大いなる海の母   作:村雪

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どうも、村雪でございます!相変わらず不定期な投稿で申し訳ないっ!


 さあ、今回は前回後書きで述べましたように脱獄回クライマックス!毎度毎度チキンで自信が持てませんが………それでも読んでいただければっ!


―――ごゆっくりお読みください。


脱獄、するにゃ策あるのみ

 LEVEL1『紅蓮地獄』。今そこに赤い悪魔が降臨した。

 

 

「地獄の審判っ!」

 

 

 監獄署長マゼランに付き従うその巨兵の身体からは絶えることなく毒が滴り落ち、垂れ落ちた地面からは煙が勢い良く吹き上がる。危険性を明白に示しており、目撃していた脱獄囚の一人、Mr.3は体中に戦慄が走った。

 

 

「ま、まずいガネ!さっきより毒が強力になってる!ここは慎重に――」

 

「……ッ(ばっ!)」

 

「ってなぜ正面から突っ込んでるんだガネ~!?」

 

 

 ところがもう一人の囚人、スイカは取り乱すことなくマゼランへと迫る。

 

狙いは重要器官である頭部。毒の色も変わりどのような変化があるかも分からないため、先手の一撃で決めにかかったのだ。

 

 

 

「砕キ月ィイイっ!!」

 

 

 跳躍でマゼランの前へ出たスイカが、先ほど同様本気の一撃を放った。

まともに顔へ受ければ重傷は避けられず、下手をすれば二度と意識も戻らないかもしれない打撃。

それをもう一度受けるほど、マゼランは慢心を抱いていなかった。

 

 

「!(バッ)」

 

 

ズンッ!

 

 

「く………っ!」

 

 

先ほどのように楽観などせず、マゼランは両腕を交差させてスイカの一撃を完全に防いだ。代償として腕に重い衝撃が走るが、戦闘不能になることに比べればどうとでもない。

 

 

 痛みを堪えつつ、マゼランはスイカへ腕を伸ばした。

 

 

「おっと!そう簡単には捕まんないよっ!」

 

 

 空中で動きが取れなかったが、ロウを手足に装着している分体重が増している。スイカは落ちるように地面へと降り、一躍してマゼランの反撃を回避した。

 

 

 

『――――(グオッ!)』

 

 

 しかし、追撃の手が終わったわけではない。

 

 

「んんっ!?」

 

 

 毒息を吐いて佇んでいた巨兵が突然動き出し、スイカめがけて腕を伸ばしてきたのだ。その腕はマゼランの3倍ほどの長さで、少し離れたスイカにも難なく届き、叩き潰す勢いで振り下ろした。

 

 

 バァンッ!!

 

 

「うおわっ!?」

 

 

 その圧力は思いの外強く、地面に接触すると同時に床が崩壊してしまうほど。飛び散る破片がスイカに当たるが彼女にとって雨粒のようなもの。ものともせずにマゼランを睨んだ

 

 

「……こんなもんを隠し持ってたのかい…!最初から出さないとは本当にナメられたものだなマゼラァンっ!」

 

 

 あろうことか、スイカは敵が全力を出していなかったことに腹を立てていたのだ。先ほどマゼランは自分が海桜石を付けたまま戦うことに腹を立てていたが、その気持ちが身を持って分かることとなるとは、見事な仕返しである。

 

 

 

 

「……言ったはずだ。俺もようやく腹を括ったと」

 

 

 

 しかし、マゼランとて目の前の海賊が一筋縄でいかないことぐらい重々承知している。伝説の怪物と呼ばれた海賊を前に、いったいどこに余裕を持って戦う余地があるだろうか。

 

 

 

「貴様こそ俺の覚悟をナメるなよ。酒呑童子」

 

「あ?」

 

 

 ここまでこの技を取っておいたのは非常に単純な話。後ろにいる悪魔が生み出す毒が、本当に危険だからだ。

 

 

 

「!!まずい!腕を見るんだガネッ!」

 

「?」

 

 

 その言葉の意味を真っ先に理解したのは、スイカの後方にて戦況を見ていたMr.3だった。直接戦闘には加わらず客観的な立場で2人を視界に収めていたからこそ、スイカの右腕の異変に先に気づいたのだ。

 

 

 

 

 ………ズズ………ズズズズ……!

 

 

「!?なん、っだこりゃ…!?」

 

 

そして、スイカも言われるがまま見て驚愕する。まるで色水に紙を浸すように、腕を覆うロウがマゼランの毒と同色に染まっていくではないか!

予期せぬ変化にスイカが気を取られている内にも毒は浸食していき、内の肉体にまで波紋が及ぶのは時間の問題だった。

 

 

「キャンドル解除!」

 

「!悪い!ありがと3!」

 

 

 しかし幸運なことに、ロウを生み出せるならば消し去ることも可能。Mr.3が素早くスイカに近づきロウを溶かして身体から取りはずし、体への被害は免れた。その時の彼女の顔は珍しく、不安が去った時に浮かべる安堵に満ちていた。

 

 

 

「…緩衝材は無意味、ってところか…!」

 

 

 毒に浸り、完全に赤色に染まったロウの果てを見届けたスイカがようやくマゼランの新たな毒の恐ろしさを把握した。

 

触れたものが生物であれ無機物であれ、接触した部分から時間をかけて全体を占領していく防御不能の攻撃。おそらくグローブを侵したのは先ほどの一打。あの時のマゼランの身体も赤色の毒で濡れており、そこにグローブが触れたときに感染したと見て間違いないだろう。

 

 

「なるほど……だから使わなかったんだね?自分の毒が、見境なくこの監獄を侵食するから」

 

「そうだ。この毒を出した以上、必ず貴様を始末する。でなければここで働く全職員にあわせる顔がない」

 

「やれやれ。最初から気にせずそれを出せばいいのに。監獄のボスは頭が固いね~」

 

 

 犠牲を伴っても目の前のサイアクの囚人を抹消する。生真面目な性格であるマゼランの計り知れぬ覚悟に、口はおどけてもスイカの目は真剣なものだった。

 

 

 

「どど、どうするのカネっ!?何か策があるんじゃないカネ~~!?」

 

 

 Mr.3にとっては唯一の対抗策を破られたようなもの。唯一残された可能性(スイカ)に縋るように声を荒げて詰めかかった。

 

 

「…うーん。そうだね」

 

 

 それに呑気に言葉を返しながら、スイカは考える。

 

 

(……LEVEL4でバカ《黒ひげ》にやった一発みたいに触れなくても攻撃することはできる……けど、あれじゃ威力不十分だね。マゼランが相手じゃあせいぜい怯ませるのが関の山だ)

 

 

 先ほどは腹を立ててしまったが、やはりマゼランは地獄の大砦を任されるだけはある実力者。スイカは決して楽観などせず目の前の強敵を倒す方法を考えた。

 

 

 

 

 

「……よし、3」

 

 

 あらゆる制限を受け、久しぶりに戦闘に頭を使ったスイカは口を開いた。

 

 

 

「何だガネ!?」

 

「まずロウで――」

 

 

 グオオッ!

 

 

 しかし、当然敵に時間を与える道理などは存在しない。

 

 

「!3っ!(ぐいっ)」

 

「へあっ!?」

 

 

 バァンッ!! 

 

 

 Mr.3のいた場所に巨兵の一撃が下される。再び床のコンクリートが砕け散るが、スイカが首根っこを掴んで下がったことによりMr.3は無事にすんだ。

 

 

 

「いったん引こう!これじゃ話も出来ないっ!(ぐいっ!)」

 

「あばばば!?」

 

 

策を伝える時間だけでも確保したい。Mr.3の襟首をつかんだまま、スイカは迷うことなく撤退を選択した。もちろん目指すのは外海への出口、ルフィたちが先に向かった正面玄関だ。

 

 

「逃がさんっ!」

 

 

 そんな2人を見逃すはずがなく、マゼランもすぐさま追跡を始める。後ろに控える毒の巨兵もその後を追い、離れゆく2人へ猛毒の手を伸ばす。

 

 

 

「ぎゃ~!もっと早く走るんだガネー!」

 

「ぐににに……っ!これでも、全速力だってのぉおおおっ!」

 

 

 急な逃走のため引きずられる形で引っ張られるMr.3が叫ぶが、人を一人掴み、さらには力の大部分を封じられているスイカは〝現状〟出せ得る力を全て出して走っている。

 

 

 そのため距離を離すことは出来ず、常に毒の巨兵の射程範囲に収まってしまうのだった。

 

 

 

ガッシャアアン!!

 

 

「「うおおおおっ!?」」

 

 

 

 横殴りの拳が2人を外し、無人となった隣の牢屋をこなごなに砕いた。

 

さらにそこから毒が広がり牢の中はあっという間に地獄の光景と化し、スイカは笑みを、Mr.3は涙を流して牢の果てを見た。

 

 

「おっ!感染はするけどさほど感染力は早くないみたいだね!」

 

「冷静に観察しとる場合か~!さっき私に何か言いかけてたが、あれは作戦ではなかったのカネー!?」

 

「おお!勿論そうさっ!」

 

 

 ここまで男らしいところを見せていないMr.3だが、元々は冷静沈着を売りに裏社会に身を置いていた賞金首。細かなところまで記憶することを心掛けていた彼は、先ほど途中で終わったスイカの言葉を忘れていなかった。

 

 

「だけどその前に1つ聞かせてもらおう!」

 

「なっ、何をガネ!?」

 

 

スイカも当然忘れるはずなく、口にしようと思ったが先に作戦の要となることをMr.3に尋ねた。

 

 

 

「そのロウ、どれくらい出せる!?」

 

「……す、少し時間を空けて区切っていけば、いくらでも作れるガネ!」

 

「そう!じゃあ、時間を空けず区切んなかったらどう!?」

 

「…………限られるが、ど、努力すれば相当の量は出せるはずだガネ!」

 

 

 Mr.3の回答に嘘はない。かつてルフィと戦ったときには巨大なロウのタワーを建て、自分を包み込むバトルスーツを作ったりもした。どれぐらいが望ましいのかは分からないが、少なくとも先ほどまでに出したロウよりは多く出せるはずなのだ。

 

 

「……なるほどっ!(がばっ)」

 

「ぬわっ!?」

 

 

 満足した答えを得たのか、スイカはMr.3を肩に担ぎ直して彼の顔を近づけた。

 

 

 

 

「十分だ。一気にケリをつけよう、3」

 

 

 

 

 

 

 

(む……っ?)

 

 

 逃げる2人の囚人を追いかけていたマゼランの顔が強張る。

 

というのも、片割れの一人を担ぐ女海賊が、何かを肩上の囚人に耳打ちしだしたのだ。

 

 

(対応に動かれる前に討つ。これ以上時間はかけられんっ!)

 

 

 内容までは聞き取れないが、肩の男が何度か頷いていて何か策を伝えられているのは明白。足に鞭を打って2人の距離を詰めにかかる。

 

 

「地獄の審判!」

 

 

 

 マゼランが腕を伸ばすと同時に、後ろに追従する巨兵も猛毒の腕を前に差し出した。『毒の巨兵(ベノム・デーモン)』とマゼランの動作は連動しており、彼の2回り以上ある腕は容易に遠距離へ届く。

 

 雲によって生じる影のように、リーチある巨大な手が見る見る内に2人へと迫っていった。

 

 

 

ズザザッ!

 

 

 

「む!?」

 

 

 ここで動きがあった。逃亡者たちが正反対――すなわち、あろうことか自分の方向に向き直ったではないか。

 

 

(何のつもりだ……!?)

 

 

 逃げから一転して立ち向かわれては警戒するもの。マゼランは一瞬どうすべきか躊躇したが、いずれにせよ攻撃をしなければこの逃亡劇は終わらない。止めていた巨兵の手を2人へ伸ばした。

 

 

 

「キャンドル・ウォール!」

 

 

 かわすか、あるいは厄介である女海賊が何らかの対応に動くと思われたがその予想は外れ、動いたのはMr.3。生み出したロウを使用し、マゼランと自分の間に巨大な壁を作り上げて防御を図ったのだ。

 

 

「無駄だ!地獄の審判っ!!」

 

 

 マゼランは一切動じることなく巨兵に攻撃を促す。今操る毒には鉄だろうとダイヤモンドの硬度であろうと無関係。先ほどのように毒で侵食して無効化すればいいのだから!

 

 

『――――!!』

 

 

 ドゴンッ!

 

 

 命令通り巨兵の拳がロウの壁を殴り掛かる。硬度は確かなもので毒液によって構成された拳が砕け散るが、じわじわと毒がロウを染めていく。

そうなってはロウの寿命は儚い。間もなく赤に染まり切り、氷が解けていくように壁は崩壊していった。

 

 

「―――特大サービス・キャンドルウォールッ!!」

 

 

 それに替わるように新たなロウが立ち塞がる。ただし量は先ほどのものをはるかに上回り、マゼランだけではなく巨兵よりも大きくなって道を阻んできた。

 

 

「無駄と言ったはずだ!」

 

 

 マゼランの言葉通り、いくら規模を大きくしようとやはり焼け石に水でしかない。再び巨兵が拳を振りかざして壁を壊しにかかる。

 

 

 

 ところが、今度は上手くいくことはなかった。

 

 

「キャンドル・ウェーブ!」

 

 

ドロリッ!

 

 

「ぬっ!?」

 

 

 毒液が触れる寸でのところで、固まっていたロウが突如液状に戻り始めた。マゼランの仕業ではない。ロウを固めることが出来るのならばその逆も然り、Mr.3が自ら壁を取り崩したのだ。

 

 

 

「うぶ……っ!」

 

 

 融解し形を保てなかったロウが一気にマゼランへなだれかかった。鉄の硬度に凝縮されてなお巨大な壁だったロウ。その分子同士を繋げあっていた強力な圧力もなくなり、白の大津波と化したロウが毒のマゼラン達を一気に呑み込む。

 

 その瞬間を見逃さず、Mr.3は畳みかけた。

 

 

「食らうガネ!キャンドル・ロックッ!」

 

 

 ガチガチガチ…ッ!

 

 

(……!?動けん…!)

 

 

 マゼランに降りかかったロウが再び硬度を帯びていく。しかもその速度は速く、毒の巨兵を動かそうとする前に体の自由を奪ってしまった!

 

 

「貴様のその毒の怪物は確かに恐ろしいものだガネ………だが!観察したところ主である貴様と動きを連動しなければ動いていない!ならば主体である貴様の動きを止めればどうということはないガネッ!!」

 

 

「……!」

 

 

 動きを止めたことを確認したMr.3が大きく断言した。

少し前まで逃げることしか考えていなかった男の発言とは思えないが、Mr.3の読みは正しく、地獄の審判は〝地獄の支配者〟であるマゼランの行動を第一としており自らの意思はない。そのため、命令が下らなければただの巨大な毒の像でしかないのだ。 

 

 

「このままロウに呑まれるが良いガネ、マゼランッ!!」

 

 

 そうなればもう怖くはない。さらにロウをマゼランへ殺到させ、得意の暗殺術でMr.3は詰めにかかった!

 

 

 

「………確かにその通りだ。猛毒の力を得る代わりに、毒竜(ヒドラ)のように意志だけではこの毒の巨兵は動かせん」

 

 

既に身体をロウに包まれ、残すは顔だけという後のない状況となったマゼラン。なのに全く慌てた様子はなく、それどころかMr.3の推測を肯定したではないか。

 

 

「――だがな」

 

 

 その上でマゼランは続ける。いつの間にか、ドロドロと体に纏わり続けていたロウの動きが止まっていた。

 

 

「俺の身体の毒も同じ性質になるということを見逃しているぞっ!(ズズズズ!)」

 

 

 瞬間、虚言ではないことを証明するかのように体中のロウが真っ赤に染まり上がる。毒の巨兵と同じく触れていたロウに毒を侵食させたのだ!

  

 

 

「…っ!」

 

「同じ戦法は効かんっ!いい加減観念するんだ!(バリバリ!)」

 

 

 無効化したロウを一気に剥がし取り、強張った顔のMr.3を睨む。不意打ちを受けてしまったが結果的に被害はなく少し手間取っただけ。これ以上好きにはさせまいとマゼランが叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「もう貴様らに!希望な……………ど………?」

 

 

 

 

―――大人でも震え上がるほどの怒声。その声は徐々に詰まっていき、結局言い終わることはなかった。

 

ふと、マゼランは自分の言葉と目の前の状況に差異があることに気づいたのである。

 

 

 

(……待て…)

 

 

 

視界に広がるのは、毒に侵食され赤色に染まったロウとフロアーの一部、及び毒が届かず無害な箇所。

 

 

 

 

そして、そのロウを展開していた囚人Mr.3。

 

 

 

 

彼は、自らの足で立ちながら自分と対峙している。

 

 

 

 

 

 

 

 

(………酒呑童子はどこへ行った!?)

 

 

 僅か前まで彼を担いでいた女が無くなっているではないか!警戒していた人物を見失えば焦りが生じるもので、マゼランの中に生まれた焦燥が彼の視野を狭める。

 

 

 

 

 

 

 

 

ひゅうううう………

 

 

 

 

 

 そのため彼女の居場所を特定したのは視覚ではなく、大きな風切り音を捉えた聴覚だった。

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

 

 マゼランは慌てて音が降り聞こえた上空を見上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――(ぶぅんっ)」

 

 

 

 

 いたのは予想通り、姿を見失っていた囚人スイカ。

 

 

 

 

 

 だが、それ以上に存在を誇張する物が一つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――まるでおとぎ話の〝鬼〟の武器のように。彼女の手には体躯の数倍ある巨大な金棒が握られていたのだ。

 

 

 

 

「………っ!!!(ババッ!)」

 

 

 

 正確にはロウによって作り出された模造品だが、その色は漆黒。それが意味することを把握したマゼランは、全ての考えをかなぐり捨てて防御姿勢を取った。

 

 

 

 

 

がし…っ!

 

 

 

 

 

「―――そおおおおおぉぉおおらぁぁああああああああああああっっ!」

 

 

 

 

 

 

そして。スイカは両手で獲物を握り直し、空気を揺るがす大音声と共にマゼランへと振り下ろした!

 

 

 

 

 

ごっずうぅぅぅぅぅん!!

 

 

 

 

「!?ぐっ………がぁああああああああっ!!」

 

 

 

 そして攻撃を防いだ瞬間、マゼランは悲鳴を抑えることが出来なかった。

 

 

 

 

大砲が腕に直撃した?

巨人族の拳をもろに受けた?

それとも、島が一つ自分の上にでも乗っかった?

 

 

 そんな比喩が次々と浮かび上がってしまう痛みはかつて体験をしたことがないほどで、致命傷には及んでいないはずなのにマゼランの意識が飛びかける!

 

 

 

「お、おお……おおおおおおおぉおおおおっ!!(バッ)」

 

 

 

それでも己の信念だけは捨てられない。のしかかる激痛を堪え、マゼランは潰しにかかってくる凶器を全力で払いのけた。

 

 

 

 この対処に、スイカの顔が獰猛な喜色へ染まる。

 

 

 

「ほぉ!?まだやれるかいっ!だったらもういっぱぁつ!!(ゴガガガガガッ!)」

 

 

 

 狭い通路で壁が削れようと、壁を破壊してしまっても構わない。覇気を纏わせた金棒を強引に横に構えて薙ぎ払いにかかった!

 

 

「っ!じ、地獄の審判!」

 

『――!』

 

 

 マゼランが急いで毒の巨兵を防衛に回すが、骨にひびが入ったのか動かすたびに両腕に激痛が走り構えもままならない。

 それでも毒の巨兵を前に回すことには成功し、時間を作り態勢を整えられればと考えるが……彼女は〝せめて〟をも許さなかった。

 

 

 

「どっせぇええええええいいっ!!」

 

 

バチャア!!

 

 

『――――!!?』

 

 

 いっそ可笑しさを感じさせる雄叫びだが、当事者であるマゼランはクスリとも笑えない。

 まるで机上に散らばるゴミを払い除けるように、一瞬にして毒の巨兵が金棒によって弾き飛ばされたのだ!

いくら防御が十分でなかったとはいえこれほど容易に破られるとは思わず、マゼランは渋面となった。

 

 

「くそ……覇気か…!」

 

 

それを可能にしたのは間違いなくスイカの覇気の一つ、武装。覇気を纏えば実体を掴めない物でも固体として扱え、普通は触れることさえ出来ない悪魔の実最高位の自然(ロギア)系への唯一の対抗手段とされている。

 

そして上手く扱えば武器や道具にも覇気を纏わせることができ、なまくらが名刀に変化することさえある。今回スイカはMr.3が作成した金棒ならぬロウ棒に覇気を纏わせ、元々鉄に匹敵する硬度をさらに引き上げ、本物の金棒以上に破壊力を向上させたのだ。

 

 

(毒の侵食が間に合わん…!そのためにあの形にしたのか!)

 

 

 さらに、先ほどとは違いスイカの扱うロウの柱は中距離での攻撃を想定しているため全長が非常に長い。毒と接触したのは先端付近であり、スイカの手に毒が及ぶのにはもう少し時間がかかる。

 

 

それは次の攻撃を仕掛けるのに十分な猶予。スイカは動きを止めることなく、マゼランへ追撃する!

 

 

「三発目ぇえええ!」

 

 

 ずんっ…!

 

 

「ごぶっ……!?」

 

 

 今度こそマゼランの腹に金棒が叩き込まれた!比喩ではなく本当に臓器を損傷したのか大量の血が吐き出されるが、そんな言い訳など通用しない。

 

 スイカはさらに込める力を強め、勝負をつけにかかった。

 

 

「おおお……!!」

 

「ぐ………が…っ!(ミシミシ!)」

 

 

 腹にかかる圧力がさらに増していく、必死にマゼランは押し返そうとするが、傷を負うマゼランと無傷なままのスイカ。さらには要となる体力もどちらが温存しているかは明白であり、軍配が動くのに時間はかからなかった。

 

 

「……っ!(ふわっ)」

 

 

限界に至ったマゼランの足がとうとう地面から離れる。そしてほぼ同時に、金棒に籠る力が最高に達した!

 

 

「―――ぶっとべぇえええええええええっっ!!」

 

 

 ドンッ!

 

 

 射出された弾丸に負けない速度でマゼランが勢いよく弾き飛ぶ。そしてその勢いのまま、牢獄の壁に打ち付けられた!

 

 

どがああああああっ!!

 

 

 

「がっ……!?」

 

 

 さらにそこでは収まらない。ビキリと分厚い獄壁にひびが入り、あろうことか衝突した壁をぶち壊していく!

 

 

 

 

がっしゃあああああああんんっ!!

 

 

 

「ぐ……ば…があああああ……っ!?」

 

 

 

 2つほど壁を打ち抜いたか、最後にぶつかった壁でようやく砲丸と化したマゼランの動きが収まった。とはいえマゼランには立ち上がる力も残っておらず、戦うどころか動くことも出来ない。じわじわ意識が暗くなって行くのを彼は感じた。

 

 

 

 がしゃん!

 

 

「……!」

 

 

 おぼろげな意識の中、聞こえた瓦礫を踏むみつける音。意識を繋ぎながら………マゼランは臍を噛んだ。

 

 

「お……のれ…………酒呑童子ぃ……!!」

 

「……」

 

 

 目の前に立っていたのは、ここまで追いやった海賊張本人。遅くも毒が侵食したか、武器である柱はもう持っていない。ただこちらを見つめるだけの彼女は非常に無防備だった。

 

 

 

「……!ヒ………ヒ、ヒド………!」

 

 

 

ドサリ

 

 

 

 

 毒竜と。せめて目の前の…………再び世に出せば、とてつもない影響を与えるであろう女海賊だけでも倒そうと思ったが、彼の意識はそこまで。

 

 

 監獄署長就任から初めて、マゼランは任務の遂行を果たすことに失敗した瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

「………ふー。いくら制限されてるっていっても、こんなに本気を出すことになるとはねぇ…」

 

 

 マゼランの意識の喪失を確認し、スイカは大きく息をつく。表情はどこか硬く、結果が上手くいったことに安堵しているようにも見えた。

 

 

 

「久々に熱くなった。見事だったよマゼラン」

 

 

 健闘を称えるが届くことはない。彼女は返事を待たずに元いた場所へと戻った。

 

 

 

「ありがと3。おかげでなんとか嘘はつかずに済みそうだ」

 

 

 嘘とは、マゼランに先へ行ったルフィたちを追わせないこと。何も戦闘不能にしなくとも良かったが、結果的にはこの上ない大金星。貢献者であるMr.3にスイカは心からの謝辞を告げて上階への階段へ歩き出す。

 

Mr.3もそのあとに続きながら、恨めしそうにスイカの後頭部を見る。

 

 

「それはいいが、一瞬とはいえマゼランと一対一で対峙させられては恨みの一つもできてしまうガネ…」

 

「まぁまぁ。結果良しなんだからいいじゃないか」

 

「ぜんっぜん良くないガネ!奴の毒の怪物と対峙するときどれほど恐ろしかったか!貴様と違って私はそこまで戦闘能力は高くないんだガネ~!」

 

「そう言うなって。ほら、適材適所ってのがあるだろ?今回は3が最適だったんだから仕方ないさ!」

 

「命の危険が迫った身としては完全な人選ミスとしか思えんガネっ!」

 

 

まるで知った間柄のように口を交わす2人は、追跡者であるマゼランが気絶しているため慌てる様子はない。あとは、先に行った連中が上手く軍艦を奪えているかどうかだ。

 

 

プルプルプルプル プルプルプルプル

 

 

「!」

 

 

そんなスイカの思考を見計らったかのように、フロアーに電伝虫の鳴き声が響き渡った。

 

 

「電伝虫だ。どこカネ?」

 

「おう、確かここに……(ごそごそ)」

 

 

発声源はズボンのポケット。スイカはすぐさま電伝虫を出してやり、受話器を手に取った。

 

 

「(ガチャ)もしもし?」

 

『もしもし!酒呑童子かっ!?』

 

「ああ、ジンベエか。ちょうど今―――」

 

『急げ!早く来るんじゃっ!!』

 

「ん?」

 

 

 マゼランを抑えたと報告しようと思ったが、どうもジンベエの声が荒い。何か緊急の用事があるようだ。

 

 

「どしたのさ?」

 

『すまん…!軍艦を奪えたは奪えたが、残りの艦からの砲撃が激しい!沈められんためにもう出港してしまったのじゃ!だから急げ!距離が空いてはもうインペルダウンから出れんぞっ!』

 

「!」

 

「な、なんだって~~!?」

 

 

 スイカ……ではなくそばで聞き耳を立てていたMr.3が叫ぶ。今ようやくマゼランという恐怖が無くなったというのに、今度は地獄に取り残されるかもしれないという最悪な大問題が。Mr.3は歩いていた足を駆け足へと変更し桟橋へ急いだ。

 

 

「ゆ、悠長にしてられん!こんな地獄に取り起されるなんて絶対ゴメンだガネー!(ドヒュン!)」

 

「同意だよ!って早いなアンタ!?」

 

 

 ひょっとしたら完全な自分よりも早いのでは?そんな馬鹿な想像をしてしまうほどMr3の走りは早く、あっという間に階段の向こうへと姿を消していった。スイカも急いで階段へと突っ走り出口を目指す。

 

 

「まったくもう……!ジンベエ!どの軍艦かは見りゃあ分かんだね!?」

 

『集中砲火されておる軍艦じゃ!一目で分かるっ!』

 

「了解!じゃあねっ!(ガチャリ)」

 

 

 そこで電伝虫の念波を切る。他にも状況や最大の壁である正義の門をどうするのかなど聞きたかったが、まず優先すべきは自分が現場に向かうこと。相も変わらず海桜石が付いているとは思わせない走りで階段を駆け上がった。

 

 

 ザッ!

 

 

「3!軍艦は見えるか!?」

 

 

 地獄から唯一外が見える最終階、正面玄関へと辿り着いたスイカがMr.3がいる大門へと駆け寄る。気を失った監獄の職員が床一面に転がっており、囚人たちがここを制圧したのは明白だ。

 

 

「あ、あそこだガネ!もうあんなところにまで進んでるガネ~!!」

 

 

 慌てふためくMr.3が指さす方向を見ると………なるほど、周りの軍艦から途切れずに砲撃を浴びている軍艦が一隻。あれが脱出船と見て間違いないだろう。

 

 

「……本当に随分と進んでるね……!」

 

 

 船が浮いていたのは、最後の番人でもある政府専用通路〝正義の門〟の少し手前。どんな手段を取ったのかその大扉は開ききっていて、くぐるのは時間の問題であり残された二人には非常に不都合だった。

 

 

「ここから跳ぶ……のはさすがに無理か!」

 

 

 ここから正義の門までは軍艦を五隻以上連ねても足りない距離がある。いくら酒呑童子と言えど、弱体化した身体ではその間を跳躍して成功する保証がない。

 

 

「どうする!?指を加えて見ているなんて絶対ヤだガネ~~!!」

 

「落ち着きな3!だったら距離を詰めればいい!」

 

 

 最も可能性がある選択を否定されMr.3は恥も外聞もなくわめき散らすが、スイカは冷静なまま指示を出す。

 

 

「お得意のロウの出番だよ!あれで軍艦までつなげろ!」

 

「!!そっ、そうか!キャンドルフロアー!(ドルドルドル!)」

 

 

 つい自分の能力を失念していたが、足場が無いのならロウで作ればいいだけ。慌ててMr.3はロウを展開し、目標の船尾へと薄長く伸びたロウを伸ばした。

 

 

「こ、これで軍艦までたどり着けるガネ!」

 

「よくやったっ!さぁ急ごう!(ダダッ!)」

 

 

 即席なため手すりなどなく、人が一人通れるほどの狭い橋だがこだわっていられない。二人は急いで脱出の架け橋を駆けだす。

 

 

だが、それを海兵たちは見逃さなかった。

 

 

 

『少佐殿!インペルダウンの入り口から、何やら橋らしきものが現れました!』

 

『む…っ!?なんだあれは!?』

 

『2人あの上を走っている!囚人か!?』

 

 

「……っ、やっぱり気づかれるか!」

 

 

 囚人達が奪った軍艦は追手から逃げているため、当然インペルダウンから最も遠い海上を航行していた。ゆえに橋を届けさせるにはどうしても敵の艦隊の合間を通らねばならず、その謎の通路に気づかない方がおかしいことだったのだ。

 

 

『全艦に報告!船首の砲撃はそのまま、側方の大砲であの橋を破壊せよ!』

 

 

 

 ガコン ガコン……!

 

 

「やばい!砲撃されるぞこりゃっ!」

 

「う、海の上でそんなことされたら終わりだガネー!」

 

 

 訓練された海兵に無駄な動きはなく、一瞬にして砲口がスイカ達のいる架け橋へ殺到する。まだまだ2人は脱出船から遠く、およそ半分にも距離を詰められていない!2人は必死に足を動かした!

 

 

 

『撃てっ!』

 

 

 ドドドドンッ! 

 

 

 だが、無情にも砲撃は開始される。風を切る音を立て迫る砲丸がまず被弾したのは、スイカ達が走るより少し先のロウ。すなわち脱出の通路を断ちに来たのだ!

 

 

 

バガンッ!

 

 

「…っ!ち、やられたね」

 

 

 大砲の威力はすさまじく、敵船や海にすむ巨大な生き物にも致命傷を与えることがある。さすがのロウもその一発に耐えきることが出来ず、被弾と同時に砕けて海へ沈んでいった。

 

これで先に進む道はない。あるのは地獄へ戻る後ろ道だけ。

 

 

 

ドゴォン!

 

 

「うわっと!?(ガクンッ)」

 

 

 さらに被弾の爆音は続き、同時にスイカのバランスが大きくブレた。慌てて被弾場所を探すと……そこは、先ほどまで走っていた後ろの道!それが跡形もなく崩れ落ちていくではないか!

 

 

「たっ、退路を断たれたガネ!?」

 

「……だけじゃないね。足元見てみな」

 

「!?ぎゃ~!な、なんで海水が足元にぃぃ!?」

 

 

 僅かではあるが足元に海水がたまり出し、Mr.3はパニックになってしまうが考えればなんてことはない。このロウの橋を支えていたのは、インペルダウンの入り口に固定していた部分と軍艦の船尾だけで、支柱などの補強素材は一切ない。両端を分離されれば着水するのは当然のことだった。

 

 

 

『退路を断った!確実に始末しろ!』

 

『はっ!』

 

 

 そして、海軍は今度こそ2人へ照準を合わせる。その数はざっと見ても30はあり、人を吹き飛ばすにはあまりに過剰。八方塞がりとはまさにこの状況のことだ。

 

 

 

 

「どど、どうするどうするどうするのカネッ!?このままでは確実に海の底だガネ~~!」

 

「……う~ん。まあ、この距離なら投げはいけるかな?」

 

「なぜこの絶望的な状況でそんな落ち着いているのカネ貴様は~~!?」

 

 

行く道も戻る道も無くなり、Mr.3が頭を抱えてるのに対しスイカは冷静なまま。長年裏社会に生きていたMr.3も、まだまだ彼女に比べれば青かったようだ。

 

 

 

 ガシッ!

 

 

「おうっ!?」

 

 

 突如Mr.3の視界がぶれる。足場が揺れた、とかではない。もっと強い力が働き強引に体制を歪められたのだ。

 

 

「時間がない!手荒になるけど許してくれよ!」

 

「へ!?」

 

 

 

 そして彼は気づく。

 

 

 

自分の背中を思い切り捕まれ、投てきの姿勢に入っているスイカの意図に。

 

 

 

「!!!ま、まま、まままさか――!?」

 

 

何をするか分かり慌てて止めようとするが………………すでに手遅れ。

 

 

 

 

 

 

「―――しっかり着地しな~っ!!(ブゥン!!)」

 

 

 

 スイカは、力の限りMr.3を囚人たちが乗る軍艦へ投げ飛ばした!

 

 

「ぎゃあああああああ~~~~!?」

 

 

 ものすごい風圧と共にMr.3の身体は高度を上げていき、気づいた時には目的の軍艦の上空。マストと同じ高さまで飛び上がっていた。

 

 

 

だがそこで失速し始める。力の無くなった砲丸がたどる道はひとつ。人間砲弾となってしまったMr.3も例に漏れず・・・

 

 

 

 

「(バキバキィ!)へぶふぉお!?」

 

「むっ!?お前さんは……!」

 

「ってス、3兄さんじゃねえか!?なんで空から落っこちてきたんだキャプテンバギー!?」

 

「そ、そんなもんおれが聞きたいわハデアホが!」

 

「あれ!?3~!じゃあスイカもいるのか!?あとそのケガどうしたんだ!?」

 

 

 

「……そ、そ、その奴にやられたんだガネ~…!」

 

 

 

 

「……よし。上手く甲板に落ちた」

 

 

 ただし無傷とはいかないが。とにかくMr.3が軍艦へ到着することはでき、海上に残るのはスイカ一人。あとは自分が跳ぶだけだ。

 

 

『撃てぇええ!!』

 

 

 ドン!ドドドドドッ!

 

 

「!」

 

 

その時、軍艦の大砲が一気に火を噴いた。次々と放たれる砲丸は実に正確で、正極と負極が如くスイカのもとへ一気に殺到する。

 

 

「さぁ行くかあ!!(ダダダッ)」

 

 

被弾するのは時間の問題だが、スイカはその前に動いた。

 

 

先ほどの着弾で崩れず無事だったロウの橋を走りだす。距離にすると4、5メートルだけでそんな単距離を走ればすぐ端に至るが、それも織り込み済み。跳ぶだけと助走をつけて跳ぶのとでは全く結果が違う。

 

 

 

 

 

 

「でいやああああああああっ!!(ダァン!)」

 

 

 

 そして。終わりの見えるロウを踏み台に、スイカは目的の軍艦目がけて思い切り飛び跳ねた!

 

 

 

 

ドッゴゴゴゴゴゴォォン!!

 

 

足がロウを離れてほんの1秒。かろうじて残っていたロウに砲撃の嵐が襲い掛かり、ロウの一欠片も残ることはなかった。

 

衝撃は届いたがスイカに全く傷はなく、あとは脱出船に着地すれば万事完了

 

 

 

「………!!」

 

 

……なのだが、スイカの顔は晴れない。ここにきて最大の危機が彼女を襲う。

 

 

 

 

(やばい………距離が全然足んないっ!?)

 

 

なんと、スイカが今滞空する位置と脱出艦までの間が、予想の半分ほどまでしか詰め切れていなかったのだ。

 

 

海桜石を付けたままここまでの移動、戦闘に加え、Mr.3を届けるため全力を出した彼女に初めて・・・・最悪のタイミングで疲労が顕著に露わになってしまったのだ。

 

 

 

(どうする……!手錠を取るか!?いや、完全に脱獄するまでは取らないって決めた!私が私(てめぇ)に嘘をつくわけにいかねぇだろうがバカッ!)

 

 

 手錠を取れば難なく状況を打破できる。誰よりもそのことを自負しているのだが、彼女の信念はその『最善のウソ』を許さない。たとえどれだけ逆境だろうとそこだけは頑なに揺るがすことができなかった。

 

 

(どうする…!どうするどうする……!?)

 

 

そうやって譲れぬ葛藤をしている内に失速し、スイカの身体が海へと落下していく。能力者が海に落ちれば自力では助からない。たとえ大海賊であろうとも海に嫌われていることは変わらず、インペルダウンよりもはっきりと死の予感をスイカは感じ取り―――。

 

 

 

 

 

「捕まれスイカ~~~!!(ビュン!)」

 

「っ!?」

 

 

 潔く諦めようとしたその時、その声がはっきりと耳に届いた。

 

 

 

落下しながらそちらへ首を向けると、あったのは奪取した囚人たちの軍艦。 そして、その後尾から腕をスイカまで伸ばしている麦わら帽子の青年。

 

 

 

〝ゴムゴムの実〟を食べた彼は、身体をゴムのように伸ばすことが出来るスイカと同じ能力者であり、スイカに救いの手を差し伸べたのだ。

 

 

 

「………心から感謝するよおにーさんっ!(ガシィッ!)」

 

「うおおおおっ!戻ってこ~~~い!(グィイ!!)」

 

 

スイカはためらうことなく手を掴む。それを確認し、ルフィが思い切り腕を引き戻して…

 

 

 

「お、おおおおっ!?」

 

「そりゃ~~!」

 

 

「ぶはっ!?(バギャァ!)」

 

 

 伸びた分だけ反動も強い。ゴムの特性に見事巻き込まれたスイカは、勢いよく頭から甲板へ突っ込んでいった。くしくも先ほど投げたMr.3と同じ末路を辿った瞬間である。

 

 

 

 

 

「あっ!大丈夫かスイカ!?」

 

 

ガッ!

 

 

「大丈夫さ。ちょっと驚きはしたけれどねぇ(がばっ)」

 

 

 大きな穴が空いてしまいルフィは慌てて安否を確認するが、その程度でやられては伝説と呼ばれやしない。何事も起きていない表情で抜け出てきたスイカは、そのまま空を仰いだ。

 

 

 

 

「……懐かしいな。雲も空も、このだだっ広い海も」

 

 

 

 そのまま視線は移り変り、短くない間幽閉されていたインペルダウンを見据え、彼女はつぶやいた。

 

 

 

「――悪かった。届かないだろうけど、あんたの名に泥を塗ったことを心から詫びさせてもらうよ…………マゼラン」

 

 

 

 

 

 

 こうして、インペルダウン史上初めての脱獄劇第一波は幕を閉じ―――

 

 

 

 

 

 

「さあ、正義の門をくぐったんだ。もうこれを取っても嘘にはなるまいね」

 

 

 

 バギ………バギンッ

 

 

 

 本当の意味で、大海賊は復活を果たした。

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございました! うぅん、自分が望んでやったこととはいえ萃香さんのスペックがものすごいことに・・・!でもこれでいいのですだ!やはり鬼の四天王にして、村雪の大好きなキャラクターの1人なのですからこうでなければ!


 さて。それでは改めてここまで丁寧に読んでいただきありがとうございます!いやはや、またしてもいわゆるご都合主義やらなんやらが含まれた投稿となりますが、少しでもワクワクだとか、次回も楽しみだ~みたいなことを思っていただければ最上の褒美でございます!

 Mr.3がパートナーみたいな今回となりますが、そこはあくまで展開上!善しか悪しかパートナーみたいなことはありません!色々と活躍した彼ですが、おそらく次回からは出番が少なくなります!そこを踏まえてまた次回も読んでいただければ!そして誤字などが疑問点あれば気軽にご指摘くださいませ!

 




 それではまた次回っ!〝伝説〟と〝伝説〟が再び顔を合わせますよ~!

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