえた?」

 

「わかりません。白ひげの近辺には誰もいませんが……」

 

 

 海兵たちが白ひげとその周囲を確認するが、白ひげはただ隣の下方を見つめているだけ。やはり周りには誰もいない。

 

 

 

 

「でも・・・・・・・聞こえたよな?女の声が」

 

「ああ。間違いない」

 

 

 確かなのは女の声が聞こえたということ。戦闘準備を終えていた海兵たちがあちこちへ視線を動かし声の出所を探したが、見つけることは出来なかった。

 

 

 

 

 

 対して、正確に〝そこ〟を見据える人物もいた。

 

 

 

 

「・・・!まさか・・・・冗談じゃないぞ・・・・・っ!?」

 

 

 

 処刑台の上に直立していた海軍本部元帥〝仏のセンゴク〟。全海兵を率いる彼は、それが記憶に眠っていた〝とある声〟と類似していたことに気づき、幾筋もの冷や汗を頬に流す。

 

 

 

 

「・・・・・・アイツ、この前はそんな素振りを見せとらんかったのに・・・!」

 

「やれやれ・・・いつも厄介を起こして頭を悩ませてくれるねぇ。あのバカは」

 

 

 その処刑台の下。多くの海兵が集う広場にいた2人の英雄、ガープとつるも声に気づき、ガープは腹立たしい表情を。つるは頭が痛いとばかりに大きく息を吐いた。

 

 

 

『な・・・・・・・・っ!?』

 

『・・・・今の声は・・・・っ!』

 

 

 さらには少将、中将という並外れた実力を持つ海軍本部将校の海兵たちが、むしろ下位の兵より動揺をしてしまっている。

 

 

 その全ての視線が集まるのは敵将である白ひげの隣の空間。状況を理解できない海兵たちも、自然とそこへ目を凝らした。

 

 

 

 

 

『ましてやこんなでかいドンパチまで始まろうとしてるんだ。私は身体が疼いて疼いて仕方がないよ』

 

「ふん。おめぇがどうだろうが勝手な手出しはさせねぇがな。バカの手を借りるなんざまっぴらごめんだ」

 

『なにを~?言ってくれるじゃないかこのやろうっ』

 

 

 

 やはり白ひげの隣には誰もいない。だが、明らかに声はそこから放たれており、白ひげも何も戸惑うことなく会話をしている。姿は見えねども、まるで旧知のような口ぶりで。

 

 

 

「――それで、いつまでそのままなんだ。久々の戦いにビビってんのか?」

 

 

 

 その言葉が引き鉄だった。

 

 

 

『けっ、ぬかしなっての』

 

 

 

―――誰がビビるもんかい。

 

 

 見事な買い言葉を最後に、変化は起こり始めた。

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・ん?霧?」

 

 

 海兵がポツリとつぶやいたが、それはこの場にいた全員が思ったことかもしれない。

 

 空は晴天。雲もなくこれから戦争が起こるとは思えない晴れやかな気候なのに……なぜか白ひげの隣が霞みだしたのだ。突然の異変にその場にいた者全ての目がくぎ付けとなる。

 

 

 

『あんたこそびびってるんじゃないかい?もう年だろうに、無茶はジジイの身体によくないぜ?』

 

 

「グララララッ!だったらおめぇごとぶっ潰してどうってことねえところを見せてやらないとなぁ!」

 

 

『あっははははははははははは!この私をとっつかまえて言うねぇ!?それでこそあのバカ野郎に並ぶ宿敵だっ!』

 

 

 豪快な高笑いと共に霞は一層濃くなっていく。まるで何かが集まるように―――圧倒的な力が募っていくかのように。

 

 

 

『まあ、何はともあれこの恰好じゃしまらないね。よっ』

 

 

 

スゥゥゥゥ……………

 

 

 

 

 そして、とうとう〝それ〟は白ひげの隣に顕在しだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

腕と。

 

 

そのどれもが成人のものより遥かに小さく、巨体の白ひげの膝にも及ばない体躯。

 

だが〝それ〟こそが、世界最強と呼ばれる大海賊と渡り合ってきた数少ない存在。

 

 

 

 スッ

 

 

『ふ~・・・・・。やっぱり身体があってこそだ」

 

 

 

 最後に、双角を生やす頭を現すことで彼女はマリンフォードへと君臨を果たす。

 

 

 

『!?あ、ああ……!?』

 

『!あいつってまさか……!?』

 

 

 

 そこでようやく全海兵が事態の深刻さを理解し、驚愕と焦燥が混ざった瞳でその最悪の乱入者を睨む。

 

 

 

 

 

「――――さて、まずは挨拶からかな」

 

 

 正面から浴びせられる殺気溢れる睥睨をものともせず、彼女は己の宿敵へ告げた。

 

 

 

 

 

 

「久しぶりだね、白ひげ」

 

 

「五年も待たせやがって………………あとで覚悟しときな。酒呑童子」

 

 

 

 

 マリンフォード海軍本部。この歴史ある正義の要塞に、伝説の怪物が2人揃って現れた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な……なんだあの子?囚人??」

 

 

 

 それは誰がこぼした言葉だろう。

 

 

 

 

 

 

 海軍本部の近海に浮かぶ諸島―シャボンディ諸島。

 

 

 今この島では、前代未聞の戦争が始まろうとする海軍本部の映像をどこよりも早く受信しており、スクリーンに映される光景を諸島の住民を始め、マリンフォードから一時避難している海兵たちの家族や召集されなかった海兵、果ては海賊などあらゆる人々がスクリーンを見つめていた。

 

 

 

 

 ゆえに突如白ひげの隣に現れた囚人服を着る少女を見逃した者は、一人もいなかった。

 

 

 

 

 

 

「わ~、父ちゃん!あいつの頭、角があるよ!カッコいい~!」

 

「ママ、ママ!今あの子どうやってあそこに出てきたの!?私にも出来るかなっ!?」

 

 

 

 

 

 幼い少年、少女がその乱入者を見て実に子供らしい言葉を自らの親に伝えるが、子供たちより先を生きてきた彼らに返事をすることは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

「え・・・え?あいつって・・・・・・・・?」

 

「・・・・・・ゥソ・・・・・・・もう、死んだんじゃなかったの・・・!?」

 

 

 

「?父ちゃん?」

 

「ママ、どうしたの?」

 

 

 

 子供たちが見たのは、文字通り、死んだ者を見たかのような表情で硬直する保護者達。

 

 

 

『あ………………………!!?』

 

 

 それは彼らだけでなく、広場にいた者の大多数もそうだった。驚き、戸惑い、恐怖……そして歓喜。5年前にはもう自我を持っていた人全てが、スクリーンに映る少女をそれらの感情の籠った眼で見て離さない。

 

 

 

 

 

 

「こっ、こちらシャボンディ諸島!本社、聞こえますか!?応答願いますっ!」

 

 

 反対に慌ただしく動き出す者もいる。世界へいち早く情報を発信するため諸島へやって来ていた各機関の新聞記者たちが、我先にと懐に潜らせていた電伝虫を取り、連絡を図った。

 

 

 

「大変です!大ニュースです!現れましたっ!・・・え、いや、そうではなく!た、確かに白ひげも現れたのですが……!」

 

 

 興奮を隠すことないまま記者は続ける。

 

 

〝彼女動くところに大事件あり〟。そんな言葉が行き渡るほど、かつて新聞社にネタを与え続けた女を見て新聞記者の血が騒がずにはいられなかったのだ。

 

 

 

 

「海軍本部に、酒呑童子が現れたんです!・・・・・・いえ、私は至って正気ですっ!間違いありませんっ!生きてたんですよ!世界政府を恐怖のどん底に陥れ続けたあの女海賊がっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 きゅぽん

 

 

「ははは。やはり生きていたか、酒呑童子」

 

 

 

 

 

 そして、広場から少し離れた建物の屋上。元海賊王の右腕、シルバーズ・レイリーは酒の入ったボトルから口を離して笑った。

 

 

「しかし、まさかお前が白ひげと肩を並べる日が来ようとはな。長く生きてみるものだ」

 

 

 彼の目に映るのは、自分たちを始め船長であるゴール・D・ロジャーを何度も危機に追い込んだ海賊2人。だが、年を重ねれば生死に関わるそれさえ懐かしい思い出。再び酒に口をつけ、彼はつぶやいた。

 

 

 

「さて……私たちロジャー海賊団とサシで渡り合ったその実力、初めて傍観者の立ち位置から見せてもらうとしよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『しゅ・・・・・酒呑童子だぁあああああああっ!?』

 

 

 

 最新の情報が届きざわめき立つシャボンディ諸島。それだけの衝撃を与える内容なのは確かだが、当然、当地であるマリンフォードも同じこと。海兵たちは大いに驚きをあらわにした。

 

 

 

「・・・あららら・・・この一大事にスゴいのが来てくれたじゃないの。インペルダウンは無事なのかね?」

 

「アホゥ。何事か起こったからあの女が出てきよったんじゃろがい。まったくマゼランめ・・・・!」

 

「まいったねぇ~。何が起こっても動じないつもりだったのに、まさかあの女が来るとは想像にもしなかったよー」

 

 海兵の中でたった3人だけとなる海軍本部大将、青キジ・赤犬・黄猿が各々苦言を吐きながら、予想だにせぬ海賊の登場に頭を痛める。

 

 

 その中でも際立って感情を爆発させるのは赤犬だった。

 

 

「じゃからあの時、確実に処刑すべきじゃと言うたのに・・・!」

 

 

〝徹底的な正義〟を志す彼は正義のためならば一般市民が死ぬことも厭わいほどであり、その過激な思想ゆえ海兵の中には彼の存在を恐れる者もいる。

 

 

 全ては正義のため。皮肉にも悪にも通じる覇道を歩む男だが……その道を進む上で最も

厄介な存在だったのがあの海賊、酒呑童子だ。

 

 

 

 

「その代わり・・・・間違いなく俺たちは一人残らず殺されてただろうがな」

 

「クザンの言う通りだねぇ。じゃなきゃ腹立たしいけど、あれの〝家族〟が大人しくしてるはずがない。・・・・処刑執行さえも出来なかっただろうねー」

 

 

残りの2人はサカズキほど偏った思考は持ち合わせない。冷静に考え、サカズキの後悔を否定とはいかないが肯定することもなかった。

 

 

「・・・・・・・・ふんっ!」

 

 

 下らないと鼻を鳴らすサカズキだが、彼とて能ある男であり馬鹿ではない。同期の2人が言いたいことも分かるのだが・・・・・・蘇るのは五年前のあの日。

 

 

 

 

 あの時ほど己の正義を叩きのめされたことなど他にはない。

 

 

 

 

(何を甘いことを言うとるんじゃ・・・!中佐、大佐、准将少将、中将、大将・・・・・・元帥!あれほどの戦力が、たった一人に辛勝なんぞ死んでも許されるはずがないじゃろうが!!)

 

 

 今でも思い出しては腹が煮えたぎる。あのとき噛み締めた土の味、あの小憎らしい笑みは何があろうと絶対に忘れることはない。

 

 

 

「・・・何にしてもわしらのすることは変わらん。白ひげもろともアイツを消すだけじゃ」

 

「そういうことだね~」

 

「ふ~。あのときのリベンジと行こうじゃないの」

 

 

 

 それでもすぐに冷静になるのはさすが大将。赤犬は言わずもがな、黄猿も青キジもまったく動揺はない。バラバラとも言える思考を持った3人の考えが、珍しく一致したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフ!フフフフッ!フフフフフフフフッ!さいっこうだ!たまんねぇ!!伝説のバケモノが二匹も揃いやがったぞ!こんなこと今まであったかぁおい!?フフフフフ!」

 

 

「キ~ッシッシッシッシッシ!初めてお前の言葉に同意だドフラミンゴ!まさかあの2人がくたばるところを見れるかもしれねぇとは!くだらねぇ召集だったが、今初めて感謝したよ~!」

 

 

 

 一方、〝王下七武海〟である2人、ドンキホーテ・ドフラミンゴとゲッコー・モリアはあろうことか大笑いしていた。

 

1人は、白ひげに劣らない怪物が現れたことへの興奮で。

もう1人は、敗北という苦渋を舐めさせられた海賊たちが命を落とす瞬間を目撃できるかもしれないという黒い期待から。

 

場違いな反応に味方である海兵から睨まれるが、2人は意識さえそちらへ向けなかった。

 

 

 

 

「ああ・・良かった・・・・・・・!出てこられたのかっ!」

 

 

 同じく王下七武海、ボア・ハンコックも如実に反応を示している。

 

ただし彼女の場合は、政府側の人間で唯一の感情である歓喜を抑えきれず、心から嬉しそうにスイカの帰還を喜んだ。

 

 

 

「なるほど……赤髪の言う通り、確かに小柄だな」

 

「…………………」

 

 

 対して反応が薄かったのが、世界最強の剣士として名高い男、〝鷹の目〟ジュラキュール・ミホークと〝暴君〟バーソロミュー・くま。

 

 

 鷹の目はスイカと直の面識はない。人伝にしろ新聞記事にしろ、彼女にまつわる武勇伝を腐るほど聞いて知っているだけだ。

 

 

 スッ

 

 

 彼はそれらの情報を鵜呑みにしない。自分の手で確かめるからこそ信憑性が生まれ、彼女の実力を測れる。

 

 

「ん?やんのかお前」

 

 

 意外そうに声をあげたのは隣のドフラミンゴだった。

 

 

「・・・己の目で確認するだけだ。ヤツがただ、名声だけの張子の虎ではないことを」

 

 

 キンと、鈴の音のような高音が響く。世界に8本しかない最上大業物、黒刀『夜』。最強の剣士にふさわしい刀を抜き、鷹の目は一歩前へ出た。

 

 

 

チャキ

 

 

 そして、天へと輝く切っ先を伸ばし――

 

 

 

 

「!?待つのじゃ!何を―!」 

 

 

 ドンッ!

 

 

 

 ハンコックの制止など構わず、ミホークは黒刀を振り下ろした。

 

 

 

「う、ぉおおおおおっ!?」

 

「鷹の目だぁあっ!?」

 

 

 剣術を極めた斬撃は刀身の届く範囲だけでは留まらない。海を割き、まるで弾丸のように飛んでいく一太刀に海兵は目を大いに驚く。これが鷹の目。世界一の大剣豪の実力なのかと!

 

 

 

 

「「ん?」」

 

 

 

 斬撃の向かう先は、今最も獲るべき首の海賊2人。みるみるうちに目標へと迫り・・・鼓膜を震わせる轟音とともに届いた。

 

 

 

 ズガァァァアアアアンッ!!

 

 

 

 

「………っっ!?き、貴様ぁあああっ!(がしっ)」

 

 

 ハンコックが憤怒の形相で鷹の目の腕に掴みかかる。目の前で恩人に攻撃しようとしただけでも許されないことなのに、仕掛けたのは世界一の名を持つ大剣豪。極められた一太刀をもろに受けてはと、最悪の想像が頭をよぎる。

 

 

 そのときは確実にこの剣士を石にして砕いてやると、怒りをあらわにしたハンコックの顔は美しさを忘れてはいないが大きく歪み、何事かと蛇姫を見ていた海兵たちは小さく悲鳴をこぼすほどであった。

 

 

 

「・・・なぜお前が酒呑童子の身を案ずるのかは知らないが…」

 

 

だが、殺気を滲んだ目を向けられ掴みかかられても鷹の目は大きな反応せず、通り名通りの鋭く研ぎ澄まされた眼光をハンコックへと向けて謂った。

 

 

 

 

「感情に流され目の前の状況を把握できないようでは、この戦場で生きていられないぞ」

 

「なんじゃと・・・・!」

 

 

 

恩人を攻撃され、さらには身の心配もされてはハンコックも立つ瀬がない。怒りが殺意に変わろうとするのだが――――そのせいで彼女の頭は散漫になっていた。

 

 

 

 湾岸前線にいる自分たちと2人の大海賊の距離はおよそ十数メートル。

 

 

 

冷静なハンコックだったならば、世界一の剣士の斬撃がそれだけの距離で収まるわけがないことに気づけていただろう。

 

 

 

 

 

「うはははははっ!さすがにいい太刀してるじゃないか鷹の目~!」

 

 

「!」

 

 

 感心に満ちた笑い声が沸き上がる。ハッとしたハンコックが2人の大海賊の方へ視線を戻すと―――

 

 

 

 

「おいおい、余計なことしてんじゃねえよ。おめぇに守られるなんか腹が立って仕方ねぇぜ」

 

「ふふんっ。あんたじゃ荷が重いだろうから私が止めてやったのにねぇ~」

 

「あほんだらぁ。あんな小僧の一太刀なんかガキのチャンバラごっこと変わんねえさ」

 

 

 

「!!ああ、良かった・・・・・・・!!」

 

 

何事もなかったように悪態を付く白ひげと、同じく白ひげの正面で小さな手のひらを前にさし向けるスイカの姿があった。ハンコックは怒りに満ちた顔を安堵に一転させて大きく胸を撫で下ろす。

 

 

 

 

(せ・・・・世界一の斬撃を止めただと!!?)

 

 

 

 しかしそんな反応をするのは彼女一人だけ。多くの海兵――この戦場ではまだまだ青い部類だが―――は鷹の目の一撃を無傷で済ませたことを信じられないと目を疑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・散らしおったな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガープは違う。幾十年と彼女と相対してきた男は一瞬でそのカラクリを見抜き、気に食わないと鼻息を吐いた。

 

 

「ふんっ、あいつめ。わしの拳はぜ~んぶ受け止めておったのに、随分と弱腰になりおったわい」

 

「馬鹿、何言ってるんだい。そういう問題じゃないよ」

 

 

 そんな彼を隣のおつるが窘めた。彼女もまたスイカを見つめて離さない。

 

 

「ガープ。あんたも分かってるだろう?」

 

「・・・・・・・・・」

 

「あのバカは、万が一にも後ろの白ひげに届かないように能力を使ったんだ」

 

 

 そのままおつるは続ける。そこに一切の楽観はない。最も可能性があり、最も考えたくない可能性を彼女ははっきりと告げた。

 

 

 

「どういうつもりか知らないが・・・・・少なくともこの戦争では、本気で白ひげと組むつもりみたいだよあいつは」

 

「・・・まったく、本っ当にあいつぁロジャーに負けん爆弾女郎(やろう)じゃい」

 

 

聖地マリージョアを襲撃し続けるだけでも前代未聞だというのに、今回のインペルダウン脱獄に加え、敵対しているはずの伝説との共闘。

 

 

 まるでそれが当然かのように次々と伝説を築いていくその姿は、良くも悪くも歴史に名を遺すにふさわしかった。

 

 

 

 

「ましてやこの状況で〝あいつら〟が来てみな。ただでさえ冗談じゃすまない状況なのに、また海軍に苦い思い出が増えるよ」

 

「情報じゃと手は出さんということじゃが・・・・」

 

「〝親〟であるあいつの姿を見て、それを守る連中かどうか怪しいと思うがね」

 

 

 本部で起こる全てはシャボンディ諸島にも伝わる。それを見逃すほど〝奴ら〟も情報をおろそかにする連中ではないだろう。

 

 

 

「いかな事態にも!たとえどのような予想外が起ころうがとまどうな!!」

 

『!!』

 

 

そんな2人の懸念を・・・・・あるいは海兵全てに広まりつつある恐れをかき消すかのような強声が響き渡る。

 

 

 

「全ては平和のため!罪なき人々が笑顔で生活をしていくことを可能にするため!恐れるな!傷を負うことを!命を落とすことになろうとも!!」

 

 

 声を張り上げるのは全海兵の上司となるセンゴク。彼は己が身を置く元帥という地位を忘れることなく、束ねる者として全海兵を激励する。

 

 

「明日より未来が幸せで溢れる世界であるように!正義の言葉を背負う者達よ!か弱い庶民のため、どのような障害が立ち塞がろうとも、臆することなく立ち向かえぇえええええ!!」

 

 

 

――――ウォオオオオオオオオ!!

 

 

 

 それは海兵の恐れを消すには十分なエール。恐れはひとつ残らず霧散し、代わりに残るのは並ならぬ闘志だけであった。

 

 

 

 

「おーおー。やはり祭囃子はこうでなくちゃねぇ!」

 

 

 にもかかわらず、敵である海兵の戦意が向上したことに利益などないはずなのに、火種となったスイカは戸惑うどころか嬉々としてその光景を眺めている。

 

 

 

「まったく、勝手に仕切ってんじゃねえぞ。これぁおれたちの喧嘩だ」

 

「悪い悪い。だったら幕開けの合図はあんたに渡してやるよ。しょぼい狼煙は興醒めだぜ?」

 

「ほざけ。おめぇに劣るわけねぇだろうが(ググ・・・!)」

 

 

 

 白ひげにも一欠片の恐れも戸惑いもない。左拳を右肩に、右拳を左肩に寄せて力を込める。

 

 

 

 

ドォン!!

 

 

 

「さぁ来たぞい・・・・〝グラグラの実〟の能力・・・地震人間〝白ひげ〟エドワード・ニューゲート!」

 

 

 その動作が何を起こすかを理解し、いよいよ決戦が秒読みとなりガープは歴戦の風格を灯す目つきとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんで、それに負けねぇ能力・・・・・〝ギュムギュム〟の実の〝密度人間〟!〝酒呑童子〟アイル・D・スイカ!!

 

 

 

 

 油断なんざ一欠片もするなよぉ・・・あいつらは世界を滅ぼす力を持っとるんじゃ!!」

 

 

 

 

 

 そして、とうとう歴史を動かす契機となる大戦争―――頂上戦争は幕を上げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございました!うん、正直今回は読者の皆様に異論といいますか反論あるのではないかと思う投稿となりますね。


 その第一要素である萃香さんの悪魔の実の能力名。これは申し訳ないのですが、完全に村雪が一存で勝手につけました!もっとピッタリな名前とかあっても、ひとまずはこのままでいかせてもらうつもりでございます!

 読んでくださる皆さんが次回も読んでいただけることを願い、今回もいじいじとした後書きとさせていただきます!文章に間違えなどあれば気楽にご連絡してくださいね!



 それではまた次回!頂上戦争開戦ですよ~!


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