大いなる海の母   作:村雪

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 どうも、村雪です!久々のワンピース側の投稿となってすみませんでした!

 今回もインペルダウンということなのですが……もうですね、戦闘描写が拙いこと拙いこと!他の作者様のようにわくわくするような書き方をできないのが無念でございます…!

 いずれにしても、長々と空けてしまったのにそれでも読んでもらえる方への感謝の気持ちを忘れず、この投稿をさせていただきますね!


――それでは、ごゆっくりお読みください。


地獄の支配者、マゼラン

「ひぃ~!!でぇたああああああ~~っ!」

 

 

その男、海賊【道化のバギー】は涙を流してながら走っていた。

 

 

 彼がいるのはLEVEL1〝紅蓮地獄〟。自らを救世主と信じてやまない囚人たちを引き連れ、海底の地獄から日の当たる外まであと一階というところまで来ていた・・・・のだが、そこでとてつもない敵が行く先に立ちふさがったのだ。

 

 

 

「「「「…………!(ゴゴゴゴ…!)」」」」

 

「こっ、ここで獄卒獣達が4人まとめて出てきやがった~!」

 

「だめだ~!引き返せ~~!!」

 

 

ミノタウルス、ミノコアラ、ミノゼブラ、ミノリノケロス。地獄の化物たちが全て揃って囚人たちの行く手を阻み、次々と無慈悲な鉄槌を下す。LEVEL1、LEVEL2に収容されていた囚人に成す術はなく、我先にと逃げ去り出口から遠ざかっていく。

 

 

「キャプテン・バギ~!なんとかしてくれ~!」

 

「よ~し決めたー!脱獄はもう諦めるぞ~~!」

 

『ええ~~っ!?』

 

 

 応援願いに情けないことを叫ぶキャプテン・バギーは先頭をきって逃げている。メンツも何もない逃避だが、大事なのは我が命という考えの彼は全く気にせず全力疾走した。

 

 

 ドスンッ!

 

 

「ぶっ!?」

 

 

ところが、その逃走劇は何かとぶつかることによって中断することとなる。

全力疾走をしていたため衝撃は強く、バギーは耐えきれずにドテリと派手に後ろへ尻餅をついてしまった。

 

 

「……!てんめぇ…一体どこに目ぇつけてやがる…!」

 

 

またも醜態をさらしてしまいバギーとしてはたまったものではない。とうとうバギーの我慢が限界を迎え、怒りを発散させるため体を動かした。

 

 

(ええい!この際誰でも構わねぇ!このたまりにたまったイラだちを派手にぶちまけてやる!覚悟しろハデバカ野郎っ!)

 

 

逃亡していた時とは打って変わり、子供が見ると泣き出しそうな鋭い顔となったバギー。その表情のまま、彼は自らの退路を塞いだ愚か者を睨んだ。

 

 

 

「おおっと悪い。急いでたもんでね。大丈夫?」

 

 

 

「………………………………………はっ?」

 

 

 

 

そこにいたのは、ゆがんだ角を生やした小柄な少女……のような女囚人。

 

 

それが誰か分かったとたん、バギーの怒りは消滅し、目玉が飛び出んばかりに仰天することとなる。

 

 

「しゅっ!?しゅ!!しゅしゅっ、しゅしゅしゅ酒呑童子~っ!?」

 

 

バギーは開いた口が閉まらなかった。なにせ目の前にいるのは、五年前に死んだとされていた伝説のバケモノ。あれほど世界を騒がせた死亡記事が嘘だったと、いったい誰が予想できるというのだろうか。

 

 

「あれ?あんた、ロジャーのとこの赤鼻じゃないか。なつかしいねー」

 

 

 震えあがるほど慌てふためくバギーを見て思い出すものがあったのだろう。スイカは、彼にとって禁句である呼び方で久方の再開を懐かしんだ。

 

 

「誰が赤っ鼻じゃこのハデバカ野郎っ!……はっ!?」

 

 

しかしバギーは己のコンプレックスを刺激されて黙っていられない。勇ましく怒鳴り返した……………のだが、すぐに彼の頭を後悔の二文字が覆いつくす。

 

 

 

(おっ、おれのハデバカ野郎ォ~ゥ!相手が誰だかわかってんのか!?酒呑童子だぞおっ!?ロジャー船長もレイリーさんも手間取ったぐらいのイカれた女じゃねえか!!こんな口聞いちまって、おれごときで相手になるかアホ~~!!)

 

 

とはいえ、どれだけ後悔しても一度吐いた言葉は取り消せない。鼻とは正反対に真っ青な顔でバギーは言い訳にかかった。

 

 

「と、というのは冗談でな!い、今のはちょっとした冗談と言うかなんというか……!」

 

 

ずいっ

 

 

「お、なるほど、あの牛たちから逃げてたんだね?任せな」

 

「へっ!?お、おい!?」

 

 

 ところが、彼女の意識はすでにバギーの背後。状況を飲み込めないバギーを背に、スイカは腕を回しながら四匹の獄卒獣を目に捉えた。

 

 

 

「お、おい!何をする気――」

 

「四人まとめて眠っとけぇえええっ!!」

 

『『『『――――っ!?』』』』

 

 

 

 

――――そこから獄卒獣をすべてKOするのに、スイカは20秒とかけなかった。殴っては沈み、殴っては壁にめり込む。手も足も出せなかった獄卒獣達が一方的に退治される光景に、バギーはもはや死人のごとき顔色になってしまう。

 

 

 

(お、終わった…!俺の人生ここまでだ~…!獄卒獣たちの次は、絶対に無礼な言葉を吐いたおれを殺す気に決まってる!おれもあいつらみたいに地面に沈み込ませて…い、いや!さらにもっと残酷な殺し方をするに違いねぇ!おれはあの酒呑童子を怒らせちまったんだからよ~~!!)

 

 

 もちろんスイカに怒る気もなければ殺す気など毛頭にもない。しかし、彼女と面識があり、なおかつその実力を知っているバギーはどうしても良くない方へ考えが寄ってしまうようだ。

 

そして、

 

 

「ふう、終わった終わった。ほら、さっさと先に――」

 

 

「すっ、すみまぜんでじぼばばばばばば……!(ブクブク)」

 

 

 バギーは見事な泡を泡を吹きながら、スイカの目の前で気絶をしてしまうのであった。

 

 

『キャ、キャプテンバギ~!?』

 

「うわっ!?な、なにさ赤鼻!急に泡噴き出して!?」

 

 

 思わぬ奇行にスイカは驚くが、それ以上に驚いたのがバギーを救世主と信じる囚人たち。突然倒れた恩人に目を剥き、原因と思われるスイカへ口々に怒鳴りだした。

 

 

「テ、テメエ!キャプテン・バギーに何をしやがった!このしゅ、しゅ、しゅ、酒呑童子めぇ!」

 

「キャ、キャプテンバギーのカタキ!伝説だからってぶ、ぶ、ぶ、無事ですむと思うなよぉ!?」

 

「そうだそうだっ!ギ、ギギッタギタにしてやるぞ!おれじゃなくてこいつがなぁ!」

 

「お、おい!そこでおれを出すんじゃねえよ!?」

 

 

 しかしどの声も震えており、中には連れを脅しに使うものもいる始末。どこか子供のような憎めない囚人たちに、スイカは呆れながらなだめにかかろうとした。

 

 

「は~、まあ、落ち着きなって。あんた達の救世主とやらはただ気絶してるだけで無事だし、今はそんなことしてる場合じゃ・・・」

 

 

「お~いスイカ~!もう牛たち倒したのかー!」

 

『!?』

 

 

ところが、それも後方からの大声によって中断することとなる。また敵が来たのかと囚人たちは身構えるが、スイカはそれが誰の声かがすぐに理解をする。

 

 

「おお。来たかいおにーさん」

 

「ああ!お前早いんだな~!」

 

 

 現れたのは麦わら帽子の青年、ルフィと愉快な恰好をしたニューカマーランドの住人たち。その奇抜な集団にバギー側の囚人は目を丸くするほかなかった。

 

 

「!!むっ、麦わら~!?貴様、いっ、生きていたのカネー!?」

 

 

その中で一人ルフィに反応を示したのは、このインペルダウンでバギーと意気投合して相棒となったMr.3だ。

 

彼はルフィがマゼランに猛毒の刑罰を与えられLEVEL5の〝極寒地獄〟に投獄されたと聞き、生き残る可能性はないと予測していたにも拘らずこうして目の前に溌溂として現れたのだ。死人を見るような目になってしまうのも仕方ないことだろう。

 

 

「あっ!3(さん)!バギー!お前ら無事だったのか!」

 

「ふぐぅ!い、痛い…胸が痛いガネ…!」

 

 

 そんなルフィの安堵の声が、何度か見捨てたりもしたMr.3にとって一番つらい。胸を抑えてMr.3は温かい言葉に悶え苦しむこととなった。

 

 

「あれ?バギーのやつ泡ふいてどうしたんだ?」

 

「んー。なんだか私がダメだったみたいだね。まあ、それはいい!さっさと行くよ!こんなところで時間を潰してたら追いつかれるっ!」

 

「?お、追いつかれるとはどういうことカネ??」

 

 

 たった今合流したばかりのMr.3は2人側の状況が掴めない。あっさり獄卒獣を倒した酒呑童子が少しあせっているのに驚きながら、状況の説明を求める。

 

 

 

が、その答えは全く別のところから出てくることとなった。

 

 

 

 

「うおおおっ!?マッ、マゼランが来たぞぉおおおおおっ!」

 

「「「!!!」」」

 

 

その叫び声はスイカ達3人だけでなく、そこにいた全ての囚人を戦慄させるのに十分な意味を持っていた。

 

 

 

『―――――』

 

 

〝ソレ〟は、有害以外に表しようがないほど、純粋な紫だった。ゴボリゴボリと禍々しい音をたて形状を成していき………現れたのは、猛毒を宿す三首の竜。

 

 

 

 

「―――毒竜(ヒドラ)っ!」

 

 

 生物の形であれどそこに命はない。無情な毒の竜は一気に囚人達のもとへ襲い掛かり、後方にいた囚人たちを一気にその身体へと飲み込んだ。

 

 

 

『うぎゃあああああああ!?』

 

『あああ!いてぇ!いてぇよぉおおおお~~!!』

 

 

 ただ猛毒に触れても大事(おおごと)なのに、それが全身にまとわり付いては生死にも関わる。餌食となった囚人たちは次々と断末魔の叫びをあげ、体を悶えうって行動不能となっていった。

 

 

『ひ…っ!?』

 

「逃がしはせん……!」

 

 

 その残酷な竜を従え現れたのは、〝ドクドクの実〟の能力者であり地獄の支配者―――マゼラン。暴動を起こす囚人たちを抑えるため、LEVEL1にたどり着いたのだ。

 

 

 

「マ、マゼラン~~!?なんでそんなものに追われとるんだガネー!」

 

 

 Mr.3もいずれ来るとは分かっていたのだが、やはりマゼラン本人を見て動揺を隠せない。思わず近くにいたスイカに最悪の追跡者を招いたことを責めてしまうほどである。

 

 もちろん事の重大さはスイカも分かりきっている。間を挟むことなく、先にLEVEL1に来ていた囚人たちに叫んだ。

 

 

「だから急いでるんだっての!おい!階段はどっち!?私はここの地形は知らないんだ!早くしないと――!」

 

「むっ!きたぞっ!」

 

「・・・こうなるだろうよっ!」

 

 

 警戒の声を上げたのはジンベエ。彼の目を辿ると、暴動と暴動が集まりまだ団結を取れていない今が好機と、ヒドラをルフィたち主力が集う位置へと突撃させるマゼランがいた。

 

 

 

『う、うわぁあああ!?』

 

 

 マゼランの毒の威力を嫌と言うほど知っている囚人たちは脱兎のごとく逃げだすが、ヒドラの方が素早い。みるみると距離を詰めて、大きく口を開けだす。

 

 

『―――!(グバァッ!)』

 

「ちっ!っんの・・・っ!」

 

 

そんな竜を見逃すわけにはいかずスイカも構えをとる。完全に消すことはできないが、一旦退けることはできる。そう考えての行動だった。

 

 

 

「キャッ、キャンドル壁(ウォ―ル)ッ!」

 

 

 ドゴォン!

 

 

「!・・・おお?」

 

 

 ところが、それは不発に終わりこととなる、

突如スイカたちの前に白い壁がせり上がり、勢いを止められなかったヒドラが正面から突っ込んだのである。

 

 

「……あんたの能力か?〝3〟(さん)だったっけ?」

 

 

 そのまま首が砕け散るヒドラを眺めながら、スイカは実現したであろう同じように構えをとっている男―Mr.3を見た。

 

 

 

「あ、ああ……私は〝ドルドルの実〟の〝ろうそく人間〟!鉄の硬度を持つろうに毒液など通じないガネ!」

 

「へえ・・・?」

 

 

 確かに一滴もろうから毒はこぼれていない。つまりこれは、何人も地獄に突き落としてきたマゼランの毒に勝ったということ。

 

瞬間、スイカの頭に1つ考えが浮かびあがった。

 

 

「じゃあ3。ちょっと手ぇ貸してもらおうかい。一緒にマゼランを抑えようじゃないか!」

 

「ファッ!?」

 

 

 その突然な提案にMr.3はギョッと眼を見開いて驚く。確かに今マゼランの毒を抑えたが、それはあくまでとっさに対応してしまっただけのこと。何も真っ向から衝突するつもりは全くないのだ。

 

 

「じょ、冗談じゃないガネッ!今のはとっさにやっただけで何も奴と戦うつもりでは――」

 

「おい!他の奴らは先に行きな!ここは私と3が引き受けたっ!」

 

『!!』

 

「声高らかに恐ろしいことを言うんじゃないガネー!?」

 

 

 泣き言をこぼすMr.3だったが、もうその声は囚人たちに届かない。なにせ、足止めを名乗り出たのは大物の海賊。これほど心強い殿(しんがり)を果たしてくれる者は他にいないのだから。

 

 

『うおおおおっ!ありがてぇ~~!!』

 

『見た目と違ってなんて頼もしい女なんだー!』

 

『3兄さん!あんたもキャプテン・バギーに負けねえぐらい輝いてるぜ~!!』

 

『頼んだぞ2人とも~!』

 

『ありがとよー!』

 

「だっ、だから私はそのつもりはないんだガネ~~っ!」

 

 

伝説と救世主の右腕に後を任せ、囚人たちは笑顔で感謝を告げながら次々とその場から去っていく。ちなみに当の救世主は、未だ気を失って囚人の肩にかつがれていた。

 

 

「なんだスイカ、毒のヤツと戦うのか!?だったらおれも戦うぞ!」

 

 

 その流れに乗らずにルフィが共闘を申し立てたが、スイカは横に首を振りその申し出を断る。

 

 

「いんにゃ大丈夫!・・・ちと思いついたことがあってね。それよりあんた達は軍艦を頼む。ここを抜け出す足が無きゃあ本末転倒だろ?」

 

 

 インペルダウンは大型の生物、海王類が巣くう凪の海(カームベルト)のど真ん中に位置する監獄。自分だけならともかく大勢が逃げ出すとなると、最低でも一隻船が必要となってくる。

 

幸運にも今は護衛を兼ねた軍艦が監獄周辺を取り囲んでいるそうなので奪うには困らないが、その時間がいつまで続くか分からない。だからこそ抑え役を少数で抑え、足の確保に戦力を注ぐべきなのだ。

 

 

「わかった!でも、大丈夫なのか!?」

 

「なめてもらっちゃあ嫌だね!きっちり抑えてやるさっ!」

 

「・・・そっか!」

 

 

その宣言に見栄はない。そう感じたルフィは余計な心配をしなかった。

 

 

「じゃあまた後でな!頼んだぞ~!」

 

「おうっ!そっちもしっかり頼むよ!」

 

「ああっ!待って!ならばワタシと代わってくれだガネ~!」

 

 

 切実に身代わりを訴えるが、一度動いたルフィは早い。すぐさま走っていくルフィにMr.3の声が届くことはなかった。

 

 

 

 

「さて、と…………腹は括れたかな、3?」

 

 

 騒々しさから一転して静寂が行き渡り、残った人間は3人。そのうちの一人であるスイカが、後ろに佇むMr.3に尋ねる。

 

 

「うう、そんなもん全然括れるわけがないガネ・・・」

 

「そう。そりゃー残念だけど……あちらはもうやる気十分みたいだね」

 

 

 たとえ心の準備が出来ていなくても、もう待ったは効かない。心で詫びながら目の前に立つ敵―――マゼランを見据えた。

 

 

「さあ、ここで私と戯れてもらおうじゃないか。マゼラン?」

 

「……そんな時間などない。貴様1人地獄で遊んでいろっ!」

 

 

 敵意を隠そうとしないマゼランが首を失ったヒドラへ毒を送りこむ。するとみるみるうちに竜はその顎(あぎと)を再生させ、何も起こっていなかったかのような元の状態へと再生を果たした。

 

 

「あ、あわわわわ…!ど、どうするのカネ…!?」

 

 

自分のしたことは無意味だと伝えんばかりの現象に、Mr.3は完全に及び腰となって足を震えさせてしまった。確かにろうは毒を防いだが、それはあくまでも防御面での話であり攻撃となると話は別。あくまでも〝ドルドルの実〟の能力はサポートがメインであり、主体となって戦うような能力ではないのだ。

 

 

「ああ。―――私の四肢にろうをつけてくれよ」

 

 

 それを知ってか偶然か。スイカの要求はその前提を守ったものであった。

 

 

「……へっ?そ、それだけでいいのカネ?」

 

「ん?そうだけど……出来ない?」

 

「い、いや。分かったガネ!」

 

 

 容易い願いな上、今あてにするのは目の前の存在しかいない。ためらうことなくMr.3は能力を発動した。

 

 

「(ドルドル!)――キャンドルロック!」

 

 

流動体のろうが生じ、瞬く間に前方のスイカへと近づき手足へ纏わりついていく。其のあとは普通のロウと同じ。しだいに冷えて固くなっていき、グローブとブーツの形で完全に固定された。

 

 

「………ほー。思ったより硬い。こりゃロウとは思えないね」

 

 

 ガツン、ゴツンとグローブもどきをぶつけあって感触を確かめるスイカ。腕がこうならば足の方も同じと、彼女は予想以上の出来上がりへ満足そうに頷く。

 

 

「こ、これでいいのカネ?」

 

「ああ、ありがとさん。あとは私に……」

 

 

任せな。そう告げようとしたが、相手がそれを待つ理由はない。

 

 

「―――毒竜(ヒドラ)!」

 

「!」

 

 

 突然毒の竜が正面から二人めがけて突っ込んでくる。時間のないマゼランがとうとうしびれを切らしたのだ。

 

 

「ギャ~!来たガネ~!?」

 

 

 いくら能力で相性が良くても、やはり怖いものは怖い。Mr.3は及び腰でロウの壁を展開しようと手を地面につけた。

 

 

 

「おいおい……」

 

 

 が、彼女は違う。

 

 

「人の話はちゃんと最後までさせなってのっ!」

 

 

 ダンッ!

 

 

スイカは臆すどころか、毒竜に向かって一直線に駆け出して行った!

 

 

「え、えええっ!?」

 

「……!ナメるなっ!!」

 

 

 思いがけぬ行動に2人は目を丸くしたが、さすがは監獄署長。すぐにスイカ一人へ標的を絞り、毒竜を加速させる。

 

 

『―――!(ガバァ!)』

 

 

 意思のない竜に慈悲など一切ない。目標を射程範囲に収めた毒竜は猛毒まみれの口を大きく開け、スイカを飲み込もうとした!

 

 

 

「ふっ……!」

 

 

 

 だが、当然自ら地獄への入り口へ呑み込まれたりはしない。スイカは向かってくるヒドラのやや右上・左側面へ一つ跳躍した。

 

 

 タンッ

 

 

『―――!?』

 

 

 ヒドラはスイカを、スイカはヒドラをと互いに狙いを定めていたため、双方は一瞬で肉薄を果たす。しかし、意思を持つものと持たないものでは一目瞭然。ヒドラはスイカの接近に即座の対応が出来なかった。

 

 

 だからこそ、先手を取ったのは後に動いたスイカだった。

 

 

「のきなトカゲェ!」

 

 

ヒドラの牙より短い右脚を後ろに引き、浮いた身体は左へとひねらせる。長引かせないため、現状況で出せる力を右脚へと送り込み……一気に降り抜く!

 

 

 

 

ゴバシャア!

 

 

『―――ッ!』

 

 

 鉄の硬さを持つろうを装着した足蹴り。しかも、弱体化しているとは言えどその威力は平均を幾周も超えたもの。もろにそれを顔に受けたヒドラは、輪郭を大きく歪ませ勢いを殺せぬまま監獄の壁へと叩きつけられた! 

 

 

『『――――!?』』

 

 

 さらに、身体を共有する残りの二首にも影響は及び、直撃を受けた首に引っ張られる形でマゼランの前から退き去ってしまう。そのため、マゼランの正面が完全にがら空きとなったではないか。

 

 

「むっ…!」

 

「おぉお…っ!」

 

 

その好機を見逃すスイカではない。着地した両足にすぐさま力を込め、目に止まらない速さでマゼランへ襲い掛かる。

 

 

「らぁああっ!」

 

 

 次に繰り出したのは完全にろうで包まれた右拳。気絶を目論み、マゼランの顔面目掛けてスイカは打撃を放った。

 

 

 ズドンッ!

 

 

「ぐっ・・・!」

 

 

 しかし、反射的に腕を交差させ眼前に掲げたマゼランが見事に防ぐ。ただ威力までは押し殺せなかったようで、気絶の代わりとして数メートル、その巨体を強制的に後ろへ引き下げられることとなった。

 

 

「んんっ、さすがに獄卒獣みたいにゃいかないか」

 

「………(じろり)」

 

 

大したダメージを受けることはなかったが、スイカも想定済みで声に落胆の色はない。マゼランは、毒の体に攻撃しても平然としてるスイカを睨みながら、先ほどの要求の真意を悟った。

 

 

「………なるほど。ロウでおれに触れられるようにして、貴様の体術の威力を上げたのか」

 

「その通り。今の私にとって厄介なのはアンタに触れないってことだから、間に緩衝材を挟めば事は解決だ。まぁ、ぜーんぶあの3がいてこその対策だけどね。今日の私は運が良い」

 

「……ふん」

 

 

 八重歯を覗かせる笑みは業腹だが、マゼランもそこは反論する余地がないと分かっている。この身体に滴る毒全てが武器であり鎧でもあるのだが、効果が出るのは相手が毒に触れてから。肌に触れられなければただの水となんら変わりはない。

 

 

 

「だが、毒が通じないのはロウがある部分だけのようだな」

 

「…………んー、まあね」

 

 

それはあくまでも直接触れなければの話。スイカは顔をしかめながら――左の二の腕を見た。

 

 

 

「あいたた……大した毒だよ。私の肌を焼くとはな」

 

 

どうやら毒竜を一蹴したときに散ったようで、彼女の腕からじゅぐり、じゅぐりと肉の焼ける音が立ち込め、鼻を塞ぎたくなる臭いをあげて彼女を蝕んでいたのだ。

 

 

「能力も使わずに下らんことを言うな。囚人におだてられて隙を作るほど、おれはおめでたくないぞ」

 

「嘘なんかじゃないんだけどなー……よいしょっ」

 

 

 そのまま放っておくわけにもいかず、スイカは猛威を振るう毒を拭い取った。すると見えたのは、グズグズと血を滲ませながら爛れる皮膚と、その皮膚さえも溶けてしまって表に出た筋肉。気の弱いものが見れば胃液が逆流してもおかしくない惨状がそこにはあった。

 

 

 

「わ。こりゃひどいなー」

 

「普通、その反応ですまないはずだがな」

 

 

 マゼランの言う通り、スイカの言葉とは裏腹に緊張の色はあらず、むしろ気楽さが感じられるのは気のせいではないだろう。その異常な反応にはマゼランも苦笑いを浮かべざるを得なかった。

 

 

「………一体何の真似だ」

 

「?何がだい?」

 

「その手錠……見たところまだ効果は発しているようだが、なぜ外さずにいるかと聞いている。おれ相手に、力を封じられていても問題ないとでも?」 

 

 

 それは敵を心配するようにも聞こえる問いだったが、マゼランが口にするのも仕方ないこと。海桜石はどんな力を持った能力者でも抗うことのできないいわば能力者にとって最大の天敵であり、目の前の存在もその例外ではない。

 

にも関わらず、この海賊は障害を除去しようとすることなく戦う始末。過信をしていないのであれば、愚者以外の何でもない奇行なのだ。

 

 

「ああ……そんなつもりなはいよ。ただ、私なりに思うことがあってね?あんたのプライドを傷付けたんなら謝ろう」

 

 

 対するスイカの回答は簡素なもの。余裕を見せられ、さらには詫びを告げられてはいよいよマゼランも立つ瀬がなく、闘争心を先ほど以上に掻き立てる。

 

 

「……その意地が、貴様の命運を決めるやもなっ!」

 

 

 マゼランが毒竜の首を回復させ、再びスイカへとけしかけた。だが今度はその首だけではない。先ほど主を守っていた2首も攻撃に転じ、確実に標的を始末するため攻めかかった!

 

 

「はっ!数を増やすだけじゃあね!あんたこそ私をナメてるんじゃないかぁ!?」

 

 

 それでもスイカは揺るがない。一匹が三匹に増えようともやるべきことに変わりはないのだから。

 

 

『――――!(ガバァ!)』

 

「はぁああああっ!」

 

 

 最初に近づく毒竜に狙いを定めた。口を開けて突っ込むという前回と同じ攻撃をしかける竜に、スイカも拳で迎え撃つ。

 

 

 バシャアッ!!

 

 

『―――ッ!』

 

 

 当然結果も同じで、スイカの拳を受けた毒竜が大きくのけぞって戦線を離脱する。これで残るは二首。スイカは双方に向かって叫ぶ。

 

 

「さぁ!次はどっちだ!?」

 

『――――!(ガバァ)』

 

「!だから芸のないっ!白ける真似はやめなぁあ!!」

 

 

 同じことをいくら繰り返そうと結末は変わらない。懲りもせず突っ込んでくる毒竜にスイカは悪態をつきながら構えた。

 

 

 

 

 

 

「毒の道(ベノムロード)!」

 

 

 ズポンッ!!

 

 

 

 

 しかし、マゼランも能を持つ人間。スイカが思っているほど馬鹿ではない。

 

 

 

 

「!いっ!?」

 

 

 意表を突くとはまさにこのこと。なんと毒竜の口からマゼランが勢いよく飛び出してきたではないか。これにはスイカも驚き、攻撃に移ろうとしていた身体を硬直させるという隙が生じてしまった。

 

 

「毒・針(どくバチ)っ!」

 

「うわわ!わ、わ!」

 

 

その隙を逃さず、マゼランが鋭角の被り物を手にはめて殴り掛かる。防ぐともできたが、毒人間の攻撃がただの物理的なものとは考えられず、スイカは慌てて攻撃をかわしていく。

 

 

ドスッ!

 

 

「………げ」

 

 

そして、その選択が正しかったことを地面に振り下ろされた一発を見て確信できた。

 

 

 

「石を溶かすなんて、どんな危ない毒を使ってるんだいまったく!」

 

 

 まるで酸を浴びた銅像のように、突きが刺さった岩がドロドロと形を崩していくではないか。無機物だから良かったものの、もしも生物が受けてしまったら…………スイカは思わず愚痴を叫んだ。

 

 

「無論、貴様を消すための毒だ!」

 

「それはなんとも物騒なことだね!」

 

 

 律儀に答えている間も追撃の手は止まらない。必殺の一撃を当てるため、マゼランは何度も突きをスイカへと振り下ろす。

 

「ふっ!っと!」

 

「ちっ。ちょこまかと…!」

 

 

 だがスイカも簡単には攻撃を受け付けない。華麗、とは言い難いが一つ一つをかわしながら考える。

 

 

(見たところ、先以外毒はない……なら!)

 

 

「――らぁっ!」

 

 

彼女は即座に動いた。狙いは毒の及ばない被り物の腹部……寸前で刺突を避けたスイカは、突き出された腕の真下からアッパーを打ち当てる。

 

 

ガゴンッ!

 

 

 岩を溶かす毒は猛威だが、スイカの推測通り、その毒が有効なのは先端だけと非常にリーチが短い。つまり、その一点を避けさえすれば反撃も容易く、マゼランの腕は上に大きく弾かれる。

 

 

「むっ…!?」

 

 

がら空きとなった胴を守るため慌てて毒竜を呼び寄せるが、間に合わない。マゼランよりもスイカの動きが一つ早かった。

 

 

「次は私の番だマゼラァン!」

 

 

 ビキリと、滾る笑みを浮かべたスイカの腕に幾筋の血管が浮かび上がる。先ほどまでは見えなかったそれが確認できたのは、すなわち桁違いの力が込められたということ。

 

 

 ほどなく、スイカはその拳をマゼランの胴へ振りかざし…………打ち放った。

 

 

 

 

「砕キ月ィィイッ!」

 

 

 

ずん……っ!

 

 

 

正直、この時マゼランは少しばかりたかを括っていた。防御しようととっさに毒竜を動かしたが、たとえ攻撃を受けるとしても先ほど防いだ殴打と差はなく、直撃を受けても多少痛いが耐えられる痛みだろうと。

 

 

「…………ぐ…っ!」

 

 

――ならば、この痛みはなんだろうか。波打つように体へと広がる、抉りつけるこの激痛は……!

 

 

「ぐぅぅうううううっ!?」

 

 

 バキ、ゴギリと骨が重奏を奏で、マゼランの口から血がこぼれ出る。体内に損傷を負ったのは明白だが、拳の圧力は下がらない。畳みかける衝撃に耐えきれず、とうとうマゼランの体は頑丈な壁へと吹き飛んでいってしまった。

 

 

 

 ガシャアァアアンッ!!

 

 

 その勢いは強く、轟音と同時に粉塵があたり一帯に巻き上がってマゼランを隠してしまうほど。

戦闘を眺めていたMr.3は喜びよりも、海桜石を付けたまま地獄の支配者を吹き飛ばしたことに驚愕しながら近づく。

 

 

「な、なんと……やったのカネ?」

 

「……さて。手加減抜きでやったから、効いたには効いたはずなんだが」

 

 

もしも勝敗が決したのならこれ以上ない成果なのだが、スイカは全くMr.3を見ず、視界が届かないマゼランの方を向いたまま。

 

 

「――地獄のアタマを張っているんだ。そう簡単にはいかないだろうね」

 

「無論だ………っ!」

 

 

 スイカのぼやき通り、煙を払いのけてマゼランが姿を現した。しかし、言葉こそ同じ調子だが打撃を受けた脇腹には手を添えられており、額と口から血が流れる顔は苦痛に歪んでいて無傷とはさすがにいかなかったようだ。

 

 それを確認し、スイカは口を開く。

 

 

「さて、どうする?いくらあんただろうと今のは効いたはずだ。今回は立ち上がったけど……果たして次はどうかな?」

 

 

 挑発以外捉えようがない発言だが、虚勢はない。微量の猛毒を受けたスイカに対し、マゼランは身体の要となる胴体に重い一発を受けている。力を制限されつつも活きた動きをする者と、痛手を負って動きが鈍くなるのは必須の者。どちらが優勢なのかは、あまり悩まず判断できるだろう。

 

 

「…なるほど。そうなると俺も立っていられんかもな」

 

「……なんだ、諦めたのかい?」

 

 

 だが、意外にもマゼランは冷静に頷くだけだった。何らかの動きか反論があるだろうと思っていたスイカは、目を丸くして戦意を測る。

 

 

「馬鹿な。囚人が逃げるのをおめおめ見逃して監獄署長が務まるか」

 

 

 腹立たしげにスイカを睨むマゼランの目は戦意が消えておらず、彼は大きく息を吐いた。

 

 

 

「――俺も、腹を括らねばならんということだ」

 

 

ゴボリ

 

 

「ん?」

 

 

 同時に、マゼランに異変が起きた。

 

毒竜を始め、鎧の役割を果たすマゼラン自身が生み出した毒は全て紫色だったが、急に変色を始めたのだ。元々有害を示す色だったものが、どす黒い赤に。どこまでも悍ましく。

 

 

 

「おいおい……何の変化さ、そりゃ?」

 

「この毒は、禁じ手だ」

 

 

 スイカが戸惑う間にも赤色は溢れ、マゼランの後ろに集まってゆく。その毒こそが、使うのを躊躇うほどの監獄署長の最終手段。

 

 

「このインペルダウンすら破壊しかねないもの…!」

 

 

 すでにマゼランよりも高く成り上がっているが、まだ成長は止まらない。みるみると体積を大きくしていき、細部を形成する。

 

 

 

「毒の巨兵(ベノム・デーモン)…!」

 

 

 ずんぐりと、毒竜と違って身体と同じ大きさの腕が二本。髑髏を思わせる目や口からはガスが抜けるような音と煙が立ち込め、頭上にはスイカと似た双角が飾られている。

 

 

「や………!やや、やばいガネやばいガネ~~っ!?」

 

「確かに……これはやばそうだね…!」

 

 

 その姿はまさに悪魔。Mr.3もスイカも、本能がうるさいほど警鐘を鳴らすのを抑えられなかった。

 

 

 

「――地獄の審判っ!」

 

 

 無慈悲な番人が、2人に狙いを定めた。

 

 

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございました!

 さて。読んでくださった方の何人かが気になったと思うのですが、萃香の技ですね!今回初めて書いたのですが……すみません!彼女のテーマ曲『砕月』を少しモチーフして技名とさせていただきました!

 最初は萃香のスペルカードの何か借りよーとしてたんですけど、こう、数が意外と少なかったと気づいてしまいまして。まだまだ序盤なのにいきなり大技にふさわしいスペカ名を使うのももったいないな~と思って、センスがないと知りつつそれらしい技名をつけてみました。期待をしていた方には申し訳ありません!

 もちろん次第に彼女のスペカを技名にしたりする予定なのですが、ひょっとしたら村雪の勝手でまた技の名前を作ったりするかもしれません。萃香ファンの方々には申し訳ありませんが、ここではそういうものかと割り切っていただくようお願いします!
 

 それではまた次回!インペルダウンを抜けますよ~!

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